牧師に飼われた悪魔様

リナ

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第八章「迷えるキマイラ」

★特効薬

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 グルルルウウウッ

 茶色の髪は腰まで伸びていて、爪も獣のように鋭く尖ってる。

「・・・!」

 俺たちが駆けつけた部屋にいたソレは、唸りながらうずくまっていた。辛うじて人の形を保っていたがまるで悪魔のようだ。

「リオ!」

 カプラがソレに駆け寄る。

「リオ!!聞こえるか?」
「グウ、ウウウウうう...」

 返事はない、ただ獣の唸り声のような低い声が部屋に響くだけだった。

「あれが...リオなのか?」
「ええ、そうですよ」
「な...」

 確かにザクも双子のことを人外だと言っていた。でもいざそれを目にすると、この非現実を否定したい気持ちが浮かんでくる。俺が狼狽えてる間もカプラはリオを揺すり続けていた。目を覚ませるためなのだろうか。血相を変えて叫んでる。

「リオ!起きろ!大丈夫!ここは安全だから!」
「...ウ...ア、は」
「リオ?!おい、目が覚めたか?おれわかる?」
「...す、まん、カプラ」

 余韻なのか、まだリオの口から牙が出てる。俺がそれから目を離せずにいると、荒い息をしたリオと目が合った。

「...ルト、せんせい?」
「えっと...大丈夫か?」
「ああ、情けない姿を晒しちまったな」

 リオが困ったように言う。

「俺は、気にしてない。知っていたし」
「ありがとう」
「でも...」
「?」
「いや、なんでもない」

 言いかけたことを飲み込む。

 “もしかしてお前がキメラなのか”

 なんとなくこの状態のリオには言いたくないと思った。嫌な予感が俺の脳の奥に広がっていく。気のせいだと頭を振っても先ほどのリオの姿が瞼の裏から離れてくれなかった。

「あとはおれが世話しとくから」

 そういってカプラに部屋を追い出された。俺は廊下に出たあとも黙り込んだまま動けずにいた。隣にいたラルクさんが気遣うような視線を送ってくる。

「...ルトくん、もう遅いですから帰った方がいいですよ」
「あ、...もうこんな時間か」

 ポケットに入ってた懐中時計を見る。もう8時だった。窓の外も真っ暗で街の光が星のように光ってる。

「屋敷に泊まっていただいても全然よろしいのですが」
「いや、それは流石に悪いし遠慮しとく。悪魔の事、教えてくれて助かったよ」
「お役にたてて何よりです」

 玄関に向かおうと背を向けたとき、声をかけられた。

「ああそうだ、ここからの帰り道は振り返ってはいけませんよ」
「え?」
「ついてこられちゃいますからね」
「なにが!?」
「振り返らなければ問題ないですから、では」
「ちょ!ちょっとラルクさん??!」

 そう言って問答無用で屋敷から追い出されてしまう。俺は足を止め振り返りたい衝動をこらえる。まさかこんな、最後の最後に怖いこと言われてしまうなんて。

(だ、大丈夫だって...どうせラルクさんのいたずらで)

 さわわっ

 右手に何か毛の塊みたいなのがかすった気がした。ひいっと叫んで飛び上がる。

「もう嫌だこの屋敷!!」

 恐怖と苛立ちを込め走り出す。

(振り向くな振り向くな!)

 たとえ足に何か骨っぽいのがあたっても、何かの指で髪を引っ張られても、子供が笑うような声が聞こえても!!走れ俺!!振り返るな!!

「はあ、はあ!!」

 帰り道も半分きたところで息が切れ、立ち止まってしまう。誰もいない路地で一人息を整える。

「さすがに、もう、いいか?」

 怖いから振り向く事もできない。とりあえず肺が落ち着いたところでまた歩きだした。誰もいない。街灯もチカチカと消えたり付いたり不気味に光ってる。

 トコトコ

「...」

 トコトコトコ

「...。」

 トコトコトコ

 あれ。おかしい。こんなにこの路地って長かったっけ。

「・・・」

 そう思えば思うほど異変が際立って見えてくる。歩いても歩いても先にある教会の時計台が近づいてこない。それに

 ガリっ

 手近にあった壁を引っ掻いてまた歩き出してみる。すると、その引っ掻き傷の残る壁の場所にまた来てしまった。

「嘘だろ」

 ループしてる。この路地は普通の路地じゃない。冷や汗が額から顎に流れていった。

(いつから迷い込んだんだ・・・いや、そんな事考えても仕方ない!)

 足を止め、落ち着けと自分に言い聞かせた。後ろはなるべく見ないようにして周囲を観察する。だが怪しいものはパッと見なかった。

「勘弁してくれ..あと少しで教会なのに...」

 言葉と一緒に吐いたため息が震えている。ぶっちゃければ、怖い。

(こんな時、ザクがいてくれば...)

 胸焼けした時のようなざわざわとした嫌な予感が体中を駆け巡っていく。もしも、ラルクさんの家にいた悪魔がついてきてしまったのなら、俺ひとりでなんとかしないといけない。

(これは、自分の責任だ)

「大丈夫、大丈夫、日頃あんだけ悪魔と関わってんだからこれぐらい」

 ずぼっ

 突然地面から骨の手が出てくる。その手は迷わず俺の足首を掴んで地面に引きずり込もうと引っ張ってきた。

「うわっ!!なんだこれえ!!」

 硬い地面のはずなのに底なし沼に引っ張られてるかのようにズルズルと体が埋まっていく。パニックになって暴れたり骨を叩いたりしてみたがビクともしない。

「なんだよこれ!!」

 ズボッずぼっ

「うわあ!増えた!!?」

 どんどん地面から腕が出てくる。たくさんの骨の手に体中を引っ張られ、腰まで埋まってしまった。腕も足も押さえられ身動きが取れない。

(このままじゃ、埋められる?!)

「やめっ誰か!!」

 喉まで体が埋まり叫んで助けを呼ぶ俺。カタカタと手だけしかない骨が揺れて笑ってる気がした。

(助けて...ザク!!)

 ガウアアアア!!!

「な、え?!」

 目の前に大きな影が広がっていた。雲に隠れていた月が現れそれを照らす。茶色のタテガミに、ヤギの手足、蛇の形をした尻尾。それはまるで、ラルクさんの本に書かれた挿絵が飛び出してきたかのようだった。

「キメ...ラ?!」

 ガウアアア!!!!

 鼓膜が破れそうなほどの咆哮に顔をそらす。手が動かせないので耳が塞げない。咆哮がガンガンと響いて頭が割れそうだった。

「なっんでこんなとこに...」

 言葉の先は骨の砕け散る音でかき消された。キメラが辺りいっぱいの骨を踏みくだいていく。逃げようとした骨は蛇の頭が噛み砕いた。こんなやつに敵うはずがない。とっさにそう思わせるほど、圧倒的な強さだった。

「そ、そうだ・・・俺逃げないと!」

 骨がなくなり腕が使えるようになったのだ。俺はなんとかしてその穴から抜け出しキメラから距離を置く。

 アウアアアアア..

 骨はほとんど砕け散っていて見る跡もない。なんか少し哀れな気がしたが引きずり込まれそうになった穴を見て思い直した。キメラの方に向き聞る。

 ギョロッ

 キメラもこちらを向く。生唾を飲み込んだ。ドシンドシンと地面が揺れしながらキメラが近寄ってくる。

「...っな」

 そして何を思ったのかキメラは、俺の方に鋭い爪を伸ばしてくる。

(引き裂かれる?!)

 身構えてそれを睨んでいると、突如けたたましい笛の音が響いた。

 ピイイイイイッ!

「?!」

 音のした方を見る。路地の壁を作ってる住宅の屋根。そこに誰かがたっていた。暗い夜空の下、発光するように白い制服がたなびいてる。

(あ、あの制服は!)

「対象を確認!滅せよ!」
「「「はい!」」」

 その人物がキメラを指差し叫ぶと、他の屋根からも同じ服を着た人たちが飛び出してきた。皆キメラに向け武器を振り下ろしてる。

(あれって...保安官!?)

「牧師殿!早くこちらに!!」
「えっ、マック保安官..?」

 見たことのある保安官が俺に手を伸ばし、キメラにふれられる寸前で俺を抱きかかえた。

 ガウガアアアアアアアああ!!

 内臓にまで届きそうな程大きな咆哮をあげるキメラ。その轟音で武器を振りかざしていたマックの部下たちも吹き飛ばされていく。

「っっ!!」
「一旦離れろ!」

 キメラから距離を置くが戦闘態勢を崩さずにいる。息を呑む緊張感が路地を包んだ。そして次の瞬間

 ガアアアアアアアアア!!

 咆哮と共に、路地に爆風が駆け抜けた。風が吹き抜け目を開けた時にはもうキメラの姿はなく、俺と保安官達だけが残っていた。

「くそっ、逃げられたでありますな。そこまで遠く入ってないはず。すぐに追わないと」

 マック保安官の言葉に部下たちが頷く。俺は呆気にとられつつも保安官に尋ねた。

「あ、あの」
「ああ、牧師殿、怪我はないでありますか」
「俺は...平気です」

 あんだけ色々あったのにピンピンしてる。ぶっちゃけ手の骨に埋められたときはやばいと思ったけど、危ないところをキメラの乱入によってに助けられた。

(そうだ)

 俺はキメラに助けてもらったんだよな。だけどそれを保安官に助けられて...キメラは逃げ出して。

(くそ、ダメだ、混乱しててうまく頭が働かない)

 俺がぼうっとしているのを見て埒があかないと判断したのだろう。保安官はひと呼吸を置いて俺に告げた。

「申し訳ありませんが牧師殿、自分たちは急いであれを追わねばなりません。明日また説明に伺いますので今日はこのまま真っ直ぐ教会に帰ることをおすすめします」
「...はい」
「一人で帰れるでありますか?」
「だいじょうぶ、です、すぐそこなんで」
「そうですか、それでは失礼するであります」

 強く頷いて保安官は去っていった。またひとり路地に残された。

「...はあ」

 帰ろう。
 今はそれしか考えれない。


 ***


 静まり返った教会のステンドグラスに月明りが差し込みキラキラと光ってる。いつも通りの風景なのに。なんだか、すごく落ち着く。

「?」

 いや、違う。おかしい。静か過ぎるんだ。

「ザクは?」

 あいつがいないからこんなにも静かなのか。さっきのキメラや骨のことがあってか、少しでも異変があると心配になってしまう。奴が寝ている俺の寝室に急いで向かった。

「...!!ザク!」

 部屋の中にいたのは、出かける前と同じ姿で寝ている、いや、弱ったままの猫ザクがいた。

「おいザク!」
 =うう...=
「ザク!どうしたんだよ!」

 すぐに駆け寄り体を触ってみると、ものすごく熱くてとっさに手を離してしまった。ザク自身は熱にうかされてるのか意識がない。

「朝はこんなんじゃなかったのに。待ってろ今氷を」
 =う、う...は=
「!!ザク?」

 猫の姿がぐにゃりと曲がり、人型になった。びっしょりと汗をかいていて苦しそうだ。せめて汗を拭いてやろうと服を脱がす。

「っハア...はあ...」

 服を脱がすため奴の上半身を起こし腰の後ろに腕を回す。重いので自分の肩にザクの頭を置き作業をしてみたが、耳に吐息がかかって集中できない。(こんな時に不謹慎なこと考えるな俺!)

「っ...」
「ハア..ハア...」

 服を脱がすとザクの体が現れる。明かりのついた部屋でじっと見てると体中に傷があることに気づいた。傷自体は完全に塞がっていて古傷なのはわかる。でも痛々しい。傷の一つをなぞってみるとザクがビクッと揺れた。のしかかってくるザクの体がまた熱くなる。

「おい、ザク...聞こえるか?何かして欲しいことあるか?」

 悪魔に人間と同じ看病をして効くのか不安になったのでダメもとで聞いてみる。荒い息をしながらザクが口を開いた。いつもよりもぐっと低くて掠れている声にゾクリとする。

「ハア…みず」
「わかった今持ってくーわあっ?!」

 ザクを寝かせてベッドから出ようとした、その時だった、背後からガバッと重いものが覆いかぶさってきた。見なくてもわかる、ザクだ。

「どけって!ばか!動けないだろ」
「みず…ハア、ハア」
「だーかーら!水取りに行くから離せってば!」

 がっしりと俺の腰を抱いて離さないザク。前髪を引っ張って引き剥がそうとするが全くの無意味。今度ジムにでも通って筋肉つけようかななんて思っていたらまたザクが呟いた。

「みず…」
「ちょ、ちょっと待てザク、そこは!っぶ!」

 熱くなったザクの手が俺の首根っこを掴み、枕に押し付けた。次に両手も拘束されてしまい、ほぼ俺の自由はなくなる。それでも抵抗はやめずにいるとガブッと首を噛まれた。

「ーッ!!~~!!」

 肌は突き破ってこない、甘噛みなのだろう。俺にとっては相当恐怖だったが、暴れたら何をしてくるかわからないためせめてザクの気を荒立てぬようじっとする事にした。

「ー!!ーーっ」
「ハア..ハア...みず」

(だから話を聞けよ!!馬鹿ザク!)

 目で必死に訴えてるとやっと通じたのか首から牙が離れた。ほんの少しだけ緊張がほぐれる。

 ペロっ

「!!!」

 背中が熱い。ザクの舌に舐められてるようだ。それだけの刺激でゾクゾクと体が反応し始めてしまい自分の情けなさに涙が浮かぶ。これはそういう意味じゃない、勘違いするなと必死に体に言い聞かせる。

「ハア..はあ...のど」
「っ...?」

(のど?)

 枕に押し付けられていて頭が動かないので目だけ動かしザクを見た。頬を染め俺を見下ろすザクからはとんでもない色気が溢れていた。伝う汗、荒い息遣い、赤く染まった肌、ギラギラと光る瞳。

「....ハア、渇く」
「っむぐぐ」

(やばい!このザクはやばい!)

 ずっと前に森で襲われたときとは違って殺気は感じないが、それよりもっと危険な感じがする。

「~~!!!!!」

 必死に暴れるが全然きかない。今までの経験で力でザクに勝てたことないからわかってたことだけども!

 ビリイッ

 服を爪で裂かれ、その間から熱い舌が入ってくる。とっさに声が出そうになるが枕の中にそれは消えていくので心配はいらなかった。いやそれ以上にこの状況に心配しまくりですがね!!!?

(やばいやばいやばい)

 理性が必死に警鐘を鳴らしてる。だが、俺の背中を伝う汗を丁寧に舐め取っていくその舌の動きに、体も感じ始めていた。その姿勢のまま下着を脱がされ、再び危機感を取り戻した。

(何する、つも、り...!?)

「ちょ、ザクっ」
「..はあ..ハア」
「ザクってば!!」

 ザクの手が離れ俺はやっと声を発せるようになる。新鮮な酸素を肺いっぱい吸ってそれから口を開いた。

「ザク!!落ち着け!お前、今体調崩してるんだぞ?!」

 ザクは熱に浮かされたようにぼうっと俺を見下ろし、にやりと笑った。笑ったけど目は全く笑っていない。普通に怖い。

「ハア、気に、すんな...俺様にとっちゃ、これが一番の特効薬、ハア、なんだよ」
「なに馬鹿なこといってんだ?!」

 焦って声が裏返る。その間もザクは俺のモノを舐めていた。そこで話されるとダイレクトに刺激がきて辛い。

「おい!ザク~!!」
「いい、から…ハア」
「やだってっむぐっ!!」

 激しく荒々しいキス。呼吸を忘れかけつつなんとか応じてると、やがて頭の芯が溶けてくるような、頭がおかしくなうような快感が広がっていく。

「ぷはっはあ、ザク...」
「ハア、あっつ」

 ザクがベッドの掛け布団を蹴り飛ばす、あまりの強さでそれが部屋の壁にまで飛んでぶつかった。だがそれを気にする余裕は今の俺になかった。必死にザクの腕に縋りつく。

「ん・・・」
「ザクっ、や、あ!ううっ」

 与えられる激しい刺激によって、次第にピチャピチャという卑猥な音がしてくる俺のそれ。何度経験しても恥ずかしい。

「やめっんん!っも...いく、からっ」
「はっ、そう、か…ハア」

 そうとだけ言って俺の下半身に顔を埋めた。はち切れそうな程限界にまで大きくなった俺のが熱いものに包まれる。

(え..嘘だろ...ザクの口?!)

「いっいやだ!んああっザク!!」
「っく...はあ..口ん中...でイけ、よ、ハア..」
「ヤダってっ..っは、はあ!」

 体がガクガクと震え、ザクの頭を押す。そして、弾けた。

「や、っう、ああああっっ・・・!!」
「んっ..く..」

 ショックと余韻で、思考が停止している。

(ザクの中で...俺...)

 絶望。その一言が俺を襲っていた。

 ゴクゴク

 しかし、その間もザクは喉を鳴らし躊躇なく俺の吐き出したものを飲み込んでいく。

「ちょっまっ」

 それを見てるだけで腰が引けてしまう。

「今、まだイってて、んんっ!!」

 イッたばかりで敏感になっている俺のを、一向に離そうとしない。むしろ食いついてきそうな勢いで吸ってくる。ほんと、もう勘弁してくれ!!

