牧師に飼われた悪魔様

リナ

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第十二章「悪魔様の婚約者」

婚姻の儀

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 ぴょこん!

 =?!…っきゅ!!=

 マント男の服から何か黒いものが飛び出してきた。それはものすごい勢いで俺のもとに走ってきて、そのまま頭突きしてくる。もろに食らった俺は床の上でごろごろと転がった。

 =きゅきぃいいい!(いったあ!!何するんだ!)=

 よく見ればさっきまで一緒にいたカエルだった。マント男の服の中に隠れていたらしい。

 ぴょこっぴょこ

 何を思ったのかカエルは近寄ってきた後

 げし!

 思いっきり蹴ってきた。カエルの足だしそこまで痛みはないが普通にむかつく。

(はあ???なんでカエルに蹴られるんだよ??何回か助けたのに!…って、いや…待てよ)

 目をパチクリとさせ俺は座り込んだ。

 (お前、もしかして・・・いや、そんなわけないよな・・・)

 頭に浮かんだ考えを打ち消す。あまりに絶望的な状況のせいで、とうとうこんなありえない妄想までし始めたのか。けれど、目の前に立ってるカエルは確かにカエルならざる動きをしてる。元々は人間だった動きだ。でもだからってカエルがアイツなわけはない…はず。

(だってザクの体は・・・あそこで・・・)

 “俺”と抱き合ってる。完全に二人の世界でこっちのことなんてまるで視界に入ってないようだ。すぐにカエルに視線を戻すと、カエルが怒ったように地団駄を踏んでいた。

 =きゅう…?(どういうこと…?)=

 げし!げし!

 =きゅううきゅう(何で怒ってるんだよっなんか怖いからやめろって)=

 げしげしげし!!!

 =きゅ!!(聞けってば!!)=

 全く話を聞いてくれない。むしろ怒りがヒートアップしてるし。このカエル全然話が通じない。って、それは相手も同じか。俺はカエルと同じ視線になるよう四つん這いになった。真っ赤な目と至近距離で合わせる。

(絶対に、ありえないとは…思うけど…)

 もしかしてこのカエルがザクだったりするのか。目の前の赤い瞳を見つめてるうちにそんな気がするようなしないような微妙な気持ちになる。

 =きゅ(あのさ)=

 返事はない。当たり前だ。カエルだもんな。

 =きゅうう(俺のこと知ってる?)=

 ぴょこん

 カエルが元気よく跳ねた。いやどっちだ、肯定?否定??わからないけど続けてみる。

 =きゅうう~きゅきゅ(さっきはありがとな。ラルクさんの家に案内してくれたり、シータから守ってくれて助かったよ)=

 ぴょこん!

 =きゅきゅきゅ(ひょっとしてずっと俺を追いかけて見守ってくれてた?)=

 ぴょこぴょん!

 大きく跳ねるカエル。そして、笑うように大きく口を開けて鳴いた。その姿を見て俺にもなんとなくわかった。カエルの言いたいことが。

(そっか、今の俺ってすごい孤独で、誰にもわかってもらえない立場だと思ってたけど…)

 俺にはずっとコイツがいたんだ。辛い時も悲しい時もカエルが後ろで見てくれていた。助けが必要な時は駆け寄ってきてくれて。誰にもわかってもらえなかったわけじゃなかったんだと胸が熱くなった。

 =きゅうきゅ(気づいてくれて嬉しいよ)=

 カエルが左目をパチクリと閉じた。まるでウィンクしたみたいだ。俺はカエルに近づき、その額に顔を寄せた。

 ちゅっ

 =きゅう(ありがとう、ザク)=

 俺たちの体を白い光が包み込んだ。

 ッカ!!!!

 白い光が俺たちの体を暖かく包み込み、次に目を開けた瞬間

「・・・・!!」

 両手を広げて確認する。ふさふさの毛皮はなくなり、いつもの人間の手が見えた。

(人間に、戻ったんだ・・!!)

