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1 再会は突然に
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僕はαでモブの男だ。
マンガやドラマとかで主役になるような才能と魅力あふれるα様ではなくて、その周囲にチラッと見切れるかもしれない、主役の部下Aとか、そのへんの立ち位置。けど、それはいいんだ。主役級αなんていう波乱万丈人生なんてこちらから願い下げだし、平々凡々な生活が一番だ。モブ人生のなにが悪いんだ?
そこそこの学力をキープしてそこそこの大学に入ってそこそこの人間関係を作っていくのが、正しいモブの生き方だろう。
そんな俺は、ある日大学サークルの飲み会帰りのこと。
二次会に行くぞと賑やかな連中と別れて、僕は一人帰宅しているところだった。あまり酒が強いわけじゃあないから、最初の乾杯ビールだけ付き合った後はひたすら烏龍茶を飲んだから、水分で身体が冷えて仕方ない。夏が終わって風が冷えてきている季節なんで、なおさら寒い。おかげでトイレが近くなり、コンビニに寄ってトイレを借りたもんだから、トイレ代で無駄に買い物しちゃったし。
それでコンビニ袋を提げて歩いていたら、飲み屋の裏口が連なっている細い路地から、騒ぎ声が聞こえてきた。
「んあ、なんだ?」
妙なことに巻き込まれたくはないが、一応状況を確認しておこうとそちらをチラッと見ると、数人の男らがバタバタとその路地から駆けてくる。
「ちくしょう、覚えとけよ~!」
彼らの一人がまるでマンガのような捨て台詞を残して去ったその路地に、見れば誰かが倒れている。ケンカでもしていたのだろう。けど言ってしまえば、こうした界隈でケンカなんて珍しくもないだろう。酒が入ると、気がデカくなるしな。
けど万が一、その誰かがおおごとの怪我をしていたら、あからさまに状況に気付いた僕のことがどこかの店の監視カメラにでも映っていれば、後で警察やらが来るかもしれない。そんな面倒臭い事態を考えてしまった僕は、その路地へ足を向けた。
「おぉ~い、そこの人……」
倒れている奴に声をかけたところで、僕は気付いてしまった。コイツ、知り合いだよ。
高校でクラスメイトだった男で、名前は――そうだ、香坂だった。
その香坂は学校でも有名な不良男子で、モブな僕とは生きる世界が違う奴だ。短い明るい茶髪に睨むような鋭い目つきがイケメンで、たくましい身体つきながらも意外に色白な肌なのが色っぽいとかで、不良なのに学校でも人気があった。雰囲気的に、きっとαなんだろうって言われてたっけな。本人が公言していなかったから、実際は知らないけれど。
今のご時世、バース性なんて言いふらすもんじゃあないし、学校側も余程のことがない限りは秘匿してくれる。特にαとΩはね、知られてもいいことなんてない。堂々と公言できるのはβくらいでしょ。
それでも皆雰囲気で、αとかΩとかを判断するわけだけれど、その推測が当たるのは、あからさまにαとかΩの特性持ちな奴相手な場合。優秀なカリスマ持ちならαだろう、華奢で庇護欲を掻き立てられるならばΩだろうと、そういう程度の考えしかない。
それで香坂の場合、不良連中のカリスマで、絶対にαだって言われていた。同じαでも僕がモブなら、香坂はきっと主役。そんな格差を思い知らされるもんだから、僕はこの香坂が苦手っていうか、嫌いだ。どうせ僕はモブαだ、画面のすみっこで見切れる程度の存在感だよ! それになんでか、香坂の方も僕が視界に入るとすげぇ睨んでくるし。きっと生理的に嫌いなタイプなんだろう。それもお互い様だ。
そんなコンプレックスを刺激される主役α様が、飲み屋の裏口で倒れている。バーテンの制服を着ているから、バイト中なのかもしれない。僕が因縁の相手を前にして、心の奥で「無視して通り過ぎればよかった」と思ってしまうのは、仕方ないことだろう? それでもこのまま放置でサヨナラもどうかと思って、声をかける。
「なぁ、救急車呼ぶか?」
これに、香坂がダルそうに顔を上げてから、
「げっ」
急にすげぇイヤ面してくるじゃん?
