牧師に飼われた悪魔様

リナ

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第十四章「海賊船と呪いの秘宝」

★誰のモノ

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「はははははははっ!!!」
「!?」
「おもしれーほんとおもしれーよ、ルト!」
「何一人で喋って…うわっ」

 腰に腕が回され、そのまま持ち上げられてしまう。肩に担がれ壁側に置かれたソファに歩いていく。

「何して…!?うわ!!」

 合図もなくソファの上に落とされた。

 ドスン!

 腰をさすっていると、ギシっという音と共にイーグルが覆いかぶさってきた。その顔には何の表情も感じられなくてぞっとする。

「い、イーグル…」
「女を使うなってんなら、お前の体で発散させてもらう」
「!!!」

 ぐっと首を絞められながら、下の服を脱がされていく。

「やめっ、ろっ…!はなせっ!うっ…!」

 必死に抵抗するが、そのタイミングでまた目眩がした。

 グラッ

 世界がまわり抵抗していた腕も重力に逆らわずソファに落ちていった。体が重い。気持ち悪い。船酔いしたのか。

「死んでもいいっつったてことは道具扱いされても文句は言えないよな?」
「…っ、ああ。それでお前があの人たちを傷つけないなら…受け入れる…」
「はは、ほんとにおもしれー」
「いっ、イーグル…!んんっ、でも、こんなの、やめっ、っ!!」

 イーグルは俺のを扱いながら自分のも扱っていた。それを止めるように手を伸ばすが、力が入らずイーグルのにすがるように手を置いてしまう。結局、手伝うように添える形になってしまった。

「はっエロいなあ…牧師のくせに…っ」
「ちが、うっ…!はあ、はあっ…なんか、おかしいん、だ、っ」
「薬が効いてきたか」
「?!」
「くくっ美味しそうに食べてたよなあ。さっきのご馳走~」
「なっ」

 イーグルは笑いながら、俺の前髪をどけて額に口付けてきた。

「料理に毒は入れてないって…」
「毒は入れてないが薬については言及してなかったろ?」
「なっ…!」
「今更後悔しても遅いぜ。危ない薬じゃねーしルトも楽しめよ」

 胸にちゅっと吸いつかれて、体が反応してしまう。撫でられるだけでもゾクゾクと変な感じがした。どうやら料理に盛られていたのは媚薬のようなものらしい。その薬は全く抜ける様子もなくどんどん体が火照っていく。このままでは本当に危ない。

「はっ、ああっ…んっ、い、ぐるっ…んんっ」

 焦りつつもイーグルを拒むことができなかった。拒む力がなかった。せめて、と一束だけ長いイーグルの灰色の髪を引っ張る。

「こらこらそんな急かすなよ。男となんて数回しかやったことねえんだから。痛くするかもしんねーぞ」
「ならっ!やるな…!あうっ、ん、んんっ…!」
「だーかーらー溜まってんだっつの!」
「わっ」

 ぐいっと腕を引っ張られうつ伏せにさせられる。後ろから聞こえるのは獣のような荒い息遣いだけ。何も見えない状態でそれは恐ろしすぎる。逃げようとすれば、肩を掴まれ引き戻された。

「っと?ここだな。慣らさなくてもいいよな?愛し合うセックスってわけでもねえし」
「な、はっ?!」
「いれるぞー息しとけよー」

 雑な扱いのまま後ろにあてがわれる。

 ぐぐっ

「いっ、っ、ああああっ…!!」
「きっつ…」

 なんの準備もされずに咥え込めさせられ、その衝撃で意識が飛びそうになった。いっそ意識が飛んでくれたら楽なのに。薬のせいで夢と現実をユラユラと行き来していて自分ではどうしようもできなかった。

「ああっ、うっ、いった、い…!」
「くくっ痛いのは仕方ねーって。俺のに慣れるまで我慢しろ」
「なれ、るか…こんなの…っ、いっ、ああっ…!動くなっ、ううっ!」

 ゆっくり押し進めてくる。その圧倒的な質量に息がつまり、吐き気すらした。なのに、体中の血が逆流しそうなぐらいの興奮が体を蝕んでくる。薬のせいで段々と痛みが快感へと置き換わっていく。

「はあ、あっ、いっ、っ、んんっ…!はっ、ひぐっ、うう…!」

 せめて気持ちよくなければよかったのに。それならザクを裏切ることにはならない。抱かれたとしても殴られたのと同じになるのに。

(ごめん、ごめんザク…!)

 どんなに抵抗しようとしても、でも俺の体は反応していた。体の奥がもっともっとと求めてるのがわかる。

(くやしい…っ痛いのに、なんでこんな…っ!)

