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ビクトリアとテオ
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「び、ビクトリアさんよぉ……冗談きついぜ……俺より獣人を選ぶってのか……?」
ロビンは現実を甘く見ていたし、甘えていた。彼はしでかした過ちの大きさに気付いていない。
「ええ、そうね。あんたクビ。とっとと出て行って。そして二度と顔を見せないで」
ビクトリアの態度は誰よりも冷たかった。糾弾や追及ではない。根を断つような拒絶だった。
これで話が済んだようにビクトリアは背を向ける。
「な、なんでだよ、わけわかんねえよ!」
ロビンだけが頭がこんがらがっていた。困惑する彼を見て、リチャードは鼻で笑い、トニョはあきれ果て、マチルドは早く時が過ぎることを待つかのように顔を伏せる。
「師匠……今すぐ謝ったほうが……」
最年少のテオですら謝罪を促すほど。
「テオは黙ってろ!」
唯一の味方すらないがしろにしながら追及する。
「なあ、ビクトリア……俺はお前らを守るつもりでやったんだぜ……なのに、どうして……」
またもロビンはビクトリアの遠い過去を蘇らせる。
ビクトリアは振り返る。目にいっぱいの涙を飛ばしながら。
「言ったってわかんないでしょう!!? 人種が違えば姿かたちも違うんだから!!」
怒りながら泣く少女の言葉に、
「……………………あ」
青年はようやく、ようやく自分の犯した過ちに辿り着く。
「そ、それについて悪かった……お前の存在をつい忘れて口を滑らしちまったし傷つけちまった……でもよ、お前に向けて言ったつもりはこれっぽちもねえよ。こうやって口を滑らせてちまったのも人種を気にしない、本当に仲間だからと思ってたからなんだ」
ビクトリアの背よりも腰を低くし謝るが、
「それに俺が許せないのは獣人であってエルフじゃねえんだって」
距離は近寄るどころから離れていく一方だった。
「……やっぱり何もわかってない……わかってないじゃない!」
彼女はまた背を向け、今度は走り去っていく。
「おい、ビクトリア! 泣いてねえで話せって! おい!」
食い下がるロビン。彼女を追いかけようとするが、
「いい加減諦めたらどうです」
二人の間にトニョが立ちはだかる。
「ほんと邪魔ばっかしてくれるなぁ、えせ笑い眼鏡!」
「あなたの追放は決まったのです。彼女もあなたの顔は見たくないと言っていたのに……追放されるのが嫌なら最初から大人しくすればよかったのに」
「ちげえよ! 俺が追いかけるのはあいつが泣いてたからだ!」
「……泣かせたのはあなたが原因でしょうに」
「どけよ! 眼鏡かち割るぞ!」
「どいてほしかったら腕尽で通ればよろしいのでは? それができればの話ですが」
「てんめえ……!」
睨みあう二人の横をマチルドが走り抜ける。
「私がビクトリアを見てくるわ! ロビン! あんたは少し頭を冷やすべき!」
ビクトリアの足は速くない。あの様子であれば魔法を使っていないのですぐに追いつくだろう。
「これでレディの安全も確保できた。あなたが行く必要もなくなった。これにてお役御免ですね」
「誰がお役御免だ!」
「……この際はっきり言っておきましょう。あなたはこのパーティには不要です」
「それ言ったらついに殺し合いだぞ!?」
トニョは待ってましたと言わんばかりに満面の笑みを浮かべた。
「良いですね。やりましょう、殺し合い」
「んな!?」
「魔力節約のために処刑ではなく追放が好ましかったのですが事態が事態ですので仕方ありません。ちゃちゃっと済ませるとしましょう」
杖を構えようとするが、
「トニョくん。そういうことなら吾輩に任せたまえ。先ほどは不覚を取ったが真正面でやりあえば決着は一瞬だよ」
リチャードが名乗りを上げる。
一方はパーティ内、いやエキドナ内で最強格の前衛後衛。一方は丸腰の青年。
「……へ、へえ、おもしれえじゃねえか」
ロビンは必死で強がるが心はとっくに折れていた。
(か、勝てっこねえ、で、でもよぉ……)
精一杯腕を構えようとするが腕が上がらない。心から湧き上がる恐怖が闘争を許さない。
(ここで逃げたら……俺が……ウィルが許してくれねえ……)
そう自分を奮い立たせるもやはり腕が上がらなかった。動けなかった。
「吾輩も暇ではない。そちらが動かないならこちらからやらせてもらおう」
これから始まる悲劇は戦闘ではない。処刑でもない。良く言えば蹂躙、悪く言えば処分。
一人の青年の命が散る。ありきたりな悲劇が幕を開けようとしていた。
しかしそれを止める者がいるとしたら、そのような者を勇者と呼ぶのだろう。
「おや……」
「ふむ……」
