Terminal~予習組の異世界召喚

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ep6.風呂

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 鍋が煮えると、その匂いに反応したのかテントの中でミーニャが起きる。目が覚めると、見た事も無い場所にいたためかテントの中で飛び上がって、天井にぶつかっていた。

「にゃー!」
「暴れちゃダメだよミーニャ」

 椿は、テントの中で毛布に絡まって暴れるミーニャに駆け寄って、優しく抱き上げると、テーブルまで連れてくる。ミーニャが眠った後、川が近くにあるならとキャンプを河原に移動させた。椿の浮遊魔法で、そのまま移動した拠点。
 テーブルの前には、焼いた魚とシチューが皿に入れられ、お腹が空いたのかミーニャがそれに手を伸ばす。だが、手で触ると熱いため、椿がミーニャを膝に乗せてスプーンで冷ましながら口元に持って行く。

「う」
「ミーニャ、あーん。おくちあけて」

 スプーンを持つ椿の行動。それを理解していないのか、上を見上げるミーニャ。だが、椿は根気強くスプーンを見せると、口を開けてシチューを食べた。椿が言うには、胃が受け付けるか分からず、シチューが駄目ならミルクに変えると言っていたが、一口食べると目を輝かせ、もっとと言わんばかりにスプーンを掴むミーニャの様子から、問題ないらしい。シチューの次に、食べやすいようにほぐした魚を口に運べば、ミーニャはすぐに食い付いた。
 椿が、ミーニャにご飯をたべさえながら、何時になく穏やかな表情の椿。本当に子供が好きなのだろうと感じる。

「おいしい?」
「あー」

 小柄の割に、良く食べるのかテーブルを手で叩いて、催促する。椿は、それも嬉しいらしく「おかわり用意するね」といつもの話し方と性格が違う別人のようだ。
それには理由がある。このターミナルでは俺達勇者の言語は全て翻訳される。俺達はこの世界の文字も勉強せず読める上に、聞き取れる。
そこで俺と椿は、ある実験を行った。

それは英語と日本語で変化が起こるかという実験だった。結果は結果は、椿の話し方が変化する結果が出た。
元々日本暮らしではなかった俺と椿は、英語が母国語で日本語は勉強して覚えた。その結果、椿は元々少し日本語を話せた俺が言葉を教えたせいで一人称『オレ』の男口調になってしまった。
本人に直すつもりはなく、貫き通している。
だが英語の場合、椿は女口調となる。本来は一人称も私の椿は、英語のほうが楽だとよく言っていた。

そして預かった少女ミーニャが言葉を話せない事から、椿は女の子らしく教育する一貫で英語を話している。自分の男口調を真似したら大変だと言うのが椿の持論らしい。

 一方俺はと言うと、怒魔法がコントロールできないとさっきのように熱で周囲に被害が出るので、特訓中。内容と言えば、テントから少し離れた場所で川の石を積み上げ、囲いを作る。そして、掌に握った石に怒魔法のエネルギーを流すという作業だ。地味な作業に対するストレスも低火力ながら怒魔法が発動するようだ。石を溶かさぬよう、熱量(怒り)のコントロールや投入する魔力の制御などを行う。
 一時間程で、掌の石が焼けるだけで、周囲には影響が出ない程度にはコントロールできた。それを俺は、水が入った囲いに投入する。そうすれば、焼けた石で中の水が沸騰する。30分も熱気に包まれていたため、汗がながしたくて簡易石垣風呂を作ったが、良い出来だ。何度も水が漏れたり、崩れたりと怒魔法発動の種火を作る事もあった。

 そして、良い湯加減になった露天風呂に衣服を脱いで汗を流していると、飯を食い終えたミーニャを抱いて椿がこっちに来る。

「飯食い終ったのか?」
「あぁ。お腹一杯食べて満足そうだ。それより、修行と言いながら、風呂作ってたのか」
「どうせ熱発生するなら、利用したくてな。……お前も入るか?」

 石の背もたれに凭れながら、そう言った。
椿は「そうする。ついでにミーニャの体も洗いたい」と言って、指を弾きながらタオルや石鹸などを取りだす。その光景が不思議に見えたのか、ミーニャが魔法陣に手を伸ばす。
 だが、魔法陣に触れる事は出来ず、石鹸やシャンプー(自然に優しい)の容器に視点が移っている。 

「俺出た方がいいか?」
「いいよ。ついでに背中を流してやる」

 そう言いながら、洗面器に湯を入れ、石鹸とスポンジを用意する。次にミーニャの服を脱がせ、湯船に入れる前に、泥を落とし始める。はじめは汚れていたため、泡が黒くなった。ミーニャはシャンプーの泡を怖がって逃げようとしたが、椿が上手にあやしているうちに慣れてしまったらしい。
 そして、全身綺麗になったミーニャを湯船に入れる椿。湯船に入ったミーニャは、気持ち良さそうに喉を鳴らしていた。猫の割に、水は大丈夫なのだろうか。

「ちょっとミーニャ見ててあげてくれ」

 椿はそう言って、自分も服を脱ぎ始める。一切抵抗なく服を脱ぐのはどうかと思うが、流石に俺の前では抵抗はないらしい。白い肌が栄える艶めかしい身体だな~と評価していると椿も湯船に入ってきた。3人は言った事で湯が溢れるが、別段問題はない。

「くふ~」
「ミーニャ表情蕩けてるな。あ、泳いじゃダ~メ」
「や~ん」
「まぁ気持ちは分かる。風呂はいいな」

 湯船につかる俺達三人。椿は、湯船で泳ぎ始めるミーニャを捕まえて、だっこしている。あの位置が定位置になりつつあるようだ。異世界に来た割に、あまり異世界ぽくない現状。だが、ホッとする。だけど、これからの事も考えなくてはいけない。
 厄介な存在を抱えたまま、異世界で生活になるとは思ってなかった。ミーニャをどうするかなと考えていると、顔に水が掛る。水浸しの顔で下手人を見れば。ミーニャの手で水鉄砲を撃たせている椿が居た。ミーニャも教えられたそれが面白いのか何度も俺の顔に向かって撃ってくる。

「よし」
「ぷわっ」 
「おー」

 仕返しにと俺も、手で水鉄砲を作って椿に向ければ、目に当ったのか苦しんでいる。良い気味である。色々考えても仕方ない。なるようになるしか、無いのだろう。
 その後俺達は、水鉄砲合戦をするが、ミーニャの顔に命中し大泣きするまで続いた。泣いたミーニャを宥める椿に一方的に怒られたのだが、納得がいかない。
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