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後編

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「デュジャルダン侯爵閣下には先日、わたくしからこちらの書状をお送りしました。内容は、ご子息から婚約を破棄されたことをお伝えするものになります」

 ぽかん、とミーニャは口を開けて固まる。

 そう、今までは「格上の侯爵子息が男爵令嬢に婚約破棄をつきつけた」という話だった。
 ところがこれでは、「格下の男爵令嬢が、無謀にも侯爵閣下に婚約破棄のお願いをした」という話に変わる。

 レオナールは学園の生徒が見守る中、大声でわたくしに婚約破棄を宣言した。皇子殿下がそれを後押ししたため、やっぱ「今のはナシで」も無効になった。

 とは言え、この一月ほど、待てど暮らせど一向にわたくしの生活が変わる様子もなければ、便りの一つもない。

 あまりに何も変わらない日々。これはつまりどういうことか?

 そもそもわたくしとレオナールの結婚は、現侯爵家当主の鶴の一声で決まったことだ。わたくし達の婚約は、彼が最終的な決定権を持っていると言って過言でない。

 その侯爵閣下から今に至るまで何のアクションもないということは、そもそも話が伝わっていないか、耳に入ってはいるが聞かないふりをされているのか、という推測が立てられる。

 だからわたくしは腹をくくって、波風立てることにしたのだ。

 もはや、「侯爵家が破棄してくれるならラッキーだけど、格下のわたくしから申し出るのは角が立つよね」なんて生ぬるいことは言うまい。

 レオナールとは別れる。わたくしは新しい人生を歩みたい。
 たとえその選択が侯爵当主を失望させることになろうとも、構わない。

 ……いや、構うし、わたくしの性根は事なかれ主義者だ。
 だが、考えた。殿下に落胆されることと、侯爵閣下に落胆されること、一体どちらの方が嫌か? 迷うまでもなく前者だった。

 量で言えば、長い付き合いであるのは侯爵閣下の方だ。けれど質という観点では、殿下の方に分が上がる。
 だってここ最近ずーっと一緒だった。

 そして、認めよう。わたくしはこの短くも濃い一瞬の間に、すっかり殿下のことが好きになってしまったのだ。

 あ、その、もちろん敬愛という意味でですからね! それ以上特に深い感じではないですからね!

 ……とにかく、あの人は本当に素晴らしいお方だ。まっすぐで、思慮深くて、けれど行動力に溢れていて。そして何より、王国で価値がないと判を押された人間にも、価値を、そして居場所をくれる。どうして期待せずにいられよう?

 ――ひょっとしたら、わたくしの正体を知ってさえも、掌を返さないかも、と。

「――と、いうわけで。確かに今は非公式扱いですが、近々わたくしとレオナールの婚約破棄は決定事項となるでしょう。そもそもわたくしはご縁のあった方と親睦を深めさせていただいているだけです。誰にも恥ずかしいことも、罪と断じられるようなこともしていませんよ」
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