上 下
18 / 96
第十六話

腐男子、王都を満喫する

しおりを挟む
 重厚な門をくぐると、そこは別世界だった。
 塀で囲まれた王都の中は大勢の人達が行き交い、RPGゲームやファンタジー漫画で見たような建物が、路沿いにひしめき合うように建っていた。
 すれ違って行く人や店先にいる店員、カップルはこの世界では当たり前だが全員男。
 普段は本屋で働いているから特に気に留めてなかったけど、改めて周囲を見ると女性が全くいない事に違和感を覚える。

 しかし、二次元ファンタジーの世界からそのまま出てきたような騎士達、魔法使いのカップル、竜人族リザードマンの家族、色んな種族や人種のボーイズラブがこの目で普通に見られるなんて幸せだ。
 俺が感慨深くなっていると

「ヤマトは何処行きたい? 今日はヤマトの買い物に付き合うつもりで来たから……」

 少しはにかみながらキールが話しかけてきた。そのはにかんだ顔がこれまた破壊力バツグンのイケメン顔だった。
 キールほどのイケメンだったら恋人の三人や四人いそうな感じなのに、今まで浮いた話が一つも無かった。不思議だ。
 ジーッとキールの顔を見つめながらそんな事を考えていたら、キールの顔が少し赤くなった。
 そうだった、キールは俺の事が好きなんだった。
 気付いた途端、俺まで顔が赤くなってしまった。
 慌てて誤魔化すように喋る。

「おっ、俺は本と服が欲しいな。あとは美味しそうな物を食べて帰りたいかなー」

 この世界に来てから日々食べている物と言えば、ノインさんが御者ぎょしゃから買っているパンや野菜のサラダ、交代で作っている目玉焼きや煮込み系のシチューやスープなど。
 別に俺は美食家では無いし、同じ物を飽きずに何日も食べ続けられるので困ってはいない。
 でもせっかく王都に来たし、色々な飲食店があるみたいだから何か美味しそうな物を食べてみたい。
 
「分かった。それじゃあ、近くに本屋があるからまずそこから行こうか」

 そうキールは言うと、俺の右手をギュッと握って歩き出した。
 えっ、ちょっと待て、手を繋いで歩くとかカップルみたいじゃんか。

「あ、あのさ、キール、手、別に繋がなくても……」
「人混みが凄いしヤマトが迷子になったら大変だから、こうして歩こう」

 キールはそう言い、前へ歩き出した。
 確かに、王都ここで迷子になるとスマホも迷子センターも無いから凄く困りそうだ。
 俺はキールとはぐれないように手をしっかり握り、キールの後ろについて歩いた。



* * * * *



 程なくして、本の絵が描いてある看板が入り口にかかげてある店に着いた。ここが本屋のようだ。
 早速二人で中に入る。
 俺が働いているノインさんの本屋よりフロアは広々としていた。
 フロアに所狭しと置いてある本棚の高さは全て低く、店内が遠くまで見渡せる。
 入り口からすぐ右側に二階へ上がる階段があり、階段手前にケーキやコーヒーのイラストが描いてある看板が立て掛けてあった。二階はカフェのようだ。

 ノインさんの本屋が昔からある懐かしさを感じる本屋だとしたら、ここは現代的で時代に合った本屋かな。

 俺は店内を見回し、天井に掛かっているコーナー別表記の札を確認し、一直線に恋愛小説コーナーへと進んだ。
 さすが王都の本屋、品揃えは豊富で見た事が無い本が沢山並んでいる。
 自費出版本なんかもあり、これは選びがいがありそうだ。
 大量の平積みされてある本の前で悩んでいるとキールが、二階でコーヒー飲んでるからゆっくり選んでいいよ、と気を利かせてくれた。
 さすがキール、本当にイイ奴だ。友達としてなら最高なんだけどなぁ。
 ありがたく心ゆくまで選ばせて貰う事にする。

 俺は結局一時間程吟味してBLの文庫本三冊、イラスト集一冊、お出かけ情報誌一冊、と色々なジャンルの本を購入した。さすがにエロ写真集や18禁本は買わなかった。
 漫画本がこの世界に無いのは少し残念だけど、BL本や雑誌が買えるだけありがたいと思わないとな。

 ホクホク顔でキールが待っている二階に上がると、奥の角の席でテーブルに顔を突っして寝ていた。
 静かに歩いて行って、キールの向かい側の席にそっと座る。
 窓が少し開いていて、時々そよそよと風が入り、キールの髪がサラサラなびいている。

(……キレーな金髪だなぁ……)

 自分が黒髪だから余計にそう思うのかもしれないが、キールの髪はいつ見ても綺麗だな、と思う。
 こんな綺麗な金髪に顔は超絶イケメンなんだから、周りの男が放っておかないと思うんだけどなぁ。
 俺は右手で頬杖をつきながら、左手でキールの髪を触った。サラサラしていて気持ちいい。

(キールは俺の事が好き、なんだよな……
 俺は……それにどう答えればいい……?)

 俺は腐男子だけど、恋愛対象は男じゃない。だから、本来ならキールの気持ちには答えられない。
 でもこの世界には男しかいないし、恋愛をするのも男同士だ。
 だとしたら俺は……

 そんな事をモヤモヤ考えながらキールの髪を触っていると、誰かに肩を叩かれたので振り向いた。

「キミ、確かあの時の……! 久しぶりだね!」

 薄い水色の足首まであるローブを身にまとい、フードを頭にすっぽり被った男が立っていた。

 えーと……誰?

 突然正体が分からない男に声をかけられ、俺はキールの頭に手を置いたまま固まったのだった。
しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

王道学園なのに、王道じゃない!!

主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。 レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ‪‪.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

恋の御伽噺を異世界で

冬咲 椿
BL
不注意で崖から落ち、前世の記憶を取り戻し、現世での僕がどれだけクズ人間なのかを知る。 好き放題していた現世の僕は皆から嫌われ、仲良くなろうと努力するうちに、いつの間にか友達以上の関係を迫られる!

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

病んでる僕は、

蒼紫
BL
『特に理由もなく、 この世界が嫌になった。 愛されたい でも、縛られたくない 寂しいのも めんどくさいのも 全部嫌なんだ。』 特に取り柄もなく、短気で、我儘で、それでいて臆病で繊細。 そんな少年が王道学園に転校してきた5月7日。 彼が転校してきて何もかもが、少しずつ変わっていく。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 最初のみ三人称 その後は基本一人称です。 お知らせをお読みください。 エブリスタでも投稿してましたがこちらをメインで活動しようと思います。 (エブリスタには改訂前のものしか載せてません)

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...