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一話
尽くした先で
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何かの診断テストを受けたとき俺はアガペーだと言われた。
「愛を与える人間だ」と。
そんなわけはない。
友人にはよく冷たいやつだと笑われるし何より他人に興味がないのが自分でも一番わかっている。自分を愛してると言えばいいのか…とりあえず愛とは無縁な生き物だと思っていた。
…のに。
「ねえ雷くん、今度車を買いたいと思ってるんだ」
「ふーん」
「雷くんは車を持つ気はないの?」
「ないね」
ベッドで余韻に浸りながら俺、国枝雷(クニエダライ)とその男は話していた。
「車はいいよ~ロマンだよ~」
「興味ねー」
「ええー」
「で、真人はどの車を狙ってるわけ?」
「興味ないけど聞いてくれるんだ」
「うっせえ」
八個年上の佐原真人(サハラマサト)は職場の上司であり恋人である。
(まさか男の恋人ができるなんて…)
学生時代全く恋愛できなかったのは恋愛が向いてないわけではなく男が好きだったからなのだろうかと今更思う。
(もしくは俺が真人しか好きになれない偏屈野郎だったりして)
我ながら面倒くさい性格をしていると自覚している。俺みたいなやつは真人ぐらいおおらかな性格でなければ受け止められない気がした。
「雷くん、布団からはみ出てるよ」
真人が俺のはみ出した肩に掛け布団をかけてくる。
「いいって、ほら、あんたがはみ出るだろ」
俺にかけようとして自分の右半身が布団から出てしまっている。こんな成人済みの男に何を心配してるんだか。でもそんな優しさが本当に新鮮でくすぐったい。
「…ありがとう」
「え?」
「なんでもねー」
最初は真人の直球の優しさが気恥ずかしくてやめさせようとした。が、真人は思ったことを言うし思ったまま動くタイプだと気づいた。まるで傷つくことを知らない子供だ。俺みたいな打算だらけの人間とはかけ離れたピュアな存在。俺にはない美しいものを持っている。一緒にいると浄化されるみたいだった。
今の部署に配属され、真人と出会い、三年間があっという間に過ぎた。本当に幸せだった。
(ああ、そうか)
俺は真人のためならなんだってできる。
(この気持ちは確かにアガペーかもしれない)
***
「はあ?車を一括払いで買っただあ?」
「うん、貯金で相殺する感じになるけどいけるかなと思って」
俺たちは別に高給取りの仕事ではない。平均かそれ以下だ。
「ずっと欲しかった限定モデルが期間限定で日本に来てるんだよ、こんなの運命だし買わなかったら後悔する!」
「だからって即日決めんなよ…今月の出費とか大丈夫なのか?」
「それが…うん、結構やばい」
「ほれみろ…」
どっちが年上かわかんなくなる会話だが俺と真人は職場の廊下でひそひそと話していた。真人が「好きなものには一直線」なのは知っていたがまさか車ほど大きな買い物でも恐れないとは。
「はあ…仕方ねえ、しばらく家来いよ」
「えっそんな、悪いよ」
「その代わり家事とか買い出しとかあんたの担当にするからな!」
「もちろんそれぐらいはありがたくやらせてもらうけど…雷くんはそう言いつつ手伝ってくれそうだしなあ…何かほかにお礼ができたら」
「いいってもう」
腕を組みそっぽを向くが三年も一緒にいれば相手がどんな顔をしているか何となく想像がつくわけで。真人はニコニコと笑顔を浮かべ、そして眉をひそめて謝ってきた。
「雷くん、しばらく迷惑をかけるね。本当に助かるよ」
「別に…迷惑っていうなら俺の方がたくさん…」
ワガママとか偏屈性格とかへそ曲がりとかで真人を困らせてきた。その度に真人は折れてくれたり、歩み寄ってくれた。トゲトゲに警戒する俺を笑顔で包み込んでくれた。おかげで俺は自分よりも大切な相手ができて、愛するという事を知れた。
「ありがとう、このお礼はしっかり体で返すからね!」
「黙れ変態」
***
それから一ヶ月が過ぎた。
平日は真人が俺の家に来て夜を共にし、休日はどちらかの家で過ごす。かかる費用は俺が負担して体を動かすのは真人という役割で過ごした。
「こっち洗っとくな」
「あ、雷くんは座ってて!そういう約束じゃないか」
「待ってたら日が暮れるって」
