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二話
おかえり
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「は!ハアッ、ハアッ…!」
飛び上がるように起き上がった。周りを確認するとグレイの店だった。スナックの営業時間前なのか掃除道具がなくなっている。
(今の夢、不気味な夢だったな…)
ぼんやりとだが不気味さは脳内に残っている。忘れようと頭を振った。
『たすけて』
「!」
ふと、助けを求める声がどこからともなく響いてくる。俺ははじかれるようにベッドから出た。
「今の声…!」
フィンを木箱から救いだした時の声と同じだった。フィンにしては声が幼すぎるし別人だったが、あの時と同じであれば声の先にフィンがいる可能性が高い。
(待て待て…フィンは死んだんだよ…声が聞こえるわけがない)
この目で灰になるのを見た。流石にパーティーの出来事全てが夢とは思えない。前後の出来事に継ぎ目がなさすぎるし何より体中の火傷(軽めだけど)が物語っている。寝ていただけならこの傷の説明がつかない。
(てか俺…あんなすごい火事の中にいたのにほとんど軽傷ですんでる)
どんな奇跡が起きたんだろうか。
『たすけて』
「!!」
やはり幻聴じゃない。何度も聞こえてくる。恐る恐る店の裏口から外に出た。もう夕方で空も薄暗い。裏口から横に進むと、地面に取っ手がある部分があった。
「確かここ、普段はお酒や備品を入れとく地下倉庫だって言ってたっけ」
入る用事もないので一度も踏み入った事はないが。
「入るなとも言われてないし…な」
ガコッ
取っ手を引っ張れば、何かの外れる音とともに地下への入り口が開かれた。
(入って何もなければすぐに出よう)
階段を進み下に進む。土のすえた匂いがする。壁側にボタンがあったので押してみる。ライトがついた。
「!」
地下倉庫は控え室ぐらいの広さがあった。しかし物はほとんど置かれていない。中心に箱が置かれてあるだけだった。その箱は無機質な素材でかなり丈夫そうだ。大きさは1m四方。
(この箱…あの時フィンが入ってた木箱と同じ大きさだ)
まさかフィンがここで眠ってる…わけないよな。わざわざ灰をこんな大きい箱にいれるとは思えない。一体何が入っているのか。
ごくり
緊張で喉が張り付く。俺は箱に手を置き、深呼吸の後ゆっくりと押した。中身を見たらすぐ閉じよう。少しだけ、少しだけ見て帰ろう。箱が重たい音をたてて開く。
「!!」
箱の底で小さな火が燻っていた。焦げて黒くなった羽が底に敷き詰められてる。
「羽…?」
吸い寄せられるように羽に手を伸ばすと火が大きくなった。俺を飲み込もうとする。
「うわ!!」
とっさに手を引っ込める。火は箱いっぱいに広がり俺の前で大きく揺れ動いた。
ボオオオオ!
