牧師に飼われた悪魔様

リナ

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第十章「フラれ悪魔様の告白」

★イカれたカップル

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 しばらく街を歩いていたが、結局何も手がつかずあのバーに来てしまった。手持ち無沙汰なままカウンターに座る。マスターは俺様の事を見て黙って昨日と同じ酒を出してきた。

「...っは」

 昨日と同じ酒なのに、昨日より苦く感じる。

「お?あんたはルトの」
「?」

 酒を飲みまくってると後ろから声がかかる。聞いたことのある声。首だけ動かし後ろを見た。そこには短めの黒髪の男、バン(だっけな)がいた。ルトが兄のように慕ってる男だったのでそれなりに覚えている。胡散臭い奴だからあまり好きじゃねえけども。そいつからはかなり強い酒の匂いがした。既に飲んでいたっぽいな。そいつに続いてもう一人誰かがバーに入ってきた。

(あ、こいつも見覚えのある...)

「お!いつぞやのイケメンおにーさん」

 アイザックだった。まるで友達のように手を振ってくるので無視した。

「ん?アイザック達、知り合いなのか?」

 バンが不思議そうにこっちを見てる。俺様は肩をすくめて返事をした。それから背中を向け酒に戻る。

「よっこらせ」
「失礼しま~す」

 当然のように隣に座ってくるアイザック。その隣にバン。俺様はため息をついたあと何も言わずまた飲みだした。

「なあ、おにーさん」
「...」
「なあってばー」
「...」

 アイザックは俺様に無視し続けられているとふと考え込むような素振りをした。その後、閃いた!というように話し出す。

「もしかして、フラレた、とか?」
「!!」

 まさかのアタリ。一瞬、グラスを握る力が強くなった。鋭いアイザックはそれを見逃さない。

「んにゃ、図星かー」
「...だったらなんだよ、お前には関係ないだろう」

 特に恋人がいるお前にはな。少しきつめにあたってしまった気もするがこの場合構ってきたのはあっちだ。自業自得だろう。

「なにいってんの、おいとおにーさんは親友だろー!」
「...は?誰が親友だって?」

 酔った赤い頬を近づけて怒ってくる。奴の頭を掴んで後ろに倒す。めげずに近づいてきた。細い癖に意外に力が強い。

「おにーさん、名前は?」
「あ?んー・・今は、ねーな」
「へ?」

 ザクという名前は、ルトという「人間」と契約するために作った仮の名前だ。真名ではない。真名を知られることは命を差し出すも同然。

(真名を知れれば呪文一言でその悪魔を殺すことができる)

 もう俺様は、ルトのための悪魔ではないから、ザクと名乗る必要もない。

「...」
「...ふーん、つくづく不思議な人だなあ」

 笑いながら俺様の酒を取り上げ飲み干すアイザック。おい!と目で訴えると手をぐいっと引かれた。

「こんなとこでいるより、もっと発散できることをしよーよ!」

 ルンルンで引っ張っていくアイザック。

「っちょ、おい...はあ」

 もう、なんかどうでもいい。別に俺様が誰といようともう咎められることはない。黙ってついていくことにした。俺たちの様子をバンはカウンターから黙って見ている。あの様子じゃ止めるつもりはないようだ。

(こいつに恋人いるって知らねーのか?知ってて放置なら...それはまたすごい性格だなー)

 つくづく良い性格をしていると思う。

「ったく」

 酒代を払い俺様たちはバーを出た。アイザックは迷うことなくどんどん狭い路地を進んでいく。この入り組んだ路地は、ここらで有名の“蛇の住む路地”だ。どこからともなく喘ぎ声が聞こえてきた。進めば進むほど声も増えてくる。夜も更けた今、ここは完全にハッテン場になっていた。喘ぎ声がすぐそこに来てもアイザックは気まずそうな顔を一切しない。ということはここの事を知らないわけではない、ということか。

「さて、ここら辺でいいかなー」

 奥の奥に十字路になっている場所を見つけた。建物に囲まれているとは言え、真上に大きな満月がありかなり明るい。アイザックは十字路の真ん中に置いてあるゴミ箱に腰掛けた。そして、挑発するようににやっと笑ってくる。まるでチャシャ猫のように怪しい笑み。