結局真人だけにやらせてるのが忍びなく途中からは俺も手伝うようになった。
(早くイチャイチャしたいし…)
二人で並んで家事を進める。ちょっとした雑談も真人となら楽しい。
(でも金も負担して役割も手伝ってたら尽くしすぎなんかな…恋人作るの初めてでバランスわからねえ…)
誰かに尽くすなんて絶対嫌だと思っていたが、真人は別らしい。俺としては合法的に真人といられる時間が増えてラッキーとすら思えた。一点問題があるとすれば元々お金がある方ではなかったのでじわじわと財布に負担がかかっていた事だ。
(車関係もなんだかんだ足りない部分を俺が出したし)
車以外にも出費がかさみ、借金をしようとした真人を止めて俺が出すことにしたのだ。なけなしの貯金で相殺する形になったが仕事を続けていれば金はいつかは貯まる。そろそろ真人も元の生活に戻れるはずだしあと少しの辛抱だろう。
「真人センパ~イ」
「うん?またトラブルかい?」
真人と今年入った新人(男)が話しているのが見えた。甘えるような声で真人にトラブルの相談をしている。誰かが真人に甘える姿なんて見たくもないが目の前でやられちゃ仕方ない。
(つか真人って下の名前で呼ぶなよ、上司だろ)
新人というだけでは言い訳できないレベルの自己中くんで(本人は天然だと自己紹介で話していた)、他の上司や同僚からは少し距離を置かれていた。そんな中真人は毎回ばか正直に相手にしていたところ懐かれてしまったわけである。
「困った子だねえ」
はは、と笑っている真人にそれ以上の気持ちは無さそうだが新人の方は違う。甘えたような視線を送っているのだ。嫌な予感がするがそこで間にはいるわけにもいかない。視線を下に戻し仕事に集中しようとすると
「あれー真人センパイ、埃ついてますよ」
新人が真人の肩の埃をとろうとしてグッと顔を近づける。遠くから黄色い悲鳴が聞こえてきた気がする(幻聴か?)。まあスーツが似合うTHEイケメンとアイドル系の甘め男子が並んでるのだ、目の保養ではある。
「お、ありがとね」
「いいんですよ~それよりお昼にあのラーメン屋"また"いきませんか??」
ランチの話で弾む二人。何とも言えない胸のざわつきを抱えながら俺はその日の仕事を終わらせるべく没頭した。
その後新人は一気に真人との距離をつめてきた。車の話題で盛り上げたり、相談という名の飲み会にいったり。それと同時に俺(=恋人)の存在に勘づいたのか、俺と真人を引き離そうとしてきた。
まず奪われたのは「時間」だ。
今まで真人とは一緒に買い出しに行き食事を共にしていたが、新人がその枠を担うようになった。真人の家に行き手作り料理を振る舞う。「食の好みが合う」とか「作るのが好きで捨てるのがもったいない」とか理由をつけて押しかけるらしい。真人が困ったように報告してくる度俺はどんな顔をすればいいかわからなかった。一度新人の事を指摘してみたが
「彼が僕を?ありえないよ。一回りも違う僕なんておじさんにしか見えてないって」
「…」
信じてはもらえなかった。確かに男が男を好きになる事はレアなケースかもしれない。そもそも職場恋愛になるし避けようとする人も多いだろう。俺だって最初の一年目はかなり葛藤した。でも「真人なら」と彼との道を進む事にしたのだ。
『今日も新人くんと夜ご飯に行ってくるから好きに食べててね』
『わかった、金足りてるか?』
『この前もらったので間に合ってるよ。来月からは大丈夫と思うんだけど、本当にごめんね、また連絡するよ』
真人の家に新人がいるとわかってて俺が行くのはおかしい…というか怪しまれる。職場での立場がお互いあるのだ。なるべく波風は立てたくない。こういう時無理やりでも乗り込んで俺のだ!って訴えられたらよかったのに。俺の立場的にも性格的にもそれは厳しい。
(意気地なしめ…)
なんとなくだが真人との関係にヒビが入ってきてるのを感じていた。
(俺とは食の好みも合わない、趣味も合わない…)
真人は俺より新人といた方が楽しいのだろうか、と不安になった。不安になっていても口に出さなければ真人には伝わらないのに。不毛な日々だ。そして、俺の嫌な予感は的中する。
時間の次に奪われたのは「体」だった。
「え…」
真人の誕生日、俺はいつも直接会って祝うようにしていた。今年はプレゼントを買う余裕はないが気持ちだけでも伝えたかった。