「おっ、おい!あっつ!」
火は地下倉庫の天井にまで届くほど大きくなった。階段まで逃げたところで、燃え盛る火の中に何かがいること気づく。
「……?」
目を凝らす。熱風のせいで目がしみて涙がでた。涙を拭いて再度見れば、炎が消え…そこには、裸の男が立っているのが見えた。白金の髪にオレンジの瞳。美しく立派な体。
「!」
「…ただいま、ライ」
にこりと微笑むその姿は、フィン以外の何者でもなかった。
***
「んもう、店の裏でボヤ騒ぎかと思ったらあんたたちだったのね!燃えるなとは言わないけど、少しは燃えす場所を考えてチョーダイ!倉庫の中身外に出してなかったら店ごと消し飛んでたわよー!ンモー!」
プンプンと説教モードのグレイ。俺は地下倉庫で裸のフィンと再会したあと、駆けつけたグレイによって30分ほど説教されていた。フィンは頭を下げたまま顔をあげない。
「申し訳ない…」
「そもそもフィン、あんた死んで灰になったってヴォルドちゃんから聞いてたけど?なんで生きてるのよ??」
グレイがズバリ聞いた。ちなみにフィンはまた服を貸してもらい「裸の男」から「ださTシャツ男」へと人権を取り戻している。いや…取り戻せてるのだろうかこれは…。
「それは、その…まずは謝らせてほしい。最初の自己紹介で私は炎の幻獣と言ったが、それは間違いだ。私は不死鳥と呼ばれる存在で、不死という名の通り、私はどんなことをしても死ぬことはない…化け物なんだ」
「ええっ」
「死なないですって…」
さすがのグレイも目を丸くしている。不死と言われて驚かない者はいないだろう。この地球にそんな存在がいるなんて思えない…思えないが、実際に俺は目の前でフィンが死ぬのをみた。
(灰になったのにまたこうして会話できてるなんて)
信じられないが現実として起きている。
「パーティーで私は…龍矢に刺されて死んだ。だが、灰からまた復活した。死ぬ前の記憶を鮮明に留められているのは復活させたのがライだからだろう」
「??」
死ぬ前の記憶に俺が関係してるのか?よくわからなかったがグレイは納得したらしく頷いていた。
「なるほど、不死鳥ネエ…。まさかとは思ったけど本当にお目にかかる日が来るなんて…」
「二人に正体を隠していたのは申し訳ない。信じてもらえないと思ってあの時は嘘をついてしまった…」
「当然ダワ。不死っぽい能力は大して珍しくないけど本物は格が違うわ。そんな力があったら命がいくらあっても足りない。不死身の存在の多くは神格化され崇められるものよ。運が悪ければ実験され粉微塵に。仮に隠せたとしてもどこにいたって浮いてしまうワ。あんた、大変な人生だったでしょうに」
「…」
グレイの言葉にフィンは表情を暗くした。そのまま黙り込む。それを見たグレイが咳払いをして説教モードを解いた。
「こほん。とりあえず無事でよかったワ。後片付けに行ったついでに思い付きで灰と散らばってた羽を回収しておいてよかった」
「本当にありがとう、グレイ。もしもあいつらに回収されていたら…また地獄の日々が来るところだった。この恩はいつか返させてくれ」
「はいはい、期待しておくワ」
どうやらパーティーの後始末にグレイが一役かってでてくれたらしい。一般人も多かったしグレイの霧がなければ今頃トップニュースになっていただろう。フィンもグレイも改めてすごい能力を持っているなと思った。
「おいおい、営業時間なのに店に誰もいねえじゃねえか」
「「!」」
店の方からヴォルドが顔を出した。途端に部屋が暑苦しくなった気がする。ヴォルドが俺に気づいてよっと手をあげた。
「お、ライも気がついたか。まったく、ベランダで見つけたときは死んじまったかと思ったぜ、ハッハ!」
「…」
「ふふ。巨人ちゃん達、いらっしゃい~あなたたちすごいワネ~!パーティーで大活躍だったみたいね?救助したり、瓦礫を解体したり、運んだり…こういったらあれだけど怪我の功名よね。良い宣伝ができたんじゃない?」
「ああ!おかげさまで依頼は想定の十倍以上もらえたぜ」
ヴォルドは腕を組み誇らしげだ。そうか、あの火事の後巨人たちが駆けつけて救助に回ってくれたのか。彼らならちょっとした火ぐらいはねのけてしまいそうだ。
(もしかして俺が重い火傷をおわずに帰ってこられたのって巨人族の仕立てた服※ドレスのおかげだったりするのか?!)
