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第3章 【記憶の結晶】

第3章2 【輝きの炎雷龍王】

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(おい、おい!大丈夫かお前!)

 誰かが脳に直接話しかけてくる。
『ジーク』だ。全く、いつも好き放題いつも暴れるもんだから体の節々が常に悲鳴をあげている。

(おい、意識があるなら起きろ!)

 言われなくたってそうする......いや、記憶が飛んでなければ、確かヴェルドに殴られたはずだ。そして、そこから先の記憶が無いということは気絶かなんかしたのだろう。

 もし、仮に気絶していたとしたら今、私はどこにいる?

 答えは簡単、奴らのギルドだろう。もしかしたら、牢獄とかいう可能性もあるが......

 人生とは酷く理不尽なものだ。龍人であるだけで、ここまでの罰を受けなければならないとは......

ーー起きるの、嫌だなーー

 今、起きれば恐らくは奴らからの質問攻め。素直にジークに任せておくべきだったか......

 いや、例え、相手が誰であろうと人を傷つけるのは良くない。

 そんなことを考えながら、ネイは薄らと目を開ける。

 まず目に飛び込んできたのは白い壁。そして、肌で感じるこの温かさは布団であろう。

 となると、ここは救護室か。牢獄じゃなかっただけまだマシだが、それでも逃げ出すのは厳しいか......

 ネイは思い切って両目をパッチリと開ける。

「あ、起きた?」

 この行動は間違っていたようだ。すぐ隣にセリカが構えていた。

 1度起きて、しかも気づかれてしまってはもう遅い。

「ここは......どこですか?」

 本当は答えをなんとなく知っているが、あえて演技しつつ聞いてみる。

「ここは救護室。ネイはヴェルドに腹パン喰らってそのまま気絶しちゃったの。ゴメンね怖い思いさせちゃって」

 セリカはネイの目の前で両手を合わせ、謝罪のポーズをしている。

 そんなもの、口だけに決まっている。心の中ではさぞ私のことを恐れているに違いない。

(おい、どうすんだお嬢。このままじゃ逃げようにも逃げられなくなるぞ)

 確かに、その通りだ。でも、逃げるなら辺りにセリカしかいない今がチャンスかもしれない。

(俺に任せてくれりゃその女には傷一つ付けずにここを脱出できるぜ)

 ありがたい申し出だ。ここで断る理由など無いだろう。

(で、どうすんだ?俺に体を預けてみるか?)

 ジークが判断を求める。いつもは勝手に乗り移るくせに、こういう時は私に問いかけてくる。いつもそうだと有難いのだが......

「うん、お願い」

 ネイは短くそう答えた。

「ん?なんか言った?」

「悪いが、嬢ちゃん。ちょっと気絶しておいてくれ」

 ジークはネイに乗り移った直後にセリカに腹パンしようとする。

「セリカに手ぇ出すな」

 ジークの攻撃を横から片手で誰かが防いだ。

「チッお前かよ」

 セリカの真横にはヴァルが構えていた。

 ネイが見渡していた限りではこの部屋にはいなかったはずだが......

 まあ、それはどうでもいいな。ヴァルがいるなら強行突破で逃げ出すまでだ。

 そう考えはしたが、自分の服装を見ると、コートを着ていなければ走りづらいブーツも履いていない。

 こんな状態で街に出るのは危険だ。

 ただ、欲しいものはすぐそこにあった。ヴァルの背中側にコートもブーツもある。

 これは、一戦交える必要があるか...

 ジークはそう覚悟を決め、戦闘態勢に入る。

 生憎、剣は持っていないが、肉弾戦でどうにかなるであろう。

 問題はネイが邪魔をしないかどうかだが......

(ジーク、分かってると思うけど)

 案の定、ネイがそう言ってくる。

「うるせぇ!もう誰も傷つけずに、なんて無理だよ!」

 ジークはそう答え、ヴァルに突進する。

「だーかーら、お前は誰と話してるんだ、よ!」

 ジークの攻撃はあっさりとかわされ、その突き出した腕を背中に回され、あっさりと捕まってしまった。

「離せゴルァ!」

 ジークは精一杯暴れるが、向こうは男。女の体を使っているため、ヴァルには太刀打ちできない。

「悪ぃお嬢。体返すわ」

(え?)