 唇を噛んだ。力加減を忘れそのまま噛み切りそうになる。揺さぶられながら血がだらだらとソファに垂れていく。

「あーあー、血だらけじゃねえか。噛んじゃダメだろ」
「う、ううっ、もう、やめ、っあああっ!」

 切れた唇に触れてくる。前屈みになった事でトンっとイーグルの腰があたった。とうとう全て飲みこんでしまったらしい。顔がカーっと熱くなる。

「ルト、俺のはうまいか?」
「うまいわけっ…ひっ!んああっ!」
「こんなに締めてきてそれはねーだろっ」

 知らしめるように奥を突いてきた。自分がキツく締めているせいで、お互いがすぐに高まっていくのがわかる。ググッとどんどん大きくなっていくイーグルのそれに俺は体をひねるしかできなかった。自分の無力さを噛み締める。

 するっ

 その時ふと、後ろから腕が回ってくる。抱きしめるような形になって動揺した。

「な、にっ…?!」
「なあルト、俺と一緒に旅しねーか?」
「ああ!うっ、はあ?んくっ、旅って、冗談じゃ…ああっ!」
「さっきの言葉痺れたぜ。俺はお前と同じで、誰のものでもなかったんだな…」
「何を言って…あっあっ、やめ、もっ、やばいっから…っ!」

 奥を押されるその感覚に全身が震えてくる。熱い。気持ちいい。苦しい。もっとほしい。色んな感情がせめぎ合っていた。脳が悲鳴をあげ、快感を素直に感じろと命令してくる。

 (キモチイイ…)

 そう思うようにしたら少し楽になった気がした。体がリラックスした方が後々ダメージが少なくなるというのはわかってる。

(でも…だめだ…っ!)

 この快感に屈するわけにはいかない。

「はあっ、はっ、ハア、」

 後ろの息遣いが更に荒くなってきた。嫌な予感がして振り返る。

「い、ぐる…!」
「あーイキそっ…中でいいよな?女じゃねえし」
「だめっ、だ!外に!うっ、ああ…っ」
「はあ、ここまで来たらっ、ハア、同じだろ」
「や、だ…!それは…ダメだっ!お願いだ、から、イーグル…!」

 上半身をなんとか起こし、体の向きを変えた。

「!!」

 そこには思ったよりも正気のイーグルがいて、その姿を見ているとザクとどこか被ってしまった。少し気崩しただけの雄の顔をした気だるげな男と数秒見つめ合う。

「イーグル…」
「はっ、こんな俺に願うのか?」

 呆れたような、困ったような顔で尋ねてくる。意味がわからないという表情をしていた。俺だって自分がわからない。なんでこんなクズ海賊に願ったのか。

 (願えば聞いてもらえると思ったのか?)

 イーグルが本当は悪い奴じゃないと思ってしまったのか。ここまでされて何を信じようとしたのか、自分自身理解できない。動揺を隠すように毒づいた。

「うる、さい…!馬鹿っっ!死ね…!」
「くくっこんな深い仲になっても口悪いの逆に萌えるなー」
「死ねっ!いっ、揺らすな、ああ…!!聞けって…!」
「なんだよ」

 イーグルの髪を引っ張って気を引くと体を倒してきた。その耳に囁く。さっきイーグルと話している間に思いついたのだ。

 (…言うならこのタイミングだ)

「イーグル…お前が探している宝の場所に、心当たりが、ある。でもその場所は…俺しか知らない場所だ」
「ほほう?」
「レインが俺を必要だって言ってたのも…そういう、意味なんだろ」
「なるほど、ここで交換条件ときたか」

 目を丸くしたイーグルは少し考えるようにしてからため息をつく。

「んー……はあ、仕方ねえな。まあ十分楽しめたし」
「いっ?!あああーっっ!」

 乱暴に奥を突かれたと思えば一気に引き抜かれた。

 グジュッ

「んんっ、はっ、あっ…はあ、」

 突然の喪失感に体がぐったりとする。そんな俺の様子を見ながらイーグルは自分のを扱い、やがて小さく呻いたあと、手の内に欲を吐き出していた。白く濡れるイーグルの手。何を思ったのか、俺に手のひらを差し出してきた。舐めろって言ってるのか。

(なんでもかんでも自分の思い通りになると思うなよ)

 馬鹿にするなとそっぽを向けば、はははと軽快な笑い声をあげてイーグルがソファから去っていった。

「ほんと、おもしれーな、ルトは」
「う、るさ…い…」

 やっと解放された事に安堵して、俺は意識を手放すのだった。


 ***


「…」

 夜空の下、俺様は旧市街地のとある場所に来ていた。ホームレスの奴らが珍しそうなものでも見るように俺様を見ながら横を通りすぎていく。俺様の目の前には黒い渦のようなものがあった。ブクブクと泡立ちながら時々その泡を弾けさせては黒い臭気を放っていく。ここは、ルトと見つけた場所。悪魔がこれを使って人間の世界に出入りできるゲートのようなもの。

