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第1章 世界の研究者、猪飼瑠璃

第12話 恩返し

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「それじゃ! ここから動かないでね! バリ急いで何とかしてくるから!」
「ほな、後でさっきの話、詳しく教えてくれよな!」
「いいか! 動くんじゃねぇぞ!」
「……またね」

 4人は私に声を掛け……再び奥深くへと進んで行った。
 ……本当に大丈夫だろうか?
 たった4人で、あんな怪物たちと戦っているのだろうか?
 しかも4人中3人は女性……私ですら、怪物を殺すことに躊躇していたのに……。
 ……っていうかよくよく考えたら、武器持ってるって日本だと銃刀法に引っかからない? あの人たちの言ってるサンルート王国? っていうか、異世界ってそういう規制無いの!? ……ダンジョンがあるから無いか、当然か……。
 ……もしも怪我したらどうするんだろう? 確か異世界小説だと……主人公がチート能力で治したり、仲間がそういう能力を持っていたり、もしくは……。

 ……あれ? さっき4人が座り込んでいたところ……なんかあるんだけど?
 私は翡翠ちゃんの頭をそっと地面に置き、それを手に取った。

「これ……回復薬じゃない!?」

 ……いけない! ラピスさん、これを忘れてる! 届けないと……怪我をしたとき大変だ!
 こうしちゃいられない! じっとしてろと言ってはいたけど……今はあの人たちの安否が心配!

「翡翠ちゃん……ごめん……もう一回行って来る!」

 私はダンジョンの奥へと駆けだした。



 私は駆け続けている。
 どこかにいるであろう、会ったばかりの縁しかない4人の元へ。
 こう言う人ももしかしたらいるのではないだろうか? 「なんで会ったばかりの、それも得体のしれない奴らの為に体張っているんだ」と。
 私はこう言いたい、「その会ったばかりの私を助けてくれたのは彼らだ、彼らの恩返しがすぐにでもできるのなら……私はやりたい」とね。
 そんなこんなで、走り続けていると、もう既に何回も遭遇しているあの緑の怪物が見えてくる。

「さっきはやられていたけど……もうめげない!」

 私は走りながら考えていた、奴らに対抗できる手段を。
 奴らに攻撃をしても、どういうわけか血液を出さない、絶命する時は煙となって消える。
 つまり……普通に殺害するよりかはあんまり抵抗感はないのでは? と、言い聞かせてみた。
 カッターの刃を立て、震える手をもう片方の手で抑えつつ、私は怪物の群れの中の一匹に狙いを定めた。

「お、おりゃあああああああああ!!」

 私は気合を入れ、奴の胸に目掛けてカッターを刺した。
 奴はうめき声をあげ……煙となって消滅した。

「う、うわぁ……」

 やっぱり……命を奪うのは……恐ろしいし、怖い。
 家畜を殺す時や、猟で害獣を殺害する時も同じような気持ちなのだろうか? ……そう考えると、そういう職業についている人たちの凄さが分かる。

ありがとう、畜産業の皆さん。
ありがとう、猟師の皆さん。
ありがとう、私たちの為に犠牲になってくれる多くの命。

 私は怪物の命を奪い取った時、そんな言葉が頭に過った。

「はぁ……はぁ……残りは2体……」

 他2人は、仲間の命が奪われたことに憤怒しているのか、私に向かって攻撃を仕掛けようとしていた。

「か、かかってこい! わ、私は逃げないぞ!」

 私はカッターを握りしめ、奴らに向かった。
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