5 / 109
序章
黄色の小鳥
しおりを挟む
=あの娘か?それならそこの隅に=
悪魔が言い終わる前に俺は店の隅に走った。血の水たまりがピチャリと音を立てる。
=言っておくがワシは何もしておらんぞ。神の徒がやっていったわ=
そんなような説明を背中に浴びながら、恐ろしい程安らかに寝てるリリを抱き起こす。あの時心配して撫でてくれた小さくて温かい指はもう動かず、熱を失っていた。失われたぬくもり。小鳥が囀るようなあの可愛らしい声は、もう二度と聞く事はない。
「・・・」
=泣いておるのか=
「・・・・・・・・」
=先ほど会ったばかりの娘だろう?冷たい目をする割に、随分と情の深い面もあるのだな=
悪魔には答えず、俺はその冷たくなった小さな指を手で包んだ。こうやっていたら熱が戻ってくるんじゃないか・・・・って、思いたかった。けれど、そんな事をしても意味がないのもわかっていた。
「リリ・・・っ、リリ・・・」
涙が溢れてくる。リリとはさっき会ったばかりで、少しだけ会話を交わした程度の仲。だけど、
“おにいちゃん、よちよち”
精一杯の優しさと、暖かな手の感触。それは、簡単に忘れられるものではない。余所者として様々な土地を転々としてきた俺には、とても尊くて、すごく・・・嬉しい、ぬくもりだった。それがこうもあっさりと奪われてしまうなんて、信じたくなかった。
=・・・ふむ、面白いものを見せてもらった、人魚=
しばらくそうしてリリの手を握り涙していると、ぽつりと悪魔が言葉を零した。
「・・・・・・・・・まだ、いたのか」
=いい暇つぶしになった=
「・・・はっ、ならさっさと帰ったほうがいいんじゃないか・・・・怖い怖い牧師様達が来るぞ・・・」
=ふふ、そうしよう。しかしその前に、人魚、ゲームをしようぞ=
「は?」
=このコインが裏表どっちが上に向いてるか当てられたら、その娘を助けてやろう=
「・・・・っ、、、えっ?!!」
一瞬自分の耳を疑った。
(リリを、助ける、だって??)
俺は息をしていないリリを見つめる。死んだものを蘇らせる、ってこと・・・?そんな、そんな奇跡みたいなことがありえるのか??
(本当にそんなことができるのか?!)
いつもの俺なら一笑に付していただろうがこの時ばかりは悪魔に縋りつかざるをえなかった。
「た、助けられるのか!!!」
=勘違いするな。人間としてではない。その娘から離れてしまったその魂を他の器に入れるだけのこと=
「そ、そんなこと、できるのか?」
=できる。何故ならな、体から離れたはずのその少女の魂が・・・お前の周りをずっと飛んでいるからだ=
「リリが・・・いるのか?」
=ああ、普通ならありえないのだが、少女は死しても尚、涙するお前を慰めようと・・・ずっとそこに漂っておるよ=
「!!」
俺は見えない何かに目を向ける。そしてそっと空中に手を伸ばしてみる、なんとなく暖かい気がした。
(リリが、まだここにいる?)
返事を待たず悪魔はコインを投げ、コインを隠すように掴む。俺の方を見てきた。
=どうする?=
このまま悪魔の言うことを聞けば、悪魔の力を借りることになる。教会の言葉で言えば、悪魔堕ちするってことだ。これが知られたら、俺は村人たちと同じように、教会の男たちに殺されるだろう。だが、それがどうした?
(教会の教えを守るよりも、自分の命を守るよりも、)
指先に残る暖かさを握るように拳を握り締めた。
(このぬくもりを取り戻す方がずっとずっと尊いんじゃないか?)
俺は意を決して、悪魔に向き直る。そしてはっきりと言った。
「・・・・オモテだ」
=よろしい=
悪魔が手をあける。コインの表面が顔を出した。
=ふ・・・お前の勝ちだ=
酒屋の入口の樽に鳥がとまっていた。それを見た悪魔は何かを呟く。鳥が光りだし、ぽとっと鳥が樽から落ちた。急いで俺は駆け寄って拾い上げる。鳥は数秒死んだように動かなかったが、次第にパタパタと弱々しく羽ばたき始める。その時だった。
=・・・・お、おに、いちゃ、ん?=
小鳥が頭を傾け、クチバシをパクパクしてる。それに伴って頭に声が響いてきた。
(こ、この声!!)