 ジークはそのまま意識の中に戻っていった。

「ヴァル、ネイは起きたか......って何やってんだ?」

 部屋に入ってきたフウロが今の状況を見てそう言う。

「こいつが目覚めるや否、暴れ出すもんでな。押さえつけといた」

 ヴァルは馬乗りの姿勢のままフウロにそう答える。

「いい加減離してください!」

 流石に、男の体とだけあって重たい。我慢しきれず、そう叫んだ。

「お前が抵抗しないって約束してくれるならいいぜ」

「そんなの無理に決まってるでしょ!?」

「じゃあ、こっちも無理だな」

 ヴァルが腕に入れる力を強めて、そう答えた。

 ネイは諦めて、抵抗するのをやめた。おかげで、ヴァルの体が余計に重く感じる。

「あのね、ネイ。私達はあなたを傷つけようなんて思ってもいなければ考えてもないの」

 一通り、落ち着いたのを見て、セリカがそう言ってくる。

「嘘つけ。どうせ、私を信用させておいて最終的には捕まえて牢に入れるんだろ?それに、この状況でよくそんなことが言えますね?」

 ネイは首をセリカの方に傾けて言う。

「それは......ネイが暴れ出すのがいけないかな?」

「はぁ......話になりません。それと、いい加減離してください。重いです」

「あ、悪ぃ悪ぃ。んじゃこんなんでいいか」

 ヴァルがどいてはくれたが、代わりに両手を後ろに回され、そのまま拘束されてしまった。

「心配しなくても、すぐにこの街からは出ていきます」

「出ていってどこかに行く宛はあるのか?」

「これから作ります」

「はぁ......どこに行ったって同じ目に遭うだけだぞ」

「そんなの承知の上で生きてるんです。記憶さえ取り戻せれば......」

「ん?記憶が無いのは事実だったのか?」

 いきなり、何を言い出すのか......

「記憶があったらこうやって各地を転々としてません」

「そうか。ならうちで働かないか?」

 どうしてそういう流れになる。

 これにはヴァルもセリカも驚いた顔をしている。

「おい、フウロ。それは本気か?」

「当たり前だ。記憶もなくどこかをさまようよりかは私達と一緒にいた方がいい。そうすれば、この子を守ってやれる」

(おい、守るだとよ。お前ガキ扱いされてるぞ)

 ジークが胸の内で笑っているのが伝わってくる。

「ちょっとジークは黙っててください」

「けどよ、フウロ。ヴェルドはどうするんだ?」

「あれは、私がしっかりとしつけをしておく」

「しつけで言うこと聞くとかあいつ、最早犬だな」

 ヴァルがそう言うと、フウロとセリカが吹き出す。正直、何が面白いのかよく分からない。

「で、ネイどうする?」

 フウロが突然、こちらに話を振ってくる。

「どうする?ジーク」

(確かに、このまま各地を転々とするのはあまり良くねえな。素直にこいつらに付いて行った方がいいと思うぜ)

「そうですか。分かりました」

「それは、OKということでいいのかな?」

「え?あ、はい。その通りです」

 流石にそろそろ勘づかれていると思うが、中に誰かいるなんて知られたくないので、ジークに返した返事をフウロ達へのものとする。と考えたのだが......

「1つ聞きたいのだが、ネイ、お前は多重人格か何かか?」

 案の定、勘づかれている。多重人格とは少し違うのだが......

(そろそろ説明しといた方がいいんじゃねえか?)

「なんで?」

(こいつらとは先の長い付き合いになりそうだからだよ。わざわざ俺の事を隠しておくこたぁねぇだろ)

「そうですけど......」

 先の長い付き合いになるといっても、ジークが少し自重してくれば助かる話だ。わざわざ話すまでも......

「あの......ネイ、さっきから誰と話してるの?」

「えっ?」

 しまった。小声で話してるつもりだったが全部聞こえてたようだ。

(お嬢が話さねえなら俺が話してやるよ)

 それだけは......

