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2 まさかのΩ
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「前島が、どうしてココにいる!?」
あ、前島っていうのは僕のことね。
「そりゃあ、サークルの飲み会帰りだからだけど」
僕がありのままの事実を言うと、香坂が憎らしそうに睨んでくる。目つきが怖いって、僕は一応助けに来た人なんだからさぁ。
「くっそ、αサマが居酒屋とかに来てんじゃねぇよ、もっと高級な店にでも行け!」
「それ、αへの偏見だな。貧乏庶民派αもいるんだから」
僕は思わず反論したんだけれど。あれ、香坂ってば、僕がαだってよく知ってたね? たぶん、高校のクラスメイトも気付いていなさそうだったし、大学でも気付かれていないのに。だって、αのオーラがゼロだからね、僕は。
「くっそ、こんな時に会うとか、最悪だ」
立ち上がろうとする香坂が、足に力が入らないようで地面にベシャッと崩れ落ちている。ぱっと見平気そうだけど、どっか怪我しているのか?
「おい、平気か?」
僕が手を貸そうとして差し出した手を、香坂がパン! と払いのけた。
「来んな、離れろ! こんなことなら、やっぱ休めばよかった……!」
そう愚痴る香坂から、ふわりと甘い蓮華の花のような濃い香りがした。あれ、この匂いってひょっとして――
「Ω?」
僕の呟きに、香坂がギクリと肩を跳ねさせる。あれ、マジでΩなの? αのカリスマ持ちだって評判だった香坂だぞ?
「……だったら、どうだってんだよ」
唸るような香坂がさらに怖い。いや、どうもしないから睨むな、ちびりそうになるから。
なるほど、αだろうっていう噂とか雰囲気ってアテにならないもんなんだな、やっぱり。っていうか、フェロモン臭がこんなにも濃く漏れているってことは、香坂はひょっとしてヒートが来ているのか? あれ、なら僕はマジでここにいたらダメなんじゃないか?
今になって、そんな状況が理解できた時。
「怜、騒がしかったけど、なんかあったか?」
裏口の戸が開いて、髭面のニイチャンが現れた。僕と香坂の二人を見て、目を丸くしている。
「あ、誰?」
「ガッコの、同級だったヤツ」
オッサンの疑問に香坂が答えた。
「ほうほう!」
するとニイチャンが楽しそうに僕に近寄って来る。ちょっ、近い近い! その距離の詰め方怖いから!
「へぇ、怜にもこんな普通な友達がいたんだなぁ。あ、αか」
香坂とは昔の知り合いであって、友達ではない。けれど、僕をαと断定したニイチャン、よくわかったな。
「オレ、鼻がいいから。そういうのがわかるんだよ。なんだ怜、顔赤いぞ? ヒートもう来ちまったか?」
「うっせぇ、薬は飲んでるわ」
ニイチャンが心配そうに窺うのを、香坂がギロリと睨み返す。どうやら香坂は、他人の心配を素直に聞き入れられない奴らしい。
「その薬、いまいち効かねぇって言ってたじゃんよ。だから市販薬じゃなくて、ちゃんと病院かかれって」
「やだね!」
なんか二人で揉めてっていうか、香坂が一方的に噛みつきだしたけれど、とりあえず僕はもう帰っていいだろうか?
「あの、じゃあ僕はこれで」
「あ、そうだ、ちょうどいいじゃん」
ソロソロと後ろに下がっていた僕に、ニイチャンが手をガシッと掴んできた。
「ちょうどいい、ヒート薬の効きが悪いんならさ、αに相手してもらうのが一番の薬だろ?」
「……あ?」
ニイチャンのあっけらかんとした台詞に、香坂が低い唸り声を上げたのに、さらなる追い打ちがかかる。
「お前、上の部屋でこのαとヤッて来い」
「「は?」」
なんですと?
