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第十三章「ヤンデレ勇者の魔王退治」
従兄弟
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「あーあ、賑やかなやっちゃなあ~」
「うわあ!!」
突然の声に飛び上がる。横を見れば全身包帯だらけのイーズが立っていた。吸血鬼化は解けていて人間のような姿になっている。しかし、その首にはゴツくて黒い首輪がついていた。その首輪についたリードの先には、眠そうなザクが立っている。つまりイーズをザクが散歩させてる、感じ。大の男二人が、どんなプレイだ。俺の蔑みの目に頬を染めるイーズ。
「ルトちゃんオハヨ~さん!」
「まだいたのかイーズ」
「幽閉しといてまだいたのかはないやろ~!」
「それはザクにいってくれ」
「ふん、殺されねーだけまだマシだと思いやがれ」
っけ、と舌打ちをするザク。首輪をぐいっと引っ張り俺からイーズを引き離した。
「で?お前はこの街に何のために来てたんだ?ああ?」
イーズを地面に押し倒しながらヤクザのように問い詰めるザク。イーズは愛想笑いのままザクの足をどかした。
「だーかーら、普通にお腹すいて街に降りただけなんやって~」
「本当か?誰かからの命令じゃねーのか、ア゛ア゛??」
「ひいいいい!怖い!その顔怖いからやめてえや!」
「ざ、ザク、それぐらいに」
俺が止めるとすぐに足をどけた。でも納得いかないという顔だ。それもそうだろう。俺たちはそれなりに敵が多い。こういうグレーな存在は放っておけないのはわかる。でもここまでやると少し哀れに思えて、許してやりたくもなった。
「まあ、被害を受けたのは俺ぐらいだし…これから襲わないならもう解放してやってもいいんじゃないか」
「はあ?ルト、甘すぎだろ!」
「ルトちゃんほんま優しいなあ~~!ぺろぺろしたい!」
「っひー!舐めっ噛むな!!!ザクー!」
「クソ吸血鬼が!!」
すかさずザクが首輪をぐいっと引っ張り足元に引き寄せた。ついでにイーズの背中を踏みつけて身動きを取れなくするザク。傍から見たらほんとにすごい図である。
「てめえも懲りねえな!牙引っ込こぬいて去勢すっぞ!」
「それだけはやめてえや~血飲めへんなる~」
「案外余裕がありそうじゃねえの、一本いっとくか?」
生き生きとした様子で攻めるザクを見て、俺が一人呟いた。
「ザクって、実はそういう趣味があったり…」
「えっ」
慌てて俺を見るザク。
「ち、ちげーよ!ルトのこと苛めたいとか思ってねーからな?!」
「…」
「ほんとだって!いや、嘘ついた、ちょっと…ちょっとだけイジメたいとは思ってる!!イジメ倒して最後に、涙目で悔しがりながらザク様好きだニャン?とかルトに言わせてえけど。ハードなものはルトの体的にキツいだろうしそこまで求めたりは……あっ」
「はは~墓穴掘っとるなあ~」
「死ね!馬鹿ザク!」
蔑みの目でザクたちを見てから、俺は教会の中に戻った。
「悪魔くん、馬鹿やなあ」
「誰が馬鹿だ、干物にするぞ!!」
「ひいいーーーー!太陽イヤーーー!焦げる~~~!」
「焦げろ焦げろお前のせいでルトの機嫌を損ねたんだー!!」
「嘘つけー!ほとんど自爆だったやんけー!」
「うるせえ!干からびて死んでろ!干物にして食ってやる!」
「ひいいいい~」
二人がギャアギャア叫んでる。なんだかんだ楽しそうに聞こえてきた。呆れながらキッチンに向かう。そろそろ昼食の準備をしなければ、と廊下を進んだ。すると裏口の方からノック音がした気がしてそちらに足を向ける。
