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第三章「ヘンタイ博士登場」
★研究対象
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「!!」
とっさに足をどけてそこから離れた、が、今しがた立っていた場所にはそれらしきものはなかった。どういうことだ?!!
「卑怯だぞ!姿をあらわせ!悪魔め!」
十字架の刻まれたポケット聖書を取り出し掲げる。どこにいるかわからないのでとりあえず空中に向けて叫んでみた。
=退治されるとわかって姿を現すわけないっしょ=
「あっ...」
そらそうか。自分の馬鹿さ加減に呆れる。
「...な、何が目的だ」
=きひひ、ちょっとあんたに来て欲しいんだよね=
「なっ」
また足首に何かが絡みついてくる。今度はかなり強い力で掴まれ振りほどけない。下を向くと、巻きつくそれをやっと見ることができた。
「...え?!」
影だった。俺の影から飛び出した黒い触手?が俺の足に絡みついてる。意味がわからないかもしれないが、俺自身わかってないので説明しようがない。混乱しつつも掴まれた足を振ってみる。
ぐぐぐっ
影の感触がしっかりとあり、地面から足を上げられなかった。
(これも悪魔の種類ってことか???)
=きひひひ!オレはシャドーハンズ、自らの棲む闇に獲物を取り込み襲う悪魔、なんだぜ?どうだ、怖いだろう=
「なんか…小物っぽいな」
=ああん!!?初対面の悪魔に対して小物とか、ひどい奴だなあ!=
「闇討ちとか最悪だし、そんなんで威張れるお前の図々しさに逆に感動した」
=な、ななな・・・っお前!今まさに襲われてる最中なのに何その余裕!!生意気なやつめ!=
余裕なんてあるわけない。こうやって虚勢張ってないと泣きそうなぐらい不安だった。
=まあいい!こっちに来てくれりゃあとはオレの好きなようにできる、大人しくしてろよお~=
「っく!!」
力任せに足を引き抜こうとするがビクともしない。逆にもっと影が食い込んできて体中がミシミシいってる。どんどん自分の影に飲み込まれていく...底なし沼に沈んでいくような感じだった。
「!!!だ、誰か!!」
俺は唯一自由に動かせる左手を空に向け、伸ばした。もう耳まで埋まってしまってる。無意識に、あの憎たらしいアイツの名前を叫んでた。けど、アイツが姿を現すことはない。そんな絶望に飲まれそうになったとき…ぐいっと腕を引っ張られた。
「大丈夫ですか?!」
「?!」
目の前にドアップのラルクさんの顔が現れた。普通に驚いて言葉がでない。
(・・・なんだ)
思っていた男の顔ではなく心が萎んでいく。
「...って!!なんだ、ってなんだ!!あーもう!自分が気持ち悪い!!!」
「へ?」
急に叫びだした俺を、ラルクさんが心配そうに見てる。そこでやっと俺も正気に戻った。
「あ、あれ?!影悪魔は?」
「悪魔?...そんなものは見えませんでしたが」
「え、あ、そ、そうか」
不思議そうに答えてるラルクさん。どうやら本当に見てないようだ。
(もしかしたら見えてなかっただけかもしれないけど。)
俺は深呼吸をしてから辺りを見回し確認する。
「・・・」
もちろん自分の影も確認したが、異変はない。
(隠れてるとか、ないよな?)
俺はいろんな角度から自分の影を見てみたが、特におかしいところはない。むしろ、おかしいのは俺の言動だろう。
「でも、驚きました。帰ってきたら教会にいないので探してみたら、屋根に倒れてて」
「う...ごめん、ちょっと屋根の修理してたらうたた寝しちゃっただけだから」
「...」
苦し紛れの言い訳をしてみたが、ラルクさんの表情は硬いままだった。
(いくら悪魔のことを専門にしてるラルクさんでも、実際に悪魔がいるとか言ってたらそりゃ気味悪がるよな...)