なにを言われたのか全く頭に入らない僕だったけれど、香坂が耳まで顔を真っ赤にした。
「ばっ……!? 冗談だろう!?」
「本気本気、だってコイツって『あの前島』だろう?」
噛みつく香坂に、ニイチャンがヘラリとして告げる。
「は?」
突然ニイチャンから僕の名前が出たことに、さらにきょとんとなるしかない。
あ、前島っていうのは僕のことね。
「そりゃあ、サークルの飲み会帰りだからだけど」
僕がありのままの事実を言うと、香坂が憎らしそうに睨んでくる。目つきが怖いって、僕は一応助けに来た人なんだからさぁ。
「くっそ、αサマが居酒屋とかに来てんじゃねぇよ、もっと高級な店にでも行け!」
「それ、αへの偏見だな。貧乏庶民派αもいるんだから」
僕は思わず反論したんだけれど。あれ、香坂ってば、僕がαだってよく知ってたね? たぶん、高校のクラスメイトも気付いていなさそうだったし、大学でも気付かれていないのに。だって、αのオーラがゼロだからね、僕は。
「くっそ、こんな時に会うとか、最悪だ」
立ち上がろうとする香坂が、足に力が入らないようで地面にベシャッと崩れ落ちている。ぱっと見平気そうだけど、どっか怪我しているのか?
「おい、平気か?」
僕が手を貸そうとして差し出した手を、香坂がパン! と払いのけた。
「来んな、離れろ! こんなことなら、やっぱ休めばよかった……!」
そう愚痴る香坂から、ふわりと甘い蓮華の花のような濃い香りがした。あれ、この匂いってひょっとして――
「Ω?」
僕の呟きに、香坂がギクリと肩を跳ねさせる。あれ、マジでΩなの? αのカリスマ持ちだって評判だった香坂だぞ?
「……だったら、どうだってんだよ」
唸るような香坂がさらに怖い。いや、どうもしないから睨むな、ちびりそうになるから。
なるほど、αだろうっていう噂とか雰囲気ってアテにならないもんなんだな、やっぱり。っていうか、フェロモン臭がこんなにも濃く漏れているってことは、香坂はひょっとしてヒートが来ているのか? あれ、なら僕はマジでここにいたらダメなんじゃないか?
今になって、そんな状況が理解できた時。
「怜、騒がしかったけど、なんかあったか?」
裏口の戸が開いて、髭面のニイチャンが現れた。僕と香坂の二人を見て、目を丸くしている。
「あ、誰?」
「ガッコの、同級だったヤツ」
オッサンの疑問に香坂が答えた。
「ほうほう!」
するとニイチャンが楽しそうに僕に近寄って来る。ちょっ、近い近い! その距離の詰め方怖いから!
「へぇ、怜にもこんな普通な友達がいたんだなぁ。あ、αか」
香坂とは昔の知り合いであって、友達ではない。けれど、僕をαと断定したニイチャン、よくわかったな。
「オレ、鼻がいいから。そういうのがわかるんだよ。なんだ怜、顔赤いぞ? ヒートもう来ちまったか?」
「うっせぇ、薬は飲んでるわ」
ニイチャンが心配そうに窺うのを、香坂がギロリと睨み返す。どうやら香坂は、他人の心配を素直に聞き入れられない奴らしい。
「その薬、いまいち効かねぇって言ってたじゃんよ。だから市販薬じゃなくて、ちゃんと病院かかれって」
「やだね!」
なんか二人で揉めてっていうか、香坂が一方的に噛みつきだしたけれど、とりあえず僕はもう帰っていいだろうか?
「あの、じゃあ僕はこれで」
「あ、そうだ、ちょうどいいじゃん」
ソロソロと後ろに下がっていた僕に、ニイチャンが手をガシッと掴んできた。
「ちょうどいい、ヒート薬の効きが悪いんならさ、αに相手してもらうのが一番の薬だろ?」
「……あ?」
ニイチャンのあっけらかんとした台詞に、香坂が低い唸り声を上げたのに、さらなる追い打ちがかかる。
「お前、上の部屋でこのαとヤッて来い」
「「は?」」
なんですと?
なにを言われたのか全く頭に入らない僕だったけれど、香坂が耳まで顔を真っ赤にした。
「ばっ……!? 冗談だろう!?」
「本気本気、だってコイツって『あの前島』だろう?」
噛みつく香坂に、ニイチャンがヘラリとして告げる。
「は?」
突然ニイチャンから僕の名前が出たことに、さらにきょとんとなるしかない。
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