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15 香坂の友達
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僕たちに追い返されて、店で待っていた戸山だけれど。
「お前ら、すげぇ仲悪くなかったっけ?」
「そう?」
僕が香坂と一緒に登場したのに変な顔をする戸山に、ひとまずすっとぼけておく。けど無視するのもなんだと思って、戸山から一つ席を開けた隣に腰を下ろした。
「戸山こそ、なんでここに?」
なんでっていうか、バーに酒を飲む以外になにしに来るんだっていう話なんだけれど、とりあえず社交辞令的な切り出し方をしたんだけれど。戸山はその社交辞令の質問に、想定とは違う答えを返してきた。
「あぁ? 俺ぁ野菜持ってきたんだよ、アレ」
カウンターの中に置いてある段ボールを指さされた。
「ウチ、農家だから」
初耳情報である。っていうか、高校の頃の同学年の連中の実家の稼業やらを僕が知っているわけもないのだから、初耳で当たり前だ。
「へぇ、農家とかすごいじゃん。じゃあ一緒に農業やってるんだ」
「頭ワリィから、上のガッコとか行くのヤだっただけだ」
僕としては素直に褒めたんだけれど、戸山は微妙に皮肉に聞こえたっぽい、なんともいえない顔をした。まあ現役大学生と絡めたい話題じゃないかもな、逆の立場でも。お互い、もうちょいオジサンになっていれば、もっと違う風に盛り上がれるのかもしれんが、ぬるま湯育ちのモブだとこの程度の話術が精一杯だ。すまん戸山よ。
「戸山クンからは市場に流せない規格外野菜を、格安で譲ってもらってんの。経費削減助かるぅ、怜のお友達サマサマだねぇ~」
盛り上がらない僕と戸山の会話に、従兄さんが割り込む。
なるほど、仕事に絡めて付き合っているってことは、戸山は香坂もそこそこ頼りにしている相手なのか。だてに高校時代にずっとつるんでいたわけじゃないんだな。モブαとしてひっそり過ごしていた僕には、そこまで親身にするのもされるのも相手がいないな。しいて言えば、落語愛好会の仲間くらいか? 部員は僕を含めて三人で、うち二人は兼部で幽霊部員だったけれど。卒業した先輩がたまに顔を出す方が、一緒に活動した感があるな。
僕がそんな切ない高校時代を思い返していると、香坂が戻って来た。キッチンからいい匂いがしていると思っていたら、肉野菜炒めをご飯の上にドンと盛ったどんぶりを持っている。僕の横のカウンター端に座ると、そのどんぶりをガツガツ食い出す。
「あれ、もう食うのお前? 今食ったらラストまで持たくねぇ?」
従兄さんに聞かれた香坂が、ジロッと僕を睨んでからこれに答えた。
「しゃあねぇじゃん、腹減って力出ねぇわ。後でもなんかちょい食うし」
うん、さっき激しめの運動したもんな、そりゃあ腹減るか。香坂に心の中で「スマン」と謝るしかない。そしてどんぶりをかき込んでから水を飲む香坂の首元に、チョーカーがチラ見えする。
「そのチョーカー、似合ってるじゃん」
さすが従兄さん、香坂がチョーカー着けているのに目ざとく気付く。そして俺があげたものだっていうのもわかったらしくて、こっちにニコッとしてきた。
その一方で、戸山は変な顔になっている。
「チョーカーとかお前、そんなお洒落アイテムするヤツだったか?」
「……別に、いいだろ?」
戸山のツッコミに、香坂はもう食べ終わったらしいどんぶりをテーブルに置くと、喉元のチョーカーを撫でながら誤魔化すように零す。
戸山は香坂がΩだっていうの、知らないみたいだな。まぁ身近にΩがいなかったら、Ωとチョーカーがつながらないヤツも多いはず。なんたって当のΩ本人たちが、ガード用チョーカーなんてそうそう着けないような時代だし。それにそういう弱味になりそうな身の上の事情なんて、友達であっても言いたくないんだろうな。それこそ、うっかりヒート事故でも起こさない限りは。