「なんだろう。セールスかな?」
ガチャリ、とゆっくり扉を開ける。するとそこには
「。。。ルト」
「エス!」
フードを深くかぶったエスが立っていた。その手には何かの袋があり、それを差し出される。
「パスタ、貰い物でたくさんもらったからおすそ分けにきた」
「え!いいのか、もらっちゃって!」
「ああ、ルトがよければ」
袋を開けると袋いっぱいにパスタが入っていた。10、20食分ぐらいある。これだけあればしばらくは食事に困らないだろう。
「うわー!助かる!ありがとな!」
「じゃあオレは」
「そうだ!今昼食の準備してたところなんだ。エスも一緒に食べないか?」
「え。。。いいのか」
「もちろん!それに今…野良の?吸血鬼がいてさ。話を聞いて欲しいんだ」
「野良の吸血鬼?」
一気にエスの顔が引き締まる。
「あ、いや、悪さはしてないから(今は)」
鋭い視線を向けられ、すぐに俺は大丈夫だと伝えた。
「そうか」
頷いて、重い方のパスタの袋を持ってくれた。そのままキッチンに向かう。エスは何度も家に来ているので大体の間取りも把握している。それについていくと反対側から複数の足音がした。ザクがリードを引きずりながら現れる。エスの姿に気づき、顔をしかめた。
「んあ?なんでハーフ野郎までいやがる」
「悪いか、悪魔」
一触即発の二人。バチバチと火花が散っている。俺はすぐに二人の間に割って入って腕を広げた。
「はいはい!そこまで!ザクも食器とか出すの手伝え!」
「っち、こいつと食事かよ。食欲失せるわ。おい!ルトの隣は俺様だからな!」
「どうせいつも隣だろ。今日はオレが座る」
「ああ?どんな時も俺様のだっつの!どけ!」
「嫌だ」
「はあ…二人とも、ご飯中ぐらい仲良くしてくれよ」
昼食用に作ってあったシチューを温め直しながらため息をついた。二人はテーブルの椅子取りでまだいがみ合ってる。
「って、あれ、イーズは?」
振り向く。キッチンには三人しかいない。エスと睨み合ってたザクがリードを引っ張る。
「おい呼ばれてんぞノラ」
「ぐえっ」
鈍い悲鳴が廊下から聞こえた。でも一向に姿は見えない。ザクが、ん?という顔をして強めにリードを引いた。
「おい、何してんだ」
「っぐぬぬ~!」
またしても悲鳴だけ。ザクは飽きたのかそのままリードをはなしたが、俺は気になって廊下に見に行った。そこにはうずくまったイーズの姿がいた。
「イーズ、なにし…」
「しーーーっ」
口に人差し指をたて、静かに、とジェスチャーされる。何をそんなに焦ってるんだろう。そう不思議に思ってると、後ろからエスが顔を出してきた。
「ルト、皿というのはこれでいいのか」
「あ、うんそれと青いやつ」
「ん?そこに誰かいるのか?」
「ああ、こいつがさっき話してたきゅうけ」
パリーン
エスの手から皿が落ちた。地面に衝突したことで皿の破片が飛び散っていく。
「ああ!なにやってんだよエス!」
「……に、にいさん…」
「え?」
エスがイーズを見たまま停止していた。イーズは気まずげに下を向いて笑ってる。
「あちゃあ、バレてもうたか…」
「どうしてここに、家出したはずでは」
「え?ちょ、ちょっと待ってエス!イーズと知り合いなのか?!」
「知り合いもなにも、従兄弟だ」
「!!!」
今度は俺とザクが驚く番だった。まさかの新事実にキッチンが静まり返る。誰もが次の言葉に迷っていたとき
バササっ!!