 元に戻れた嬉しさを噛み締めてると体を何かが締め付けてきた。ぎゅうっと絞られそうな勢い。

「ったく、一時はどうなるかと思ったぜ…」
「!!」

 焦ったような声が耳元でした。ザクの声だ。

(よかった・・ザクも戻ったんだ)

 色々な感情が混ざって涙ぐむ。

「く、苦しいって…ザク!」
「ちょっとぐらいいいだろ。さっきまで勝手に体使われてて動かせなかったんだし」
「え?」

 顔を上げてみると、何故か全裸状態のザクと目があった。俺はその事実に悲鳴をあげかけた。けれど、さっきまでザクは偽物の俺と抱き合っていた。

 (でもカエルがザクだったんだよな??)

 混乱したままベッドの方を見ると、ハナさんが寝ていた。裸のままベッドのシーツで体を隠している。そのままゆっくりと起き上がった。

 ざっ

 すぐに部屋の隅にいたマントの男が近寄り、女物の服を手渡した。

「ど、ど、どういう状況だよ…?ザク!」
「あーまあー説明しにくいんだけどよ。俺様の体と意識?を切り離されちまってさ」
「ザクの体と意識??」

 リリを生き返らせた時みたいに、意識と体が分離してたってことか?

「目が覚めたらカエルの体だし言葉も通じねえしよ。しかも俺様の体は勝手に使われててほんと最悪の気分だったぜ」
「…そう、だったのか」

 そんな状態なのに俺を探しに来てくれたんだ。俺よりもずっともどかしかっただろうに。

 ぎゅっ

 ザクの体におずおずと腕を回した。少しだけギュッと力を込めるとザクが頭に顎をのせてくる。汗をかいていい感じに暖まったザクの体は抱きしめてるだけで全てを満たしてくれるような気がした。

「さて、そろそろ話を聞かせてもらうぜ、ハナ」

 ザクが舌打ちしながらハナさんの方を見た。ハナさんは全く動じた様子がない。もしかしたらこうなるのを予想していたのかもしれない。服を着終えてベッドから出た。こんな時でも所作が丁寧で気品を感じさせる。

「ザク…あなたの方こそ、何をしてるのか理解できていますか?」
「ああ??」

 ハナさんが俺を指差す。彼女の瞳には軽蔑、いや嫉妬の色が映っていた。俺は目をそらすことなく、それを真正面から受け止める。ザクにまわした手も離さない。

「あなたは王となり私と結ばれるはず。なのに何故、短命で、子も生めない。愚かな人間を選ぶのです」
「けっ。お前には悪いことをしたと思うぜ。だが俺様たちは元からそういうのじゃなかったろ?」
「私は…それが使命だと弁えてます。私の意思など関係ありません。使命を果たせればそれで…」
「じゃあ一番上の兄貴と大人しく付き合えばいいだろ。王位継承者はあっちだ」
「…」

 黙り込むハナさん。下唇を噛んで何も言わない。きっと彼女、ザクの前では素直になれないのだろう。その気持ちもなんとなくわかる気がする。

「俺様は元々、王になるつもりなんてなかった」

 ハナさんが驚いて顔を上げる。俺も「王」という言葉に驚いた。今まで何度かザクが王子呼びされてるとこに出くわしてきたけど、やっぱりザクのやつ、俺になにか大事なこと隠してるんだ。ザクを睨みつけるとポンポンと頭を撫でられる。

「それは夜話すっつったろ」
「今、夜だけど」
「わかったって。んな睨むなよ」

「では、あの時…屋敷で私に話しかけたのは何故ですか?」

 絞り出すようにハナさんが呟いた。

「別に話しかけるのに理由はいらねーだろ。強いて言えば似てたからか」
「似ていた・・・?」
「自分の置かれた環境に不満を持ちつつ、それを拒むこともできない立場。あんたの瞳の奥にもそんな色が見えたぜ」
「・・・!」

 ハナさんが目を見開き体をふらつかせる。すぐさまマントの男が体を支えた。表情はマントで隠れていて見えないが執事か何かなのだろうか。

「確かに私は自分の使命を抗うことはできませんでした。でもあなたとなら・・・それでもいいかもって・・・」
「ああ。でも悪いな、今の俺様はもうお前を選ぶことはできない」
「ルトさんのためですか」
「おう、ルトが隣にいてくれれば何もいらねー、そう思えちまったんだよ」
「・・・・」

