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11 新しい日常 side 香坂
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俺香坂は、あの前島と「お付き合い」というものをすることになった。
信じられねぇ、俺はこのまま一人で一生過ごすんだとばかり思っていたし、覚悟も決めていたっていうのに。
あれから何度か、先生の診察も受けている。
フェロモンのことを相談したら、俺のΩとしての機能がまだ未開化なのだろうと言われた。早熟なヤツに比べて五年ほども遅れてのΩ化だったから、それを鑑みればそうおかしな状態ではないとのこと。色々なαの刺激に晒されて、フェロモン器官が発達するのだそうだ。今の俺で、ちょうど思春期くらいの発達具合だろうと言われた。そんで思春期はフェロモンが安定しないのが通常だとさ。高校での俺はマジで無臭だったらしいが、確かに小学生がフェロモンをまき散らしていたら、すげぇおおごとか。
なにはともあれ、俺の状態は成長が始まった時期が遅いだけで、他は普通だと教えられて、すげぇ安心できた。
あと、チョーカーの着用を進められもした。俺は後天性だけれど、Ωとしては強い方じゃねぇかって先生が言うんだ。
「香坂くんは着けた方がいい」
マジな顔だったけど、なぁ? 前に病院からΩに支給される保護用チョーカーとやらを貰っているんだが、作りが雑で痛ぇんだよ。案の定他のΩたちからの評判も悪く、誰も着けたがらないんだと。俺も着けてないしな。
「なら稔に選ぶように言っておこう。αはパートナーを守るものだ」
稔ってのは前島のことだ……くっそ、妙に恥ずぃ!
それから数日後。仕事前の俺のところへ前島が来た。
先生に言われた前島は、早速バイト代で買いに行ったのだと。そこそこの値段で着け心地が言いと評判のメーカーを見つけたとかで、実際に触れて確認したそうだ。
「あからさまにΩ用に見えないのがポイントだってさ」
「……おぅ」
前島がそう言って手渡すのを撫でてみたが、たしかに支給品とは段違いで肌触りがいいし、伸縮性もあるし、少なくとも痛くはなさそうだ。
「と言っても消耗品だし、ちょいちょい変えていくもんなんだって、店員が言ってた」
説明する前島が俺の手からチョーカーを取ると、首に巻いていく。別に自分で着けられるんだけれど、やってくれるらしい。けれど正面からチョーカーを着けられて、顔が近くなるのがなんていうか、すげぇこっぱずかしくなるけれど、目の前に前島の横顔があるから俯くこともできない。
っていうか、この前島もなかなかに謎な男だ。
当人は「僕はモブαだから」なんて言っているが、俺にしてみればαにモブもクソもあるかよ。やはりαだから、才能はβやΩなんかと段違いなのだ。前に今後の人生計画を聞かされたけれど、税理士にしても司法書士にしても、あんな簡単に「取るから」なんて言える資格ではない。
「そんな簡単なら、世の中資格持ちだらけになって、運転免許並みにありふれたものになっているぞ」
従兄で雇い主でもあるアニキに「αの基準をアテにするな」言われて、俺はなるほどなって思ったもんだ。それにこうも言われた。
「前島クンはたぶん、やる気にムラっ気があるタイプだな」
曰く、αには全てにおいて完璧にそつなくこなすタイプと、気が向かなければ全く労力を費やさないタイプがいるんだと。後者のタイプは、それで他人に貶されてもなんとも思わないんだとか。あ~そうかも、と俺も納得だ。その代わり、やると言えば絶対にやり遂げるだろうとも言われた。
「怜と二人での人生設計も、今頃立てているかもよ?」
アニキのそれに「そんな馬鹿な」なんてからかわれていると思いはするが、なんとなく心の端っこの方がこそばゆい。チョーカーだって、マジで買ってくるとは思わなかったし。
そんなことをつらつらと考えていると、前島がうなじをいたずらに指でくすぐりつつ、着けたチョーカーを確かめるように撫でる。
「できた。やっぱり、うなじが守られていると落ち着く?」
「まあ、そうだな。おい、もうヤメロ」
いいかげんにウザくなってくすぐる手を払うと、前島が「えぇ~」と不満そうにする。
今はうなじを噛んだりなんていう儀式みたいなことはしない。
大昔はうなじを噛んでお互いのフェロモンを安定させるという作用が重要視されたが、今はそんなことをしなくても薬でフェロモン抑制は十分にできる。そうなると、うなじを噛むとΩはαに支配されて別れられなくなる、というリスクの方が危険視された。今では余程互いに執着し合っている同士でなければ行わない、儀式みたいになっている。
とはいえ、Ωにはやはり「もしかして」という恐怖は心の奥底にあるものだ。それを布一枚とはいえ、隠してくれるものがあるのは安心感がある。
「これ、サンキュ」
チョーカーがありがたいのは本当なので、俺は素直に礼を口にした。