(最近二人で会えてないし、少しでもいいから話したい)
そう思いサプライズで真人の家に朝早く訪れると、可愛くデコレーションされた部屋に出迎えられた。
『真人さん、Happy Birthday!』
赤やピンクで彩られた部屋には真人と新人が裸で寝ていた。
「なっ…」
どんな悪夢だと思った。男の部屋とは思えない程、色とりどりの風船で飾り付けられた(今時なのか?)可愛らしいデコレーション。とそこに寝転がる裸の二人のミスマッチさは何とも言えない。
「あ…」
新人が目を覚まして体を起こす。俺を見て驚いた顔をしたが…すぐにニコニコと不気味な笑顔を浮かべた。悪意で形作られた嫌な笑顔。この状況で笑えるのだ、こういう事を何度も繰り返してきた人間なんだと悟る。
「おはようございます、国枝センパイ。えっと、すみません、真人さん結構夜更かしされたので…出直してもらえますか?」
夜更かし、とクスクス笑うその顔は悪魔にすら思えた。
「んん…布団からはみ出てるよ…」
ほとんど寝てる状態の真人が体を起こしている新人に布団をかけようとする。寝ぼけていて相手の事をほとんど認識できてない。とはいえ真人が自分以外にその優しさを向けているのを見て衝撃を受けた。
(何が起きてるんだ、いったい)
様々な感情がストンと落ちていくのを感じた。この感覚は父親の借金地獄で家庭崩壊して以来だ。
(…大丈夫だ、この感覚は知っている、落ち着け)
ただただ心が冷え切り、何も考えなくなる。何も感じないから傷つきもしない。自分の感情のコントロールはうまい方だと自負している。深呼吸の後、俺は無言で真人に背を向け家を出た。
「雷くん!雷くん!」
「名字で呼べよ、職場だぞ」
「そんな事より…週末来てくれてたんだって?ごめんよ、その…」
「…」
なんて言うつもりなのだろうと思ったが、真人はただ俯いて頭を下げるだけだった。
「本当にごめん!君は僕の為に色々してくれてるのに僕は何てことを…」
「あの新人の事が好きなのか?」
「違う!あの時は酔っててあまり記憶がなくて…体の関係はない、と思う。記憶がないから言い切れないけど…。一緒に車のゲームをしててそのまま寝落ちたはずだよ」
(なるほど、ゲームで夜更かしか)
それが事実なのかは今は確かめようがない。俺は宙ぶらりんの気持ちに戸惑いつつもため息交じりに言った。
「だとしても、あれはちょっと見てて楽しいもんじゃねえわ」
「うん…本当に申し訳ないです…」
真人のしおれた姿に首をすくめる。もういいってと肩をたたいた。
「俺の誕生日の時、一番最初に祝いに来いよ」
「う、うん!そりゃもちろん!」
「……はあ、誕生日おめでとう、真人」
「!」
あの時言えなかった言葉を伝え、少し胸が軽くなるのを感じる。あの光景はいまだに脳に刻まれ悪夢として見続けているが、これで少しは楽になりそうだ。
「ありがとう、ごめんね」
じゃあ資料の準備があるからと去っていく真人。
(ったく、これでまた真人と普通に過ごせるならいいが…)
「国枝センパ~イ」
「!」
どこからかわいたのか、新人が顔を出してきた。今一番見たくない顔である。
「そんなに睨まないでくださいよ。国枝センパイ見てたらなんだか可哀想に思えて、親切心で教えにきたのに」
「はあ?何がだよ」
「こーれ」
新人がスマホを見せてくる。真人の家での写真だった。誕生日のデコレーションも見切れてるが映っている。そして中心には真人と新人が絡んでいる姿が映っていた。角度とかの問題ではなくがっつり性行為をしていた。
「…!!」
どんなグロテスクな映像よりも吐き気を催すだろう。愛してる人が他の誰かと愛し合ってる姿なんて。とっさに目をそらす。
「罪な人ですよね~真人さん。国枝センパイの好意を当たり前として消費してる」
「…」
「あなたも俺もキープして人生エンジョイするとか。考えなしなのか、全て含めてあの言動なのか。まあそういう所も好きなんですけどね、純粋なクズって感じで」
信じられなかった。信じたくなかった。今はAI画像なども簡単に作れるようになってる。信じる前にこの写真が事実か確かめる必要がある。
(でもどうやって?)
真人は新人との関係を否定していた。俺はそれを信じようと思った。
(真人は嘘を付けないはずだ)
でもそれすらも俺を騙す嘘だとしたら?三年間ずっと演じていて、俺が騙されているだけだとしたら?