 勘弁と言おうとしたが、ネイの意識はジークへと切り替わってしまった。

「うしっ、やっと切り替われたぜ」

 ジークは顔にかかる前髪を指で弾く。

ーー全く、この娘はどれだけ髪を伸ばせば気が済むんだ。後ろ髪が足首にまでかかる長さとはーー

「あの......ネイ......だよね?」

 セリカが確認の意を込めて問いかけてける。

「俺はネイじゃねえ。ジークだ」

 ジークは親指を自分にあて、そう言う。

「は?」
「は?」
「は?」

 全員が呆けた面をする。
 今までのを見といて、そんなに意外だったか......

「すまんが、もう一度お願いできるか?」

 フウロがそう言う。

「だーかーら、俺の名前はジーク。輝きの炎雷龍王たぁ俺様のことだ」

 ここまで言えば伝わるだろう。
 そう期待していたのだが......

「りゅ、龍王?」

 全員がまたしても呆けた面でキョトンとしている。

「んだよ、知らねーのか?輝きの炎雷龍王」

「すまんが、龍王なんて1000年以上前にいなくなってるし、そもそもネイ......だったよな?」

「おい、どういうことだ。龍王が1000年以上前にいなくなってるって」

(私に聞かれても知りません)

「はぁ!?龍王と言ったら龍族の中の選ばれしスゲー龍でこの世界を統治してたはずだろ!?」

(私はそんなことすら知りません)

「あのさ、ネイ......ジークか。誰と話してるの?」

 セリカが戸惑った様子で問いかけてくる。

「あれ?お前ら気づいてねえのか?」

「気づくってネイが多重人格だってことに?」

「違ぇ違ぇ。俺はこいつの契約龍。こいつの中に住まわせてもらってる悲しい龍王だってことにだよ」

「ごめんけど、何言ってるのか分からない」

(ジーク。流石に今の流れでは誰も分からないと思いますよ)

「っ......何だよ。もういい、お前が説明しろ!」

 そう言ってジークは意識の中に戻っていった。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「全っ然分かんない」

 セリカはネイが話す内容を真剣に聞いてはいたが、何一つ理解できなかった。

 契約龍がどうとか、それで憑依されるとか、理解出来た人がいるならば分かりやすく教えて欲しいものだ。

「簡単に言うとネイがヤベーやつだってことだろ?」

 ヴァルがそう言う。確かにその通りではありそうだが、本人のいる前でそんなことを言うとはヴァルにはデリカシーというものを感じない。

「まあ、なんとなくは分かった」

ーーマジで?ーー

 セリカはフウロの言葉に思わず耳を疑ってしまった。

「まあ、この話はもう良しとして、ギルド入団に関する話なのだが......」

 あ、これ絶対理解してないな。無理矢理にでも話を変えようとしている。

「ここに名前を書いてくれ。そしたら後はミラがどうにかしてくれるからさ」

 フウロがいつ持ってきたのか分からない名簿を取り出し、ネイに差し向ける。

(最初から入団させる気でいたんじゃ)

 今日のヴァルといい、フウロといい、用意が周到すぎる。

「あの、本当に私が入ってもいいんでしょうか......」

 ネイが不安げな声でフウロに尋ねる。

 ネイをギルドに入れようと考えたのは私だったが、よくよく考えてみれば他のメンバーにも龍人を嫌う人がたくさんいる。そんな環境下で上手くやっていけれるだろうか?

 幸い、フウロとヴァルは龍人を嫌ってはいなさそうだが...