信じられない事が目の前で起こっていた。
「りっ、リリなのか?!」
=・・・?リリは、リリだよ?=
少女の声を響かせる不思議な小鳥。その声は紛れもないリリそのもので。
「リリッ・・・!!!」
潰してしまわないように、優しく抱きかかえる。
(よかった...!よかった・・・・!!神様・・・ありがとう・・・ありがとう・・・)
今日何度目かの、涙がこぼれた。
***
=さてそろそろワシも行くか=
悪魔がそう呟いた。俺は涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げて振り向く。
=お前は、静かに暮らしたほうがいい、人魚は目立つからな=
「・・・目立つのは、知ってる」
=悪魔にも、というのをこれからは付け加えておいた方がいい=
「・・・・・わかった、あり」
言葉を言い終わるより先に悪魔は姿を消していた。言いかけていた言葉を飲み込み、涙を服の袖で拭う。
ダダダダっ
店の外に複数の足音が響いてきた。
「無事か!!ルト・ハワード!」
さっき教会で話した白ひげの男が入ってくる。その後ろには血塗られた白い剣を携えた白服の男たちが並んでいた。男たちは皆、無表情のまま俺を見下ろしてくる。白銀に光る剣を、赤く血で染めながら。
(血・・・)
その血の中には、ただ巻き込まれただけの、罪のない村人の血がどれだけ入っているのだろう。神の意思を実行する断罪の剣・・・にしては真っ赤に染まりすぎている気がした。
(どっちが、悪魔・・・だ)
罪のない人を手にかけて、無表情でそれを正義だと言うなんて。さっきの悪魔や、妹を助けようとしたダッツの方がよっぽど人間味がある。
(でも、俺に暴走するダッツ達を止められたかと言われたら・・・)
何も言うことはできない。俺には、ダッツ達を止める力なんてなかった。
(悪魔堕ち・・・)
白マント達がやったことは、本当に正しいことなのか。頭にはその疑問が残っていた。
俺はその後保護され、事情聴取された。リリの事には触れず、生贄として攫われたのは俺だけで、命からがらなんとか逃げ出した・・・と伝えたら納得してもらえた。ダッツやイワン、村の人たちがいなくなっていたからこそ通った嘘だった。証言者も何もない。
生き残ったのは俺だけなのだから。
そこからは結構厄介だった。あと三日で牧師になれるはずだったのに、数週間にも及ぶ追加講義が増やされたのである。簡単に言えば、悪魔がどれだけ害なのかを教える内容だった。洗脳に近いレベルで繰り返され、悪魔に対する恐怖の植付けをされる。しかも俺1人で。
教会は俺が悪魔堕ちと接触したで何かしらの影響を受けたのではと恐れているのだろう。
(心配いらないのにな)
もう俺は人を信じたりしない。誰とも接触するつもりなんてない。だから、悪魔も何もない。堕ちようにも、縋るものがもうないのだ。
「はあ・・・一ヶ月ほぼ毎日朝から晩まで悪魔学とか・・・・ほんと、洗脳の域だよな」
=せんのうってなあに?=
宿の入口から入ってきたリリが俺の服の裾をつつきながら聞いてくる。やっと俺は一人の牧師として認められ、今は、配属される教会に向かうため身支度をしているところだった。リリのクチバシをなるべく優しく撫でる。
「・・・いや、何でもない。」
=これからどこにいくの?=
「新人牧師として教会に向かうんだよ」
=きょ~かい?=
不思議そうな顔をして羽をバサバサ羽ばたかせる。黄色い羽が朝日に照らされ、とても綺麗だった。この羽色はリリの髪の色と同じだ。少しだけ、心が沈む。
「ごめんな・・・・」
=え~?=
「あっいや、飛ぶの大変じゃないか?猫にいじめられてないか?」
=んーん!リリね、いままでずっとしばられておこられてばっかだったの=
「親がそんなことを?」
=おやってなあに?リリにバンゴウをつけたひと?=
「・・・・・・っ」
