ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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六話

★脱走

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「良い体だな」
「どうも…」

 情報屋はじっとこちらを観察していたがおもむろにiPadに手を伸ばす。嫌な予感がして即座に指摘した。

「おい、撮るのは無しだぞ」
「情報提供に拒否権は…」
「肖像権の侵害だ」
「…」

 にらみ合ってると情報屋はため息をついた。諦めてくれたのかiPadから手が離れていく。

「…。では記憶するに留める」
「何記憶するってんだよ。男の体なんてつまらねーもんみて…」
「ホクロの数と位置を確認する」
「なっ?!」

 何言ってんだお前。そう言いかけてなんとか堪える。いや堪えなくてよかったかもしれないが。戸惑いつつ情報屋に尋ねた。

「ホクロ…の情報なんているか…?」
「ああ。有益だ。何よりあんたの肉体の情報は生でないと調べられない」
「そりゃそうだが…」

 だとしてもホクロの情報は需要ないと思うが。筋肉とか傷の位置とかそう言うのを求められた方がまだ納得がいく。俺がドン引きしている事も気にせず情報屋は前後左右に回り込みながら俺の体を観察していった。

 すっ

 ふと腰に手を置かれびくりと体がはねる。緊張してたのもあって余計強く反応してしまった。

「下も脱げ」
「なんっでだよ!?もういいだろ!」
「安心しろ。監視カメラは切ってある」
「そういう問題じゃ!!」
「あんたに拒否権は」
「あーもう!!うるせえな!パンツは脱がねえからな!!」

 ここまでくればやけくそだ。好きなだけ見ろよとズボンも脱いだ。情報屋は俺の足を眺めながら必死にホクロを探してる。変人だとは思ったがまさかここまでとは。顔だけ見れば好青年なのにもったいない。しばらくじっとしてると情報屋が離れていった。満足げにiPadにメモしている。

「…終わったのか?」
「ああ」
「はあ…生きた心地がしなかったぜ…」
「別に取って食ったりはしない」
「ほんとかよ」

 やれやれと首を振りながら服を着ていく。すると上を着ている途中で腹に手が置かれた。

 ぴと

 冷え性なのかひんやりとした手の感触が広がる。あまりの冷たさに飛び上がった。

「ひっ?!」
「仕事とは関係ない話になるが」

 腹に置いた手を上に移動させながら囁いてくる。

「俺はホクロフェチだ」
「は?!つまり今のって…あんたの個人的需要ってことか?!」
「悪いか?」

 キョトンとされてしまい、反論する気が削がれる。情報屋が小さく笑った。

「国枝雷。一目みた時からあんたのうなじのホクロに目が奪われていた」
「…言われたくない口説き文句第一位を飾れそうなお言葉をどうも」
「不服そうだな」
「そりゃそ…うひっ!?」

 うなじを指先で撫でられた。多分ホクロがあるところなのだろう。しかし俺は指先の冷たさにゾクリと寒気がした。

「いっ…っ…待て待て…!!」

 情報屋の腕を掴み引き剥がした。これ以上は戻れなくなる。

「嫌か?」
「嫌じゃないわけなくないか?!」
「そうか」

 俺に拒否された情報屋は涼しい顔のまま体を引いた。思っていたよりあっさりと引いてくれて拍子抜けする。

「あんたとは今後もやり取りをする事になりそうだからな。長期戦でいく」
「勘弁してくれ…」

 俺のげんなり顔に笑みで応える。そして服を整えた情報屋は立ち上がった。

「ではそろそろ次の場所にいく。また何かあれば電話してくれ」
「あ…ああ…その、協力してくれてありがとな」
「問題ない。いや…問題は既に起きていたから気にするなという方がいいか」
「?」
「今回の狩猟依頼を出した依頼者と連絡が取れなくてな。ちょうど狼憑きやその近辺を洗っていたとこだった」
「まじか。金とかは払われんの?」
「先払いで受け取っているが…狩猟が失敗した場合返金することになる。何より問題なのは依頼の信用度が下がることだ。この依頼をどこまで信用していいのか…怪しくなってきた」
「やっぱりソルを犯人にさせようとしてる奴がいるってことか」
「一概には言えないが可能性は十分にある」
「…そっか。その言葉で確信になったわ。あんたに頼みがある」



 情報屋に交渉した後、俺は漫画喫茶から脱出した。一時間程度の滞在だったがとても長く感じた。外の空気を思いっきり吸っていると

 ブーブー

 スマホが鳴った。グレイから着信だ。

「もしもし」
 <ライ大変ヨ!ソルジが脱走したワ!!>
「なんだって?!」
 <地下の扉が蹴破られてて、もぬけの殻ナノ!ああもう!あの子ったら何してんのヨ~~!脱出したのを見られたら問答無用で射殺されちゃうわ…!>
「落ち着けって。ちょっと外に出たかっただけじゃないか?」
 <出たいって何の為ヨ!まさか幻獣狩りにでもいったってワケ??>