「じゃあおにーさん、楽しも?」
「...」
「男とのやり方がわからないならおいが教えてあげるけどっんんっ」

 うるさい口を手で塞ぐ。すると奴はぺろりと指のあいだを舐めてきた。濡れた舌を指で掴み引っ張る。

「俺様は男とじゃまず勃たねえ、やりたかったら自分で世話しろ」
「~」

 舌を引っ張られてるので喋れないようだ。そのまま手を離さず話し続けた。

「あと、べらべら喋るな」
「ー・・」

 えーというような顔をしたあと渋々頷く。それを確認して手を離した。奴は何も言わず手を伸ばす。ズボンをさげ俺様のを取り出し、躊躇することなく咥えた。

「...」

 目を開けてると萎えそうなので空を見ておくことにした。そういや、そろそろ人間の肉(体液でも可)を補充しねーといけねーんだったな。ルトに拒否られてお預けくらったままだった。元々飢えていた体。それに加えアイザックがかなりのテクで俺様のを高めていく。

 (ふーん…)

 男なんて無理だと思っていたが実は俺様は得意な方なのかもしれない。

 (それに、ちょっとルトに似てんだよな…)

 前髪で顔が見えないと余計間違えそうになる。おかげで無理だと思っていた体が反応し始めた。できるじゃん、と意味ありげの瞳でアイザックが見上げてきた。

「...っは、」

 少し強めに喉を突いてやった。苦しそうに歪む顔。うん、いいな。これならいけそーだな。そう思い奴をゴミ箱の上でうつ伏せにさせる。目の前にきた腰を掴み、念のため今から突っ込むそこをほぐした。その刺激で軽くアイザックは声を上げる。

「あうっ..っふ...もう、だいじょ、ぶ、だし」
「あ、そう。じゃあいれっぞ」
「うん..んんああっ!」
「おお、すげえ。普通に入った」

 先の方は強めに押したがそこを通り過ぎればあっという間に全部入ってしまった。さてはこいつ相当遊んでるな。それか、恋人とかなり使ってるか。そんな下世話なことを考えながらも黙々と腰を動かした。自分の快感を求めて気の向くままに。

「ううっ!あんっやっはや、いっ!ん、んっ!ああっハア」
「ハア...ハア..なかなか気持ちいいぜ、猫ちゃん」
「それっ、は、どーもっんんんんっ!」
「っは、気持ちよさそうに咥えちゃってまあ」

 奴の感じるポイントを強めに突いてやると軽くイったようだ。ガクガクと震えながら刺激に耐えている。

「おーい、大丈夫かー」

 繋がってる部分を指でつつくとアイザックはビクビクと背中をそらした。

「んんんっ!ばかあ!そんなとこ、つつっうああっあん!」

 大丈夫そうだったので動きを再開する。卑猥な水音が路地に響いていく。ふと辺りを見ると見物人がいた。それも複数。十字路の道にそれぞれ数人。各々絡んでいたり俺様のを見ながら自分のを慰めている。

「おい、アイ」
「んんっな、に」
「ギャラリーがいるけど」
「んあっ、見せつけて、やれ、ば?にゃはっ」
「あ、そう」

 お前がいいならいいけどさ。そう思いまた強めに突く。

「ああっ!」

 気持ちよさそうに顔を歪めるアイザック。腰が引けそうになるのを手で引き寄せる。そのまま奥まで刺す。うーん、なかなか。

(なんだかんだで楽しくなってきた)

 この行為がただの現実逃避なのか、憂さ晴らしなのか。それとも両方か。どっちにしろ俺様に失うものはない。それならこの状況を楽しんだほうが得だろう。目をつぶり自分の欲のままに動く。

「そういや、さ。お前らうまくいってねーの」
「え?ハア、ハア」

 行為の合間、少しだけ興味がわいて聞いてみた。もちろん行為は続けながら。この前は意気込んでパーティの話をしていたというのに。今日も結局こうやって俺様をたぶらかしているということは、失敗したのだろうか。にゃは、と乾いた笑い声をあげるアイザック。

「うーん。パーティはうまくいったよ。懐かしいやつとも会えたし面白い子とも会えたから。でもクリスは何も変わらなかった、当たり前だけど」
「...」
「おいとクリスは幼馴染なんだーおいが昔こっちに移り住んだばかりはこの髪のせいで色々いじめられて」

