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森の民は蜥蜴の亡骸に出会う
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見たくないものを見たくない。聞きたくないものを聞きたくない。
だから見えなくなるまで聞こえなくなるまで歩き続けた。
とにかくまっすぐに歩いた。東西南北、どこに向かってるか忘れてしまったが離れたい一心でとにかくまっすぐ歩いた。
知らない土地は怖かったが進むことができた。知らないだけで本当に怖いものは後ろにあったから。
雨に打たれるのも悪くはなかった。頭の中の雑音をかき消すことができた。
彼女は幸運に恵まれていた。魚が獲れる川に行き着き、また追手を振り切るタイミングで雨が降り、そして日が暮れる前に雨風を凌げる洞窟を見つけた。
大きな入り口のある洞窟だった。まるでドラゴンが巣にしそうなほどに。
聴覚はここでも役に立つ。野生動物や魔物の気配を探る。
(どうやら空き家のようね……)
安全を確認して中へと進む。
(結構深い穴になるとダンジョン化して魔物が湧くようになるのよね。短命種の中には資源欲しさにダンジョンを潜る命知らずがいるらしいわね。百年も生きられないのにそんなに生き急いでどうするのかしら。あーやだやだ、私はずっと風通しのいい空の下にいたいわ)
などと数十年後、まさかダンジョンに潜る羽目になるとは夢にも思わなかったビクトリアだった。
ビクトリアは首をせわしなく動かして、ゆっくりと前に進む。
聴覚は優れているものの、視覚は人間並み。火の魔法で足元を照らしているものの心細さを感じていた。特殊な訓練を積んだエルフであれば足音を洞窟内で反響させ、構造や位置を把握することができる。なおビクトリアにはそんな芸当はとてもではないが真似はできない。
(なーんか嫌な感じするのよね……)
専門知識はないが直感が働く。洞窟の雰囲気が自然の物ではない。洞窟に入るのは初めてなのにそれがわかるほどにここは不自然だった。
明らかに何らかの生き物が掘り進めている。それも巨大な生き物が。
(や、やっぱり、ドラゴン……? い、いるわけないわよね、ちゃんと確認したんだから)
そう言い聞かすも身体は震え、歩幅が狭くなる。そして運悪く、足元に転がっていた物に躓いて転ぶ。
「ふんにゅ!? 一体何様!? この私を転ばすなんていい度胸ね!」
暗い足元を照らす。するとそこには巨大な細長い爪が落ちていた。
かつて見せられたドラゴンの絵によく似ていた。
「ままままさか、こここ、本当にドラゴンの巣ー!?」
気が動転して、火の魔法が暴走する。一気に辺りを真昼のように明るくした。
その場に転がっていたのは爪だけではない。足、背骨、そして頭部の骨まで転がっていた。
「きゃあああああああああああああああああ……あああ?」
絶叫こそしたものの、すぐに冷静になる。
それは確かに巨大であるものの、ただの骨であった。
「それに羽根がない……ってことはマナに異常適合して巨大化したトカゲとか……?」
ビクトリアの推理は的中していた。確かにドラゴンは自分の身に合った洞窟を住処にすれど自身で穴を掘る習性はない。
「驚かせるんじゃないわよ……はあ、ただでさえ疲れているっていうのに……」
肝が座っているビクトリアは亡骸に腰を掛ける。
「……あんたも一人になってここに行き着いたのかしらね」
袖振り合うも他生の縁ならぬ爪先ぶつかり合うも他生の縁。僅かばかりに同情するのだった。
「まあ私はこんな暗い洞穴じゃなくてもっとましな場所を死に場所を選ぶけどね!」
同情は本当に僅かばかりで一瞬で終わる。
「あーあ、とっとと寝て、朝早くにはこんな場所とっとと立ち去りましょう」
そしてビクトリアはそそくさと眠りに入る。
──そうでもしないと一瞬でも頭によぎった死の恐怖に支配されるからだ。
だから見えなくなるまで聞こえなくなるまで歩き続けた。
とにかくまっすぐに歩いた。東西南北、どこに向かってるか忘れてしまったが離れたい一心でとにかくまっすぐ歩いた。
知らない土地は怖かったが進むことができた。知らないだけで本当に怖いものは後ろにあったから。
雨に打たれるのも悪くはなかった。頭の中の雑音をかき消すことができた。
彼女は幸運に恵まれていた。魚が獲れる川に行き着き、また追手を振り切るタイミングで雨が降り、そして日が暮れる前に雨風を凌げる洞窟を見つけた。
大きな入り口のある洞窟だった。まるでドラゴンが巣にしそうなほどに。
聴覚はここでも役に立つ。野生動物や魔物の気配を探る。
(どうやら空き家のようね……)
安全を確認して中へと進む。
(結構深い穴になるとダンジョン化して魔物が湧くようになるのよね。短命種の中には資源欲しさにダンジョンを潜る命知らずがいるらしいわね。百年も生きられないのにそんなに生き急いでどうするのかしら。あーやだやだ、私はずっと風通しのいい空の下にいたいわ)
などと数十年後、まさかダンジョンに潜る羽目になるとは夢にも思わなかったビクトリアだった。
ビクトリアは首をせわしなく動かして、ゆっくりと前に進む。
聴覚は優れているものの、視覚は人間並み。火の魔法で足元を照らしているものの心細さを感じていた。特殊な訓練を積んだエルフであれば足音を洞窟内で反響させ、構造や位置を把握することができる。なおビクトリアにはそんな芸当はとてもではないが真似はできない。
(なーんか嫌な感じするのよね……)
専門知識はないが直感が働く。洞窟の雰囲気が自然の物ではない。洞窟に入るのは初めてなのにそれがわかるほどにここは不自然だった。
明らかに何らかの生き物が掘り進めている。それも巨大な生き物が。
(や、やっぱり、ドラゴン……? い、いるわけないわよね、ちゃんと確認したんだから)
そう言い聞かすも身体は震え、歩幅が狭くなる。そして運悪く、足元に転がっていた物に躓いて転ぶ。
「ふんにゅ!? 一体何様!? この私を転ばすなんていい度胸ね!」
暗い足元を照らす。するとそこには巨大な細長い爪が落ちていた。
かつて見せられたドラゴンの絵によく似ていた。
「ままままさか、こここ、本当にドラゴンの巣ー!?」
気が動転して、火の魔法が暴走する。一気に辺りを真昼のように明るくした。
その場に転がっていたのは爪だけではない。足、背骨、そして頭部の骨まで転がっていた。
「きゃあああああああああああああああああ……あああ?」
絶叫こそしたものの、すぐに冷静になる。
それは確かに巨大であるものの、ただの骨であった。
「それに羽根がない……ってことはマナに異常適合して巨大化したトカゲとか……?」
ビクトリアの推理は的中していた。確かにドラゴンは自分の身に合った洞窟を住処にすれど自身で穴を掘る習性はない。
「驚かせるんじゃないわよ……はあ、ただでさえ疲れているっていうのに……」
肝が座っているビクトリアは亡骸に腰を掛ける。
「……あんたも一人になってここに行き着いたのかしらね」
袖振り合うも他生の縁ならぬ爪先ぶつかり合うも他生の縁。僅かばかりに同情するのだった。
「まあ私はこんな暗い洞穴じゃなくてもっとましな場所を死に場所を選ぶけどね!」
同情は本当に僅かばかりで一瞬で終わる。
「あーあ、とっとと寝て、朝早くにはこんな場所とっとと立ち去りましょう」
そしてビクトリアはそそくさと眠りに入る。
──そうでもしないと一瞬でも頭によぎった死の恐怖に支配されるからだ。
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