「本当に、それだけですか?先ほど、悪魔、といいましたよね。影ということは影魔か死神かシャドーハンズ...」
「し、シャドーハンズを知ってるのか?!」
「なるほど、やはりいたんですね」
「あ」
メガネをかけ直し、ため息をつくラルクさん。もうごまかすのは無理だろう。俺は諦めて全て話すことにした。
カア、カアー...
夜の訪れをカラスの物哀しい声が教えてくる。ラルクさんに説明してる内に、いつの間にかこんな時間になってしまったようだ。もうすぐ6時。俺は先ほどの襲撃で負った痣を摩りながら順番に料理を作っていく。もちろん口は動かしたままだ。ラルクさんは悪魔の知識が豊富なので、その時俺が分からなかったことも詳しく説明してくれた。(ザクの事は触れず今回の悪魔のことだけ話した)
「しかし、おかしいですね。」
隣で野菜を切っていたラルクさんがふむと呟いた。メガネの奥の茶色の瞳がギラギラと光っている。
「シャドーハンズは、昼間はあまり活動をしないと言われています。なのにルト君は襲われた。ルト君に相当の価値があったか上の悪魔に命令されていたのか...はたまたこの教会の守護が弱ってるせいか」
「...」
ぶっちゃけてしまうとどれも正しいしあてはまる気がする。
「興味深いですね」
「?」
「ふふ、ふ・・・」
「え・・・?」
ラルクさんが怪しく微笑みながら、俺に一歩近づいてきた。その手には包丁があり、サラダの盛り付けをしていた俺は体を強ばらせる。目が、離せない。
「ちょ、な、危ないって!そんなの持ちながら歩き回るなよ!」
顔をヒクつかせながら後ずさる。しかし、すぐに壁にぶつかり後がなくなった。焦って前に目を戻すと、ギョッと目を見張る。ハアハアと息を荒だたせてこっちを見てるラルクさん・・・はとても怖かった。
「会った時から、ハア...はあ...気になってたんです」
「え...?」
「君はどこか儚げで・・・そこが悪魔も人にも惹かれるのでしょうか?気になりますね、ハア、すごく...ハア」
「ちょ、ラ、ラルクさん!?」
俺の肩を掴み、顔を近づけてくるラルクさん。ジタバタと暴れてみたが離そうとしない。腕はそれほど太くないのにどこにそんな力が!!!?
「私に、ハアはあ...あなたを調べさせてもらえませんか?隅々までぜんぶ、毛の一本にいたるまで全部調べたいです・・・!」
「なっ、はあ???!」
「痛くしませんから、ねえ?」
「うわああああああ((泣」
そして物語は冒頭の所に繋がる。
「ハア...ハア..いいですね。素晴らしい...」
「ちょま、待て!近寄んな!!」
「ハア...もっと見せてもらえませんか?」
「ぜってーやだ!キモイ!さわんな!!!」
「ああ、つれない君もいいですね。ハアハア」
「~っ!ハアはあ、うるさいいーーっ!!!」
俺の必死の抵抗をものともせずに脱がし始めるラルクさん、いや、変態。もうどこからどう見ても変態にしか見えないその男に普通にショックを受けていた。
(信じてたのに...!)
どうして、こんな。
「ひゃっ」
はだけさせられた胸元を撫でられ、情けない喘ぎ声を出してしまう。色々なショックで俺の瞳には涙が滲んでいた。情けない。もう何もかも嫌になる。
「この白い肌がいいのでしょうか?それともこの奥?」
俺の様子など目に入ってないようで、気にせずどんどん手を突っ込んでくる。気持ち悪いし、怖い、だけどいつもみたいに蹴ることはできなかった。確かに目の前にいるのは、変態男だ。でもラルクさんでもある。朝ごはんを手伝ってくれたり、悪魔の話を教えてくれたり、礼儀正しく挨拶をしてくるラルクさんの姿を思い出すと・・・どうしてもできなかった。
「ああ、この表情かもしれませんね。」
顎をくいっと上にあげられ、嫌でも目を合わせられる。俺は目を瞑って現実逃避しようとした。その際、閉じた瞳から涙がこぼれる。すると、ぺろりと頬を舐められた。
「っあ・・・?!」
涙のつたう部分を中心に、念入りに舐められる。
「うん、しょっぱいですね。でもほのかに甘い。これが悪魔には媚薬なのでしょうか?あとでまた改めて採取しなければ」
ブツブツと何か言ってる。俺は拳を握り締め、耐え続けた。
「んんっ...そこは!」
「暴れないでください、できればこれを使いたくありませんから」
「う...っふ...やだ...って!」
とうとう男の手が下にのびてきた。俺は体をよじって逃れようとしたがもちろんやるだけ無駄だった。しかも、包丁をちらつかせてきた。
(暴れれば、殺される・・・!)