「ぶ!!っ、ま、またこれか!」
突然のブラックアウト。多分またコウモリが顔に張り付いたのだろう。諦めの境地でなすがままになってると
「きゅーちゃん!!」
イーズの喜びの声が聞こえてきた。そしてクリアになる視界。目の前には、エスのアパートで飼われていたコウモリと涙を流しながら抱擁を交わすイーズの姿が。
「きゅうちゃん?」
「ボクのマスターコウモリ!つまりコウモリたちの司令塔でボクの唯一無二の相棒ちゃんや!」
「へ、へえ…(コウモリが相棒…)」
「探したんやでえ!きゅーちゃんおらんからコウモリたちも元気でえへんし、指令もうまく伝わらんし…!見つけたと思ったらエスのとこおって手出しできひんし、焦ったわあ」
嬉しそうにコウモリを抱くイーズ。その顔には、嘘をついてるような様子はなかった。
「だからきゅーちゃんを誘い出そうと思って、勇者けしかけてルトちゃんピンチにさせたり街を混乱させたり。エスにバレずにやるにはこれしかなかったんや…まあ、無駄骨やったんやけども」
「じゃ、じゃあ今回のドラゴン沙汰も、俺を襲ったのも全て…」
「そう!!きゅーちゃんのためや!!!」
「「…」」
呆れて何も言えない。ザクが後ろで頬杖をつき、深くため息をついた。そして指をパチンと鳴らす。途端にイーズの首についていた首輪がスーっと消えていった。
「紛らわしい吸血鬼だぜ。さっさと視界から失せやがれ」
これでイーズは自由だ。ザクが興味がうせたというように首を振った。その間、エスは落ちた皿の破片を集めている。
「あ、俺も手伝う!」
「ルトは触るな」
「いや、エスだけにやらせるのは」
「この場でルトの血が流れたらかなり危険だろう」
「あ…」
ザク、イーズ、エスと目が合った。そうだ、俺以外みんな人間じゃないんだ。今更ながら自分の無謀さに驚く。エスがふっと笑って皿を拾い上げた。
「何より、あのにいさんもいるからな」
「ええー?エスひどいわあ!ボクをそんな節操なしみたいに言わんでえや!」
「節操なしだから家出したんだろ」
「ロマンチストには窮屈すぎたんやあの城は!」
「もういいから、にいさんも拾って」
「ぶ~~」
エスとイーズ。あれではどっちが年上かわからないな。吸血鬼は見た目じゃ歳はわからないし。エスの方がずっとしっかりして見える。色々とだらしないイーズと並ぶと余計それが際立った。
「あ、にいさん、そのまま進むと破片踏むー」
「いだーー!エス遅いわーい!」
「はは」
無邪気に笑うエス。
(やっぱり家族相手だと違う顔をするんだな)
エスの新たな一面に笑いながら俺はキッチンに戻った。後ろに気配がしてそれがザクだとすぐわかる。独特の視線を感じる、というかなんというか。ともあれ後ろに立たれたままだと色々やりにくいので
「なに」
「そういえばルト、ご褒美は?」
「は?」
「勇者との勝負に勝っただろ」
「それはザクのためで、俺が褒美を与える義理はないだろ」
「つれねえなあ。俺様が負けてたら、あいつに連れて行かれていたかもしれねーのになあ?」
「う…」
確かにそんな流れもあったけど、ザクが負けるとは思ってなかったし。勝つのが当たり前と思っていたからそんな褒美とか用意してないんだけど。にやにや笑いながら俺の答えを待つザク。シチューをかき混ぜながら思考を巡らせた。
(どうしよう…この場でできそうなご褒美とか思いつかないんだけど)
ぐるぐるとシチューを混ぜまくってやっと俺はあることを思いついた。でもそれは、かなり恥ずかしくて、自分で思いついておいてアレだがなかなか口にはできない。
「・・・・っ~~!」
「なんだ、どうした~?」
「・・・・す、」
「ん~~~?」
聞こえないぞ?とジェスチャーをするザク。俺は怒り(と半分やけに)に身を任せてザクの服を掴んで引き寄せた。ひそひそと囁く。
「ざ、ザクが、す、好きだ…に、にゃんっ…!」
もちろん音量は小さめでザクにしか聞こえない程度だ。後ろの皿を片付けてる二人は気づいてる様子はない。だけど、それでも自分の言った言葉に真っ赤になる俺。
(いや、これ恥ずかしい!思ったよりもずっと恥ずかしい!!)