「くそがっ!」

 近くの壁を蹴りつける。せっかく悪魔じゃなくなったのになんでまたこれに苦しめられなきゃいけないのか。ここに来るまでに、街中を走り回って海賊を探した。だが、もうすでに海賊船は出港しているのか結局足取り一つ掴めなかった。残る手掛かりは目の前のこれだけ。

『王の鎖を解放してごらん』

 奴の言葉を信じる訳じゃないが、今は藁にも縋る気持ちだった。ルトが見つかるならなんでもいい。助けられるなら世界が地獄になってもいい。

 (レインのやつ、相変わらず性格がドブのように汚えな)

 俺様にわざわざ伝えるというやり方。その余裕に吐き気がする。レインは必ずルトの所在を知っている。というか攫ったのもレインだろう、どうせ。

「…にしてもなんでレインの野郎がこれを必要とする?」

 王の鎖。悪魔の王を縛り付けてる聖なる呪いの鎖だ。それを解放した所で人間には何の恩恵もないはず。

 (悪魔側は喉から手が出るほど欲してるだろうが…)

 そもそも俺様が人間の街に送り込まれた理由が「鎖の解放」なのだ。今の俺様は悪魔をやめてるし、悪魔とか王とか、そういうのと関係ない立ち位置になったから触れるつもりはなかったが。

(いつかはケリをつけなければと思っていた)

 それが今なのかもしれない。レインの狙いを阻止するためにも、鎖を先に見つけて破壊するのだ。

(でもそしたら、ルトを助けられない)

 レインの条件を満たさなければルトは殺されるかもしれない。

 (いや、それはないはずだ)

 奴の悪趣味っぷりは筋金入りだ。簡単には殺さないはず。そのつもりならずっと前に殺していただろう。歯ぎしりしながらレインのことを思い出す。

「くそっ!完全に後手に回ってやがる…一体どうしろってんだよ!」

 自分の無力さで怒り狂いそうになる。再度壁を蹴りつけると、俺様の力が強すぎたのか、壁がまるごと奥に倒れていってしまう。

 ズガシャアアンン

「はあ…」

 崩れた壁からゲートに視線を戻そうとすると、

「てえ、…え…」

 崩れて瓦礫の山になった壁からくぐもった悲鳴が聞こえてきた。

「んあ?」
「た…たすけて、くれぇぇ…」

 助けを求める声だった。どうやら下敷きになってしまったようだ。イライラしていたこともあってそれを無視していると

「お…い、そこ、にいるんだ、ろぉおお…」
「…」
「は、くじょーものおぉ」
「……」
「ひ、ひとで、なしいいぃ、ごほごほ」
「………チッ」

 あまりにもうるさいので、破片をぽいぽいっと蹴り飛ばしてみると

「!」

 瓦礫の下に男が倒れていた。ボロボロの服をまとった白髪の老人。よく無事だったなと逆に感心してしまうほど深いところで潰されている。

「おい、人間。死んだか?」
「あ、ああ、やっとか…助かった、わ、い」
「助けるなんて言ってねえし」
「へえ?」
「お前、何か俺様に有力になるような情報を持ってるか?」
「なにを、いって…ゴホっ」
「ないならこのまま死ね」
「はあ?ここまでやったら、たすけ、るのもおなじ、じゃろ…って、あ?もしや、お前さん、さっきの人間離れした力…悪魔なのか?」
「?!」

 老人ががを撫でながら俺様を観察し始める。よくその状況で落ち着いていられるなと感心した。さすが年の功(違うか)。

「おい、爺、悪魔を知ってんのか」
「知っているも何も、昔ここには大層お強い牧師様がおってなあ。その人が悪魔のことを話しておったからの。それを思い出したわ」
「へえ、じゃあこのゲートは?」
「げえと?それは知らんがこの近くで牧師様が何かしていたのは知っておるぞ」
「!!」
「ともかく、これをどけてくれえ~」
「チッうるせえな!」

 手を軽く振れば、ビュウッと風が吹き瓦礫の山を吹き飛ばしていった。爺はやっと自由になりぴょんぴょん跳ねていた。ほんと、頑丈な爺だ。

「爺、話の続きを聞かせろ」
「まあまあ少しは年寄りをいたわれい。もう体中がボロボロで」
「さっき飛び跳ねてただろが」
「あ、バレたかの?ふわっはっは!」
「はあー…時間がねーんだ。助けねえといけねえ奴がいる」
「ほう?悪魔でも大事なモノがおると」
「俺様は悪魔だが悪魔をやめた」
「ほほほう?面白い悪魔じゃの。よかろう。わしの知っていることを話そう。ただしここはよくない。その渦は良からぬものを引き寄せるからな。落ち着いて話せる場所へ行こう」