恐怖で体が凍りつく。俺の怯える姿を見てラルクさんは優しく微笑んできた。
「殺したりはしません、大事な素材ですから」
「っ...」
「まあ腕の一本ぐらいは刻んでしまうかもしれませんけど」
「!!!」
「では、お静かに」
「う...っくう、あ...」
天井を見て、俺は男の愛撫に耐えようとする。けど、そんなの時間の問題だった。ゆっくりとゆっくりと舐められてくうちに俺のそれは起き上がり、応え始めていた。
「なるほど、甘い...」
「う・・いや、だ、んんんっうう...っやめっだれ、か・・・!」
意識が、朦朧としてきた。
(やだ、嫌だ、やめてくれ)
嫌悪感に涙が止まらなくなる。
(助けて・・・ザクっ!)
心の中でアイツの名前を呼んだ。
「ザク・・・!!」
アイツの名前を縋るように何度も叫ぶ。来ないってわかってるのに、どうしても呼ばずにはいられなかった。
「…ったくよー」
どこからか、偉そうな声が聞こえてくる。
「お前、ま~た変なのに絡まれてるのか?」
低くて滑らかな男の声が、突如、部屋に響いた。
「?!」
「ルトは男を誘うのが趣味なのかねえー」
目を見開き、声のした方…窓際を見た。
「けけ」
そこには燃えるような赤い髪の男が立っていた。
「ザク...!?」
「よお」
俺の悲鳴のような呼びかけに、ひらひらと手を振って応えてくる。
(ザク!)
どうして、ここに。今日は帰って来れないんじゃ。
「おや、今日は帰ってこれないのでは?」
少し熱の冷めた顔でザクを見るラルクさん。俺のから手を離さず目線だけで訴えかけてる。
「けけけ、趣味わりいな。盗み聞きかよ」
「眠れず歩いていたら、聞こえてしまっただけです」
「ルトの部屋の前まで押しかけておいて“偶然”か?」
「...」
「ラルクさん...」
「ほれみろルト、やっぱこいつ怪しいやつだったじゃねーか」
嬉しそうに俺を見て言ってくる。
「けけっ今度からはちゃんと俺様の言う事を聞けよな~」
「うっうるさい!」
「ほら、こっち来い」
ザクが俺に向けて手を伸ばそうとしたとき、ラルクさんが動きだす。そこで俺は机から包丁が消えてることに気づいた。
「あ・・・!」
まさかっ!
「ザク!!危ない!!!!」
ズブっ!!
「ぐ、がっ・・・?!」
「私の“研究”の邪魔をするからですよ」
包丁がザクの腹に刺さっている。ラルクさんに刺されたんだ。とっさのことで、このレベルでしか頭が回らなかった。俺が呆然としているうちにも、ザクの腹からは赤い液体がごぼごぼと溢れてくる。
(ど、どうしよう、どうしたら???)
こんな深手を負ったら、人間なら数分もせずに死んでしまう。
(ザクならどれぐらいもつんだ?)
どれぐらい猶予があるかわからないが、早く手当てをしなければ。軽い応急手当程度なら教会の授業で学んでいた。すぐに救急箱を・・・
=きひひ!これは~チャンス~!=
影から声が聞こえ、一瞬で世界が真っ暗になった。
「え・・・?!!」
完全に暗闇に包まれる寸前、俺は意識のないザクに手を伸ばした。
(ザク!!)