 ハナさんはそのまま口を閉じ、拳を握り締めた。黙ったまま動かなくなる。

「馬鹿馬鹿しい、人間と悪魔などうまくいくわけがない」

 マントの男が前に出て「馬鹿馬鹿しい」と言った。綺麗な顔を歪ませザクを睨む姿はやけに迫力があった。

「エルオ」
「ハナ様は黙っていてください」
「いいの、私はもう…」
「ハナ様!」

 エルオと呼ばれた男は顔を赤くして怒りだす。その勢いにハナさんも口を閉じてしまった。ザクの腕がすっと離れて、パチンと手を鳴らした。いつもの服に着替え臨戦態勢になる。

(まさか戦う気なのか?!)

「ザク様。僭越ながらわたくしめがあなたを半殺しにさせていただきます。そしてハナ様と婚姻されるべく連れ帰させていただきます」
「けけっお前どこかで見たことある顔と思ったら、ハナの家の堅物執事じゃねーの」

(えっ!執事?!)

 その事実に一人驚いてるとエルオさんがマントを外した。その下から細長い杖のようなものを取り出し構える。彼の愛用する武器のようだ。年季が入っているがよく使い込まれている。

「お前、俺様がハナの家行く度にすんげー怖い目で睨んできたよなあ?ハナをこんな所までつれてきてしかも幻覚の手伝いもするたあご立派な執事だぜ」
「あなた様ではハナ様に相応しくないと思っただけです」
「じゃあなんで今になって連れ戻そうとすんだよ、意味わっかんねえ奴だなあ」
「・・・、永遠にわかることはないでしょうね」

 そう言って互いにぶつかり合う2人。ザクは爪で、エルオさんは杖で。甲高い衝突音が部屋に響きあう。ザクの蹴りを器用にかわすエルオさんは大分戦い慣れているように見えた。接近戦には強いはずなのに、ややザクが押され気味だった。ザクも驚いているのか、一度距離をとって腕をまくる仕草をする。

「っは、お前ひょろひょろの癖に強いな」
「恐れ入ります」
「けけ。聞いたことあるぜ、確かあそこの執事は用心棒の役もやってるんだよな?こりゃ半端な奴じゃ勝てねーわ」
「ええ、あなた様のような野良猫を追い出すための存在ですからね」
「言うねえ~」
「おしゃべりはもういいでしょう」

 涼しい顔で急所を的確に突く。ザクはそれをひょいっとギリギリで避けた。なんとなくだが体と精神が分離していた反動なのかザクの動きが鈍い気がする。

 (ザクが負けたらどうしよう…ハナさん達に連れて行かれてしまうのか?)

 そんなの嫌だ。でも人間の俺にできることなんて何もない…

『人間にはわかりません』

 さっきのエルオさんの言葉を思い出した。

(あれ・・・?)

『相応しくないと』
『永遠にわかることはない』
『あなたが選ばれた理由がわかった気がします』

 彼の今までの言葉が引っかかった。

(今の会話といい…もしかして彼は…)

「ザク!待ってくれ!エルオさんとは戦わなくていい!」

 二人に近づきながら叫ぶ。今気づいた事を口にしようとした。

「エルオさんはハナさんのことが」
「っ言うなあ!!!!」

 エルオさんが血相を変えて飛びかかってきた。あまりの速さに、誰も反応できなかった。彼の手が俺の首にかかる。そして一気に締め上げてきた。

 ギリリッ

「ぐうっ…っ、…え、るおさっ…!」
「それ以上口にしてみろっ!首をへし折るぞ!!ルト・ハワード!!」
「…で、も…っぐっ、ゴホゴホ!」
「ルト!!」

 俺に危機が迫り、ザクの瞳には焦りと憤りが浮かんでいる。瞳が真っ赤に染まっていた。

「ルトから離れろ!イカレ執事が!!!」

 ピリピリと強い殺気を纏ってエルオさんを睨みつけている。やばい、これ以上戦闘を続けたらザクを暴走させてしまう。

(でも、このままじゃ…俺もやばい…!)