「大丈夫だ。いざとなったら私達が守るし、他の奴らには好き勝手言わせやしないさ。それで、お前は記憶が戻ったらあとは好きにすればいい」

 フウロの言葉ほど頼もしいものはないと思う。

 それを証拠にネイも不安げな表情は残しているものの名簿に名前を書入れた。

「おい、話は終わったか?」

 突然、扉を開けて招かれざる客が入ってくる。

 ヴェルドだ。多分、フウロにこっ酷く叱られて、ネイに謝りに来たんだろうが、何も、今すぐしなくてもいいと思う。

「ひっ」

 ネイはヴェルドの姿を見ると、一瞬で私の背に隠れてしまった。

「ヴェルド、今は少しばかりタイミングが悪いのだが......」

「んな事言って先延ばしにしてたらダメだろ。今ケジメを付けるさ」

 そう言ってヴェルドがこちらにやってくる。
 ヴェルドが近づくと同時にネイが余計に体を縮める。

「あー、その、なんだ、ネイ、さっきはすまねえ......」

「あ、ちょっ、ジーク今はダメだって!」

 ヴェルドが謝辞の言葉を述べると同時にネイが自らの胸に向かって何やら言葉を発していた。

「それで、お詫びと言っちゃなんだが....これーー」

「そんなもんで俺が満足すると思ったか!」

 ヴェルドが全てを言い終える前に、ネイーー否多分ジーク?だろうーーがヴェルドの腹を殴り壁まで飛ばした。

「うるせえよお嬢。こいつはお嬢を......」

「ダメだって言ってるでしょ!」

 さっきまでのネイの口調がまたしても変わり、いつもの?ネイに戻る。

「痛ってぇ......やっぱ俺こいつ許せれねえわ」

 ヴェルドが立ち上がり、拳に力を込めているのが伝わってくる。

「ひっ、ご、ごめんなさい」

「あん?さっきまでの調子はどこに行ったんだ?」

 ネイの変わりぶりを見てヴェルドが首を傾げる。

「あー、ヴェルド......実はね」

 ネイの代わりにセリカが説明する。


「全っ然分からねえ」

 説明を全て聞き終えたヴェルドがセリカと同じようなことを言う。

「契約龍......だったっけ?そういうやつがネイの意識?に入っててって全く分からん」

 頑張って理解しようとはしていたみたいだが、結局さじを投げてしまった。

「理解しなくていいです。ただ、私が時々変な感じになるってことだけ覚えててください。後、さっきはジークがすみませんでした」

 ネイが消えそうなくらい小さな声でそう言う。

 やはり、ヴェルドをまだ恐れているのだろうか。あんなことがあったのだから無理はないと思うが......