(この写真もだが、あの日真人と新人は裸で寝ていた。ゲームをしていただけの二人が裸になって布団を掛け合うものなのか?)
いや、それはありえない。きっと本当のことをいっているのは新人なのだ。そう頭では理解できても心は全く処理できない。
(俺は…その現実を受け止められない…)
真人の口からその現実を聞いて正気でいられる自信がない。今までの三年間全てが道化に思えてくる。俺が愚かすぎたのか、真人が図太すぎるのか。とにかく真人への気持ちが急速に冷めていくのを感じた。新人は何が面白いのかクスクスと笑っていた。
「大丈夫ですかー?国枝センパイ」
「はあ…大丈夫に見えるか?」
「あら、意外に冷静ですね」
「意外ってなんだよ」
「いや絞め殺されるかなって覚悟してたんですけど」
「俺はどんなキャラと思われてんだ」
「えー?人でも殺してそうな人だなって」
「失礼な…目付きが悪いだけだ」
新人のスマホをもういいと手を振って払いのける。
(ここにいても仕方ない)
さっさと立ち去る俺の姿に面食らったのか新人はそれ以上何も言ってこなかった。
「雷くん、今日一緒に帰らない?」
「悪い。仕事残ってて」
PCから目を離さず答える。なんとなく真人の顔が見れなかった。
「雷くん?」
俺の異変に気付いたのか真人が掌に手を伸ばしてくる。
ぱしっ
とっさに払いのけてしまった。驚く真人に首をふって答える。真人はそれ以上追及せず「じゃあお先に」と少しトーンを下げて去っていった。
「はあ」
俺は一人残されたオフィスでため息をついた。冷めたコーヒーを口に運んだが何も味がしない。
『雷くん、大丈夫?少し顔色が悪かったけど、体調気を付けてね』
『今週末はそっちにご飯作りに行くからね』
『もしかして…まだ怒ってる?』
真人への返信が既読のままどんどんたまっていく。
(真人の事がもう、わかんねえ)
今の俺には全てが嘘に見える。元々男同士の恋愛だからいつ終わりが来てもおかしくないと覚悟していた。利用されたのも騙されたのもムカつくが、それを問いただすほどの勇気がなかった。どう足掻いても男の俺では真人の人生を縛る事はできないのだから。
(誓い合った関係でもあるまいし)
その日以降、俺たちはあまり一緒にいることはなくなった。金のことも月を跨ぎ給料日がきたので一応危機は脱したことになる。俺たちは元の距離感に戻った。用がなければ連絡する事もなく、週末も予定が合わなければ会わない。セフレ以上恋人未満のような関係だが、前までは確かな信頼関係を築けていたしそこに愛を感じていた。恋人だと胸を張って思えたのに今は違う。もう俺たちの関係性は跡形もなかった。
「真人センパ~イ!」
新人と真人はすっかりランチ仲間となっていて楽しそうに過ごしていた。新人に言いくるめられたのか真人は俺に近寄ってこなくなった。
俺はぽっかりと心に穴が空いて、空腹も睡眠欲も感じにくくなっていた。体がどんどん疲弊していく悪循環。
そして更なる追い討ちをかけるように事件が起きる。
『国枝さんってホモらしいよ』
『確かに…イケメンだけど女の気配感じないもんね』
『てかさ、●●さんの恋人寝取ったとか聞いたんだけど』
『えーやば』
根も葉もない噂が職場に回っていた。突然どうしたのかと思ったが噂の内容的に新人しか知り得ない情報が混ざっていたので多分やつが犯人だろう。寝不足からくる頭痛に加えて、どんどんエスカレートする噂に更に頭を痛めた。
(訂正しようにも半分は本当だからな…)
俺が男(真人)を好きになった事は本当の事だ。今思えば金も時間も労力も尽くしたのはあほらしいが、真人への気持ちを否定するつもりはない。初めて知った「何よりも相手を尊ぶ」気持ちをなかった事にはしたくない。これも捨ててしまったら本当にこの三年間が無駄になってしまう…最後の意地のようなものだった。
(真人は噂を耳にしてどう思ってるんだろうか)
職場にいけば真人の姿が目にはいる。新人と笑う声が聞こえる。考えずにはいられない。何よりも辛いのは真人を嫌いになれない事だ。何かのきっかけで元の関係に戻るんじゃないかと、期待してしまう自分に吐き気がする。
(もう終わったことなのに)
拷問のような日々に思考力はどんどん落ちていく。最初は俺をかばっていた同僚たちも俺の冴えない反応に段々と離れていった。