小鳥は羽ばたくのをやめ、ベッドでぴょんぴょん歩きはじめた。
(そうか、リリは奴隷だったのか・・・)
そして、用済みになったから悪魔の生贄として売られてあんなところに。
(じゃあ、あの地下の血は他の奴隷達の・・・)
ゾゾッと体が震える。
=ずっと、ずーっと、いたいことばっかだった・・・でもね、いまはちがうよ!すきなだけねて、たべて、おソラもとべる!だからいまはね、リリ、すうっごく!たのしいの!=
「・・・・・・そっか」
クチバシがパクパク忙しなく動く。もういいよと撫でてあげると目を閉じてクーと鳴いた。
「ルト・ハワード!」
ふと、下から教官の声が響く。新しく配属された鬼教官はかなり時間に厳しい。これ以上時間がかかると乗り込んできそうだ。早く出よう。俺は荷物を担いで立ち上がった。
「・・・」
ゆっくりと振り返る。ベッドに立つ小鳥がこっちを見ていた。
「・・・・・俺と、付いてくるか?それともここで静かに暮らす?」
小鳥は羽ばたき、迷うことなく俺の肩にとまった。クックーとなき俺の頬をつついてくる。あの暖かい指先は失われてしまったが、このぬくもりが消えたわけじゃない。冷え込んでいた心に温度が戻ってくる。
「そっか、よろしくな」
あの村で起こったことは二度と忘れられないほど最悪だった。でもリリと出会えた。今まで家族というものがほとんどなかった自分には、リリは太陽のようにも思える輝かしい存在だった。
辛い講義の日々も、
悪夢を見て起きてしまう時も、
リリとなら平気だった。
心残りや後悔は絶えないが、リリのおかげで、この村に来て悪いことばかりだったとは思わなかった。
「せめて・・・」
せめてこれからはこの子のために教会で静かに暮らそう。悪魔も人間も何もいない。神聖な教会に引きこもって静かに生きるんだ。
あと、男はなるべく避けて暮らそう
人間は信用できない
今回の事でしっかりと心に刻み付けられた孤独な決意。
俺はそう決心して、新たな土地へと旅立つのだった。
悪魔が言い終わる前に俺は店の隅に走った。血の水たまりがピチャリと音を立てる。
=言っておくがワシは何もしておらんぞ。神の徒がやっていったわ=
そんなような説明を背中に浴びながら、恐ろしい程安らかに寝てるリリを抱き起こす。あの時心配して撫でてくれた小さくて温かい指はもう動かず、熱を失っていた。失われたぬくもり。小鳥が囀るようなあの可愛らしい声は、もう二度と聞く事はない。
「・・・」
=泣いておるのか=
「・・・・・・・・」
=先ほど会ったばかりの娘だろう?冷たい目をする割に、随分と情の深い面もあるのだな=
悪魔には答えず、俺はその冷たくなった小さな指を手で包んだ。こうやっていたら熱が戻ってくるんじゃないか・・・・って、思いたかった。けれど、そんな事をしても意味がないのもわかっていた。
「リリ・・・っ、リリ・・・」
涙が溢れてくる。リリとはさっき会ったばかりで、少しだけ会話を交わした程度の仲。だけど、
“おにいちゃん、よちよち”
精一杯の優しさと、暖かな手の感触。それは、簡単に忘れられるものではない。余所者として様々な土地を転々としてきた俺には、とても尊くて、すごく・・・嬉しい、ぬくもりだった。それがこうもあっさりと奪われてしまうなんて、信じたくなかった。
=・・・ふむ、面白いものを見せてもらった、人魚=
しばらくそうしてリリの手を握り涙していると、ぽつりと悪魔が言葉を零した。
「・・・・・・・・・まだ、いたのか」
=いい暇つぶしになった=
「・・・はっ、ならさっさと帰ったほうがいいんじゃないか・・・・怖い怖い牧師様達が来るぞ・・・」
=ふふ、そうしよう。しかしその前に、人魚、ゲームをしようぞ=
「は?」
=このコインが裏表どっちが上に向いてるか当てられたら、その娘を助けてやろう=
「・・・・っ、、、えっ?!!」
一瞬自分の耳を疑った。
(リリを、助ける、だって??)