そう思っていると、香坂は僕をジッと見てくる。
「お前ら、すげぇ仲悪くなかったっけ?」
「そう?」
僕が香坂と一緒に登場したのに変な顔をする戸山に、ひとまずすっとぼけておく。けど無視するのもなんだと思って、戸山から一つ席を開けた隣に腰を下ろした。
「戸山こそ、なんでここに?」
なんでっていうか、バーに酒を飲む以外になにしに来るんだっていう話なんだけれど、とりあえず社交辞令的な切り出し方をしたんだけれど。戸山はその社交辞令の質問に、想定とは違う答えを返してきた。
「あぁ? 俺ぁ野菜持ってきたんだよ、アレ」
カウンターの中に置いてある段ボールを指さされた。
「ウチ、農家だから」
初耳情報である。っていうか、高校の頃の同学年の連中の実家の稼業やらを僕が知っているわけもないのだから、初耳で当たり前だ。
「へぇ、農家とかすごいじゃん。じゃあ一緒に農業やってるんだ」
「頭ワリィから、上のガッコとか行くのヤだっただけだ」
僕としては素直に褒めたんだけれど、戸山は微妙に皮肉に聞こえたっぽい、なんともいえない顔をした。まあ現役大学生と絡めたい話題じゃないかもな、逆の立場でも。お互い、もうちょいオジサンになっていれば、もっと違う風に盛り上がれるのかもしれんが、ぬるま湯育ちのモブだとこの程度の話術が精一杯だ。すまん戸山よ。
「戸山クンからは市場に流せない規格外野菜を、格安で譲ってもらってんの。経費削減助かるぅ、怜のお友達サマサマだねぇ~」
盛り上がらない僕と戸山の会話に、従兄さんが割り込む。
なるほど、仕事に絡めて付き合っているってことは、戸山は香坂もそこそこ頼りにしている相手なのか。だてに高校時代にずっとつるんでいたわけじゃないんだな。モブαとしてひっそり過ごしていた僕には、そこまで親身にするのもされるのも相手がいないな。しいて言えば、落語愛好会の仲間くらいか? 部員は僕を含めて三人で、うち二人は兼部で幽霊部員だったけれど。卒業した先輩がたまに顔を出す方が、一緒に活動した感があるな。
僕がそんな切ない高校時代を思い返していると、香坂が戻って来た。キッチンからいい匂いがしていると思っていたら、肉野菜炒めをご飯の上にドンと盛ったどんぶりを持っている。僕の横のカウンター端に座ると、そのどんぶりをガツガツ食い出す。
「あれ、もう食うのお前? 今食ったらラストまで持たくねぇ?」
従兄さんに聞かれた香坂が、ジロッと僕を睨んでからこれに答えた。
「しゃあねぇじゃん、腹減って力出ねぇわ。後でもなんかちょい食うし」
うん、さっき激しめの運動したもんな、そりゃあ腹減るか。香坂に心の中で「スマン」と謝るしかない。そしてどんぶりをかき込んでから水を飲む香坂の首元に、チョーカーがチラ見えする。
「そのチョーカー、似合ってるじゃん」
さすが従兄さん、香坂がチョーカー着けているのに目ざとく気付く。そして俺があげたものだっていうのもわかったらしくて、こっちにニコッとしてきた。
その一方で、戸山は変な顔になっている。
「チョーカーとかお前、そんなお洒落アイテムするヤツだったか?」
「……別に、いいだろ?」
戸山のツッコミに、香坂はもう食べ終わったらしいどんぶりをテーブルに置くと、喉元のチョーカーを撫でながら誤魔化すように零す。
戸山は香坂がΩだっていうの、知らないみたいだな。まぁ身近にΩがいなかったら、Ωとチョーカーがつながらないヤツも多いはず。なんたって当のΩ本人たちが、ガード用チョーカーなんてそうそう着けないような時代だし。それにそういう弱味になりそうな身の上の事情なんて、友達であっても言いたくないんだろうな。それこそ、うっかりヒート事故でも起こさない限りは。
そう思っていると、香坂は僕をジッと見てくる。
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