そして噂が流れ始めてから二週間ほどで部長に呼ばれ、俺は辞職することになった。
「愛を与える人間だ」と。
そんなわけはない。
友人にはよく冷たいやつだと笑われるし何より他人に興味がないのが自分でも一番わかっている。自分を愛してると言えばいいのか…とりあえず愛とは無縁な生き物だと思っていた。
…のに。
「ねえ雷くん、今度車を買いたいと思ってるんだ」
「ふーん」
「雷くんは車を持つ気はないの?」
「ないね」
ベッドで余韻に浸りながら俺、国枝雷(クニエダライ)とその男は話していた。
「車はいいよ~ロマンだよ~」
「興味ねー」
「ええー」
「で、真人はどの車を狙ってるわけ?」
「興味ないけど聞いてくれるんだ」
「うっせえ」
八個年上の佐原真人(サハラマサト)は職場の上司であり恋人である。
(まさか男の恋人ができるなんて…)
学生時代全く恋愛できなかったのは恋愛が向いてないわけではなく男が好きだったからなのだろうかと今更思う。
(もしくは俺が真人しか好きになれない偏屈野郎だったりして)
我ながら面倒くさい性格をしていると自覚している。俺みたいなやつは真人ぐらいおおらかな性格でなければ受け止められない気がした。
「雷くん、布団からはみ出てるよ」
真人が俺のはみ出した肩に掛け布団をかけてくる。
「いいって、ほら、あんたがはみ出るだろ」
俺にかけようとして自分の右半身が布団から出てしまっている。こんな成人済みの男に何を心配してるんだか。でもそんな優しさが本当に新鮮でくすぐったい。
「…ありがとう」
「え?」
「なんでもねー」
最初は真人の直球の優しさが気恥ずかしくてやめさせようとした。が、真人は思ったことを言うし思ったまま動くタイプだと気づいた。まるで傷つくことを知らない子供だ。俺みたいな打算だらけの人間とはかけ離れたピュアな存在。俺にはない美しいものを持っている。一緒にいると浄化されるみたいだった。
今の部署に配属され、真人と出会い、三年間があっという間に過ぎた。本当に幸せだった。
(ああ、そうか)
俺は真人のためならなんだってできる。
(この気持ちは確かにアガペーかもしれない)
***
「はあ?車を一括払いで買っただあ?」
「うん、貯金で相殺する感じになるけどいけるかなと思って」
俺たちは別に高給取りの仕事ではない。平均かそれ以下だ。
「ずっと欲しかった限定モデルが期間限定で日本に来てるんだよ、こんなの運命だし買わなかったら後悔する!」
「だからって即日決めんなよ…今月の出費とか大丈夫なのか?」
「それが…うん、結構やばい」
「ほれみろ…」
どっちが年上かわかんなくなる会話だが俺と真人は職場の廊下でひそひそと話していた。真人が「好きなものには一直線」なのは知っていたがまさか車ほど大きな買い物でも恐れないとは。
「はあ…仕方ねえ、しばらく家来いよ」
「えっそんな、悪いよ」
「その代わり家事とか買い出しとかあんたの担当にするからな!」
「もちろんそれぐらいはありがたくやらせてもらうけど…雷くんはそう言いつつ手伝ってくれそうだしなあ…何かほかにお礼ができたら」
「いいってもう」
腕を組みそっぽを向くが三年も一緒にいれば相手がどんな顔をしているか何となく想像がつくわけで。真人はニコニコと笑顔を浮かべ、そして眉をひそめて謝ってきた。
「雷くん、しばらく迷惑をかけるね。本当に助かるよ」
「別に…迷惑っていうなら俺の方がたくさん…」
ワガママとか偏屈性格とかへそ曲がりとかで真人を困らせてきた。その度に真人は折れてくれたり、歩み寄ってくれた。トゲトゲに警戒する俺を笑顔で包み込んでくれた。おかげで俺は自分よりも大切な相手ができて、愛するという事を知れた。
「ありがとう、このお礼はしっかり体で返すからね!」
「黙れ変態」
***
それから一ヶ月が過ぎた。
平日は真人が俺の家に来て夜を共にし、休日はどちらかの家で過ごす。かかる費用は俺が負担して体を動かすのは真人という役割で過ごした。
「こっち洗っとくな」
「あ、雷くんは座ってて!そういう約束じゃないか」
「待ってたら日が暮れるって」
結局真人だけにやらせてるのが忍びなく途中からは俺も手伝うようになった。
(早くイチャイチャしたいし…)
二人で並んで家事を進める。ちょっとした雑談も真人となら楽しい。
