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第十六話

腐男子、王都を満喫する

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 重厚な門をくぐると、そこは別世界だった。
 塀で囲まれた王都の中は大勢の人達が行き交い、RPGゲームやファンタジー漫画で見たような建物が、路沿いにひしめき合うように建っていた。
 すれ違って行く人や店先にいる店員、カップルはこの世界では当たり前だが全員男。
 普段は本屋で働いているから特に気に留めてなかったけど、改めて周囲を見ると女性が全くいない事に違和感を覚える。

 しかし、二次元ファンタジーの世界からそのまま出てきたような騎士達、魔法使いのカップル、竜人族リザードマンの家族、色んな種族や人種のボーイズラブがこの目で普通に見られるなんて幸せだ。
 俺が感慨深くなっていると

「ヤマトは何処行きたい? 今日はヤマトの買い物に付き合うつもりで来たから……」

 少しはにかみながらキールが話しかけてきた。そのはにかんだ顔がこれまた破壊力バツグンのイケメン顔だった。
 キールほどのイケメンだったら恋人の三人や四人いそうな感じなのに、今まで浮いた話が一つも無かった。不思議だ。
 ジーッとキールの顔を見つめながらそんな事を考えていたら、キールの顔が少し赤くなった。
 そうだった、キールは俺の事が好きなんだった。
 気付いた途端、俺まで顔が赤くなってしまった。
 慌てて誤魔化すように喋る。

「おっ、俺は本と服が欲しいな。あとは美味しそうな物を食べて帰りたいかなー」

 この世界に来てから日々食べている物と言えば、ノインさんが御者ぎょしゃから買っているパンや野菜のサラダ、交代で作っている目玉焼きや煮込み系のシチューやスープなど。
 別に俺は美食家では無いし、同じ物を飽きずに何日も食べ続けられるので困ってはいない。
 でもせっかく王都に来たし、色々な飲食店があるみたいだから何か美味しそうな物を食べてみたい。
 
「分かった。それじゃあ、近くに本屋があるからまずそこから行こうか」

 そうキールは言うと、俺の右手をギュッと握って歩き出した。
 えっ、ちょっと待て、手を繋いで歩くとかカップルみたいじゃんか。

「あ、あのさ、キール、手、別に繋がなくても……」
「人混みが凄いしヤマトが迷子になったら大変だから、こうして歩こう」

 キールはそう言い、前へ歩き出した。
 確かに、王都ここで迷子になるとスマホも迷子センターも無いから凄く困りそうだ。
 俺はキールとはぐれないように手をしっかり握り、キールの後ろについて歩いた。



* * * * *



 程なくして、本の絵が描いてある看板が入り口にかかげてある店に着いた。ここが本屋のようだ。
 早速二人で中に入る。
 俺が働いているノインさんの本屋よりフロアは広々としていた。
 フロアに所狭しと置いてある本棚の高さは全て低く、店内が遠くまで見渡せる。
 入り口からすぐ右側に二階へ上がる階段があり、階段手前にケーキやコーヒーのイラストが描いてある看板が立て掛けてあった。二階はカフェのようだ。

 ノインさんの本屋が昔からある懐かしさを感じる本屋だとしたら、ここは現代的で時代に合った本屋かな。

 俺は店内を見回し、天井に掛かっているコーナー別表記の札を確認し、一直線に恋愛小説コーナーへと進んだ。
 さすが王都の本屋、品揃えは豊富で見た事が無い本が沢山並んでいる。
 自費出版本なんかもあり、これは選びがいがありそうだ。
 大量の平積みされてある本の前で悩んでいるとキールが、二階でコーヒー飲んでるからゆっくり選んでいいよ、と気を利かせてくれた。
 さすがキール、本当にイイ奴だ。友達としてなら最高なんだけどなぁ。
 ありがたく心ゆくまで選ばせて貰う事にする。

 俺は結局一時間程吟味してBLの文庫本三冊、イラスト集一冊、お出かけ情報誌一冊、と色々なジャンルの本を購入した。さすがにエロ写真集や18禁本は買わなかった。
 漫画本がこの世界に無いのは少し残念だけど、BL本や雑誌が買えるだけありがたいと思わないとな。

 ホクホク顔でキールが待っている二階に上がると、奥の角の席でテーブルに顔を突っして寝ていた。
 静かに歩いて行って、キールの向かい側の席にそっと座る。
 窓が少し開いていて、時々そよそよと風が入り、キールの髪がサラサラなびいている。

(……キレーな金髪だなぁ……)

 自分が黒髪だから余計にそう思うのかもしれないが、キールの髪はいつ見ても綺麗だな、と思う。
 こんな綺麗な金髪に顔は超絶イケメンなんだから、周りの男が放っておかないと思うんだけどなぁ。
 俺は右手で頬杖をつきながら、左手でキールの髪を触った。サラサラしていて気持ちいい。

(キールは俺の事が好き、なんだよな……
 俺は……それにどう答えればいい……?)

 俺は腐男子だけど、恋愛対象は男じゃない。だから、本来ならキールの気持ちには答えられない。
 でもこの世界には男しかいないし、恋愛をするのも男同士だ。
 だとしたら俺は……

 そんな事をモヤモヤ考えながらキールの髪を触っていると、誰かに肩を叩かれたので振り向いた。

「キミ、確かあの時の……! 久しぶりだね!」

 薄い水色の足首まであるローブを身にまとい、フードを頭にすっぽり被った男が立っていた。

 えーと……誰?

 突然正体が分からない男に声をかけられ、俺はキールの頭に手を置いたまま固まったのだった。
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