「ヴェルド様ぁ~」

 しばらく静かになっていたこの部屋に、最近よく聞く声が響き渡る。

「シアラ......ってすぐくっ付くんじゃねぇ!離せ!」

 この光景も最近はよく見る気がする。
 それはそうと、シアラは何をしに来たのだろうか?まさか、ヴェルドを探してここに来たとか。普通に有り得そうである。

「ヴェルド様ぁ~助けてくださぁい」

 シアラがなんとも気の抜ける喋り方でそう言う。

「だから一旦その手を離せ!そして、何があったのか分かりやすく説明しろ!」

 ヴェルドがシアラの手を強引に剥がし、そう言う。


「ラグナロクの山賊が街で暴れてるんですぅ。ヴェルド様じゃないと倒せれませーん」

 言ってる内容はかなりヤバイものだと思ったが、シアラが緊張感のない話し方で話すせいで、重大なのかどうかが分からない。

「山賊だと?それは本当か?」

 フウロがシアラに歩み寄り、そう尋ねる。

「はい、グリードさんとライオスさんが慌てた様子でやって来たので間違いないと思います」

 フウロに尋ねられた途端、シアラが真面目な顔で真面目な喋り方で話す。

「なるほど。おい、行くぞお前ら!」

 フウロが戸を開け、部屋を出ていく。

「おい、ジーク?だっけ。お前も手伝え」

 ヴァルがネイの方を向いてそう言う。

「おっしゃー!俺に任せーー」

「ダメだって!」

「止めるなお嬢。別にお嬢が戦うわけじゃねえだろ」

「戦ってるのは私の体。そんなこと言って何回もボロボロにしてきたじゃない」

 ネイが1人でーーいや、本人は2人でやってるつもりなのだろうがーー激しいやり取りをしている。

ーーなんか、色々と忙しそうだなーー

 セリカはそんなことを考えてしまった。

「山賊相手だったら私でも戦えます」

 ネイは私達なのか、ジークなのか、どっちに発しているのか分からないことを言う。

「だから、ジークは少し黙っててください」

 あ、これはジークに言ってたな。と、セリカは理解した。

「セリカさん。すみませんけど、そこのコートとブーツを取ってくれませんか?」

 ネイが突然、セリカに話しかけてくる。

「え、あ、うん。分かった」

 セリカは言われた通り、ネイにコートとブーツ、後ついでに剣も差し出す。

「本当に戦えるの?」

 ネイがブーツを履いているのを見ながらセリカはそう尋ねる。

「ただ、ジークにやらせたくないだけです」

 ネイは短くそう答えて部屋を出ていった。

「あ、待ってー」

 セリカも後を追いかけていった。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「オラァ!おめえらはよ取るもん取ってこい!」

 セリカ達が現場に掛け合わせた時には既に山賊達が街を随分と荒らした状態だった。

 前回、セリカが入団する時の山賊もヤバかったとは思うが、今回はかなり規模が違う。

 どう規模が違うのかと言えば、まず、人数が圧倒的に増えており、更には魔法を使うやつまでいる。オマケに、武器などの装備も充実している感じで、今回はかなり本気だなと思わせるほどである。

「地獄龍の咆哮!」
「ブリザードアーツ!」

 前回同様、ヴァルとヴェルドが同時に山賊に向かって攻撃する。ただ、前回と違うのはヴァル達がパワーアップしている事だろう。まあ、相手もパワーアップしているようだが。

「ウォータースパイラル」

 ヴァル達の攻撃で怯んだところをシアラが追撃を仕掛ける。

「クソっなんなんすかボス。こいつらなんかヤバいんですけど!」

「うるせえな。少しは落ち着け。こいつらは『グランメモリーズ』だ。この街の何でも屋みたいなもんだよ」

「じゃあ、なんでここ選んだんですか!」

「前の復讐だ」

ーーあ、こいつら前回のヤツらと一緒なんだなーー

 セリカは山賊達の会話を小耳に挟みながらそう思った。

「こいつら普通に強いですよ!勝てるんですか!?」

「安心しな。そのために今回は国から直々に新兵器を授かったんだ」

ーー新兵器?ーー

 それに、国から直々とはどういうことだろうか。まさか、ラグナロクが後ろ盾として着いてるんじゃ......

「おら!おめえら『アレ』持ってこい!」

「了解!」

 山賊のリーダー?がそう指示すると、後ろの部下?が一斉に後退し始める。

 本格的に動き出すようだ。その前に、撃退することが出来れば楽なのだが......

 セリカはそう考えたが、こちらの戦力と相手の戦力を比べて厳しそうだと思った。

「だから、ジークは少し黙っててください。私も戦えます!」

 ネイはこんな状況でもジークと揉めているようだ。

「ほぉ、あの女前の......」

 山賊が何やら呟いたようだが、セリカにはそれを聞き取ることが出来なかった。

「よそ見してんじゃねぇ!」

 ヴァルが空から山賊のリーダーに向かって殴りかかる。

「前回と同じだと思ったら大間違いだぜ」

 なんと、ヴァルの攻撃を山賊のリーダーは軽々と片手で掴んでしまった。

「なっ......」

 ヴァルが咄嗟に反撃しようとしたが、それよりも早く、山賊のリーダーがヴァルを正面に投げ飛ばした。

「ボス、準備が整いました」

「そうか。ならおめえらは次にあの女を攫ってこい」

「了解」

 山賊のリーダーはセリカに向かって指さし、なにやら部下に指示を出している。

「あ、セリカさん危ない」

 突然、ネイがセリカの体を突き飛ばす。その直後、どこから打ってきたのか分からない火の玉がネイに直撃する。

「ネイ!」

 ネイはが苦しそうにその場に倒れ込んでいる。

「野郎ども対象は違うが、今だ!」

 山賊が一斉にこちらにやってくる。

「待てゴルァ!」

 ヴェルドが足下を凍らせるが、山賊は慣れた足取りで壁伝いに走る。

「セリカ!」

 ヴァルがセリカを抱え、その場を離れようとする。そして、ネイの存在に気づいたヴァルはネイも抱えようとするが、すんでのところで山賊に妨害される。

「ネイ!」

 山賊の内の1人がネイを抱え、リーダーの所へ持ち帰る。

「おいお前ら!よく聞け!」

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「おいお前ら!よく聞け!」

 山賊の親玉が耳元でうるさく叫ぶ。

「この娘を返して欲しけりゃ今すぐありったけの金を用意しろ!」

 山賊が誘拐犯がよく言うようなセリフを口にする。事実、人質という形で誘拐されてるのだが......

「汚ねえぞお前ら!」

 ヴァルがそう叫び返す。

「ハッ俺らに汚ねえも何もあるか」

 山賊の親玉が鼻で笑う。

(お嬢。俺と変われ)

「なんで」

(俺に変わってくれりゃこんなやつら一瞬でーー)

「そんなこと言って今まで何回も人を傷つけてきたでしょ!」

 ついつい感情的になり、そう叫んでしまう。

「例え、相手が誰であろうと人は傷つけないでって約束したじゃない!」

「グチャグチャとうるせえんだよ!」

 叫ぶネイに対して、山賊の親玉が殴る。

「ネイ!ジークと変わって!」

 セリカが遠くでそう叫ぶ。

「嫌だ」

「どうやらお前は自分の立場を理解していないらしいな」

 山賊がネイの首元を掴み、ネイを蹴り飛ばす。

(おい、このままだと死んでしまうぞ)

「だったら......何?」

(俺と変われ!もうお嬢の言う通りに人を傷つけるようなことはしねえからさ!)

「............」

(おい、お嬢!)

「......ごめんなさいは?」

(は?)

「ごめんなさいはって聞いてるの。後ついでにもう二度と言う事聞かないなんてことしないって約束できる?」

(あーもう分かったよ。ごめんなさい。もう二度と命令には背きません!)

 ネイはそれを聞くとジークと意識を入れ替えた。

「おい小娘。てめえは自分の立場を......」

「立場が......なんだって?」

 山賊の親玉が全てを言い終える前に、ジークは親玉をヴァル達の方へ向かって投げ飛ばす。

(しまったな。あの坊主共に当たってなきゃいいが)

 そう思い、ジークはヴァル達の方を見る。

 ヴァルが敵の親玉を流れで殴り飛ばし、こちらにグッドサインを送っているのが見える。

「ぼ、ボス......」

 それを見た部下共が狼狽えている。
 今がチャンスだ。

 ジークは鞘から剣を抜き出し、構える。
 すると、剣の形が変わり、両手持ちの大剣へと変わる。

(へぇ~お嬢もようやく俺を認めてくれたか)

 大剣以上に戦いやすい武器などない。これでなら存分に戦える......と考えたが。

「お嬢、大丈夫か?」

(好きにやっていいですよ)

「そうか。なら......」

 ジークは敵陣へと突っ込み、その大剣で敵をバッタバッタと薙ぎ倒していく。

「俺がやりたかったのはこういうことなんだよ!」

「ジーク!それ以上突っ込むな!」

 遠く、いや、案外近いところでフウロがそう叫ぶ声が聞こえる。

 その声に釣られ、後ろを振り向くと山賊が一斉に飛びかかってきていた。

「どいつもこいつもバカだな。そんな大勢でやってきたら時間がかからなくて楽になるのが分からねえのかね」

 ジークは向かってくる敵に対して構えをとり、

「行くぜ、必殺『輝きの流星剣』!」

 ジークはそう叫び、襲ってきた山賊を一網打尽にする。

(威力はともかく、技名ダサいですね)

 ネイが胸の内から感想を漏らしてくる。

「うるせえよ。この感性が分からねえとかてめえ何なんだ!」

(はいはい、もう交代です)

「待てって。まだ終わっ......」

 ジークの意識は、半ば強制的に切り替えられてしまった。

「ふう、痛て......」

 切り替わった途端、物凄い激痛に襲われ、ネイはその場に倒れ込んでしまった。

(だから言ったじゃねえか。痛みが半端じゃねえって)

 ジークがそう言う。

「そんなの......聞いてない......」

(それはお嬢が人の話を聞かずに勝手に切り替えるからだろ。俺はもう知らねえぞ)