 ソルは幻獣を毛嫌いしているし殺す動機としてはなくはない。しかも地下に閉じ込めてから事件は起きなくなった。そしてこの脱出。明らかに怪しい。怪しい、と判断する状況証拠が多い。

「でも…」

 ふとソルの言葉を思い出した。

『全然眠れねえ上に寝てても変に警戒心が強いのは狼になってたわけか…』

 あの言葉が正しければ「強い警戒心を抱いてる」と感じられる程度には意識が残ってるのだ。
 (狼男になった時に…潜在意識としてソルがいるはず)
 それなら完全な別人になってるわけじゃない。未知の化け物になってるわけじゃないんだ。

「ソルが言ってた。狼男になってもうっすら感覚があるって。だからソルは…狼男になっても悪い事はしない。いや、しないと俺は信じてる」
 <ライ……>

 静かになった。深呼吸する声が聞こえてくる。

 <そうね…ライの言う通りだワ。あたし達があの子の良心を信じずに誰が信じるって言うノ>
「落ち着いたみたいだな」
 <ええ。取り乱してごめんなさい。あたし達で何としてでも見つけまショ。ライ、今はどこにいるの?>
「歓楽街の入口付近だ。こっち側は俺が探すから店の周辺と反対側を探してくれ」
 <わかったワ>

 通話を切る。
 
『眠れねえと体と共に精神も削れてきやがる』
『一生の願いっつってもダメなのか?」』

 今日のソルはやけに思い詰めた様子だった。睡眠不足と精神の疲労で限界だったとはいえ、ソルは必死にSOSを出してくれていた。
 (なのに俺は…聞く耳を持たなかった)
 もしも俺があの時真面目に受け止めていればソルは脱出しなかったかもしれない。なんとしてでも見つけなければと決意して走り出した。


 ***


「はあ、はあ…」

 一時間ほど歓楽街を走りまわると、空が夕日色に染まってきた。やばい。時間は過ぎていくのに手がかり一つ掴めてなかった。

「どこ行ったんだよっ…ソルのやつっ」

 軽く聞き込みもしてみたがソルらしき情報は得られなかった。情報屋にも電話をかけてみたが…繋がらない。立て込んでいるらしい。

「待てよ…」

 ふと思いつく。あの場所にいやしないかと嫌な予感がした。
 (正気のソルなら近づかねえと思って確認してなかったがまさか…)
 路地を突き進む。数分もせずに目的地にたどり着いた。そこはピクシーが殺された袋小路だった。

「やっぱり…」

 ボーッと焦点の合ってない様子のソルがいた。尻尾も耳もまだ生えてない。人間の状態だが、夢遊病のようにフラフラと体が揺れている。

「おい!ソル!猟師に見つかる前に今すぐ戻るぞ!!」
「ウウウ…ウッ」
「ソル…聞いてるのか?」

 ゾゾゾゾッ

 ソルの体から尻尾と耳が生えてくる。鋭い光を宿した銀色の瞳と正面から向き合い、そのあまりにも強い眼光に気圧された俺は無意識に後退った。
 (なんだ…?)
 目の前の狼男は今までとは全く違う空気を纏っていた。刺々しい程の殺気と警戒心、そして強い怒りを感じた。今までの手当たり次第に襲い掛かる獣とは別物だ。確かな意思を感じる。

 アオオオオーーン!!

 狼男が遠吠えをした。喉を引き裂くかのような悲痛な声に息が詰まる。
 (どうしてこんなに辛そうなんだ…)

「まさかあんた…狼、なのか…?」

 ウウウウッ

 狼男は牙をむいて唸ってきた。言葉が通じるわけない。そんなのわかってる。でも今俺にできる事は目の前の存在に正面から向き合う事だけ。逃げる為に背中をむければまず間違いなく噛み殺されるだろう。

「聞いたんだよ、狼憑きのこと。酷いよな。突然巻き込まれたと思えば、ソルの体から出られなくて、取り憑いて体を乗っ取る事しかできないなんて…許せないよな、悔しいよな。あんたが怒るのも当然だ」

 グウアアウウッ!