 ぎりぎりと食い込む指のせいで意識が少しずつ薄れてきた。

「もうやめて!エルオ!」

 今まで固唾を呑んで見守っていたハナさんが俺たちの前に飛び込んできた。

「ハナ様!?」

 エルオさんの動きが止まる。指に入っていた力も一気に弱まった。むせ込みながら息を整える。

「げほごほ!うっ…ハナ、さん…」
「ルトさん。エルオ。私のわがままで巻き込んで…申し訳ありません。私は、もういいんです」
「ハナ様…何を言って…!こんな終わり方でいいわけがないでしょう!!あなたはっもっと我が儘をいってよいのです!」

 今までの落ち着いた様子が嘘のようにエルオさんは必死だった。ずっと言えなかった気持ちを吐き出すようにハナさんに投げかけていく。

「ほとんど会話を交わすことのない一族の者達の為に、あなたが犠牲になる必要はないのです!」
「…エルオ」
「わかってます。こんな出すぎた事、執事の自分が言えることではありません。だからせめて…あなたが心を許した方と結ばれて欲しかった。どうにかして願いを叶えさせてあげたかった」
「だからついてきてくれた…のね…」

 おかしいと思った、とハナさんは呟いた。

「あれだけ規則に厳しかったあなたが私についてきてくれるなんて不思議だったの。規則をたくさん破る事になるのにって」
「お止めする事ができず申し訳ありません」
「いいの。ここに来るのを許してくれたおかげで…ザクの気持ちが確かめられた。なんとなくわかってたけど…心でちゃんと納得できたわ。踏ん切りがついたのはあなたのおかげよ、エルオ」
「ハナ様…」

 ハナさんの指が俺を掴むエルオさんの手を優しくほどいていく。解放された俺は床に座り込んだ。それにザクがとびつく。すぐにその広い背の後ろに隠された。ハナさんは俺を庇おうとするザクを見下ろした。

「ルトさんを見た時から…いえ、ザクと初めて出会ったあの時から、わかっていたわ」

 彼と結ばれることはない、と。私とは違って胸の奥に野望を秘めてるあなたと私は決定的に何かが違うとわかっていたから。だけど。

「でもそれを認めてしまったら私は誰にも愛してもらえない…ただの人形ということを認めなきゃいけない。それは悔しくて、認めたくなくて、こんなことをしてしまった。巻き込んで本当にごめんなさい、ルトさん、ザク…そしてエルオも」

 泣きそうな顔で謝ってくる。後ろに立つエルオさんがそれに手を伸ばそうとして・・・でも、結局その手は下ろしてしまった。執事の立場としては簡単に触れるわけにはいかないのだろう。

「ルトさんがザクを見つけた瞬間、すべての幻術は解けています。街全体も人間たちの姿も全て元通りになっています。それに伴い今回関わった全ての記憶も消去してあるのでご安心ください」

 ハナさんがテキパキと説明し窓に近づいていく。

「虫のいい話ですが、これで失礼させていただきます。明日、婚姻の儀があるので、色々と準備をしなければいけないのです」

 婚姻の儀。ハナさんは明日結婚するってことか。突然のことに言葉を失った。

(明日結婚するから…最後の希望でザクに会いに来たのか…?)

「それでは、お幸せに」

 そう言って笑うハナさんは、どこか決心した顔をしていた。それを見ていたらいてもたってもいられなくなって、エルオさんの背中を力いっぱい押していた。

 ドン!!

「?!なっ、ルト・ハワード…何を!」
「行け!今行かないと絶対後悔するから!」
「しかし」
「あんた言っただろ!あんたのことを聞いたとき「俺が知る必要もないわかるわけない」って。確かに俺やザクにはあんたの思いが一生伝わらなくてもいいけどさ…!!ハナさんには伝えた方がいい!」
「・・・っ」