まさかあの服が俺を救ってくれるとは思わず、送迎車のなかで文句を言っていた自分に反省するのだった。見た目はどうあれ巨人たちとそのドレスは命の恩人だ。
「ヴォルド…ありがとな、助けてくれたんだな」
「おお?急に素直になられると調子が狂うぜ。まあお前らも大変そうなのは現場見てわかったし気にすんな」
ヴォルドなりに何かを察してくれてるのか茶化してこなかった。そのままヴォルドは腕組みをして続けた。
「しかしパーティー会場は全焼、大火傷をおった者もいた。死者はいなかったみたいがしばらくあの規模のパーティーは開催されないだろう。しばらくは今回繋いだところと取引することにかりそうだ」
「そうなるわヨネ~」
死者はいない。ヴォルドの言葉に俺はひそかに胸を撫で下ろした。
(よかった…誰も被害者がいなくて…)
故意ではないとはいえ、俺たちがいなければあれ程の酷い火事にはならなかったはずだ。少なからず責任を感じてしまう。それはフィンも同じらしく表情が固い。
「てなわけでパーティーにおけるライの活躍はゼロ。約束していた報酬はなし…と言いたいとこだが、結果的に商談は成功したしな。すこーし分けてやるぜ。俺の愛に感謝しろ」
「愛ならいらね…うぐっ」
グレイにチョップされた。報酬を受け取れと睨まれる。ヴォルドの方へ向き直った。
「アリガタクイタダキマス」
「やけに棒読みな感謝だなあ、俺のハグの方が嬉しかったか?ハッハ!」
「それはもっといらねえ」
ほらよとヴォルドの大きな手から宝石を渡される。まさかの現物支給。宝石なんて日頃関わりがないのでこれがどれくらいの価値なのかパッと見はわからなかった。とりあえずグレイにそのまま渡す。
「あら、全部いいの?」
「ああ。足りるかわかんねえけど、少しでもテーブルとか備品に使ってくれ」
特に今欲しいものはないしグレイには世話になってばかりだ。グレイは少し悩んだあと小さな琥珀色の石を俺に戻した。
「これはあなたのものにしておきなサイ。労働には対価がないと、違法になっちゃうわ」
「幻獣の世界に憲法なんてあるのか」
「一応、暗黙の了解、てな感じであるわよ」
「へえ」
巨人や不死鳥…魔法のようなとんでもワールドだが一応ルールがあるのかと一つ学んだ。ふと、隣のフィンと目があった。俺は反射的に目をそらしてしまう。フィンがなにか言いたそうにしていたがグレイの言葉でかき消された。
「さて!お客さんも来ちゃったしあたしは戻るわ~!!ライ、あんたも疲れてると思うけど、暇なぐらいなら手伝いなさい。あっフィンはこの買い出しよろしくネ」
「わかった…」
「すぐに行ってくる」
俺とフィンの間になんとなく気まずさが残っていたがそれは後回しになった。今はまず目の前の事をこなそう
***
その夜、いや明け方。俺とフィンは仕事を終えて控え室に戻った。グレイはこの後もまだ仕事があるので俺たちが先に寝るのが流れになっている。
「…」
「…」
二人して黙っていたが同じ部屋にいて無視するわけにもいかない。寝る前に少し話しておきたいと思っていたし自分から声をかけることにした。
「えっと、フィン。遅くなったけど…おかえり」
「!!」
俺の言葉にフィンが安心したような顔をする。距離を保ちつつフィンは膝をついた。
「よかった。怖がられてもう二度と話しかけてくれないのかと」
「怖くねえ、って言ったら嘘になるけど話せない程じゃない。そもそも仕事中はちょこちょこ話してただろ」
「仕事上の会話と今のこの時間は違う」
「まあそうか…。でも炎は怖えから、しばらく出すのは控えてくれ」
何もかもを燃やし尽くすあの炎は俺にとって忘れることができないものになった。何より目の前でフィンが生き絶える姿を見てしまったのはなかなかのトラウマである。
(不死身だとしても…あんなの二度とみたくない)
フィンは俺の言葉に深く頷いた。
「もちろん。なるべくライに見せないようにする。私の能力は…人間にとっては恐ろしいものだ。ライが嫌悪するのも当然だよ」
「嫌悪…説明がむずいけど…フィンもあの炎も怖えよ。俺みたいなただの人間じゃどう足掻いたって太刀打ちできねえ。今だってなんで俺が生き残ってるのか不思議なぐらいだ」
「…」
火の海を前にした無力感。絶望。それは簡単に説明できるものではない。今突然フィンから人殺しの炎が溢れてきたらどうする?人間の俺には逃げることすらかなわないだろう。あの炎は人間にとって絶対的な恐怖の対象だ。