 狼男は今にも飛びかかってきそうな形相で吠えてくる。その恐ろしい姿を見て恐怖にのまれそうになった。

 ぐぐっ

 でもダメだ。ここで逃げたらチャンスはない。両腕を広げて敵意はないと伝えた。

「狼、聞いてくれ。あんたが今憑いてる体の持ち主…ソルって名前なんだが。そいつも巻き込まれた側なんだ。口は悪いし幻獣を毛嫌いしてるし乱暴なやつだけど…あんたに全部奪われて殺されなきゃいけない程…悪い奴じゃないんだよ」

 グルルルルッ!

「頼む、今だけでいい…ソルを返してくれ!」

 ウオオオーーン!

 狼男は大きく体を震わせたと思えば空を仰いで一声吠えた。先程より更に切ない声だった。狼の悔しさが滲みでているようで、俺は胸が苦しくなった。

「う、あ…?」

 数秒の間を置いて銀色の瞳が柔らかくなった。銀色の狼は少しずつ姿を変え…やがて人の形へと戻っていく。
 (ソルに戻ったのか??)
 最後の情け、と譲ってくれたのかもしれない。俺は狼に感謝しつつソルに駆け寄った。

「ソル!ソルなんだな!大丈夫か!」
「ん、くそっ…頭、いてえ…つか、なんでオレ…外にいるんだ…?!」
「狼になって抜け出しちまったみたいでさ、呼び戻しにきたんだ」
「…ああ、そういうことかよ…」
「とにかく戻らねえと。行くぞ、ソル!」

 腕を引くが、ソルの両足は地面に縫いつけられてるみたいに動かなかった。

「ソル??」
「オレは…ここにいる」
「なっ、はあ??!猟師に見つかったら殺されるぞ!」
「わかってるっつの!ウゼエな!!こちとら…もう限界なんだよ。体は鉛みてえに重いし、眠気もひでえ。気分も最悪だ。どうせこの後すぐに狼男になっちまうんだろ。なら、イカれて人間じゃなくなるより…人間のまま殺された方がマシだ」
「何言って…馬鹿言うなよ!」
「うるせえ!余計な同情すんな!!お人好しは黙ってろ!!」

 胸ぐらをつかまれ路地の壁に押しやられた。

「くっ…!はなせ!」

 手首をどけようとするが強い力に阻まれる。怒りで再び狼男になりかけているらしい。
 (くそっ、こんな事してる時間なんてないのに…!)
 ここは猟師が張ってるポイントの一つだ。いつ猟師が現れてもおかしくない。今すぐ離れなければいけないのに。

「それともなんだ?てめえがオレを殺してくれんのか?アア??!」
「なっ…ソルを殺せるわけねえだろ!なあ、自分に幻獣が宿ってるのがそんなに許せねえのか?どうしてそこまで幻獣を毛嫌いするんだよ」

 ソルはグレイという幻獣を知ってる。どう思ってるかは知らないがセフレとして関係を持つぐらいなのだ。前向きな感情がゼロだったとは思えない。

「幻獣にも良い奴はいるって知ってるんじゃないのか」
「うるせえよ…」

 ソルは低く唸るように呟く。

「…オレの親父は化物に殺された。母親もヤんで自殺した。全部化物が壊したんだ。何の理由もなく、突然奪われた」
「!!」
「せめて捕まえてやろうと化物の話をすりゃイカレ野郎として見られる始末。誰にも言えねえ、信じてくれねえ。化物は逃げてお咎めなし。これで化物共に怒りを向けずにどこに向けろってんだよ?!」

 どうしてソルが幻獣を憎むのか。そして、どうしてグレイがただの人間のソルに近づいたのかやっと納得がいった。幻獣によって人生を歪められた人間。それはきっとグレイには放っておけない存在に見えたのだろう。俺が何も言えずにいると

「チッ、同情するぐらいなら殺せ。人間のてめえに殺されるなら本望だぜ…?」

 ソルの首に両手を誘われる。絞めろというように力を込められ俺は慌てて振り払った。

「やめろって!」
「なんで拒否んだよ。オレが化物になってもいいのか?こんなに苦しんでんのに助けてくれねえのかよ??友人とかほざいてたのはどこのどいつだッッ!!」
「ソル!」

 ぐいっ

 目の前の体に腕を回した。ぎゅっと腕の力を強めて抱きしめれば、驚く程静かになる。

「今の俺には…あんたにかけられる言葉が思いつかねえ。でも、これだけは言わせてくれ。俺はあんたとゲームがしたい。下手くそだって言われながらイーペックスしたいんだ」
「…!」
「勝手に諦めないでくれ。物分かりが良すぎるあんたなんてらしくねえよ」
「……」

