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第十四話

腐男子、馬車で王都に向かう

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(眠れなかった……)

 夜中にあんな出来事があったせいで、結局朝まで眠れずにいた。
 今日は定休日だけどノインさんは夜まで帰って来ない。
 という事はこの本屋にキールと二人きり。
 これは気まずい。
 
 そういえば、この世界に来てからは本屋でずっと働いて、休日は部屋の中でBL本を読んで過ごして……この辺以外の場所へ行った事が無かったな。
 確か本屋目の前の街道は王都と村を繋ぐ道だと以前聞いた。
 今日は定休日だし、キールと二人きりだと俺が顔を合わせ辛いし、給料も貰ったばかりだし、王都に遊びに行ってみようかな。
 
 よし、名案も浮かんだ事だし、すぐさま身支度をする。
 と言っても、俺の服と言ったら元の世界で着ていた高校の制服と、本屋ここの制服の白ブラウスと黒のパンツ、深緑のエプロン、ノインさんから貰った寝巻きのスウェット上下何組かだけ。
 洗濯してローテーションで着ていたけど良い機会だ、俺の新しい服も王都で買って来よう。
 あと本屋ここで取り扱っていないBL本もあったら買って、ついでにBLカップル達を見て目の保養をしよう。
 本屋ここで働いてると俺がBLの標的になって触られまくるので、俺自身が全然美味しくないからな。
 せめてイケメンのキールや、少年の様な愛らしい見た目のノインさんに、客の誰かが迫ってBLな展開にならないかな、と思っているがそういった事は全く無い。
 何故だ、納得がいかない。



* * * * *



 螺旋階段を下りキッチンへ行くと、朝食をとっていたキールと目が合った。
 その瞬間、キールが夜中に俺の手を使って自慰をしていた事、左手にブツを握らされた事、その後手をねっとり舐め回された事等々が脳裏によみがえり、顔がカーッと熱くなった。

「おっ、おおおはよう、キール……」
「おはよう、ヤマト」

 平静を装うつもりが思いっきり動揺してしまった。やばい。
 俺はあの時は寝ていた。何も知らない。そういう事にしておかないといけないのに。

 俺はいそいそとカゴに盛ってあるパンを皿に取り、コップにミルクを注ぎ椅子に座る。
 黙々とパンを食べているキールに、この後王都へ買い物に行く事を伝えた。するとキールは
「俺も一緒に行く」
と言い出した。
 いやいやいや、別について来なくていいから。万が一ピンチになった時は時間停止の能力使えば良いし。

 俺は心の底から本気で遠慮したがキールは
「ヤマトが一人で出歩くのは危ない。それに、俺は王都にノインさんと何回か行った事があるから道案内もできるし、都合が良いだろう?」
などと言い一歩も引いてくれない。
 とうとう俺が折れて一緒に行く事になってしまった。

(……結局キールと一緒にいる事になった……)

 嬉しそうなキールの顔を恨めしそうに見つつ、俺はミルクを一気に飲み干した。



* * * * *


 
 私服に着替えたキールと一緒に戸締りをして、街道を見渡した。
 丁度一台の馬車がこちらへやってくるのが見えた。
 キールはその馬車に手を振り、馬の手綱たづなを握っている御者ぎょしゃに王都まで乗せて行ってくれないかと交渉をした。
 どうやら偶然にもその御者ぎょしゃ本屋うちの常連さんだったらしく、相場より安く馬車に乗せてもらえる事になった。
 俺はその常連さんに挨拶とお礼を言って、キールと一緒に荷台へ乗り込んだ。

 荷台は見た目より広く、売り物であろう木箱と陶器の壺が所狭しと積まれていた。
 順調にいけば二時間程で王都に着くそうだ。
 馬車に揺られながら、俺は流れる景色を楽しんだ。
 馬車、一度でいいから乗って見たかったんだよな。

 しかし、楽しめたのは一時間位で、段々お尻が痛くなってきた。
 木の板で作られた荷台に直に座り、地面も当然舗装されていない為終始ガタガタ揺れるので骨に響く。
 俺が腰を浮かせて痛がっていると、横で胡座あぐらをかいて座っていたキールが話しかけてきた。

「ヤマト、お尻痛い?」
「そーなんだよ~、何か敷くもの持ってくれば良かったなぁ」

 お尻をさすっていたらキールは胡座あぐらをかいている足をポンポン叩き

「俺の上に……座ればいい」

などと頬を赤らめながら言ってきた。

 いやいやいや、それ親切心で言ってないよね!?
 頬赤らめた時点で下心あるよね!? 

「いや、いいよ、俺重いし……うわっ!」

 ガタン!と馬車が激しく揺れた。大きな石でも踏んだのだろうか。
 揺れた拍子にバランスを崩してキールの上に倒れ込んだ。

「いてて……キール、ごめん……」

 起き上がろうとしたら両脇を抱えられて、キールの胡座あぐらの上に強制的に座らされた。何故か向き合って。
 何だこの恋人同士みたいな座り方は……

「ほら、揺れて危ないから俺の上に座ってて。俺は慣れてるから大丈夫」

 そうキールは呟いて俺の頭を撫でた。
 ……確かに木の板に直に座るよりこっちの方が楽だけどー
 ……って、ナチュラルに頭撫でるな!
 そしてこの向き合って座るのやめたいんだけど!!

 俺が体の向きを変えようとしたら、キールが背中と腰に手を回しガッチリホールドしてきた。

(う……動けない……何で馬鹿力……)

「ヤマト、動いたら危ない。このまま大人しくしてて」

 ……俺は諦めてキールの膝の上で大人しくしておこうと思っ……
 !? ちょ、ちょっと待って、俺の股間に……
 キールのギンギンに固くなったモノがゴリゴリ当たってくるんだけど……!!

「ちょっ……キール、離し……」

 キールの腕はビクともしない。凄い力……

 しかもキールは俺を強く抱きしめたまま、俺の髪の匂いを嗅いでハァハァ言ってる。

(うぅぅ……もう好きにしてくれ……)

 馬車の前の方で「今日も良い天気ですなぁ~」と呑気な事を言っている御者ぎょしゃに俺は、半泣きで王都へ一秒でも早く行ってくれと念を送り続けたのだった。
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