俺は息をしていないリリを見つめる。死んだものを蘇らせる、ってこと・・・?そんな、そんな奇跡みたいなことがありえるのか??
(本当にそんなことができるのか?!)
いつもの俺なら一笑に付していただろうがこの時ばかりは悪魔に縋りつかざるをえなかった。
「た、助けられるのか!!!」
=勘違いするな。人間としてではない。その娘から離れてしまったその魂を他の器に入れるだけのこと=
「そ、そんなこと、できるのか?」
=できる。何故ならな、体から離れたはずのその少女の魂が・・・お前の周りをずっと飛んでいるからだ=
「リリが・・・いるのか?」
=ああ、普通ならありえないのだが、少女は死しても尚、涙するお前を慰めようと・・・ずっとそこに漂っておるよ=
「!!」
俺は見えない何かに目を向ける。そしてそっと空中に手を伸ばしてみる、なんとなく暖かい気がした。
(リリが、まだここにいる?)
返事を待たず悪魔はコインを投げ、コインを隠すように掴む。俺の方を見てきた。
=どうする?=
このまま悪魔の言うことを聞けば、悪魔の力を借りることになる。教会の言葉で言えば、悪魔堕ちするってことだ。これが知られたら、俺は村人たちと同じように、教会の男たちに殺されるだろう。だが、それがどうした?
(教会の教えを守るよりも、自分の命を守るよりも、)
指先に残る暖かさを握るように拳を握り締めた。
(このぬくもりを取り戻す方がずっとずっと尊いんじゃないか?)
俺は意を決して、悪魔に向き直る。そしてはっきりと言った。
「・・・・オモテだ」
=よろしい=
悪魔が手をあける。コインの表面が顔を出した。
=ふ・・・お前の勝ちだ=
酒屋の入口の樽に鳥がとまっていた。それを見た悪魔は何かを呟く。鳥が光りだし、ぽとっと鳥が樽から落ちた。急いで俺は駆け寄って拾い上げる。鳥は数秒死んだように動かなかったが、次第にパタパタと弱々しく羽ばたき始める。その時だった。
=・・・・お、おに、いちゃ、ん?=
小鳥が頭を傾け、クチバシをパクパクしてる。それに伴って頭に声が響いてきた。
(こ、この声!!)
信じられない事が目の前で起こっていた。
「りっ、リリなのか?!」
=・・・?リリは、リリだよ?=
少女の声を響かせる不思議な小鳥。その声は紛れもないリリそのもので。
「リリッ・・・!!!」
潰してしまわないように、優しく抱きかかえる。
(よかった...!よかった・・・・!!神様・・・ありがとう・・・ありがとう・・・)
今日何度目かの、涙がこぼれた。
***
=さてそろそろワシも行くか=
悪魔がそう呟いた。俺は涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げて振り向く。
=お前は、静かに暮らしたほうがいい、人魚は目立つからな=
「・・・目立つのは、知ってる」
=悪魔にも、というのをこれからは付け加えておいた方がいい=
「・・・・・わかった、あり」
言葉を言い終わるより先に悪魔は姿を消していた。言いかけていた言葉を飲み込み、涙を服の袖で拭う。
ダダダダっ
店の外に複数の足音が響いてきた。
「無事か!!ルト・ハワード!」
さっき教会で話した白ひげの男が入ってくる。その後ろには血塗られた白い剣を携えた白服の男たちが並んでいた。男たちは皆、無表情のまま俺を見下ろしてくる。白銀に光る剣を、赤く血で染めながら。
(血・・・)
その血の中には、ただ巻き込まれただけの、罪のない村人の血がどれだけ入っているのだろう。神の意思を実行する断罪の剣・・・にしては真っ赤に染まりすぎている気がした。
(どっちが、悪魔・・・だ)
罪のない人を手にかけて、無表情でそれを正義だと言うなんて。さっきの悪魔や、妹を助けようとしたダッツの方がよっぽど人間味がある。
(でも、俺に暴走するダッツ達を止められたかと言われたら・・・)
何も言うことはできない。俺には、ダッツ達を止める力なんてなかった。
(悪魔堕ち・・・)
白マント達がやったことは、本当に正しいことなのか。頭にはその疑問が残っていた。