「本当に、その通りだ」
フィンが表情を曇らせる。俺はそのまま続けた。
「でも…その炎に何度も助けられたのも事実なんだ」
怖いが感謝もしている。普段フィンが意図的に出す炎は人を焼かない。きっとそうするには…フィンにとってかなりの苦労があるはずで。
何もかも燃やした方がよっぽど楽なのに、フィンはそうしない。人間や他の存在を守るために努力して炎を操作している。
(その努力は他者を想っている証拠だ)
どんなに炎が怖くても、フィンの優しさは信じたい。
「炎の恐ろしさも、優しさも…俺はどっちもフィンだと思ってる、つもりだ」
「……!…ありがとう」
「すぐには無理かもしれねえけど、明日からはなるべく…普通に接してくれな。俺もそうするから」
「ああ、わかった!ライは強いな…」
フィンは小さく呟いた。最後の方はほとんど聞こえないぐらいの音量だった。
「もう寝ようぜ。俺ら一週間ぐらい勤務放棄してたみたいだし、明日は早起きして働いて返さないと」
「そうだな」
くすっと笑い、フィンはソファに移動した。俺がベッドでフィンはソファ。これが定位置なのだが、毎回申し訳なくなる配置でもある。
「あのさ、これやっぱり日替わりで場所交換…」
「だめだ。ライにはしっかり寝てもらわないといけない」
「それはフィンもだろ。俺だってそっちでも寝れる。というか体の大きさ的に俺がソファの方が良いって。フィン、足はみ出てんじゃん」
「平気だ。もっとひどい環境でずっと過ごしていた。それに比べたらここは天国のようだよ」
「…」
過去を引き合いにだされると深入りできずそれ以上言えなくなる。ちょっとずるいと思う。俺がふてくされてるとフィンが茶化すように言ってきた。
「では、ベッドで一緒に寝るのはどうだ?」
「っ…えっ?」
一瞬時が止まったかと思った。しばしフィンと見つめ合う。
飛び上がるように起き上がった。周りを確認するとグレイの店だった。スナックの営業時間前なのか掃除道具がなくなっている。
(今の夢、不気味な夢だったな…)
ぼんやりとだが不気味さは脳内に残っている。忘れようと頭を振った。
『たすけて』
「!」
ふと、助けを求める声がどこからともなく響いてくる。俺ははじかれるようにベッドから出た。
「今の声…!」
フィンを木箱から救いだした時の声と同じだった。フィンにしては声が幼すぎるし別人だったが、あの時と同じであれば声の先にフィンがいる可能性が高い。
(待て待て…フィンは死んだんだよ…声が聞こえるわけがない)
この目で灰になるのを見た。流石にパーティーの出来事全てが夢とは思えない。前後の出来事に継ぎ目がなさすぎるし何より体中の火傷(軽めだけど)が物語っている。寝ていただけならこの傷の説明がつかない。
(てか俺…あんなすごい火事の中にいたのにほとんど軽傷ですんでる)
どんな奇跡が起きたんだろうか。
『たすけて』
「!!」
やはり幻聴じゃない。何度も聞こえてくる。恐る恐る店の裏口から外に出た。もう夕方で空も薄暗い。裏口から横に進むと、地面に取っ手がある部分があった。
「確かここ、普段はお酒や備品を入れとく地下倉庫だって言ってたっけ」
入る用事もないので一度も踏み入った事はないが。
「入るなとも言われてないし…な」
ガコッ
取っ手を引っ張れば、何かの外れる音とともに地下への入り口が開かれた。
(入って何もなければすぐに出よう)
階段を進み下に進む。土のすえた匂いがする。壁側にボタンがあったので押してみる。ライトがついた。
「!」
地下倉庫は控え室ぐらいの広さがあった。しかし物はほとんど置かれていない。中心に箱が置かれてあるだけだった。その箱は無機質な素材でかなり丈夫そうだ。大きさは1m四方。
(この箱…あの時フィンが入ってた木箱と同じ大きさだ)
まさかフィンがここで眠ってる…わけないよな。わざわざ灰をこんな大きい箱にいれるとは思えない。一体何が入っているのか。
ごくり
緊張で喉が張り付く。俺は箱に手を置き、深呼吸の後ゆっくりと押した。中身を見たらすぐ閉じよう。少しだけ、少しだけ見て帰ろう。箱が重たい音をたてて開く。
「!!」
箱の底で小さな火が燻っていた。焦げて黒くなった羽が底に敷き詰められてる。
「羽…?」
吸い寄せられるように羽に手を伸ばすと火が大きくなった。俺を飲み込もうとする。
「うわ!!」
とっさに手を引っ込める。火は箱いっぱいに広がり俺の前で大きく揺れ動いた。
ボオオオオ!