マンガやドラマとかで主役になるような才能と魅力あふれるα様ではなくて、その周囲にチラッと見切れるかもしれない、主役の部下Aとか、そのへんの立ち位置。けど、それはいいんだ。主役級αなんていう波乱万丈人生なんてこちらから願い下げだし、平々凡々な生活が一番だ。モブ人生のなにが悪いんだ?
そこそこの学力をキープしてそこそこの大学に入ってそこそこの人間関係を作っていくのが、正しいモブの生き方だろう。
そんな俺は、ある日大学サークルの飲み会帰りのこと。
二次会に行くぞと賑やかな連中と別れて、僕は一人帰宅しているところだった。あまり酒が強いわけじゃあないから、最初の乾杯ビールだけ付き合った後はひたすら烏龍茶を飲んだから、水分で身体が冷えて仕方ない。夏が終わって風が冷えてきている季節なんで、なおさら寒い。おかげでトイレが近くなり、コンビニに寄ってトイレを借りたもんだから、トイレ代で無駄に買い物しちゃったし。
それでコンビニ袋を提げて歩いていたら、飲み屋の裏口が連なっている細い路地から、騒ぎ声が聞こえてきた。
「んあ、なんだ?」
妙なことに巻き込まれたくはないが、一応状況を確認しておこうとそちらをチラッと見ると、数人の男らがバタバタとその路地から駆けてくる。
「ちくしょう、覚えとけよ~!」
彼らの一人がまるでマンガのような捨て台詞を残して去ったその路地に、見れば誰かが倒れている。ケンカでもしていたのだろう。けど言ってしまえば、こうした界隈でケンカなんて珍しくもないだろう。酒が入ると、気がデカくなるしな。
けど万が一、その誰かがおおごとの怪我をしていたら、あからさまに状況に気付いた僕のことがどこかの店の監視カメラにでも映っていれば、後で警察やらが来るかもしれない。そんな面倒臭い事態を考えてしまった僕は、その路地へ足を向けた。
「おぉ~い、そこの人……」
倒れている奴に声をかけたところで、僕は気付いてしまった。コイツ、知り合いだよ。
高校でクラスメイトだった男で、名前は――そうだ、香坂だった。
その香坂は学校でも有名な不良男子で、モブな僕とは生きる世界が違う奴だ。短い明るい茶髪に睨むような鋭い目つきがイケメンで、たくましい身体つきながらも意外に色白な肌なのが色っぽいとかで、不良なのに学校でも人気があった。雰囲気的に、きっとαなんだろうって言われてたっけな。本人が公言していなかったから、実際は知らないけれど。
今のご時世、バース性なんて言いふらすもんじゃあないし、学校側も余程のことがない限りは秘匿してくれる。特にαとΩはね、知られてもいいことなんてない。堂々と公言できるのはβくらいでしょ。
それでも皆雰囲気で、αとかΩとかを判断するわけだけれど、その推測が当たるのは、あからさまにαとかΩの特性持ちな奴相手な場合。優秀なカリスマ持ちならαだろう、華奢で庇護欲を掻き立てられるならばΩだろうと、そういう程度の考えしかない。
それで香坂の場合、不良連中のカリスマで、絶対にαだって言われていた。同じαでも僕がモブなら、香坂はきっと主役。そんな格差を思い知らされるもんだから、僕はこの香坂が苦手っていうか、嫌いだ。どうせ僕はモブαだ、画面のすみっこで見切れる程度の存在感だよ! それになんでか、香坂の方も僕が視界に入るとすげぇ睨んでくるし。きっと生理的に嫌いなタイプなんだろう。それもお互い様だ。
そんなコンプレックスを刺激される主役α様が、飲み屋の裏口で倒れている。バーテンの制服を着ているから、バイト中なのかもしれない。僕が因縁の相手を前にして、心の奥で「無視して通り過ぎればよかった」と思ってしまうのは、仕方ないことだろう? それでもこのまま放置でサヨナラもどうかと思って、声をかける。
「なぁ、救急車呼ぶか?」
これに、香坂がダルそうに顔を上げてから、
「げっ」
急にすげぇイヤ面してくるじゃん?
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