(でも金も負担して役割も手伝ってたら尽くしすぎなんかな…恋人作るの初めてでバランスわからねえ…)
誰かに尽くすなんて絶対嫌だと思っていたが、真人は別らしい。俺としては合法的に真人といられる時間が増えてラッキーとすら思えた。一点問題があるとすれば元々お金がある方ではなかったのでじわじわと財布に負担がかかっていた事だ。
(車関係もなんだかんだ足りない部分を俺が出したし)
車以外にも出費がかさみ、借金をしようとした真人を止めて俺が出すことにしたのだ。なけなしの貯金で相殺する形になったが仕事を続けていれば金はいつかは貯まる。そろそろ真人も元の生活に戻れるはずだしあと少しの辛抱だろう。
「真人センパ~イ」
「うん?またトラブルかい?」
真人と今年入った新人(男)が話しているのが見えた。甘えるような声で真人にトラブルの相談をしている。誰かが真人に甘える姿なんて見たくもないが目の前でやられちゃ仕方ない。
(つか真人って下の名前で呼ぶなよ、上司だろ)
新人というだけでは言い訳できないレベルの自己中くんで(本人は天然だと自己紹介で話していた)、他の上司や同僚からは少し距離を置かれていた。そんな中真人は毎回ばか正直に相手にしていたところ懐かれてしまったわけである。
「困った子だねえ」
はは、と笑っている真人にそれ以上の気持ちは無さそうだが新人の方は違う。甘えたような視線を送っているのだ。嫌な予感がするがそこで間にはいるわけにもいかない。視線を下に戻し仕事に集中しようとすると
「あれー真人センパイ、埃ついてますよ」
新人が真人の肩の埃をとろうとしてグッと顔を近づける。遠くから黄色い悲鳴が聞こえてきた気がする(幻聴か?)。まあスーツが似合うTHEイケメンとアイドル系の甘め男子が並んでるのだ、目の保養ではある。
「お、ありがとね」
「いいんですよ~それよりお昼にあのラーメン屋"また"いきませんか??」
ランチの話で弾む二人。何とも言えない胸のざわつきを抱えながら俺はその日の仕事を終わらせるべく没頭した。
その後新人は一気に真人との距離をつめてきた。車の話題で盛り上げたり、相談という名の飲み会にいったり。それと同時に俺(=恋人)の存在に勘づいたのか、俺と真人を引き離そうとしてきた。
まず奪われたのは「時間」だ。
今まで真人とは一緒に買い出しに行き食事を共にしていたが、新人がその枠を担うようになった。真人の家に行き手作り料理を振る舞う。「食の好みが合う」とか「作るのが好きで捨てるのがもったいない」とか理由をつけて押しかけるらしい。真人が困ったように報告してくる度俺はどんな顔をすればいいかわからなかった。一度新人の事を指摘してみたが
「彼が僕を?ありえないよ。一回りも違う僕なんておじさんにしか見えてないって」
「…」
信じてはもらえなかった。確かに男が男を好きになる事はレアなケースかもしれない。そもそも職場恋愛になるし避けようとする人も多いだろう。俺だって最初の一年目はかなり葛藤した。でも「真人なら」と彼との道を進む事にしたのだ。
『今日も新人くんと夜ご飯に行ってくるから好きに食べててね』
『わかった、金足りてるか?』
『この前もらったので間に合ってるよ。来月からは大丈夫と思うんだけど、本当にごめんね、また連絡するよ』
真人の家に新人がいるとわかってて俺が行くのはおかしい…というか怪しまれる。職場での立場がお互いあるのだ。なるべく波風は立てたくない。こういう時無理やりでも乗り込んで俺のだ!って訴えられたらよかったのに。俺の立場的にも性格的にもそれは厳しい。
(意気地なしめ…)
なんとなくだが真人との関係にヒビが入ってきてるのを感じていた。
(俺とは食の好みも合わない、趣味も合わない…)
真人は俺より新人といた方が楽しいのだろうか、と不安になった。不安になっていても口に出さなければ真人には伝わらないのに。不毛な日々だ。そして、俺の嫌な予感は的中する。
時間の次に奪われたのは「体」だった。
「え…」
真人の誕生日、俺はいつも直接会って祝うようにしていた。今年はプレゼントを買う余裕はないが気持ちだけでも伝えたかった。
(最近二人で会えてないし、少しでもいいから話したい)
そう思いサプライズで真人の家に朝早く訪れると、可愛くデコレーションされた部屋に出迎えられた。
