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佐藤善子の場合
クラス委員長佐藤善子の相談
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人生初めての欠席から三日。
「何もする気がわかない……」
もはや読書やインターネットの気も起きない。インターネットは調べたいことは調べ尽くし、SNSも無人となる時間。読書は積んでいる本があるにはあるが背表紙を眺めるだけで満足してしまう。
恐ろしいほど何もする気がわかない。歯磨きだけじゃない、シャワーだって面倒に思えてしまう。それなのに一丁前に腹は空き、三食おやつ夜食付きでしっかり残さず食べている。外から一歩も出ていないのにカロリーが気になりはするがやはり筋トレのような殊勝な行動を起こす気にならない。
ベッドの上でゴロゴロ、ゴロゴロと眠くなるのを待っている。
別に風邪や流行り病を患っているわけではない。隔離期間でもない。熱もない。食欲はしっかりとあるわけで健康そのもの。
身体が元気なことは両親にも素直に伝えている。後から振り返ってみると馬鹿正直すぎる。せめてもうちょっと具合悪い振りでもしろよ。
怠惰極まる生活も三日目、両親もそろそろ苦言の一つをこぼすかと思ったが、
『好きなだけ休んでいいのよ』
『気が向いたら学校に行けば良い』
案外とすんなりとサボりを認めてくれた。
そして新鮮な驚きを発見する。
「ほんと驚きだよねー、意外や意外」
ついつい独り言にして出してしまう。
「ぜんぜん、罪悪感わかなーい」
焦りらしい焦りもない。申し訳無さもない。
「もうちょっと真面目だと思ってたんだけどな……」
三日前まではいわゆる模範的な人間だった。授業は友達とのおしゃべりはあっても眠ったことなし、宿題は忘れずに提出し、なんだったらクラス委員長も毎年務めている。
喧嘩の仲裁だってしたこともある。何回だって仲直りさせたことがある。
でも今回は違った。
「……よっと」
身体を起こす。
少しだけスマートフォンを眺める気が湧いた。
バッテリーが切れかけのまま放っておいたスマートフォンを探す。
「どこにやったっけ……」
記憶にも辿るにも曖昧で結局隠れそうな場所を探す。
机、リビング、本棚と周った後に、
「……あった」
ずっとゴロゴロしていたベッドの上、枕元に隠れていた。
「……」
見つかったはいいものの、すぐに電源をオンには出来なかった。
ためらいはずるずると間延びする。
このまま何もしなければバッテリーが0になってしまう。それもありかと思っていると、通知音が鳴る。画面縁のランプが光る。
思わず目を瞑ってしまう。おっかなびっくりに瞼をゆっくりと開き、メッセージを確認する。
親ならメッセージアプリは使わずに電話をかけてくる。メッセージを受信したということはつまり、
「……先生、か」
ほっとしてしまう。汗が引っ込む。
「えーっと……相談したいことがあったら遠慮なくいつでも言ってください、か……ははっ」
思わず笑いが溢れる。
「すっごい社交辞令」
先生──今年から担任となった足立康太郎。いつも穏やかな笑みを浮かべる男性教師。いじるよりもいじられ側の教師であり、女子にからかわれても怒りの感情を一切見せずに笑って過ごす、昼食はいつも野菜サンドでちまちまと時間をかけて食べる、いまいち頼りのない男。
「じゃあ呼び出したら本当に来るのかな」
自分のものとは思えない邪悪な感情。破滅を期待してしまう退廃的な思考。
慣れない自分を抑える術は知らない。
「今すぐ先生と会って話がしたいです、っと」
恋人でも送られてきたら面倒と感じそうなメッセージを飛ばす。
送信した途端、正気に戻る。
「なにやってんだろ、私……今日は水曜で、深夜11時半だよ……」
普通に考えて来るはずがない。大人は忙しいとよくわかっているつもり。明日の仕事に響く。自分が同じ立場だったらかなり渋るだろう。
「で、でも、先生が言い出したんだよ? そうだよ、先生が悪いんだよ」
らしくない責任転嫁をして心の平穏を保とうとしていると通知音とバイブレーション。
「即レス!? すぐに行きます……すぐに行きます!?」
いたずらのつもりが、冗談のつもりが通じなかった。
「えと、えと、どうしよう!?」
いたずら慣れしていない彼女が最初に取った行動は、
「シャワー! シャワーを浴びないと!」
こうして佐藤善子は2日ぶりのシャワーを浴びた。
「何もする気がわかない……」
もはや読書やインターネットの気も起きない。インターネットは調べたいことは調べ尽くし、SNSも無人となる時間。読書は積んでいる本があるにはあるが背表紙を眺めるだけで満足してしまう。
恐ろしいほど何もする気がわかない。歯磨きだけじゃない、シャワーだって面倒に思えてしまう。それなのに一丁前に腹は空き、三食おやつ夜食付きでしっかり残さず食べている。外から一歩も出ていないのにカロリーが気になりはするがやはり筋トレのような殊勝な行動を起こす気にならない。
ベッドの上でゴロゴロ、ゴロゴロと眠くなるのを待っている。
別に風邪や流行り病を患っているわけではない。隔離期間でもない。熱もない。食欲はしっかりとあるわけで健康そのもの。
身体が元気なことは両親にも素直に伝えている。後から振り返ってみると馬鹿正直すぎる。せめてもうちょっと具合悪い振りでもしろよ。
怠惰極まる生活も三日目、両親もそろそろ苦言の一つをこぼすかと思ったが、
『好きなだけ休んでいいのよ』
『気が向いたら学校に行けば良い』
案外とすんなりとサボりを認めてくれた。
そして新鮮な驚きを発見する。
「ほんと驚きだよねー、意外や意外」
ついつい独り言にして出してしまう。
「ぜんぜん、罪悪感わかなーい」
焦りらしい焦りもない。申し訳無さもない。
「もうちょっと真面目だと思ってたんだけどな……」
三日前まではいわゆる模範的な人間だった。授業は友達とのおしゃべりはあっても眠ったことなし、宿題は忘れずに提出し、なんだったらクラス委員長も毎年務めている。
喧嘩の仲裁だってしたこともある。何回だって仲直りさせたことがある。
でも今回は違った。
「……よっと」
身体を起こす。
少しだけスマートフォンを眺める気が湧いた。
バッテリーが切れかけのまま放っておいたスマートフォンを探す。
「どこにやったっけ……」
記憶にも辿るにも曖昧で結局隠れそうな場所を探す。
机、リビング、本棚と周った後に、
「……あった」
ずっとゴロゴロしていたベッドの上、枕元に隠れていた。
「……」
見つかったはいいものの、すぐに電源をオンには出来なかった。
ためらいはずるずると間延びする。
このまま何もしなければバッテリーが0になってしまう。それもありかと思っていると、通知音が鳴る。画面縁のランプが光る。
思わず目を瞑ってしまう。おっかなびっくりに瞼をゆっくりと開き、メッセージを確認する。
親ならメッセージアプリは使わずに電話をかけてくる。メッセージを受信したということはつまり、
「……先生、か」
ほっとしてしまう。汗が引っ込む。
「えーっと……相談したいことがあったら遠慮なくいつでも言ってください、か……ははっ」
思わず笑いが溢れる。
「すっごい社交辞令」
先生──今年から担任となった足立康太郎。いつも穏やかな笑みを浮かべる男性教師。いじるよりもいじられ側の教師であり、女子にからかわれても怒りの感情を一切見せずに笑って過ごす、昼食はいつも野菜サンドでちまちまと時間をかけて食べる、いまいち頼りのない男。
「じゃあ呼び出したら本当に来るのかな」
自分のものとは思えない邪悪な感情。破滅を期待してしまう退廃的な思考。
慣れない自分を抑える術は知らない。
「今すぐ先生と会って話がしたいです、っと」
恋人でも送られてきたら面倒と感じそうなメッセージを飛ばす。
送信した途端、正気に戻る。
「なにやってんだろ、私……今日は水曜で、深夜11時半だよ……」
普通に考えて来るはずがない。大人は忙しいとよくわかっているつもり。明日の仕事に響く。自分が同じ立場だったらかなり渋るだろう。
「で、でも、先生が言い出したんだよ? そうだよ、先生が悪いんだよ」
らしくない責任転嫁をして心の平穏を保とうとしていると通知音とバイブレーション。
「即レス!? すぐに行きます……すぐに行きます!?」
いたずらのつもりが、冗談のつもりが通じなかった。
「えと、えと、どうしよう!?」
いたずら慣れしていない彼女が最初に取った行動は、
「シャワー! シャワーを浴びないと!」
こうして佐藤善子は2日ぶりのシャワーを浴びた。
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