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しゃがみ込んで何やら落ち込んでいる様子の千尋を、神様は欠伸を一つ噛みながら呟いた。
『まぁ、そう凹まずとも、全く何も知らない奴より、素性の知れた奴とエッチな事をした方が安心できて良いだろう?』
「……素性を知りすぎているから逆に恥ずかしいというか……とにかく僕は……」
『あぁそうそう! 最後に、ここに転移した人達には迷宮を攻略していく上で有利になるアイテムを一つ、ランダムでプレゼントしているんだよ。中身は私にも分からないけどね。
ハイ、どうぞ』
千尋の言葉を遮り、神様は膝の上に置いていた長い杖を手に取り、杖の上部を千尋と一ノ瀬に向けて軽く振った。杖上部に付いている複数の輪が擦れ合い、金属音が鳴り響いた。
すると、何もない空中から薄茶色の紐で結んである巾着袋が現れ、二人の手の中へフヨフヨと落ちていった。
千尋と一ノ瀬は顔を見合わせ、まず千尋が受け取った巾着袋を開けて中を探ってみた。手に紙の様な感触を感じ、袋から出すと、何回にも折り畳まれた古めかしい紙が出てきた。
「? これは…………地図……?」
千尋が折り畳まれた紙を広げると、沢山の階層に無数に描かれてある部屋とその部屋の名称、簡易宿泊部屋や試練部屋、階段の場所等が事細かく描かれてあった。
「千尋様、何か見えるのですか? 私にはただの無地の紙にしか見えないのですが」
「えっ、そうなの?」
千尋が手にしている地図は一ノ瀬には見えていないらしい。一体どういう事かと頭を悩ませていると、その様子を見ていた神様は驚いた表情をして叫んだ。
『何と! 千尋くんやったね!
それはここの迷宮の地図だよ。
君にしか見る事が出来ない地図だ。
他人には教える事は出来ないが、引き連れては行ける。
他の転移者より有利に進めるね』
千尋は心の中でガッツポーズをした。
やはりこれは迷宮の地図だった。地図に描かれてある迷宮は部屋と通路が無数に張り巡らされてあり、更にはモンスターのいる部屋まで示してあった。地図を見る限り、何も情報が無い状態での迷宮攻略はかなり難しそうに感じたので、地図は大当たりの部類に入るだろう。
「千尋様、おめでとうございます。私のも開けさせて頂きますね」
一ノ瀬はそう言いながら、持っている巾着袋の口を開けて手を探り入れた。
指に当たった物は千尋の持っている紙とは違う固形の物だった。一ノ瀬はそれを握りしめて袋から手を抜くと、派手なピンク色の蛍光色のボトルに液体が入っており、ラベルには『催淫ローション・超強力版』との文字が印刷されてあった。
「何? それ」
「こっ……これは……な、何でもございません!!」
千尋が不思議そうな顔をして触ろうとしたので、一ノ瀬は慌てて背中側へと隠した。
『あー、千尋くん、今のは催淫ローションと言ってね、お尻の穴に塗ると性欲を刺激してどんな奥手の子でも淫らに……』
「言わなくて結構です!」
いつも表情をあまり崩さない一ノ瀬だったが、この時ばかりは頬を赤らめ神様の説明を途中でピシャリと言い放ち言葉を遮った。
『いやいや、それもかなり重要なアイテムだよ? 試練部屋で必須だと思うけどねぇ。そのローションはいくら使っても量は減らない仕様になってるから、試練部屋以外でもドンドン使ってくれてオッケーだからね』
顎に手を当ててニヤニヤしながらしゃべる神様を背に、一ノ瀬は無言でローションを袋に戻した。
『……それじゃ、私はそろそろ戻るとしよう。
一年以内のクリアを目指して、手取り足取り腰取り頑張って、私を楽しませてくれよ?』