 背中をもう一度押すと、エルオさんはゆっくり前に出た。一歩、また一歩。けど、彼女から少し離れたところで立ち止まってしまう。不思議に思ったハナさんが振り向いた。

「エルオ?どうしましたか。行きますよ」
「…はい、お供します」

 差し出された彼女の手を取る。その滑らかな動きは執事そのものだった。そして流れるような仕草で彼女を抱き寄せた。

 とんっ

 エルオさんの腕に抱きとめられ彼女はキョトンとしている。

「っえ、エルオ?!」
「ハナ様。申し訳ありません、今まで言えなかったことがあります」
「・・・?」
「一言、いえ何百の言葉を飲み込んできました」
「エルオ?」
「誰よりも美しく優しいあなたに、血筋だけのあんな悪魔は相応しくない」

 ザクを指差し吐き捨てる。「なんだとゴラア」と青筋を浮かばせるザクをなんとか宥めた。黙って二人を見守る。

「一族の為に尽くそうとするあなたは…戦う事しかしてこなかった自分には太陽のようでした。眩しすぎて、触れる事ができない存在だったのです」
「エルオ?何を言って……」
「婚姻の儀になど、行かないでください。自分と暮らしましょう」
「え?!」
「あなたが好きなんです」
「・・・っ!!」

 エルオさんはやっと胸のつかえがとれたというような清々しい顔をして微笑んでいる。ハナさんの前に膝まづき彼女の手を取った。

「ずっと、あなたを見ていました」
「・・・」
「あなたの一番の幸せを願ってきました」
「ええ、知ってます。私につきっきりであなたの時間を作ってあげられなかったわ」
「あなた以外見えませんでしたから。自分で見えなくしていただけです」
「そう、だったのね」

 俯いたまま小さく彼女が呟く。彼女の声が震えてるのはわかった。

「“つまらない”人生はもう嫌です」

 涙で濡れた顔をあげ、笑った。エルオさんに手を伸ばした。

「エルオ、私を拐ってください」
「!」

 エルオさんはその手を取り口付けた。

「・・・喜んで」

 床に落ちていたマントを拾い上げ、ハンカチで優しく彼女の頬を拭うエルオさん。その後、俺たちの方に目を向けてきた。

「申し訳ありません。お二方、世話をかけました」
「ルトさん、本当にごめんなさい」

 すっきりした顔でそう言うのだから怒るに怒れなかった。それにちょっぴり感動しちゃったし。

「俺は平気です」
「ああ?!平気なわけあるかー!俺様は忘れねえぞ!勝手に体使いやがって高くつくぜ!」
「一応言っておきますが、ベッドでのことは全て幻覚ですし、私とあなたは何も触れ合ってませんよ」
「「えっ」」
「本当です、ルトさんに見せるための幻覚でしたから、私たちは寄り添っていただけです」
「だ、だとしてもダメだ」
「どうしたら許してもらえますか」

 困ったという顔をするハナさん。俺は「おい」とザクの体をつついた。

「ザク。そんな怒んなくてもいいだろ。元に戻ったんだしさ」
「いやだめだっ絶対許さん!」
「・・・ザク」

 ザクは頭を振り、そしてふんぞり返って言い放つ。

「二人揃ってまた俺様たちに顔を見せにこい!じゃねえと許さねーからな!」
「!!」

 ザクが照れながらしっしっと手を振る。

「ザク…あなたって人は」

 嬉しそうにハナさんが笑う。その顔を見てると俺まで嬉しくなった。教会に訪れた時とは違って、彼女はもう泣いてない。一人でもない。彼女の手はエルオさんがしっかり握っていた。

「・・・ザク、約束しましょう。また来ます」
「おう。俺様の数すくねー女の友人なんだ。ちゃんと顔見せろよな」
「ふふ、もちろん」

 笑った後、ハナさんが俺の方に視線を向けてくる。

「ルトさん。次はちゃんと…良い時間をお聞きしてからお邪魔しますね」
「いっ!は、はい…」

 教会でイチャついてたのを茶化された(ハナさんと初対面の時の)のだとすぐにわかり赤くなりながら頷いた。

「では、また」

 二人は手を繋ぎながら闇に消えていった。その後ろ姿を焼き付けながら、俺も隣の手を握ってみる。暖かった。

「ほんと人騒がせな奴らだなー」
「お前が言うか」
「けけけ」

 しばらくそうやって、二人で手を繋いだままでいた。
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