俺はその後保護され、事情聴取された。リリの事には触れず、生贄として攫われたのは俺だけで、命からがらなんとか逃げ出した・・・と伝えたら納得してもらえた。ダッツやイワン、村の人たちがいなくなっていたからこそ通った嘘だった。証言者も何もない。
生き残ったのは俺だけなのだから。
そこからは結構厄介だった。あと三日で牧師になれるはずだったのに、数週間にも及ぶ追加講義が増やされたのである。簡単に言えば、悪魔がどれだけ害なのかを教える内容だった。洗脳に近いレベルで繰り返され、悪魔に対する恐怖の植付けをされる。しかも俺1人で。
教会は俺が悪魔堕ちと接触したで何かしらの影響を受けたのではと恐れているのだろう。
(心配いらないのにな)
もう俺は人を信じたりしない。誰とも接触するつもりなんてない。だから、悪魔も何もない。堕ちようにも、縋るものがもうないのだ。
「はあ・・・一ヶ月ほぼ毎日朝から晩まで悪魔学とか・・・・ほんと、洗脳の域だよな」
=せんのうってなあに?=
宿の入口から入ってきたリリが俺の服の裾をつつきながら聞いてくる。やっと俺は一人の牧師として認められ、今は、配属される教会に向かうため身支度をしているところだった。リリのクチバシをなるべく優しく撫でる。
「・・・いや、何でもない。」
=これからどこにいくの?=
「新人牧師として教会に向かうんだよ」
=きょ~かい?=
不思議そうな顔をして羽をバサバサ羽ばたかせる。黄色い羽が朝日に照らされ、とても綺麗だった。この羽色はリリの髪の色と同じだ。少しだけ、心が沈む。
「ごめんな・・・・」
=え~?=
「あっいや、飛ぶの大変じゃないか?猫にいじめられてないか?」
=んーん!リリね、いままでずっとしばられておこられてばっかだったの=
「親がそんなことを?」
=おやってなあに?リリにバンゴウをつけたひと?=
「・・・・・・っ」
小鳥は羽ばたくのをやめ、ベッドでぴょんぴょん歩きはじめた。
(そうか、リリは奴隷だったのか・・・)
そして、用済みになったから悪魔の生贄として売られてあんなところに。
(じゃあ、あの地下の血は他の奴隷達の・・・)
ゾゾッと体が震える。
=ずっと、ずーっと、いたいことばっかだった・・・でもね、いまはちがうよ!すきなだけねて、たべて、おソラもとべる!だからいまはね、リリ、すうっごく!たのしいの!=
「・・・・・・そっか」
クチバシがパクパク忙しなく動く。もういいよと撫でてあげると目を閉じてクーと鳴いた。
「ルト・ハワード!」
ふと、下から教官の声が響く。新しく配属された鬼教官はかなり時間に厳しい。これ以上時間がかかると乗り込んできそうだ。早く出よう。俺は荷物を担いで立ち上がった。
「・・・」
ゆっくりと振り返る。ベッドに立つ小鳥がこっちを見ていた。
「・・・・・俺と、付いてくるか?それともここで静かに暮らす?」
小鳥は羽ばたき、迷うことなく俺の肩にとまった。クックーとなき俺の頬をつついてくる。あの暖かい指先は失われてしまったが、このぬくもりが消えたわけじゃない。冷え込んでいた心に温度が戻ってくる。
「そっか、よろしくな」
あの村で起こったことは二度と忘れられないほど最悪だった。でもリリと出会えた。今まで家族というものがほとんどなかった自分には、リリは太陽のようにも思える輝かしい存在だった。
辛い講義の日々も、
悪夢を見て起きてしまう時も、
リリとなら平気だった。
心残りや後悔は絶えないが、リリのおかげで、この村に来て悪いことばかりだったとは思わなかった。
「せめて・・・」
せめてこれからはこの子のために教会で静かに暮らそう。悪魔も人間も何もいない。神聖な教会に引きこもって静かに生きるんだ。
あと、男はなるべく避けて暮らそう
人間は信用できない
今回の事でしっかりと心に刻み付けられた孤独な決意。
俺はそう決心して、新たな土地へと旅立つのだった。
20
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる