Terminal~予習組の異世界召喚

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ep3.構築魔法

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「どうかお考え直しください。貴方方はこの国に必要な勇者様です。国の対応が気に入らないのでしたら、ご要望を頂ければ、叶えましょう」
「悪いんだけど、俺達はこの国の行く末に興味も無い。魔王もどうでもいい。そして何より聖女の面子なんて、もっとどうでもいんだよ」

 彼女は、俺達を召喚した功労者であり、勇者を導く希望なのだろう。その希望がみすみす規格外の勇者を国外に逃亡させたとなれば、面目は丸つぶれだ。俺の言葉が聞いたのか、笑顔の裏で青筋が立ち始めた。

「それほどの力をお持ちの勇者様、平伏する民をごらんください。彼等をあなたは見捨てられますか? 貴方方の力が多くの人を救い、未来を作るのです。貴方方が逃げだせば民達は、絶望にくれるでしょう」

 今度は泣き落しに掛るようだ。

「ユウジ様やケント様達と揉めたとは聞いておりますが、兵士達は貴方が襲われていたと申しております。必ず彼等を説得いたします。ですから、どうか一時の感情に支配されないで、私たちヴァルハラに勇者の力をお貸しください」

 そう言って頭を下げる聖女。だけど、なんとなくだが下げた頭は、屈辱と怒りに染まっているのだろうと想像がつく。所作は綺麗だが魔力が刺々しい。俺が観察していると椿が前に出る。どうやら今度は椿が話すらしい。下手に口を挟むと起こるから、指示を待つか。

「聖女といったか、なら他の勇者たちを止めなかった監督責任とオレ達に使用した魔法による攻撃の賠償と言う形で、お前と王の首をよこせ」
「な」
「安心しろ。オレが命じれば影虎は動く。お前達は民を救いたいのだろう? なら首を差し出せ。それで国に残ってやろう」

 どう考えても魔王の交渉である。小さな背格好で、背の高い美人である聖女に王と首を差し出せと要求する椿。相手を見上げながらも余裕を崩さず、微笑む椿に聖女はいよいよ我慢が効かないらしい。プルプルと錫杖を握る手が震え錫杖に魔力が籠って行く。明らかに攻撃の姿勢を見せている。
 だが、椿は憚ることなく交渉と言う名の侮辱を続ける。

「どうした? 命が惜しいのか? まさか世界を救うのが使命の聖女様が死にたくないと? なのに、勇者として召喚した民間人であるオレ達には死ねと言うのか? 答えたらどうだ、喋らないなら首が胴体とくっついている必要はないな、オレが斬り落としてやろうか」
「ふ、ふふふふ、あはははは」

 椿が聖女の顔を覗きこんだ瞬間、彼女はいつもとは違う傲慢ちきな笑い声をあげる。そして、杖を地面に叩きつけると、訓練場の天井から緑色の文字が刻まれた紐が百本以上現れ、それらが椿に向かって矛先を向けて制止する。
 椿は一切動じることなく聖女を見返す。

「調子に乗るんじゃねぇよ! たかが異界の奴隷如きがよ!」
「それが本性か。聖女と言うより魔女と名乗ったらどうだ?」 

 椿がそう告げれば、素早い動きで錫杖を振りまわし、椿の頬を殴打する。そして、小さな椿の身体が宙へと浮き上がる。重力に従って落下し、動かなくなる。それを見て笑う聖女は、清楚な雰囲気を脱ぎ捨て、美しくも醜い笑みを浮かべる。
 動かなくなった椿に歩み寄りながら、吐き捨てるように話す聖女。

「お前ら異世界の猿に力を与えてやってるのは、この私だ。それを芸を覚えた猿が、飼い主に噛みつくなんて、許される訳ねぇだろ。あろうことか、首をよこせ? お前が差し出せカスが。猿の分際で意気がりやがって」

 暴言の数々が羅列するが、聖女にとってやはり俺達は、道具なのだろう。それがハッキリした。それにしても女の豹変は怖いものだと思う。美人なのが余計に恐怖を煽ってくる。

「言いたい事はそれで終わりか?」
「結界? 馬鹿な使えるはずがない」

 聖女が迫ると同時に起き上った椿。殴られた頬は、無傷であり身体を覆う様に半透明の魔法陣が浮かび上がって、防護している。あらかじめ仕込んでいた自動防御が発動した結果だろう。自動防御は、仕込みが難しいが存在する魔法である。だが、構築は難しく、タイミングがシビアであらかじめ魔道具に組み込むタイプが多い。ゆえにこの世界にきて数日しかたっていない子供が扱える魔法ではないのだ。
 聖女は、召喚した緑のひものような魔法を椿めがけて嗾ける。意志を持ったように椿に向かう紐をよそに錫杖に魔力を込めていく。相手を捕縛した後、攻撃魔法を発動するつもりなのか。

「お前の言う通り、勇者といえども魔法を学び始めただけでは、使えないだろう。だがオレ達には10年という時間があった。魔法陣を作り、それを保存する魔法。それがオレの構築魔法クリエイト」