「おっ、おい!あっつ!」
火は地下倉庫の天井にまで届くほど大きくなった。階段まで逃げたところで、燃え盛る火の中に何かがいること気づく。
「……?」
目を凝らす。熱風のせいで目がしみて涙がでた。涙を拭いて再度見れば、炎が消え…そこには、裸の男が立っているのが見えた。白金の髪にオレンジの瞳。美しく立派な体。
「!」
「…ただいま、ライ」
にこりと微笑むその姿は、フィン以外の何者でもなかった。
***
「んもう、店の裏でボヤ騒ぎかと思ったらあんたたちだったのね!燃えるなとは言わないけど、少しは燃えす場所を考えてチョーダイ!倉庫の中身外に出してなかったら店ごと消し飛んでたわよー!ンモー!」
プンプンと説教モードのグレイ。俺は地下倉庫で裸のフィンと再会したあと、駆けつけたグレイによって30分ほど説教されていた。フィンは頭を下げたまま顔をあげない。
「申し訳ない…」
「そもそもフィン、あんた死んで灰になったってヴォルドちゃんから聞いてたけど?なんで生きてるのよ??」
グレイがズバリ聞いた。ちなみにフィンはまた服を貸してもらい「裸の男」から「ださTシャツ男」へと人権を取り戻している。いや…取り戻せてるのだろうかこれは…。
「それは、その…まずは謝らせてほしい。最初の自己紹介で私は炎の幻獣と言ったが、それは間違いだ。私は不死鳥と呼ばれる存在で、不死という名の通り、私はどんなことをしても死ぬことはない…化け物なんだ」
「ええっ」
「死なないですって…」
さすがのグレイも目を丸くしている。不死と言われて驚かない者はいないだろう。この地球にそんな存在がいるなんて思えない…思えないが、実際に俺は目の前でフィンが死ぬのをみた。
(灰になったのにまたこうして会話できてるなんて)
信じられないが現実として起きている。
「パーティーで私は…龍矢に刺されて死んだ。だが、灰からまた復活した。死ぬ前の記憶を鮮明に留められているのは復活させたのがライだからだろう」
「??」
死ぬ前の記憶に俺が関係してるのか?よくわからなかったがグレイは納得したらしく頷いていた。
「なるほど、不死鳥ネエ…。まさかとは思ったけど本当にお目にかかる日が来るなんて…」
「二人に正体を隠していたのは申し訳ない。信じてもらえないと思ってあの時は嘘をついてしまった…」
「当然ダワ。不死っぽい能力は大して珍しくないけど本物は格が違うわ。そんな力があったら命がいくらあっても足りない。不死身の存在の多くは神格化され崇められるものよ。運が悪ければ実験され粉微塵に。仮に隠せたとしてもどこにいたって浮いてしまうワ。あんた、大変な人生だったでしょうに」
「…」
グレイの言葉にフィンは表情を暗くした。そのまま黙り込む。それを見たグレイが咳払いをして説教モードを解いた。
「こほん。とりあえず無事でよかったワ。後片付けに行ったついでに思い付きで灰と散らばってた羽を回収しておいてよかった」
「本当にありがとう、グレイ。もしもあいつらに回収されていたら…また地獄の日々が来るところだった。この恩はいつか返させてくれ」
「はいはい、期待しておくワ」
どうやらパーティーの後始末にグレイが一役かってでてくれたらしい。一般人も多かったしグレイの霧がなければ今頃トップニュースになっていただろう。フィンもグレイも改めてすごい能力を持っているなと思った。
「おいおい、営業時間なのに店に誰もいねえじゃねえか」
「「!」」
店の方からヴォルドが顔を出した。途端に部屋が暑苦しくなった気がする。ヴォルドが俺に気づいてよっと手をあげた。