しかもザクのやつ、なんの反応もしてくれないから…俺の恥ずかしさはどんどん上がっていく。
すっ
ふとザクが動いたと思ったら、自分の鼻を指で押さえはじめた。
「ザク?!な、なにして…」
「やべえ…」
ポタタ・・っ
赤い液体がザクの鼻から出てた。
「か、可愛すぎて鼻血が…」
「?????!」
「これは、夜にもう一度言わせたい、いや言わす。じゃねえと死ぬ…自殺するわ俺様」
「ええ?!な、何言ってるんだ!一回だけだって、こんなの…もう無理絶対言えない!死んでも言わないからなっ!!」
「ルトが言わないと俺様が死ぬ」
「はあ~!?」
鼻血を出しながら真剣な顔でそんなことを言われても困る。エプロンでザクの血を拭いてやりながら、俺はため息をついた。
「はあ…悪魔なんか好きになるもんじゃないな…」
心臓がいくつあっても足りない。
「んあ?何か言ったか?」
「~っなにも!ほら、そこの二人も椅子に座って、新しい皿に入れるから」
吸血鬼二人を呼び寄せ、シチューをよそっていく。もちろんザクと自分の皿にも。それから軽くお祈りをして、皆でシチューを食べ始めた。ティッシュを鼻に詰めたザクのギラギラした目は無視して、俺はエスたちの方を観察してみる。
「ニンジンとか何がうまいんや?」
「ルトの食事はなんでも美味しくなる、食え」
「エス性格変わったなあ」
「そうか?にいさんは変わらないな」
従兄弟との久しぶりの再会が嬉しいのか、よく喋るエス。その様子を見ていると、心が不思議と浮き上がる。吸血鬼だってこんな風に笑ったり、家族と楽しく食事もするんだ。人間と同じだ、何も違うことはない。悪魔だってそう。絶対的な悪はいない。どんなに恐ろしく忌み嫌われてる存在でも、だ。だから俺は。
「こういうのがあるから、キライになんかなれないんだよ…アルス」
そんな事を呟いてシチューを口に入れた。
「なーに独り言いってんだルト~」
「なんでもないっ」
ザクからそっぽを向きつつ、開かれた窓の隙間から青空を見上げた。その空にはドラゴンの形をした黒い雲が気持ちよさそうに泳いでいた。
「うわあ!!」
突然の声に飛び上がる。横を見れば全身包帯だらけのイーズが立っていた。吸血鬼化は解けていて人間のような姿になっている。しかし、その首にはゴツくて黒い首輪がついていた。その首輪についたリードの先には、眠そうなザクが立っている。つまりイーズをザクが散歩させてる、感じ。大の男二人が、どんなプレイだ。俺の蔑みの目に頬を染めるイーズ。
「ルトちゃんオハヨ~さん!」
「まだいたのかイーズ」
「幽閉しといてまだいたのかはないやろ~!」
「それはザクにいってくれ」
「ふん、殺されねーだけまだマシだと思いやがれ」
っけ、と舌打ちをするザク。首輪をぐいっと引っ張り俺からイーズを引き離した。
「で?お前はこの街に何のために来てたんだ?ああ?」
イーズを地面に押し倒しながらヤクザのように問い詰めるザク。イーズは愛想笑いのままザクの足をどかした。
「だーかーら、普通にお腹すいて街に降りただけなんやって~」
「本当か?誰かからの命令じゃねーのか、ア゛ア゛??」
「ひいいいい!怖い!その顔怖いからやめてえや!」
「ざ、ザク、それぐらいに」
俺が止めるとすぐに足をどけた。でも納得いかないという顔だ。それもそうだろう。俺たちはそれなりに敵が多い。こういうグレーな存在は放っておけないのはわかる。でもここまでやると少し哀れに思えて、許してやりたくもなった。
「まあ、被害を受けたのは俺ぐらいだし…これから襲わないならもう解放してやってもいいんじゃないか」
「はあ?ルト、甘すぎだろ!」
「ルトちゃんほんま優しいなあ~~!ぺろぺろしたい!」
「っひー!舐めっ噛むな!!!ザクー!」