 爺が暗い路地の方へ進んでいく。そのまま爺は話し始めた。

「牧師様は災厄の悪魔を封じる旅に出ていると言っていてな。この街…ああ、今は旧市街地となってるこの場所を訪れたんじゃよ」
「災厄の、悪魔…」

 確かに人間にとって悪魔の王は災厄そのものだろう。

「それでこの場所にとある仕掛けを施されて…直ぐに去っていったんだ。早く他のもやらなければと使命感に駆られていたよ」
「一人だったのか、そいつ」
「おう、そうじゃよ。一人で戦っておられた。話に戻るが、その仕掛けのおかげなのかこの区域の不思議な現象が止まったんじゃ。魔除けの効果もあると言っていたからそのおかげじゃろうて」
「その仕掛けはどこに?」
「ここじゃ」

 爺がふと足を止め、その先の行き止まりを指差した。さっきのゲートからそれほど遠くない100m程度の距離にある袋小路だった。

「この先に、あった、というのが正しいんじゃろうの」
「どういうことだ??行き止まりだぜ?」

 おかしい。この場所だけ他の建物と違う材質だった。新しく作られたと思われるその壁は、そこだけ立て替えたのだとすぐにわかった。

「保安官といったかの。そやつらが最近ここを訪れてきて、突然埋めてしまってな」
「…先越されたか」

 白服の奴ら、もうここまで突き止めていたのか。そういえば前もここで白服と出くわしたんだっけか。なるほど、これが目的だったのか。

(でもどうなってやがる?)

 悪魔王の鎖をレインが狙うのはわかるが(イカれ野郎だしな)白服の奴らやルトを攫った海賊たちが狙う意味がわからない。

(この鎖には俺様が思っているよりも重要な意味があるってのか?)

 壁を撫でながらボーッと考え事に耽っていると、いつの間にか爺が消えていることに気づいた。

「は?!おい!爺!どこいった!?」

 急いで辺りを見回す。それとほぼ同時で何かの気配がした。

 ゾクリ

 風で少し先の匂いが届いてくる。それを嗅いだ循環、寒気がするほど鳥肌が立った。興奮で血流が馬鹿みたいに早くなる。

 (この匂いは…!!)

 俺様は後方に飛び上がって、屋根に乗った。周囲を確認する。

 (いた!)

 ゲートの近くに何者かがいた。三つの影があり、それらが渦に近づいていくのが見える。俺様はすぐに駆け寄った。念のため気配は消しておく。

「おい、こっちなのか」
「ああ…」
「わかってると思うが逃げようとしたら…わかってるよな、ルト」
「わかってるよ、うるさいな」

 背の高い男の後ろにルトがいた。疲れ切った顔だが怪我をしている様子はない。

(ルトっ、よかった…!!)

 一気に体中の血が巡り始めた。よかった、やはりここに来たのか。すぐに駆け寄りたい衝動をなんとか抑える。何故なら…大きな剣をかついだ偉そうな灰色の髪の男と、丸腰の茶髪の優男レインに挟まれるようにしてルトが立っていた。あの状況では不意を突かなければ人質に取られるだけだ。

「にしてもボロいなーこのあたり。ただのスラムじゃねえか」
「うん。だから宝なんてないと思う」
「はああ??宝がないとわかってて案内したのかよ??肝すわってんなあ?!おい!!」
「思い当たる場所があるって言っただけで宝の場所がわかるとは言ってない」
「なっ…やり返したって事か??俺に…」
「ふん。騙される方が悪い」
「ははは、二人共仲良くなったね」

 レインが笑っていた。思っているよりもルトに怯えている感じはなくて安堵する。しかし、顔には疲労の色がありありと映っていた。たまに何かを探すように視線を揺らしている。きっと俺様を探しているんだ。街に戻ってこれたなら俺様と出会えるはずだと信じて。

(くそっ…!)

 今すぐにでも駆けつけてやりたい。そんな衝動に駆られる。

(ダメだ、落ち着け)

 ルトが何の拘束もなく歩いているということは、何かを人質にとられているのかもしれない。だとしたらここで暴れるのは得策じゃない。少し様子を見てから奇襲をかけよう。

「あとで覚えとけよ、ルトー」

 灰色の髪の男がルトの肩に腕を回す。それを見てるだけではらわたが煮えくり返りそうになるが、なんとか耐えて奴らの後をつけていく。
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