 そう言って自分の髪を指差す。美しい藍色の髪。悪魔の俺様ですらあまり見かけない、かなり珍しい色だとは思った。

「それをクリスに助けてもらってた。嬉しかった。その時からずっとクリスが好き。クリスもおいを守るためとか言って今の仕事をし始めたんだよね。命の危険だってあるなのに即決。男らしいよほんと、にゃはは..」
「...」
「おいのための仕事なのはわかってる。忙しいのもわざとじゃない。仕方ない。ちゃんとわかってるさ。でも、さ、恋人なら...」

 そこから先は何も言わず、支えにしてるゴミ箱に突っ伏した。俺様はそこまで黙って聞いたあと...ワシャワシャと頭を撫でてやる。落ち込む姿がルトがかぶったのだ。もしかしてルトも不安に思っていたりしていたのだろうか。

 (俺様は伝えてるつもりでも、気持ちがちゃんと伝えれてなかったのでは?)

 不安を気づいてやれなかったからあんな風に泣かしてしまったんじゃないのか。ビンタしてきたルトの顔を思いだす。何か言いたそうな、顔だった。言いたいけど言えない、そんな顔。

「...」

 どこか安心していたのかもしれない。やれているから、体を許されてるから心も許されていると思っていた。拒絶されないから、俺様はルトの中で特別なんだって。

「...そうだよ、な」

 行為をするから恋人、じゃない。そうだとしたら...どうすれば恋人になれる?

「...」
「...」

 アイザックも俺様も、お互い黙り込んで動きを止めている(突っ込んだまま)と

「アイザック」

 冷水のような、冷めた声が降りかかってきた。なんとなくだが、察した。多分今喋ったのは

「…クリス」

 俺様の代わりにアイザックが男の名を呼んだ。

「・・・アイザック」

 クリスの瞳は凍りついていた。視線だけで人一人殺せそうだ。なんて考えていると奴は腰にさしてあった剣を抜き俺様に向けてきた。

「またお前か」
「けけ、いや~これには、わけが…ないんだけどよ~」

 本当に、ただやりたかったからやっただけ。言い訳もなにもなかった。その態度を見て、どんどんやつの顔が険しくなっていく。危険すぎるのでアイザックから自身を引き抜いた。その刺激で小さく喘ぐアイザック。

「んんっ」
「アイザック…!」

 よろけそうになったアイザックの体をクリスが受け止めた。心配するように体の傷を確認する。

 (俺様は痛めつける趣味ねえから傷なんてついてないけどな)

「アイザック。どうして何度も裏切るような事をするんだ!?」
「にゃは...なんっで、だろうね?」

 何を思ったのかクリスは、アイザックの首を絞めた。アイザックはその痛みに顔をしかめている。

「俺はこんなにも愛してるのに」
「んぐっ、わかっ、てる…」

 首を絞めながら愛を唱えるクリス。悪魔の俺様から見てもいい趣味だと思った。でも別段嫌がった様子を見せないアイザックを見ると、これが奴らの形なのかと納得した。

(色んな恋人の形があるもんだ)

「っんんっ...でも、足りないんだ」
「!」

 アイザックはゆっくりと、気持ちを吐き出していく。

「クリスに、もっと愛されたい」

 溢れてくるように言葉が次々と出てくる。その様子に驚くクリス。

「アイザック?」
「大事にされてるのはわかってるけど、それだけじゃ埋まらない気持ちが、あるから・・・だから」

 アイザックの、珍しい弱った顔。

「もっとおいを見て、苦しくして、愛してよ?」
「!!」

 愛してと涙するアイザックの顔を見て、クリスは慌てて手を離し跪いた。

「...すまなかった、アイザック」

 そう言って抱きしめた。そこには先程までの冷徹な顔はどこにもなくて。恋人に泣かれて困ってる、ただの青年がいた。

「っ..!」

 抱きしめられ安心したように泣き笑いをするアイザック。

 二人を見て、わかった気がした。今俺様がすべきこと。それはここにいることじゃない。俺様は―――・・・

 ザアアアア

『ほう、これはまた面白いですねえ』
「!!!?」

 皆が上を向く。

「お前はっ・・・!」

 上空に身綺麗な正装に身を包んだ悪魔が立っていた。その下には俺様が悪魔界と行き来するときに作ったような扉がある。

 (あの悪魔はさっきの総会でも見たな)