けれど、その手は結局何かを掴むことはなく空を切るだけだった。
とっさに足をどけてそこから離れた、が、今しがた立っていた場所にはそれらしきものはなかった。どういうことだ?!!
「卑怯だぞ!姿をあらわせ!悪魔め!」
十字架の刻まれたポケット聖書を取り出し掲げる。どこにいるかわからないのでとりあえず空中に向けて叫んでみた。
=退治されるとわかって姿を現すわけないっしょ=
「あっ...」
そらそうか。自分の馬鹿さ加減に呆れる。
「...な、何が目的だ」
=きひひ、ちょっとあんたに来て欲しいんだよね=
「なっ」
また足首に何かが絡みついてくる。今度はかなり強い力で掴まれ振りほどけない。下を向くと、巻きつくそれをやっと見ることができた。
「...え?!」
影だった。俺の影から飛び出した黒い触手?が俺の足に絡みついてる。意味がわからないかもしれないが、俺自身わかってないので説明しようがない。混乱しつつも掴まれた足を振ってみる。
ぐぐぐっ
影の感触がしっかりとあり、地面から足を上げられなかった。
(これも悪魔の種類ってことか???)
=きひひひ!オレはシャドーハンズ、自らの棲む闇に獲物を取り込み襲う悪魔、なんだぜ?どうだ、怖いだろう=
「なんか…小物っぽいな」
=ああん!!?初対面の悪魔に対して小物とか、ひどい奴だなあ!=
「闇討ちとか最悪だし、そんなんで威張れるお前の図々しさに逆に感動した」
=な、ななな・・・っお前!今まさに襲われてる最中なのに何その余裕!!生意気なやつめ!=
余裕なんてあるわけない。こうやって虚勢張ってないと泣きそうなぐらい不安だった。
=まあいい!こっちに来てくれりゃあとはオレの好きなようにできる、大人しくしてろよお~=
「っく!!」
力任せに足を引き抜こうとするがビクともしない。逆にもっと影が食い込んできて体中がミシミシいってる。どんどん自分の影に飲み込まれていく...底なし沼に沈んでいくような感じだった。
「!!!だ、誰か!!」
俺は唯一自由に動かせる左手を空に向け、伸ばした。もう耳まで埋まってしまってる。無意識に、あの憎たらしいアイツの名前を叫んでた。けど、アイツが姿を現すことはない。そんな絶望に飲まれそうになったとき…ぐいっと腕を引っ張られた。
「大丈夫ですか?!」
「?!」
目の前にドアップのラルクさんの顔が現れた。普通に驚いて言葉がでない。
(・・・なんだ)
思っていた男の顔ではなく心が萎んでいく。
「...って!!なんだ、ってなんだ!!あーもう!自分が気持ち悪い!!!」
「へ?」
急に叫びだした俺を、ラルクさんが心配そうに見てる。そこでやっと俺も正気に戻った。
「あ、あれ?!影悪魔は?」
「悪魔?...そんなものは見えませんでしたが」
「え、あ、そ、そうか」
不思議そうに答えてるラルクさん。どうやら本当に見てないようだ。
(もしかしたら見えてなかっただけかもしれないけど。)
俺は深呼吸をしてから辺りを見回し確認する。
「・・・」
もちろん自分の影も確認したが、異変はない。
(隠れてるとか、ないよな?)
俺はいろんな角度から自分の影を見てみたが、特におかしいところはない。むしろ、おかしいのは俺の言動だろう。
「でも、驚きました。帰ってきたら教会にいないので探してみたら、屋根に倒れてて」
「う...ごめん、ちょっと屋根の修理してたらうたた寝しちゃっただけだから」
「...」
苦し紛れの言い訳をしてみたが、ラルクさんの表情は硬いままだった。
(いくら悪魔のことを専門にしてるラルクさんでも、実際に悪魔がいるとか言ってたらそりゃ気味悪がるよな...)