「ごくごく...ぷは、ハア」
「のんだ...?!死ね...ザクなんか死ね...ううっ」

 がっくりと体をベッドに預けてると、俺の吐き出したもので汚れる口元を舌で舐めとるザクと目が合った。俺の勘違いかもしれないが少しザクの顔色が良くなったような気がする。勘違いだと願いたいが。

「ハア、まだだ、ッルト・・・もういっかい」
「えっなにいって...ひっ」
「俺様が満足するまで、ハア、今日は、寝れないと思え...ハア、」
「な、...」
「ハア..おら、足開け」
「え、な、やめっうわあーーーーーーっ!!」

 それから俺の身に何があったのか、それは皆さんのご想像におまかせしようと思う。

 ほんと、ザク死ねばいい。


 ***


「いやーわりーわりー!なんか調子悪くてピンチだったから、無理矢理エネルギー摂取させてもらったわ」
「…」

 朝、起きると陽気に笑っているザクが隣で寝ていた。あまりにひどくて後半から記憶ないけど、とりあえずザクは一度滅びればいいと思う。

「...」
「何で無視するんだよー後始末もバッチリしたし何よりあんなに気持ちよさ、ぶはっ」
「うっさい!!ヘンタイっっ...今度あんなことしたら教会から追い出すからな!!!」
「わかった!わかった!だから足で蹴るのはやめろってイテテテ!」

 構わず蹴り続ける俺に折れて、奴がベッドからおりていく。その間に俺は赤くなった自分の顔を見られないよう、そっぽを向いて着替え始める。背後からパチンというはじける音がした。多分、ザクが猫に変身したのだろう。猫の状態では襲われないのでその姿を見るとひどく安心する。

「ふう...」

 着替え終わり、一段落ついたところで

「で、もう体は平気なのか」
 =おう!このとおり、完治だぜ=

 尻尾をふりふりさせてニャオと鳴く。昨日の、熱に浮かされていたザクとは違って元気そうで安心した。

「でも、珍しいよな、お前が熱なんて」

 というか初めてだったかも。だからこそかなりテンパった。なんだかんだで、弱ってるとこなんてほとんど見せない奴だし。

 =ん~それなんだけどよ=
「?」
 =俺様って結構頑丈にできてるから普通じゃ熱とかひかねーんだよ=
「まあ、確かにそういうイメージだな。でも、それじゃ昨日のは?」
 =あの保安官のせいだと思う=
「へ?」
 =だーかーらっ俺様、あの保安官に抱かれただろ?その時なんかの毒気にあてられたんじゃねーか=
「はあ?そんな馬鹿な」

 人間に抱かれたぐらいでお前が寝込むわけないだろ。あ、わかったぞ。

「どうせ、男に抱かれたショックで寝込んだってオチじゃないのか」
 =ちげーよ!まあ、それもあると思うが、それだけでルトのを飲まなきゃいけねえほど追い込まれるわきゃねーだろ=
「...飲むのが目的だったのか..」
 =そもそも悪魔は人間を食うもんなんだが、人間の体液を飲むだけでも力が回復するんだよ。血でもいいんだがそうするとルトが弱っちまうからな=
「...あっちも十分疲れる」

(でも血よりはましだったか..。)

 命の危険にさらされても俺の命を案じてくれたのは嬉しいが、体液を飲むだけなら後半の行為は必要なかったのではないだろうか。

 =んなわけいかねーだろ。裸を見てくわねえとか男じゃねえよ=
「・・・」
 =まあさておきだ。あの保安官?って男には特殊な力があるかもしれねえってことだ=
「そりゃ保安官だし、悪魔には強いとは思う。昨日のキメラの時も」
 =ん?キメラ?=

 俺が脱いだ服の上で丸まっているザクが顔を上げた。

「あ、そうだ、言ってなかったか。昨日...ここに帰る途中襲われたんだよ」
 =なっ!!=

 立ち上がり俺の体をクンクンとにおってくる。こそばゆくて手で振り払った。

 =ほんとだ...俺様の匂いの中に微かになんかの匂いが...=
「えっ俺ってザクの匂いがするのか?!」
 =そこはさして問題じゃねーだろ=
「うるさい!匂い付けとか・・・動物じゃないんだしやめろよ!」
 =こうしとくと害虫よけできるからいいじゃん、あとすぐ見つけれるし=
「もうザクなんて知るかっ!!」
 =あっおい!キメラの話がまだっ=

 ザクの声が追いかけてくるが、構わず無視して部屋を出る。身支度はしてあったのですぐに教会を出てある場所に向かった。
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