そう言いながら、神様はすぅっ……と跡形もなく消え去っていった。
「…………本当に迷宮攻略しなくちゃいけないんだ……はぁ…………
一ノ瀬、僕の鞄貸して」
「あっ……ハイ、どうぞ」
千尋は小さく溜め息をついた後、呆気に取られていた一ノ瀬から自分のスクールバッグを受け取り、中身を確認した。
中には筆記用具、ノート数冊、スマートフォン、モバイルバッテリー、読みかけの文庫本、黒のデジタル腕時計、ハンカチ、ポケットティッシュが入っていた。
腕時計を腕に巻き、日付と時間を確認する。六月六日、午前八時過ぎ、と確認した千尋はその日時を数学のノートの一番後ろのページにメモとして残した。
「……ここでずっと悲観しててもしょうがないよな、とりあえず先へ進まないと……」
「……そうですね、仰る通りです。千尋様のそういう前向きな所、順応性が高い所、昔から変わってませんね。
私も千尋様を無事に元の世界へ連れ帰るまで、傍でお守り致します」
一ノ瀬は千尋の前で片膝をついてしゃがみ込み、千尋の手の甲に唇を落とした。まるで騎士が姫様に敬愛の意を込めて行った行為かの様に優しくキスをされ、千尋は思わずドキッとした。
「わっ!! そ、そういうの止めろって!!」
「……駄目でしたか?」
「駄目に決まってるだろ!? 男同士でそんな事……!」
「ご主人様に忠誠を誓ったのみで他意はありません、安心して下さい」
一ノ瀬は立ち上がり、ニコッと微笑みながら両手で千尋の手を握った。一ノ瀬が微笑んだ瞬間、無風だった洞穴内に爽やかな風が吹いた様な気がした。
(……一ノ瀬って、本当にイケメンだな…………って、本当に試練部屋で一ノ瀬とエッチな事…………できるのか自分)
ニコッと笑っている一ノ瀬を見つめながら想像しようとしてみたものの、経験が無く童貞の千尋は想像力が乏しく、頭の中でシミュレーション出来なかった。
女性とも経験が無く、男同士でしかも具体的に何をするのかも分からない為、段々と気が重くなってきた。
(試練部屋の課題がどうか軽いものばかりでありますように)
そう密かに願いつつ、自分にしか見えないという迷宮の地図を広げ、先へと進み出したのだった。
『まぁ、そう凹まずとも、全く何も知らない奴より、素性の知れた奴とエッチな事をした方が安心できて良いだろう?』
「……素性を知りすぎているから逆に恥ずかしいというか……とにかく僕は……」
『あぁそうそう! 最後に、ここに転移した人達には迷宮を攻略していく上で有利になるアイテムを一つ、ランダムでプレゼントしているんだよ。中身は私にも分からないけどね。
ハイ、どうぞ』
千尋の言葉を遮り、神様は膝の上に置いていた長い杖を手に取り、杖の上部を千尋と一ノ瀬に向けて軽く振った。杖上部に付いている複数の輪が擦れ合い、金属音が鳴り響いた。
すると、何もない空中から薄茶色の紐で結んである巾着袋が現れ、二人の手の中へフヨフヨと落ちていった。
千尋と一ノ瀬は顔を見合わせ、まず千尋が受け取った巾着袋を開けて中を探ってみた。手に紙の様な感触を感じ、袋から出すと、何回にも折り畳まれた古めかしい紙が出てきた。
「? これは…………地図……?」
千尋が折り畳まれた紙を広げると、沢山の階層に無数に描かれてある部屋とその部屋の名称、簡易宿泊部屋や試練部屋、階段の場所等が事細かく描かれてあった。
「千尋様、何か見えるのですか? 私にはただの無地の紙にしか見えないのですが」
「えっ、そうなの?」
千尋が手にしている地図は一ノ瀬には見えていないらしい。一体どういう事かと頭を悩ませていると、その様子を見ていた神様は驚いた表情をして叫んだ。
『何と! 千尋くんやったね!