 第三王子のアクスだ。アクスは赤茶色の髪をなびかせ、偉そうに俺様たちを見下ろしてる。

「...アクス、なぜここに」
『驚きましたよ、兄さん。大分嗜好が変わられたようで』

 俺様達のことをしばらく観察していたのだろう。アイザックと俺様を蔑むように一瞥する。

『これも仕事の何かの手がかりになるのかと見守っていたのですが。ただの痴話喧嘩ですか?』
「けっ。お前こそこんなとこで油売ってていいのかよ」

 お互い王の息子として仕事をしているはず。アクスはここの街よりずっと離れた海の国の担当だ。といっても長男や俺様みたいに現地で探るのではなくガーデンで資料の処理をするだけだがな。だから、奴がここに来る理由はない。

 (なぜアクスがここにいる?)

『父上のお言葉をもう忘れたんですか?さすがの能無しですね。』
「んなっ!!」
『仕事を放棄していると判断されれば見張りが送られる、と言われたでしょう?今さっき』
「...ああ、そういえば」

 とぼけたように笑ってやると、アクスはイラついた様子で俺様を睨んできた。

『何故こんな奴が私達と同じ王の血を...ありえない』
「けけ」
『笑うな!!』

 グサッ

 首に、アクスの鋭い爪が刺さる。気道は無事だが口の端から血があふれてきた。アクスは昔から頭に血が上るとパワーセーブできなくなる。目の前に現れたアクスを笑みを浮かべながら見下ろした。

「っは...まだまだ、子供だな」
『うるさいうるさいうるさい!!!!お前は昔からそうだ、王の面汚しめ!!』
「他人の面なんて気にしてどうすんだかっぐ」
『汚い口を閉じろっ!!もうこの際だ。消してしまおう。うん、きっとそれがいい。王にとっても悪魔の世界にとっても忌み嫌われる、そんなお前は、惨めな死がお似合いだ!!』

 独り言のようにぶつぶつと言っている。爪がより深く食い込んできた。

「っけ、馬鹿馬鹿しい...ガハッ!..っ他人の価値でしか自分を測れないなんて、哀れだぜ、弟くん?」
『黙れ!!』

 アクスが半狂乱で叫ぶ。バリバリっと轟音がして雷がすぐ横の建物に落ちた。悲鳴が聞こえてきて下を見る。それまで俺様たちを観察していた奴らが慌てて逃げていく。そこで、道の中央で抱き合いながら俺様を見るアイザックたちと目があった。

「おいそこのイカレカップル、悪いことは言わねー。さっさと逃げとけっ!ゴホ!ごほ!」

 喉の爪が気道に侵入してきた。痛みで視界が歪むがそれでも口の動きは止めない。逃げろ、そう伝えるとアイザックが前に出てきた。

「何言ってんだよ!おにーさん大変じゃん!」
「俺様のことは気にすんな…!」
「えええ??クリスどうしよっ」
「…街の平和を乱す存在は俺が斬る」

 クリスが恋人を後ろに隠しながら剣を抜いた。

(やばい!!)

 それを止めようと腕を伸ばすが、アクスが先に動きだしていた。

『斬るだって?人間ごときが笑わせるなあ!!』

 クリスは強い。だが、それは人間レベルでの話だ。現にクリスはアクスの爪に反応できていない。このままだとクリスは腹を貫かれて死ぬだろう。いや、もしかしたら、それをわかって剣を向けてるのだろうか。

 (自分が貫かれてでもその剣で仕留めるつもりなのか?)

 恋人を守るためなら命を投げ出すってのかよ!?頭だけじゃなくて生存本能もいかれてんのか??

「っっ、あああーー!もう!」

 グサリ!!
 ずぶぶっ!

「えっ...?!」
『なっ...は?』

 前後から驚きの声が聞こえる。そりゃそうだろう。前後から剣と爪に串刺しにされてる自分の体を見下ろす。

 (ほんと…何やってんだろうな)

 視界がぐらりと揺れた。そして

「ガハッ...」

 膝から崩れ落ちる。
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