「本当に、それだけですか?先ほど、悪魔、といいましたよね。影ということは影魔か死神かシャドーハンズ...」
「し、シャドーハンズを知ってるのか?!」
「なるほど、やはりいたんですね」
「あ」
メガネをかけ直し、ため息をつくラルクさん。もうごまかすのは無理だろう。俺は諦めて全て話すことにした。
カア、カアー...
夜の訪れをカラスの物哀しい声が教えてくる。ラルクさんに説明してる内に、いつの間にかこんな時間になってしまったようだ。もうすぐ6時。俺は先ほどの襲撃で負った痣を摩りながら順番に料理を作っていく。もちろん口は動かしたままだ。ラルクさんは悪魔の知識が豊富なので、その時俺が分からなかったことも詳しく説明してくれた。(ザクの事は触れず今回の悪魔のことだけ話した)
「しかし、おかしいですね。」
隣で野菜を切っていたラルクさんがふむと呟いた。メガネの奥の茶色の瞳がギラギラと光っている。
「シャドーハンズは、昼間はあまり活動をしないと言われています。なのにルト君は襲われた。ルト君に相当の価値があったか上の悪魔に命令されていたのか...はたまたこの教会の守護が弱ってるせいか」
「...」
ぶっちゃけてしまうとどれも正しいしあてはまる気がする。
「興味深いですね」
「?」
「ふふ、ふ・・・」
「え・・・?」
ラルクさんが怪しく微笑みながら、俺に一歩近づいてきた。その手には包丁があり、サラダの盛り付けをしていた俺は体を強ばらせる。目が、離せない。
「ちょ、な、危ないって!そんなの持ちながら歩き回るなよ!」
顔をヒクつかせながら後ずさる。しかし、すぐに壁にぶつかり後がなくなった。焦って前に目を戻すと、ギョッと目を見張る。ハアハアと息を荒だたせてこっちを見てるラルクさん・・・はとても怖かった。
「会った時から、ハア...はあ...気になってたんです」
「え...?」
「君はどこか儚げで・・・そこが悪魔も人にも惹かれるのでしょうか?気になりますね、ハア、すごく...ハア」
「ちょ、ラ、ラルクさん!?」
俺の肩を掴み、顔を近づけてくるラルクさん。ジタバタと暴れてみたが離そうとしない。腕はそれほど太くないのにどこにそんな力が!!!?
「私に、ハアはあ...あなたを調べさせてもらえませんか?隅々までぜんぶ、毛の一本にいたるまで全部調べたいです・・・!」
「なっ、はあ???!」
「痛くしませんから、ねえ?」
「うわああああああ((泣」
そして物語は冒頭の所に繋がる。
「ハア...ハア..いいですね。素晴らしい...」
「ちょま、待て!近寄んな!!」
「ハア...もっと見せてもらえませんか?」
「ぜってーやだ!キモイ!さわんな!!!」
「ああ、つれない君もいいですね。ハアハア」
「~っ!ハアはあ、うるさいいーーっ!!!」
俺の必死の抵抗をものともせずに脱がし始めるラルクさん、いや、変態。もうどこからどう見ても変態にしか見えないその男に普通にショックを受けていた。
(信じてたのに...!)
どうして、こんな。
「ひゃっ」
はだけさせられた胸元を撫でられ、情けない喘ぎ声を出してしまう。色々なショックで俺の瞳には涙が滲んでいた。情けない。もう何もかも嫌になる。
「この白い肌がいいのでしょうか?それともこの奥?」
俺の様子など目に入ってないようで、気にせずどんどん手を突っ込んでくる。気持ち悪いし、怖い、だけどいつもみたいに蹴ることはできなかった。確かに目の前にいるのは、変態男だ。でもラルクさんでもある。朝ごはんを手伝ってくれたり、悪魔の話を教えてくれたり、礼儀正しく挨拶をしてくるラルクさんの姿を思い出すと・・・どうしてもできなかった。
「ああ、この表情かもしれませんね。」
顎をくいっと上にあげられ、嫌でも目を合わせられる。俺は目を瞑って現実逃避しようとした。その際、閉じた瞳から涙がこぼれる。すると、ぺろりと頬を舐められた。
「っあ・・・?!」
涙のつたう部分を中心に、念入りに舐められる。
「うん、しょっぱいですね。でもほのかに甘い。これが悪魔には媚薬なのでしょうか?あとでまた改めて採取しなければ」
ブツブツと何か言ってる。俺は拳を握り締め、耐え続けた。
「んんっ...そこは!」
「暴れないでください、できればこれを使いたくありませんから」
「う...っふ...やだ...って!」
とうとう男の手が下にのびてきた。俺は体をよじって逃れようとしたがもちろんやるだけ無駄だった。しかも、包丁をちらつかせてきた。
(暴れれば、殺される・・・!)