 激しく上下していた肩がゆるやかに静止した。荒くなっていた息も、怒りで高ぶっていた体もゆっくりと落ち着きを取り戻す。

 スリッ…

 そして俺の肩に顔を埋めてきた。匂いを嗅ぐように深呼吸した後、ソルはふさふさと尻尾を揺らした。

「チッ……セックス嫌がる癖に…んな殺し文句言いやがってひどい奴だぜ」

 肩に顔を擦り付けながら不満げに呟いてくる。

「…いや、セックスは今関係ねえだろ」
「大アリだっつの。知らねえのか。生物は死に追いやられた時一番性欲が高まるんだ」
「はあ?!」
「今だってすげえ興奮してるんだからな」

 ガブっ

 服の上から肩を噛んでくる。甘噛みだが最近噛まれてばかりなので体が反射で強張るのを感じた。

「いっ、やめろ…!」

 身を捩って逃げようとするが今度はソルの方が両腕を体に巻き付けてきて動けなくなった。背中は壁に追いやられて逃げ場がない。

「おい!ソル…!!」
「いいか。クソうぜえお人好しのてめえに選ばせてやる。オレとやるか、オレを殺すか…二択だ。今すぐ選べ」
「は…?!なんでだよっ!どっちも断るって言っただろ!」
「なら選びたくなるようにしてやる」

 顎を掴まれ唇に噛みつかれる。ガチッと歯があたった。痛みに呻くと同時に無理矢理舌が入ってくる。

「んうっ…!ふっ、ンンッ!うーっ!!」

 肩を叩くがびくともしない。呼吸も許さないような激しさに、俺は溺れるように暴れた。

「んっ…!!んんーっ!!んぐっ、げほっけほっ…ッ…、やめっ…ろって!!」

 ドスッ

 呼吸の合間、隙をみてソルの脛を思いっきり蹴りつけた。人間なら蹲ってしまうほど痛いはず。

「ってえな。躾のなってねえ足だぜ」
「うわっ!」

 しかし狼の頑丈な毛と筋肉で守られていたソルはケロリとしていた。そのまま腰を持ち上げられ肩に担がれてしまう。

「おい!?ソル!正気に戻れ!おいっ……うっ!」
「正気だぜ。まだ、な」

 袋小路の中心につれてかれ突然地面に落とされた。うつ伏せに転がされたと思えば、ソルが覆い被さってくる。腰に乗られて身動きがとれない。

「やっぱりいい匂いするんだよなあ…てめえは…」

 うなじに顔を寄せて匂いを嗅いでくる。それを睨みつけようとして振り返ると、夕日色だったはずの空が夜空に変わっていた。満月がソルを怪しく照らす。

 グルルルゥッ

 まるで満月の光に反応するようにソルの体が一回り大きくなる。体が膨れあがるのと同時に興奮も振りきれたのか俺の背中を引っ掻いてきた。容赦なく服を貫通した爪が肌を切りつけていく。

「ソル!痛い、いてえって!聞いてん、うっ…ンンッ?!んー!!」

 うるさいというように口を塞がれる。無理矢理後ろを向かされ体勢的にも苦しい。息ができないし血の味もして最悪だった。

「んうっ…ううっ…はアッ、んっ、やめろ!んっおい!」

 口に飽きると今度は体の隅々に吸い付いてくる。強めに吸われた場所はくっきりと痕が残っていて、どんどん俺の体か赤く染まっていく。

「ああっ…なに、す、んんっ、だ!」

 抗議するように睨みつければ、見下ろしてくるソルと目が合った。ドキリと心臓が鳴る。

「はは、イイ眺め」
「ソル…!!」
「あーダメだな。興奮しすぎて…もう保たねえわ」
「うっ、はあっ、はっ!このっ…!!」
「腹くくって決めねえと…てめえが食い殺されるぜ、ライ」
「馬鹿言う、なっ…!!選べるわけっ」

 ビリビリっ

 ソルの服が破れ体が更に大きくなる。完全な狼男になったのか、ソルは涎を垂らして唸るだけになった。もう言葉が通じない状態なのだ。

「ソル…っ、まっ」

 ぐぐっ

 興奮しきった様子で狼男が後ろにあてがってくる。固くなったそれは早くいれたいと叫んでいた。

「待てっ、それ…!!ぐっ、アアッ…!!」

 慣らしてもないのに受け入れられるわけがない。しかも奴のは体と同じように巨大化していて人間より一回りも二回りも大きい。仮に慣らした状態でも受け入れられるものではないだろう。その圧倒的質量にぶわっと冷や汗が浮かぶ。

 ぐちちっ

「イッ…、っ…!!」

 あまりの痛みに声もでない。絶対切れてる。なのに狼男は更に奥へ進もうとしていた。

「や、めっ…んぐっ…むり、だっ、て…ああぁ!!」

 出血した事で滑りがよくなったらしい。ねじ込むように先端が入ってくる。
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