「クソ吸血鬼が!!」
すかさずザクが首輪をぐいっと引っ張り足元に引き寄せた。ついでにイーズの背中を踏みつけて身動きを取れなくするザク。傍から見たらほんとにすごい図である。
「てめえも懲りねえな!牙引っ込こぬいて去勢すっぞ!」
「それだけはやめてえや~血飲めへんなる~」
「案外余裕がありそうじゃねえの、一本いっとくか?」
生き生きとした様子で攻めるザクを見て、俺が一人呟いた。
「ザクって、実はそういう趣味があったり…」
「えっ」
慌てて俺を見るザク。
「ち、ちげーよ!ルトのこと苛めたいとか思ってねーからな?!」
「…」
「ほんとだって!いや、嘘ついた、ちょっと…ちょっとだけイジメたいとは思ってる!!イジメ倒して最後に、涙目で悔しがりながらザク様好きだニャン?とかルトに言わせてえけど。ハードなものはルトの体的にキツいだろうしそこまで求めたりは……あっ」
「はは~墓穴掘っとるなあ~」
「死ね!馬鹿ザク!」
蔑みの目でザクたちを見てから、俺は教会の中に戻った。
「悪魔くん、馬鹿やなあ」
「誰が馬鹿だ、干物にするぞ!!」
「ひいいーーーー!太陽イヤーーー!焦げる~~~!」
「焦げろ焦げろお前のせいでルトの機嫌を損ねたんだー!!」
「嘘つけー!ほとんど自爆だったやんけー!」
「うるせえ!干からびて死んでろ!干物にして食ってやる!」
「ひいいいい~」
二人がギャアギャア叫んでる。なんだかんだ楽しそうに聞こえてきた。呆れながらキッチンに向かう。そろそろ昼食の準備をしなければ、と廊下を進んだ。すると裏口の方からノック音がした気がしてそちらに足を向ける。
「なんだろう。セールスかな?」
ガチャリ、とゆっくり扉を開ける。するとそこには
「。。。ルト」
「エス!」
フードを深くかぶったエスが立っていた。その手には何かの袋があり、それを差し出される。
「パスタ、貰い物でたくさんもらったからおすそ分けにきた」
「え!いいのか、もらっちゃって!」
「ああ、ルトがよければ」
袋を開けると袋いっぱいにパスタが入っていた。10、20食分ぐらいある。これだけあればしばらくは食事に困らないだろう。
「うわー!助かる!ありがとな!」
「じゃあオレは」
「そうだ!今昼食の準備してたところなんだ。エスも一緒に食べないか?」
「え。。。いいのか」
「もちろん!それに今…野良の?吸血鬼がいてさ。話を聞いて欲しいんだ」
「野良の吸血鬼?」
一気にエスの顔が引き締まる。
「あ、いや、悪さはしてないから(今は)」
鋭い視線を向けられ、すぐに俺は大丈夫だと伝えた。
「そうか」
頷いて、重い方のパスタの袋を持ってくれた。そのままキッチンに向かう。エスは何度も家に来ているので大体の間取りも把握している。それについていくと反対側から複数の足音がした。ザクがリードを引きずりながら現れる。エスの姿に気づき、顔をしかめた。
「んあ?なんでハーフ野郎までいやがる」
「悪いか、悪魔」
一触即発の二人。バチバチと火花が散っている。俺はすぐに二人の間に割って入って腕を広げた。
「はいはい!そこまで!ザクも食器とか出すの手伝え!」
「っち、こいつと食事かよ。食欲失せるわ。おい!ルトの隣は俺様だからな!」
「どうせいつも隣だろ。今日はオレが座る」
「ああ?どんな時も俺様のだっつの!どけ!」
「嫌だ」
「はあ…二人とも、ご飯中ぐらい仲良くしてくれよ」
昼食用に作ってあったシチューを温め直しながらため息をついた。二人はテーブルの椅子取りでまだいがみ合ってる。
「って、あれ、イーズは?」
振り向く。キッチンには三人しかいない。エスと睨み合ってたザクがリードを引っ張る。
「おい呼ばれてんぞノラ」
「ぐえっ」