「お、ライも気がついたか。まったく、ベランダで見つけたときは死んじまったかと思ったぜ、ハッハ!」
「…」
「ふふ。巨人ちゃん達、いらっしゃい~あなたたちすごいワネ~!パーティーで大活躍だったみたいね?救助したり、瓦礫を解体したり、運んだり…こういったらあれだけど怪我の功名よね。良い宣伝ができたんじゃない?」
「ああ!おかげさまで依頼は想定の十倍以上もらえたぜ」
ヴォルドは腕を組み誇らしげだ。そうか、あの火事の後巨人たちが駆けつけて救助に回ってくれたのか。彼らならちょっとした火ぐらいはねのけてしまいそうだ。
(もしかして俺が重い火傷をおわずに帰ってこられたのって巨人族の仕立てた服※ドレスのおかげだったりするのか?!)
まさかあの服が俺を救ってくれるとは思わず、送迎車のなかで文句を言っていた自分に反省するのだった。見た目はどうあれ巨人たちとそのドレスは命の恩人だ。
「ヴォルド…ありがとな、助けてくれたんだな」
「おお?急に素直になられると調子が狂うぜ。まあお前らも大変そうなのは現場見てわかったし気にすんな」
ヴォルドなりに何かを察してくれてるのか茶化してこなかった。そのままヴォルドは腕組みをして続けた。
「しかしパーティー会場は全焼、大火傷をおった者もいた。死者はいなかったみたいがしばらくあの規模のパーティーは開催されないだろう。しばらくは今回繋いだところと取引することにかりそうだ」
「そうなるわヨネ~」
死者はいない。ヴォルドの言葉に俺はひそかに胸を撫で下ろした。
(よかった…誰も被害者がいなくて…)
故意ではないとはいえ、俺たちがいなければあれ程の酷い火事にはならなかったはずだ。少なからず責任を感じてしまう。それはフィンも同じらしく表情が固い。
「てなわけでパーティーにおけるライの活躍はゼロ。約束していた報酬はなし…と言いたいとこだが、結果的に商談は成功したしな。すこーし分けてやるぜ。俺の愛に感謝しろ」
「愛ならいらね…うぐっ」
グレイにチョップされた。報酬を受け取れと睨まれる。ヴォルドの方へ向き直った。
「アリガタクイタダキマス」
「やけに棒読みな感謝だなあ、俺のハグの方が嬉しかったか?ハッハ!」
「それはもっといらねえ」
ほらよとヴォルドの大きな手から宝石を渡される。まさかの現物支給。宝石なんて日頃関わりがないのでこれがどれくらいの価値なのかパッと見はわからなかった。とりあえずグレイにそのまま渡す。
「あら、全部いいの?」
「ああ。足りるかわかんねえけど、少しでもテーブルとか備品に使ってくれ」
特に今欲しいものはないしグレイには世話になってばかりだ。グレイは少し悩んだあと小さな琥珀色の石を俺に戻した。
「これはあなたのものにしておきなサイ。労働には対価がないと、違法になっちゃうわ」
「幻獣の世界に憲法なんてあるのか」
「一応、暗黙の了解、てな感じであるわよ」
「へえ」
巨人や不死鳥…魔法のようなとんでもワールドだが一応ルールがあるのかと一つ学んだ。ふと、隣のフィンと目があった。俺は反射的に目をそらしてしまう。フィンがなにか言いたそうにしていたがグレイの言葉でかき消された。
「さて!お客さんも来ちゃったしあたしは戻るわ~!!ライ、あんたも疲れてると思うけど、暇なぐらいなら手伝いなさい。あっフィンはこの買い出しよろしくネ」
「わかった…」
「すぐに行ってくる」
俺とフィンの間になんとなく気まずさが残っていたがそれは後回しになった。今はまず目の前の事をこなそう
***
その夜、いや明け方。俺とフィンは仕事を終えて控え室に戻った。グレイはこの後もまだ仕事があるので俺たちが先に寝るのが流れになっている。