「ネイりん、大丈夫?」

 倒れ込んだネイを見て、セリカが駆け寄ってくる。

「待ってて、今治療するから。アルラウネ」

 セリカがそう言い、黄緑色の鍵を取り出すと、目の前に黄緑色の髪をした少女が現れた。

「はーい。ご主人様に呼ばれて参上しました」

「アルラウネ。ネイりんを......」

「あれ?なんか前にも同じ人を治療したような気がするんですが」

「そりゃ前と同じ人だからね」

 セリカとアルラウネが変なやり取りを交わしている。そんなのどうでもいいから、早く治療して欲しい。

「まあ、どうでもいいや。今治療して上げるからねぇ」

 アルラウネが若干の猫なで声で治療を開始する。なんか、子供扱いされてるみたいで無性に腹立つ。

(やっぱ、お嬢は見た目はアレでも中身がガキにみえるんだよ)

 ジークが胸の内で嘲笑っているのが伝わってくる。

「はい、これで完了」

 アルラウネがネイから手を離し、そう言う。

「ありがとねアルラウネ」

「また、御用とあらばお呼びを」

 アルラウネが敬礼して消えていく。まったく、今のが十二級精霊というやつなのだろうか。

「ネイりん、大丈夫?」

 セリカが問いかけてくる。

 ネイは疲れ切った体を起こし、体の節々を触ってみる。自然と痛みは消えていた。流石は精霊というべきなのだろうか。

「はい、大丈夫です。かなり疲れは出ていますけど」

「アハハ、アルラウネは疲れまで取れないからなぁ」

 セリカは罰が悪そうに頭を掻きながらそう言う。

「どう?立てる?」

 セリカが手をこちらに差し伸べてくる。

 自力で立とうとしたが、体が言う事を聞かず、結局セリカの手を取ってしまった。

「すみません」

「いいっていいって。そんなことよりも凄かったねー。山賊をものの数秒で倒しちゃうんだもん」

「全部ジークですよ。全く、周りには配慮するのに私の体には配慮してくれないから困ったものです」

 ネイは言っても仕方ない愚痴を言う。

「体......ねえ......」

 セリカがやたらとネイの体をジロジロ見る。

「あの......どうかしました?」

「いや、ネイりんってかなりナイスバディだなって思って......」

 なんだ、そんな事だったのか......って

「なんで分かるんですか!?」

 セリカ達には1度もコートを脱いだところを見せたことがないはずなのに。

「いや、ベッドで寝かせてた時にコートとブーツは脱がしてたからさ。それに、服の上からでもある程度分かるし...」

 そういえばそうだった。

「でさ。ネイりんは私達のギルドに入ってくれるの?」

 セリカが目を輝かせ問いかけてくる。

「あの、1つ聞いても良いですか?」

「何?」

「セリカさんは......私が怖くないんですか?」

 ネイは恐れていることを問いかける。

「なんで?」

 返ってきた答えは疑問だった。

「だって、私、龍人なんですよ」

「そんなの平気だって。私、龍人がどうして悪い人達なのか知らないし、それに、ネイりんは良い人でしょ?」

 セリカが逆に問いかけてくる。

「ヴェルドとかはちょっとアレだけどさ。私はネイりんのこと普通の人と何も変わらないと思うよ。友達になりたいくらい。ってか友達になりたいな」

 なんて......嬉しい言葉なのだろう。セリカが嘘を言っているようには思えない。

(良かったなお嬢。新しい友達ができて)

 こういう時、真っ先にアイツが雰囲気をぶち壊しにしてくる。

「だから、ジークは黙ってて!」

 セリカに返事をしようと思ってたのに、ジークにそう文句を言ってしまう。

「フフ、またジーク?」

 セリカが笑い顔で問いかけてくる。

「はい。全く、雰囲気をぶち壊しにしてくるもんですから」

 そう言ってネイも少し可笑しいと思った。自然と笑いがこみ上げてくる。

 ネイとセリカはヴァル達が見ているとも知らずに笑っていた。



 私はこの日を忘れないであろう。初めて誰かに認められて、契約龍と正式な契約を交わして、そして、『友』ができた日のことを......
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