鈍い悲鳴が廊下から聞こえた。でも一向に姿は見えない。ザクが、ん?という顔をして強めにリードを引いた。
「おい、何してんだ」
「っぐぬぬ~!」
またしても悲鳴だけ。ザクは飽きたのかそのままリードをはなしたが、俺は気になって廊下に見に行った。そこにはうずくまったイーズの姿がいた。
「イーズ、なにし…」
「しーーーっ」
口に人差し指をたて、静かに、とジェスチャーされる。何をそんなに焦ってるんだろう。そう不思議に思ってると、後ろからエスが顔を出してきた。
「ルト、皿というのはこれでいいのか」
「あ、うんそれと青いやつ」
「ん?そこに誰かいるのか?」
「ああ、こいつがさっき話してたきゅうけ」
パリーン
エスの手から皿が落ちた。地面に衝突したことで皿の破片が飛び散っていく。
「ああ!なにやってんだよエス!」
「……に、にいさん…」
「え?」
エスがイーズを見たまま停止していた。イーズは気まずげに下を向いて笑ってる。
「あちゃあ、バレてもうたか…」
「どうしてここに、家出したはずでは」
「え?ちょ、ちょっと待ってエス!イーズと知り合いなのか?!」
「知り合いもなにも、従兄弟だ」
「!!!」
今度は俺とザクが驚く番だった。まさかの新事実にキッチンが静まり返る。誰もが次の言葉に迷っていたとき
バササっ!!
「ぶ!!っ、ま、またこれか!」
突然のブラックアウト。多分またコウモリが顔に張り付いたのだろう。諦めの境地でなすがままになってると
「きゅーちゃん!!」
イーズの喜びの声が聞こえてきた。そしてクリアになる視界。目の前には、エスのアパートで飼われていたコウモリと涙を流しながら抱擁を交わすイーズの姿が。
「きゅうちゃん?」
「ボクのマスターコウモリ!つまりコウモリたちの司令塔でボクの唯一無二の相棒ちゃんや!」
「へ、へえ…(コウモリが相棒…)」
「探したんやでえ!きゅーちゃんおらんからコウモリたちも元気でえへんし、指令もうまく伝わらんし…!見つけたと思ったらエスのとこおって手出しできひんし、焦ったわあ」
嬉しそうにコウモリを抱くイーズ。その顔には、嘘をついてるような様子はなかった。
「だからきゅーちゃんを誘い出そうと思って、勇者けしかけてルトちゃんピンチにさせたり街を混乱させたり。エスにバレずにやるにはこれしかなかったんや…まあ、無駄骨やったんやけども」
「じゃ、じゃあ今回のドラゴン沙汰も、俺を襲ったのも全て…」
「そう!!きゅーちゃんのためや!!!」
「「…」」
呆れて何も言えない。ザクが後ろで頬杖をつき、深くため息をついた。そして指をパチンと鳴らす。途端にイーズの首についていた首輪がスーっと消えていった。
「紛らわしい吸血鬼だぜ。さっさと視界から失せやがれ」
これでイーズは自由だ。ザクが興味がうせたというように首を振った。その間、エスは落ちた皿の破片を集めている。
「あ、俺も手伝う!」
「ルトは触るな」
「いや、エスだけにやらせるのは」
「この場でルトの血が流れたらかなり危険だろう」
「あ…」
ザク、イーズ、エスと目が合った。そうだ、俺以外みんな人間じゃないんだ。今更ながら自分の無謀さに驚く。エスがふっと笑って皿を拾い上げた。
「何より、あのにいさんもいるからな」
「ええー?エスひどいわあ!ボクをそんな節操なしみたいに言わんでえや!」
「節操なしだから家出したんだろ」
「ロマンチストには窮屈すぎたんやあの城は!」
「もういいから、にいさんも拾って」
「ぶ~~」
エスとイーズ。あれではどっちが年上かわからないな。吸血鬼は見た目じゃ歳はわからないし。エスの方がずっとしっかりして見える。色々とだらしないイーズと並ぶと余計それが際立った。
「あ、にいさん、そのまま進むと破片踏むー」
「いだーー!エス遅いわーい!」