恐怖で体が凍りつく。俺の怯える姿を見てラルクさんは優しく微笑んできた。
「殺したりはしません、大事な素材ですから」
「っ...」
「まあ腕の一本ぐらいは刻んでしまうかもしれませんけど」
「!!!」
「では、お静かに」
「う...っくう、あ...」
天井を見て、俺は男の愛撫に耐えようとする。けど、そんなの時間の問題だった。ゆっくりとゆっくりと舐められてくうちに俺のそれは起き上がり、応え始めていた。
「なるほど、甘い...」
「う・・いや、だ、んんんっうう...っやめっだれ、か・・・!」
意識が、朦朧としてきた。
(やだ、嫌だ、やめてくれ)
嫌悪感に涙が止まらなくなる。
(助けて・・・ザクっ!)
心の中でアイツの名前を呼んだ。
「ザク・・・!!」
アイツの名前を縋るように何度も叫ぶ。来ないってわかってるのに、どうしても呼ばずにはいられなかった。
「…ったくよー」
どこからか、偉そうな声が聞こえてくる。
「お前、ま~た変なのに絡まれてるのか?」
低くて滑らかな男の声が、突如、部屋に響いた。
「?!」
「ルトは男を誘うのが趣味なのかねえー」
目を見開き、声のした方…窓際を見た。
「けけ」
そこには燃えるような赤い髪の男が立っていた。
「ザク...!?」
「よお」
俺の悲鳴のような呼びかけに、ひらひらと手を振って応えてくる。
(ザク!)
どうして、ここに。今日は帰って来れないんじゃ。
「おや、今日は帰ってこれないのでは?」
少し熱の冷めた顔でザクを見るラルクさん。俺のから手を離さず目線だけで訴えかけてる。
「けけけ、趣味わりいな。盗み聞きかよ」
「眠れず歩いていたら、聞こえてしまっただけです」
「ルトの部屋の前まで押しかけておいて“偶然”か?」
「...」
「ラルクさん...」
「ほれみろルト、やっぱこいつ怪しいやつだったじゃねーか」
嬉しそうに俺を見て言ってくる。
「けけっ今度からはちゃんと俺様の言う事を聞けよな~」
「うっうるさい!」
「ほら、こっち来い」
ザクが俺に向けて手を伸ばそうとしたとき、ラルクさんが動きだす。そこで俺は机から包丁が消えてることに気づいた。
「あ・・・!」
まさかっ!
「ザク!!危ない!!!!」
ズブっ!!
「ぐ、がっ・・・?!」
「私の“研究”の邪魔をするからですよ」
包丁がザクの腹に刺さっている。ラルクさんに刺されたんだ。とっさのことで、このレベルでしか頭が回らなかった。俺が呆然としているうちにも、ザクの腹からは赤い液体がごぼごぼと溢れてくる。
(ど、どうしよう、どうしたら???)
こんな深手を負ったら、人間なら数分もせずに死んでしまう。
(ザクならどれぐらいもつんだ?)
どれぐらい猶予があるかわからないが、早く手当てをしなければ。軽い応急手当程度なら教会の授業で学んでいた。すぐに救急箱を・・・
=きひひ!これは~チャンス~!=
影から声が聞こえ、一瞬で世界が真っ暗になった。
「え・・・?!!」
完全に暗闇に包まれる寸前、俺は意識のないザクに手を伸ばした。
(ザク!!)
けれど、その手は結局何かを掴むことはなく空を切るだけだった。
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