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十二月十五日(3)
しおりを挟む私が先輩と初めて会ったのは文化祭の時だった。
一つ一つ教室を回り、文化祭の出し物を見ている時、私のことをイジメていた誰かに怪我を負わされる。
押されて廊下に倒れた拍子に、転びそれで手を捻挫したのだ。
その時の私はむしろこの程度ですんでツイてるとさえ考えていた。
そこに先輩が現れた。
いつまでも立ち上がらない私に手を貸し立ち上がらせてくれて、保健室まで牽引してくれた。
保健室に着くまでに少しだけ話をした。冷え性と言っていた通り手が凄く冷たかったのが印象的だった。
印象的といえば、話の中で、先輩はこんなことを言っていた。
「なんで動けないのなら、助けを呼ばないのさ?」
「……」
その時の私は、自分が助けを呼ばなかった理由が自分でもわからなかったので閉口してしまう。
「もし恥ずかしいことだと思っているなら、それは違うよ。別に人に頼ることは恥ずかしいことじゃないんだよ。と、言っても、頼りたい時に頼れる人がいる方が珍しいんだけどね」
「……はい」
「でも、何かあったら僕に頼ってきてよ。キミの頼りたい人ではないかもしれないけど、その代わりくらいにはなってあげられるかもしれないからね」
「……」
何故かはわからないが、私は泣いてしまった。
今まで殴られても暴言を吐かれても、何をされても泣かなかったのに。
初めて学校内で泣いてしまった。
大粒の涙を流して、大きな声を上げて、幼稚園児みたいに廊下で泣く私は他生徒の注目の的で生まれて初めてこんなに人目を浴びたかもしれない。
泣いてた時間は五分くらいだったと思う。
急に泣き出した私を見て、おろおろしている先輩をみているうちに涙は自然と止まった。
先輩の言葉どおり、頼ればよかったのかもしれない。
もっと早く頼っていればこんな風にならなかったのかもしれない。
一日早く、先輩に再開していれば私の心は死ななかったのかもしれない。
人を殺す能力は手に入らなかったかもしれないけど、自分を生かすことはできたのかもしれない。
かもしれないをいくら重ねたところで、新たなかもしれないを生むだけだとわかっていた。
なのに考えてしまう。
かもしれないの結末はわからないが、今わかることがあった。
もう何もかもが遅い、ということだ。
先輩に頼れないなら、自分の力に頼ればいい。
自分の力で笑っていける。
私が笑ってるから、今日はイジメられていない。
私が笑ってるから、今日、先輩とあんなに長く話すことができた。
私が笑ってるから、何もかも上手くいっているんだ。
私が笑ってるから。わらってるから。ワラッテルカラ。
――――もっと、笑わなきゃ。
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