「はは」
無邪気に笑うエス。
(やっぱり家族相手だと違う顔をするんだな)
エスの新たな一面に笑いながら俺はキッチンに戻った。後ろに気配がしてそれがザクだとすぐわかる。独特の視線を感じる、というかなんというか。ともあれ後ろに立たれたままだと色々やりにくいので
「なに」
「そういえばルト、ご褒美は?」
「は?」
「勇者との勝負に勝っただろ」
「それはザクのためで、俺が褒美を与える義理はないだろ」
「つれねえなあ。俺様が負けてたら、あいつに連れて行かれていたかもしれねーのになあ?」
「う…」
確かにそんな流れもあったけど、ザクが負けるとは思ってなかったし。勝つのが当たり前と思っていたからそんな褒美とか用意してないんだけど。にやにや笑いながら俺の答えを待つザク。シチューをかき混ぜながら思考を巡らせた。
(どうしよう…この場でできそうなご褒美とか思いつかないんだけど)
ぐるぐるとシチューを混ぜまくってやっと俺はあることを思いついた。でもそれは、かなり恥ずかしくて、自分で思いついておいてアレだがなかなか口にはできない。
「・・・・っ~~!」
「なんだ、どうした~?」
「・・・・す、」
「ん~~~?」
聞こえないぞ?とジェスチャーをするザク。俺は怒り(と半分やけに)に身を任せてザクの服を掴んで引き寄せた。ひそひそと囁く。
「ざ、ザクが、す、好きだ…に、にゃんっ…!」
もちろん音量は小さめでザクにしか聞こえない程度だ。後ろの皿を片付けてる二人は気づいてる様子はない。だけど、それでも自分の言った言葉に真っ赤になる俺。
(いや、これ恥ずかしい!思ったよりもずっと恥ずかしい!!)
しかもザクのやつ、なんの反応もしてくれないから…俺の恥ずかしさはどんどん上がっていく。
すっ
ふとザクが動いたと思ったら、自分の鼻を指で押さえはじめた。
「ザク?!な、なにして…」
「やべえ…」
ポタタ・・っ
赤い液体がザクの鼻から出てた。
「か、可愛すぎて鼻血が…」
「?????!」
「これは、夜にもう一度言わせたい、いや言わす。じゃねえと死ぬ…自殺するわ俺様」
「ええ?!な、何言ってるんだ!一回だけだって、こんなの…もう無理絶対言えない!死んでも言わないからなっ!!」
「ルトが言わないと俺様が死ぬ」
「はあ~!?」
鼻血を出しながら真剣な顔でそんなことを言われても困る。エプロンでザクの血を拭いてやりながら、俺はため息をついた。
「はあ…悪魔なんか好きになるもんじゃないな…」
心臓がいくつあっても足りない。
「んあ?何か言ったか?」
「~っなにも!ほら、そこの二人も椅子に座って、新しい皿に入れるから」
吸血鬼二人を呼び寄せ、シチューをよそっていく。もちろんザクと自分の皿にも。それから軽くお祈りをして、皆でシチューを食べ始めた。ティッシュを鼻に詰めたザクのギラギラした目は無視して、俺はエスたちの方を観察してみる。
「ニンジンとか何がうまいんや?」
「ルトの食事はなんでも美味しくなる、食え」
「エス性格変わったなあ」
「そうか?にいさんは変わらないな」
従兄弟との久しぶりの再会が嬉しいのか、よく喋るエス。その様子を見ていると、心が不思議と浮き上がる。吸血鬼だってこんな風に笑ったり、家族と楽しく食事もするんだ。人間と同じだ、何も違うことはない。悪魔だってそう。絶対的な悪はいない。どんなに恐ろしく忌み嫌われてる存在でも、だ。だから俺は。
「こういうのがあるから、キライになんかなれないんだよ…アルス」
そんな事を呟いてシチューを口に入れた。
「なーに独り言いってんだルト~」
「なんでもないっ」
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