百戦錬磨の猛者二人が一瞬と言えど戸惑う。
「二人の相手は……俺がする」
小さな命を守ろうとより小さな勇者が剣を構えた。
ロビンは現実を甘く見ていたし、甘えていた。彼はしでかした過ちの大きさに気付いていない。
「ええ、そうね。あんたクビ。とっとと出て行って。そして二度と顔を見せないで」
ビクトリアの態度は誰よりも冷たかった。糾弾や追及ではない。根を断つような拒絶だった。
これで話が済んだようにビクトリアは背を向ける。
「な、なんでだよ、わけわかんねえよ!」
ロビンだけが頭がこんがらがっていた。困惑する彼を見て、リチャードは鼻で笑い、トニョはあきれ果て、マチルドは早く時が過ぎることを待つかのように顔を伏せる。
「師匠……今すぐ謝ったほうが……」
最年少のテオですら謝罪を促すほど。
「テオは黙ってろ!」
唯一の味方すらないがしろにしながら追及する。
「なあ、ビクトリア……俺はお前らを守るつもりでやったんだぜ……なのに、どうして……」
またもロビンはビクトリアの遠い過去を蘇らせる。
ビクトリアは振り返る。目にいっぱいの涙を飛ばしながら。
「言ったってわかんないでしょう!!? 人種が違えば姿かたちも違うんだから!!」
怒りながら泣く少女の言葉に、
「……………………あ」
青年はようやく、ようやく自分の犯した過ちに辿り着く。
「そ、それについて悪かった……お前の存在をつい忘れて口を滑らしちまったし傷つけちまった……でもよ、お前に向けて言ったつもりはこれっぽちもねえよ。こうやって口を滑らせてちまったのも人種を気にしない、本当に仲間だからと思ってたからなんだ」
ビクトリアの背よりも腰を低くし謝るが、
「それに俺が許せないのは獣人であってエルフじゃねえんだって」
距離は近寄るどころから離れていく一方だった。
「……やっぱり何もわかってない……わかってないじゃない!」
彼女はまた背を向け、今度は走り去っていく。
「おい、ビクトリア! 泣いてねえで話せって! おい!」
食い下がるロビン。彼女を追いかけようとするが、
「いい加減諦めたらどうです」
二人の間にトニョが立ちはだかる。
「ほんと邪魔ばっかしてくれるなぁ、えせ笑い眼鏡!」
「あなたの追放は決まったのです。彼女もあなたの顔は見たくないと言っていたのに……追放されるのが嫌なら最初から大人しくすればよかったのに」
「ちげえよ! 俺が追いかけるのはあいつが泣いてたからだ!」
「……泣かせたのはあなたが原因でしょうに」
「どけよ! 眼鏡かち割るぞ!」
「どいてほしかったら腕尽で通ればよろしいのでは? それができればの話ですが」
「てんめえ……!」
睨みあう二人の横をマチルドが走り抜ける。
「私がビクトリアを見てくるわ! ロビン! あんたは少し頭を冷やすべき!」
ビクトリアの足は速くない。あの様子であれば魔法を使っていないのですぐに追いつくだろう。
「これでレディの安全も確保できた。あなたが行く必要もなくなった。これにてお役御免ですね」
「誰がお役御免だ!」
「……この際はっきり言っておきましょう。あなたはこのパーティには不要です」
「それ言ったらついに殺し合いだぞ!?」
トニョは待ってましたと言わんばかりに満面の笑みを浮かべた。
「良いですね。やりましょう、殺し合い」
「んな!?」
「魔力節約のために処刑ではなく追放が好ましかったのですが事態が事態ですので仕方ありません。ちゃちゃっと済ませるとしましょう」
杖を構えようとするが、
「トニョくん。そういうことなら吾輩に任せたまえ。先ほどは不覚を取ったが真正面でやりあえば決着は一瞬だよ」
リチャードが名乗りを上げる。
一方はパーティ内、いやエキドナ内で最強格の前衛後衛。一方は丸腰の青年。
「……へ、へえ、おもしれえじゃねえか」
ロビンは必死で強がるが心はとっくに折れていた。
(か、勝てっこねえ、で、でもよぉ……)
精一杯腕を構えようとするが腕が上がらない。心から湧き上がる恐怖が闘争を許さない。
(ここで逃げたら……俺が……ウィルが許してくれねえ……)
そう自分を奮い立たせるもやはり腕が上がらなかった。動けなかった。
「吾輩も暇ではない。そちらが動かないならこちらからやらせてもらおう」
これから始まる悲劇は戦闘ではない。処刑でもない。良く言えば蹂躙、悪く言えば処分。
一人の青年の命が散る。ありきたりな悲劇が幕を開けようとしていた。
しかしそれを止める者がいるとしたら、そのような者を勇者と呼ぶのだろう。
「おや……」
「ふむ……」
百戦錬磨の猛者二人が一瞬と言えど戸惑う。
「二人の相手は……俺がする」
小さな命を守ろうとより小さな勇者が剣を構えた。
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