 椿はそう言いながら、指をはじくと足元と背後に22個の魔法陣が発生する。それらは、色がバラバラで椿に向かってくる200近い拘束魔法を炎や剣、かまいたちなど22種類の攻撃で自動迎撃する。聖女は次々に散らされる捕縛用の魔法と、それを恐ろしい精度で防御する魔法に目を見張る。
 椿一人で操作するのではなく、足元に構築した制御用の魔法陣が背後に浮かぶ魔法陣を統括しており、椿は新たな魔法陣を眼前に構築する。椿の魔法は、俺やほかの勇者のように感覚で扱うことのできない魔法だ。
俺たちの魔法がスポーツのテクニックなら、椿の魔法は科学である。綿密に構築し、寸分の狂いもなく作り上げなければ効果が発動しない。戦闘中に構築するなど、なお不可能だろう。椿と一緒に城の本を読んだとき、椿の魔法は時代遅れの産物だと書かれていた。現代の魔法は魔法陣構築はしない。時間の無駄で応用性がない。
 しかし、椿は10年以上その魔法を使い続け、数秒で構築改造、発動をやってのける。さらに作った魔法を保存することができ、眠っている間には通常の百倍以上のペースで魔法陣を作成できるのだ。すでに別物といってもいいのが椿の魔法。

「10年? お前たちの世界に魔力はなかった筈だ」
「あるはずがない。だが10年前、ママや影虎の両親をこの世界が奪った。その時、オレ達は再び異世界の扉が開くとふんで、準備をしていただけだ。魔力の理解、コントロールーー魔法の構築。時間はたっぷりあった」

 椿の語るのは俺たちの力の真相。この世界に来たばかりの人間とは違う絶対的なアドバンテージ。俺と椿は、この国が現況か定かではないが10年前に召喚に巻き込まれ家族を失い、世界の力に触れたことで魔法の力を得た。
勇者に与えられる力を10年も前に得てしまった俺たちだが、世界を超える事無く地球にて魔法という力を磨き続けたのだ。誰にも教われず、見せることもできない力。気を抜けば喰われてしまいそうな人智を超えた力を、俺たちは10年研磨し、備え待ち続けた。

再び召喚が行われる時を。

そして、誰よりもこの世界にきて、母を探したいと思っていた椿。そのために、努力をし続けてきた。この世界を恨み、必ず報復すると誓い磨いた牙。
臆病で、内気だった性格が変わるほど打ち込んだ魔法の修行。母に会いたいと願い、それでも届かなかった。

けれど今は違う。

「くらえぇ!」
「オレ達にこの世界を救えだと? 全てを奪っておいて、勝手なことを言うな」

 聖女が魔力をためた錫杖から、緑の魔力法を放つ。それを前面に展開した結界で受け止める。椿の結界に阻まれた聖女の砲撃は、拡散しながら椿の背後に新たに構築された巨大な魔法陣に吸収される。10秒ほどで発射が終わる。すべて吸収された聖女は疲労から、杖にもたれている。
 聖女の魔力を吸い取った椿は、手のひらの先に魔法陣を構築する。それは吸い取った魔力を相手に放つ魔法陣。10年前、俺の魔力を逆手にとってカウンターしてきた魔法。

「---オレはこの世界を許さない」
「く、でも、これには気が付いているかしら」

 魔法を聖女に返そうとしたとき、聖女が懐から出した鈴を鳴らす。その瞬間、椿の動きが止まり、首に巻かれたチョーカーから紫入りの紫電が走る。それは俺のチョーカーからも出ており、体の自由を奪う。
「それは隷属の首輪。この世界に呼び出した勇者が暴走した場合と逃げた場合、位置を知らせ傀儡に変える。本来最後の手段だが、使わぬ手はないわ」

 形勢逆転とばかりに、立ち上がり椿を見下す聖女。なるほど、チョーカーはそんな効果があったのか。さて、椿はどうするのかな。外すなと言う事情が、理解出来た。チョーカーを外せば、間違いなく奴らに勘づかれていただろう。

「さぁ、傀儡よ。その魔法を中止し、私に従いなさい」 

 聖女鈴を鳴らしながら、椿に命令する。それに対する椿の答えは。「断る」だった。身体の自由を奪う魔導具を使われるが、あろうことか椿は指を弾くだけで解除する。指の音ともに魔法陣がチョーカーの表面に発生、すぐに溶けてなくなる。

「一つ教えてやろう。オレは、勇者の魔法を二つ持っている。一つは構築魔法、もうひとつは鑑定眼だ。お前達の思惑は最初から知っているんだよ」

そう10年前に異世界の扉に触れ、構築魔法を得た椿。そして今回の召喚によって再び異世界の扉に触れた事で椿は新たな魔法を得ていた。
椿が目に魔力を込めると目に浮かび上がる魔方陣が、見た魔法や魔道具の効果を解析するという魔法。それdsけなら使い道が殆どないが、構築魔法で新たな魔法を造れる椿が使えば最強の魔法となる。
 椿の魔法によって最後の手段がなくなり、呆然とする聖女目掛けて発射寸前だった魔力砲を放った。

「うそ、くっつああああ」

 咄嗟に結界を張れたのは、聖女の実力の高さをあらわしている。椿の魔力と聖女の魔力の混ざった砲撃を、杖を地面に刺した結界で防いだ彼女。だが防ぎきる事は叶わず結界ごと、吹き飛ばされ訓練場の屋根から転落する。
 そして、攻撃を放った椿から、前面までの床が魔力による衝撃で焼け焦げていた。熱かったのか手を振りながら椿が戻ってくる。そろそろ俺も外してもいいだろうと、魔力の放出を先程の2倍にあげると、隷属の首輪とやらは俺の魔力に耐えられず、燃え尽きる。それを確認した椿は、俺の首に手を伸ばす。

「そろそろ、国の兵士も集まってくるだろう。空を飛んで逃げるとしよう」
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