それはここの迷宮の地図だよ。
君にしか見る事が出来ない地図だ。
他人には教える事は出来ないが、引き連れては行ける。
他の転移者より有利に進めるね』
千尋は心の中でガッツポーズをした。
やはりこれは迷宮の地図だった。地図に描かれてある迷宮は部屋と通路が無数に張り巡らされてあり、更にはモンスターのいる部屋まで示してあった。地図を見る限り、何も情報が無い状態での迷宮攻略はかなり難しそうに感じたので、地図は大当たりの部類に入るだろう。
「千尋様、おめでとうございます。私のも開けさせて頂きますね」
一ノ瀬はそう言いながら、持っている巾着袋の口を開けて手を探り入れた。
指に当たった物は千尋の持っている紙とは違う固形の物だった。一ノ瀬はそれを握りしめて袋から手を抜くと、派手なピンク色の蛍光色のボトルに液体が入っており、ラベルには『催淫ローション・超強力版』との文字が印刷されてあった。
「何? それ」
「こっ……これは……な、何でもございません!!」
千尋が不思議そうな顔をして触ろうとしたので、一ノ瀬は慌てて背中側へと隠した。
『あー、千尋くん、今のは催淫ローションと言ってね、お尻の穴に塗ると性欲を刺激してどんな奥手の子でも淫らに……』
「言わなくて結構です!」
いつも表情をあまり崩さない一ノ瀬だったが、この時ばかりは頬を赤らめ神様の説明を途中でピシャリと言い放ち言葉を遮った。
『いやいや、それもかなり重要なアイテムだよ? 試練部屋で必須だと思うけどねぇ。そのローションはいくら使っても量は減らない仕様になってるから、試練部屋以外でもドンドン使ってくれてオッケーだからね』
顎に手を当ててニヤニヤしながらしゃべる神様を背に、一ノ瀬は無言でローションを袋に戻した。
『……それじゃ、私はそろそろ戻るとしよう。
一年以内のクリアを目指して、手取り足取り腰取り頑張って、私を楽しませてくれよ?』
そう言いながら、神様はすぅっ……と跡形もなく消え去っていった。
「…………本当に迷宮攻略しなくちゃいけないんだ……はぁ…………
一ノ瀬、僕の鞄貸して」
「あっ……ハイ、どうぞ」
千尋は小さく溜め息をついた後、呆気に取られていた一ノ瀬から自分のスクールバッグを受け取り、中身を確認した。
中には筆記用具、ノート数冊、スマートフォン、モバイルバッテリー、読みかけの文庫本、黒のデジタル腕時計、ハンカチ、ポケットティッシュが入っていた。
腕時計を腕に巻き、日付と時間を確認する。六月六日、午前八時過ぎ、と確認した千尋はその日時を数学のノートの一番後ろのページにメモとして残した。
「……ここでずっと悲観しててもしょうがないよな、とりあえず先へ進まないと……」
「……そうですね、仰る通りです。千尋様のそういう前向きな所、順応性が高い所、昔から変わってませんね。
私も千尋様を無事に元の世界へ連れ帰るまで、傍でお守り致します」
一ノ瀬は千尋の前で片膝をついてしゃがみ込み、千尋の手の甲に唇を落とした。まるで騎士が姫様に敬愛の意を込めて行った行為かの様に優しくキスをされ、千尋は思わずドキッとした。
「わっ!! そ、そういうの止めろって!!」
「……駄目でしたか?」
「駄目に決まってるだろ!? 男同士でそんな事……!」
「ご主人様に忠誠を誓ったのみで他意はありません、安心して下さい」
一ノ瀬は立ち上がり、ニコッと微笑みながら両手で千尋の手を握った。一ノ瀬が微笑んだ瞬間、無風だった洞穴内に爽やかな風が吹いた様な気がした。
(……一ノ瀬って、本当にイケメンだな…………って、本当に試練部屋で一ノ瀬とエッチな事…………できるのか自分)
ニコッと笑っている一ノ瀬を見つめながら想像しようとしてみたものの、経験が無く童貞の千尋は想像力が乏しく、頭の中でシミュレーション出来なかった。
女性とも経験が無く、男同士でしかも具体的に何をするのかも分からない為、段々と気が重くなってきた。
(試練部屋の課題がどうか軽いものばかりでありますように)
そう密かに願いつつ、自分にしか見えないという迷宮の地図を広げ、先へと進み出したのだった。
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