『真人さん、Happy Birthday!』
赤やピンクで彩られた部屋には真人と新人が裸で寝ていた。
「なっ…」
どんな悪夢だと思った。男の部屋とは思えない程、色とりどりの風船で飾り付けられた(今時なのか?)可愛らしいデコレーション。とそこに寝転がる裸の二人のミスマッチさは何とも言えない。
「あ…」
新人が目を覚まして体を起こす。俺を見て驚いた顔をしたが…すぐにニコニコと不気味な笑顔を浮かべた。悪意で形作られた嫌な笑顔。この状況で笑えるのだ、こういう事を何度も繰り返してきた人間なんだと悟る。
「おはようございます、国枝センパイ。えっと、すみません、真人さん結構夜更かしされたので…出直してもらえますか?」
夜更かし、とクスクス笑うその顔は悪魔にすら思えた。
「んん…布団からはみ出てるよ…」
ほとんど寝てる状態の真人が体を起こしている新人に布団をかけようとする。寝ぼけていて相手の事をほとんど認識できてない。とはいえ真人が自分以外にその優しさを向けているのを見て衝撃を受けた。
(何が起きてるんだ、いったい)
様々な感情がストンと落ちていくのを感じた。この感覚は父親の借金地獄で家庭崩壊して以来だ。
(…大丈夫だ、この感覚は知っている、落ち着け)
ただただ心が冷え切り、何も考えなくなる。何も感じないから傷つきもしない。自分の感情のコントロールはうまい方だと自負している。深呼吸の後、俺は無言で真人に背を向け家を出た。
「雷くん!雷くん!」
「名字で呼べよ、職場だぞ」
「そんな事より…週末来てくれてたんだって?ごめんよ、その…」
「…」
なんて言うつもりなのだろうと思ったが、真人はただ俯いて頭を下げるだけだった。
「本当にごめん!君は僕の為に色々してくれてるのに僕は何てことを…」
「あの新人の事が好きなのか?」
「違う!あの時は酔っててあまり記憶がなくて…体の関係はない、と思う。記憶がないから言い切れないけど…。一緒に車のゲームをしててそのまま寝落ちたはずだよ」
(なるほど、ゲームで夜更かしか)
それが事実なのかは今は確かめようがない。俺は宙ぶらりんの気持ちに戸惑いつつもため息交じりに言った。
「だとしても、あれはちょっと見てて楽しいもんじゃねえわ」
「うん…本当に申し訳ないです…」
真人のしおれた姿に首をすくめる。もういいってと肩をたたいた。
「俺の誕生日の時、一番最初に祝いに来いよ」
「う、うん!そりゃもちろん!」
「……はあ、誕生日おめでとう、真人」
「!」
あの時言えなかった言葉を伝え、少し胸が軽くなるのを感じる。あの光景はいまだに脳に刻まれ悪夢として見続けているが、これで少しは楽になりそうだ。
「ありがとう、ごめんね」
じゃあ資料の準備があるからと去っていく真人。
(ったく、これでまた真人と普通に過ごせるならいいが…)
「国枝センパ~イ」
「!」
どこからかわいたのか、新人が顔を出してきた。今一番見たくない顔である。
「そんなに睨まないでくださいよ。国枝センパイ見てたらなんだか可哀想に思えて、親切心で教えにきたのに」
「はあ?何がだよ」
「こーれ」
新人がスマホを見せてくる。真人の家での写真だった。誕生日のデコレーションも見切れてるが映っている。そして中心には真人と新人が絡んでいる姿が映っていた。角度とかの問題ではなくがっつり性行為をしていた。
「…!!」
どんなグロテスクな映像よりも吐き気を催すだろう。愛してる人が他の誰かと愛し合ってる姿なんて。とっさに目をそらす。
「罪な人ですよね~真人さん。国枝センパイの好意を当たり前として消費してる」
「…」
「あなたも俺もキープして人生エンジョイするとか。考えなしなのか、全て含めてあの言動なのか。まあそういう所も好きなんですけどね、純粋なクズって感じで」
信じられなかった。信じたくなかった。今はAI画像なども簡単に作れるようになってる。信じる前にこの写真が事実か確かめる必要がある。
(でもどうやって?)
真人は新人との関係を否定していた。俺はそれを信じようと思った。
(真人は嘘を付けないはずだ)
でもそれすらも俺を騙す嘘だとしたら?三年間ずっと演じていて、俺が騙されているだけだとしたら?
(この写真もだが、あの日真人と新人は裸で寝ていた。ゲームをしていただけの二人が裸になって布団を掛け合うものなのか?)