「どういたしまして」
前島が嬉しそうに笑った。
ここで話が終わっていれば、すげぇいい話だったんだがな。
信じられねぇ、俺はこのまま一人で一生過ごすんだとばかり思っていたし、覚悟も決めていたっていうのに。
あれから何度か、先生の診察も受けている。
フェロモンのことを相談したら、俺のΩとしての機能がまだ未開化なのだろうと言われた。早熟なヤツに比べて五年ほども遅れてのΩ化だったから、それを鑑みればそうおかしな状態ではないとのこと。色々なαの刺激に晒されて、フェロモン器官が発達するのだそうだ。今の俺で、ちょうど思春期くらいの発達具合だろうと言われた。そんで思春期はフェロモンが安定しないのが通常だとさ。高校での俺はマジで無臭だったらしいが、確かに小学生がフェロモンをまき散らしていたら、すげぇおおごとか。
なにはともあれ、俺の状態は成長が始まった時期が遅いだけで、他は普通だと教えられて、すげぇ安心できた。
あと、チョーカーの着用を進められもした。俺は後天性だけれど、Ωとしては強い方じゃねぇかって先生が言うんだ。
「香坂くんは着けた方がいい」
マジな顔だったけど、なぁ? 前に病院からΩに支給される保護用チョーカーとやらを貰っているんだが、作りが雑で痛ぇんだよ。案の定他のΩたちからの評判も悪く、誰も着けたがらないんだと。俺も着けてないしな。
「なら稔に選ぶように言っておこう。αはパートナーを守るものだ」
稔ってのは前島のことだ……くっそ、妙に恥ずぃ!
それから数日後。仕事前の俺のところへ前島が来た。
先生に言われた前島は、早速バイト代で買いに行ったのだと。そこそこの値段で着け心地が言いと評判のメーカーを見つけたとかで、実際に触れて確認したそうだ。
「あからさまにΩ用に見えないのがポイントだってさ」
「……おぅ」
前島がそう言って手渡すのを撫でてみたが、たしかに支給品とは段違いで肌触りがいいし、伸縮性もあるし、少なくとも痛くはなさそうだ。
「と言っても消耗品だし、ちょいちょい変えていくもんなんだって、店員が言ってた」
説明する前島が俺の手からチョーカーを取ると、首に巻いていく。別に自分で着けられるんだけれど、やってくれるらしい。けれど正面からチョーカーを着けられて、顔が近くなるのがなんていうか、すげぇこっぱずかしくなるけれど、目の前に前島の横顔があるから俯くこともできない。
っていうか、この前島もなかなかに謎な男だ。
当人は「僕はモブαだから」なんて言っているが、俺にしてみればαにモブもクソもあるかよ。やはりαだから、才能はβやΩなんかと段違いなのだ。前に今後の人生計画を聞かされたけれど、税理士にしても司法書士にしても、あんな簡単に「取るから」なんて言える資格ではない。
「そんな簡単なら、世の中資格持ちだらけになって、運転免許並みにありふれたものになっているぞ」
従兄で雇い主でもあるアニキに「αの基準をアテにするな」言われて、俺はなるほどなって思ったもんだ。それにこうも言われた。
「前島クンはたぶん、やる気にムラっ気があるタイプだな」
曰く、αには全てにおいて完璧にそつなくこなすタイプと、気が向かなければ全く労力を費やさないタイプがいるんだと。後者のタイプは、それで他人に貶されてもなんとも思わないんだとか。あ~そうかも、と俺も納得だ。その代わり、やると言えば絶対にやり遂げるだろうとも言われた。
「怜と二人での人生設計も、今頃立てているかもよ?」
アニキのそれに「そんな馬鹿な」なんてからかわれていると思いはするが、なんとなく心の端っこの方がこそばゆい。チョーカーだって、マジで買ってくるとは思わなかったし。
そんなことをつらつらと考えていると、前島がうなじをいたずらに指でくすぐりつつ、着けたチョーカーを確かめるように撫でる。
「できた。やっぱり、うなじが守られていると落ち着く?」
「まあ、そうだな。おい、もうヤメロ」
いいかげんにウザくなってくすぐる手を払うと、前島が「えぇ~」と不満そうにする。
今はうなじを噛んだりなんていう儀式みたいなことはしない。
大昔はうなじを噛んでお互いのフェロモンを安定させるという作用が重要視されたが、今はそんなことをしなくても薬でフェロモン抑制は十分にできる。そうなると、うなじを噛むとΩはαに支配されて別れられなくなる、というリスクの方が危険視された。今では余程互いに執着し合っている同士でなければ行わない、儀式みたいになっている。
とはいえ、Ωにはやはり「もしかして」という恐怖は心の奥底にあるものだ。それを布一枚とはいえ、隠してくれるものがあるのは安心感がある。
「これ、サンキュ」
チョーカーがありがたいのは本当なので、俺は素直に礼を口にした。
「どういたしまして」
前島が嬉しそうに笑った。
ここで話が終わっていれば、すげぇいい話だったんだがな。
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