「…」
「…」
二人して黙っていたが同じ部屋にいて無視するわけにもいかない。寝る前に少し話しておきたいと思っていたし自分から声をかけることにした。
「えっと、フィン。遅くなったけど…おかえり」
「!!」
俺の言葉にフィンが安心したような顔をする。距離を保ちつつフィンは膝をついた。
「よかった。怖がられてもう二度と話しかけてくれないのかと」
「怖くねえ、って言ったら嘘になるけど話せない程じゃない。そもそも仕事中はちょこちょこ話してただろ」
「仕事上の会話と今のこの時間は違う」
「まあそうか…。でも炎は怖えから、しばらく出すのは控えてくれ」
何もかもを燃やし尽くすあの炎は俺にとって忘れることができないものになった。何より目の前でフィンが生き絶える姿を見てしまったのはなかなかのトラウマである。
(不死身だとしても…あんなの二度とみたくない)
フィンは俺の言葉に深く頷いた。
「もちろん。なるべくライに見せないようにする。私の能力は…人間にとっては恐ろしいものだ。ライが嫌悪するのも当然だよ」
「嫌悪…説明がむずいけど…フィンもあの炎も怖えよ。俺みたいなただの人間じゃどう足掻いたって太刀打ちできねえ。今だってなんで俺が生き残ってるのか不思議なぐらいだ」
「…」
火の海を前にした無力感。絶望。それは簡単に説明できるものではない。今突然フィンから人殺しの炎が溢れてきたらどうする?人間の俺には逃げることすらかなわないだろう。あの炎は人間にとって絶対的な恐怖の対象だ。
「本当に、その通りだ」
フィンが表情を曇らせる。俺はそのまま続けた。
「でも…その炎に何度も助けられたのも事実なんだ」
怖いが感謝もしている。普段フィンが意図的に出す炎は人を焼かない。きっとそうするには…フィンにとってかなりの苦労があるはずで。
何もかも燃やした方がよっぽど楽なのに、フィンはそうしない。人間や他の存在を守るために努力して炎を操作している。
(その努力は他者を想っている証拠だ)
どんなに炎が怖くても、フィンの優しさは信じたい。
「炎の恐ろしさも、優しさも…俺はどっちもフィンだと思ってる、つもりだ」
「……!…ありがとう」
「すぐには無理かもしれねえけど、明日からはなるべく…普通に接してくれな。俺もそうするから」
「ああ、わかった!ライは強いな…」
フィンは小さく呟いた。最後の方はほとんど聞こえないぐらいの音量だった。
「もう寝ようぜ。俺ら一週間ぐらい勤務放棄してたみたいだし、明日は早起きして働いて返さないと」
「そうだな」
くすっと笑い、フィンはソファに移動した。俺がベッドでフィンはソファ。これが定位置なのだが、毎回申し訳なくなる配置でもある。
「あのさ、これやっぱり日替わりで場所交換…」
「だめだ。ライにはしっかり寝てもらわないといけない」
「それはフィンもだろ。俺だってそっちでも寝れる。というか体の大きさ的に俺がソファの方が良いって。フィン、足はみ出てんじゃん」
「平気だ。もっとひどい環境でずっと過ごしていた。それに比べたらここは天国のようだよ」
「…」
過去を引き合いにだされると深入りできずそれ以上言えなくなる。ちょっとずるいと思う。俺がふてくされてるとフィンが茶化すように言ってきた。
「では、ベッドで一緒に寝るのはどうだ?」
「っ…えっ?」
一瞬時が止まったかと思った。しばしフィンと見つめ合う。
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