いや、それはありえない。きっと本当のことをいっているのは新人なのだ。そう頭では理解できても心は全く処理できない。
(俺は…その現実を受け止められない…)
真人の口からその現実を聞いて正気でいられる自信がない。今までの三年間全てが道化に思えてくる。俺が愚かすぎたのか、真人が図太すぎるのか。とにかく真人への気持ちが急速に冷めていくのを感じた。新人は何が面白いのかクスクスと笑っていた。
「大丈夫ですかー?国枝センパイ」
「はあ…大丈夫に見えるか?」
「あら、意外に冷静ですね」
「意外ってなんだよ」
「いや絞め殺されるかなって覚悟してたんですけど」
「俺はどんなキャラと思われてんだ」
「えー?人でも殺してそうな人だなって」
「失礼な…目付きが悪いだけだ」
新人のスマホをもういいと手を振って払いのける。
(ここにいても仕方ない)
さっさと立ち去る俺の姿に面食らったのか新人はそれ以上何も言ってこなかった。
「雷くん、今日一緒に帰らない?」
「悪い。仕事残ってて」
PCから目を離さず答える。なんとなく真人の顔が見れなかった。
「雷くん?」
俺の異変に気付いたのか真人が掌に手を伸ばしてくる。
ぱしっ
とっさに払いのけてしまった。驚く真人に首をふって答える。真人はそれ以上追及せず「じゃあお先に」と少しトーンを下げて去っていった。
「はあ」
俺は一人残されたオフィスでため息をついた。冷めたコーヒーを口に運んだが何も味がしない。
『雷くん、大丈夫?少し顔色が悪かったけど、体調気を付けてね』
『今週末はそっちにご飯作りに行くからね』
『もしかして…まだ怒ってる?』
真人への返信が既読のままどんどんたまっていく。
(真人の事がもう、わかんねえ)
今の俺には全てが嘘に見える。元々男同士の恋愛だからいつ終わりが来てもおかしくないと覚悟していた。利用されたのも騙されたのもムカつくが、それを問いただすほどの勇気がなかった。どう足掻いても男の俺では真人の人生を縛る事はできないのだから。
(誓い合った関係でもあるまいし)
その日以降、俺たちはあまり一緒にいることはなくなった。金のことも月を跨ぎ給料日がきたので一応危機は脱したことになる。俺たちは元の距離感に戻った。用がなければ連絡する事もなく、週末も予定が合わなければ会わない。セフレ以上恋人未満のような関係だが、前までは確かな信頼関係を築けていたしそこに愛を感じていた。恋人だと胸を張って思えたのに今は違う。もう俺たちの関係性は跡形もなかった。
「真人センパ~イ!」
新人と真人はすっかりランチ仲間となっていて楽しそうに過ごしていた。新人に言いくるめられたのか真人は俺に近寄ってこなくなった。
俺はぽっかりと心に穴が空いて、空腹も睡眠欲も感じにくくなっていた。体がどんどん疲弊していく悪循環。
そして更なる追い討ちをかけるように事件が起きる。
『国枝さんってホモらしいよ』
『確かに…イケメンだけど女の気配感じないもんね』
『てかさ、●●さんの恋人寝取ったとか聞いたんだけど』
『えーやば』
根も葉もない噂が職場に回っていた。突然どうしたのかと思ったが噂の内容的に新人しか知り得ない情報が混ざっていたので多分やつが犯人だろう。寝不足からくる頭痛に加えて、どんどんエスカレートする噂に更に頭を痛めた。
(訂正しようにも半分は本当だからな…)
俺が男(真人)を好きになった事は本当の事だ。今思えば金も時間も労力も尽くしたのはあほらしいが、真人への気持ちを否定するつもりはない。初めて知った「何よりも相手を尊ぶ」気持ちをなかった事にはしたくない。これも捨ててしまったら本当にこの三年間が無駄になってしまう…最後の意地のようなものだった。
(真人は噂を耳にしてどう思ってるんだろうか)
職場にいけば真人の姿が目にはいる。新人と笑う声が聞こえる。考えずにはいられない。何よりも辛いのは真人を嫌いになれない事だ。何かのきっかけで元の関係に戻るんじゃないかと、期待してしまう自分に吐き気がする。
(もう終わったことなのに)
拷問のような日々に思考力はどんどん落ちていく。最初は俺をかばっていた同僚たちも俺の冴えない反応に段々と離れていった。
そして噂が流れ始めてから二週間ほどで部長に呼ばれ、俺は辞職することになった。
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