Terminal~予習組の異世界召喚

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ep21.城下町

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藤也の決死の一撃がガンダーツの肩を捉える。新たに手にしたであろう召喚獣すら通用しなかった相手。だがその相手に見事に食い下がった藤也だったが。







「ふん」







 文字通り全力を振り絞った一撃だったが魔王ガンダーツの肌に傷一つ付けることは叶わなかった。力を使い果たした藤也が倒れ、ガンダーツがその背中を見下ろしている。 







 こいつの判断基準がどうなるかはわからないが、俺の見立てでは『合格』だと思っている。




 何故ならこいつは、藤也の最期の一撃だけ、『防御』したのだ。咄嗟の一撃に対して、今までは魔力を一切用いず受け止めていたガンダーツが、魔力による防御を行っていた。その防御力の前には、藤也の攻撃は無効化される。




 けれどもガンダーツは、藤也の攻撃に危機を感じた事で、防御行動に走った。










「で、どうなんだ」




 俺はガンダーツに尋ねる。ここでこの男が退かないなら、俺が再び相手する事になる。左腕を偽装工作で切断してしまったが、片腕でも負ける気はない。




「こ奴の名は、何と言った?」




「藤也だ。お気に召したのか」

「うむ。あまり期待はしておら何だが、最後の目は、良い」




 どうやらお気に召したらしい。そしてガンダーツは笑いながら、俺を睨む。




「お前との戦いも胸躍るが、やる気を感じられんのでは意味がない。……よかろう。見逃してやる」

「そうか」




 腕を組みながら、魔力を放ち空に浮き上がるガンダーツ。静かに空に飛び上がった奴は、ご機嫌なまま、遠くへと消えていく。 




 やがて姿が見えなくなると、俺は足元で気絶するアマリナと藤也。勇者二人と魔王一人と遭遇しての被害が、怪我人二人とは幸運も良い所だろう。




 俺の負傷は偽装工作なので、負傷とは言えない。まぁ一番の大怪我ではあるのだろうか。




 運よく俺の正体は悟られず、死傷者も出なかった。この場合、藤也達を始末するか悩むが、……生かす方に決めよう。










 気を失っているアマリナと藤也を戦闘で荒れた森から連れ出し、川に近い草むらに寝かせる。二人を同時に片手で持ち上げるのは苦ではない。とはいえ、片腕を切断された重症者が取る行動かと言われると悩む。




 とはいえ、気絶者が二人な以上、俺しか動けないのだ。 




 二人が目覚めるまで、俺も木の根っこに腰掛けて静かに待つ。さすがに疲れたので俺も休息を必要としていた。そして、木陰でそよ風を肌に受けながらボーと待っていた。







 そんな時だ。




「おやおや、あんたら、冒険者か? 酷い怪我をしているようだが……」

「あんた、どうしたんだい? ってあら大変!?」




 川沿いの道を走っていた馬車が止まり、御者らしき老人が傷だらけの二人と俺を見て心配そうに声をかけてくる。そして馬車が止まった事で中から顔を出した老婆が声を上げる。




「あ、どうも」




 慌てて馬車から下りてきた二人に俺は、頭を下げる事しかできなかった。







ーーーーーーーーーー







 先ほどの二人に事情を説明したのち、彼らの目的地も俺達と同じだった事もあってか荷馬車に乗せてもらえることとなった。




 二人は、麦商人らしく今日は麦を街まで届けに来ていたらしい。その途中で俺達を拾ったという。




 婆さんが藤也とアマリナの簡単な応急措置もしてくれた。俺の腕は婆さんではどうにもならないので消毒代わりの薬草を少し拝借した。正直、婆さんが居て良かったと言える。さすがに俺がアマリナの治療など出来る訳もない。藤也であれば泣きわめこうが包帯を巻きつけるのだが。







「もうすぐ城下町に着くよ」













 荷馬車に煽られ3時間ほど経った頃だろうか、アマリナが目を覚ます。




「く、……ここは、……あ、あの魔王は、ぐ」

 目覚めたアマリナが慌てて上体を起こす、だががんだーつとの戦闘のダメージで顔をしかめる。その様子に婆さんが駆け寄る。

「あ、あなたは」







「しがない商人の妻さ。あんた重傷なんだから、大人しくしてなきゃダメだよ」




「えあ、え、エノク?」

「あの後、ガンダーツは何処かへ飛んで行った。そこで残った俺は、あんたらを安全な場所に運んだ。そしてそのご婦人と旦那が通りがかって手当てしてくれたんだ」

 状況を理解できないアマリナに説明を加え、今はもう大丈夫だと告げる。その次に彼女は藤也の事を探し始めたが、隣で寝かせてあると告げる。すると彼女は安心してホッと息を突く。だが次に俺の肘から先がなくなった左腕を見て「すまない」と申し訳なさそうに告げる。













 俺自身がやった事だから罪悪感を持つ必要はないのだが、こいつとしては一時的とはいえ同行者を守り切れなかった責任を感じているのだろう。片腕を失うと言う事は、冒険者としては廃業を意味していると言ってもいい。







「気にするな。俺の腕に関しては手立てがある」







 俺がそう告げるとアマリナは驚いたような表情で「ほ、本当なのか」と尋ねてくる。まぁ気持ちがわからない事もない。無いのに偽装工作で腕切断はできない。まぁ方法には俺の本来の魔法と俺の魔力に関わるのでトップシークレットだ。 







 怪我をしているアマリナを再び横にならせた

「もうすこしで城下町だから、休んでいて」

「あ、あぁ」




 夫人の言葉に素直に従ったアマリナは、やがて再び寝息を立てて静かに眠りにつく。魔力と体力の消耗が激しかったのだろう。




 今くらいは休息を取るべきだろう。




ーーーーーー







 やがて聞いていた通り大きな城の見える城下町へとたどり着いた。関所を通過する際、老夫婦と別れる事となる。彼らは治療院にアマリナと藤也を届けてくれるらしい。関所はアマリナと冒険者登録のおかげで比較的簡単に通過できた。







 俺も連れていくつもりだったらしいが俺は用事があるので抜けさせてもらう。俺の腕はこれ以上悪化しないため、椿との合流を優先する。老夫婦に礼として金を渡そうとしたが断られ、さらにアマリナが礼をしておくと言っていた。







 なので申し訳ないと思いつつ荷馬車を下りて、城下町を歩くとする。村とは比べ物にならない規模の街並みに人が数多く往来している。露店や店なども多く市場がにぎやかだった。

 直接椿のいる店に向かう手もあったのだが、途中に通りがかった露店で飴玉と目についた物を幾つか買っていく。金自体は冒険者として村の依頼をこなした事で手持ちがあったが、あまり余裕もなさそうだな




 なのに、俺自身でも謎な行動を取っているのは、俺の親父のせいだろうな……。いつも帰りには何か買ってきていたのを見て育ったからな。







 片腕で持てるだけ荷物を持った俺は、街にあった簡易の地図を見て、椿の指定していた場所へと向かった。
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