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60層 シン・ボス アイスファイアマンモス戦 中編

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 炎と水が触れると激しい破裂音が鳴る。水面が激しく泡立つが水温は急激に上がることもなく水の壁としての形を保っていた。膜を石で破るようなもの。結果は見えていた。
 トニョをいまいち信用していなかったロビンは前かがみで進んでいたが安定していることを確認すると恐る恐る頭を上げて歩く。
 水の中は重く、思うように進まなかった。流れがないはずなのに歩くと反発されるようでまるでゼリーの中を歩くような感覚。

(炎に耐えられる強度を保つためとはいえ調整をミスしたようですね……! 計算よりも息を止める時間が長くなる……!)

 再調整するならば一度魔法を解除しなくてはいけない。無論そんな暇はない。
 青年のロビンやレベルが上がったテオであれば問題なく進めるのだが……。

「んんん! んんん!」

 ビクトリアはそうはいかなかった。途中までは良かったが半分を過ぎたところで押し戻されるようになってしまった。60層に入る前にバフをかけていたが運が悪く水中で効果が切れてしまったのだった。

(悪いですがレディ。あなたを助けるのは後回しだ)

 トニョはすぐには助けに行かず先を急いだ。最悪のケースを考慮しての即断だった。
 補助魔法を失うよりも最大の攻撃火力、つまりテオを失うほうが生存率は下がってしまう。最悪ビクトリアを失っても回復と補助はトニョでも賄えるからだ。

「っ!?」

 水中では目を開けられないテオは、さらに瞼に力がこもる。急に手を強く握られたためだ。


 
 先頭のロビンは一足先に水中を脱する。

「ぷはっ!? マンモスの野郎は!?」

 盾越しに見る周囲は未だに雪原。炎の壁は積雪の表面を溶かしたに過ぎない。濡れた身体を拭けないまま、戦闘は続行する。

「いた! 氷山の上か!」

 小高い雪の丘の頂にマンモスは座り込んでいた。魔法攻撃では威力が半減する遠く離れた位置。ほとんど平坦だった雪原が炎の壁の熱で高低差が生まれ、間には急な斜面になり登るには難しい。
 炎の壁を出しているためか、体面はただの毛むくじゃらになっている。
 危機を脱したロビンたちを見ても慌てる様子はなく、あくびまでしてのんびりとしている。

「あんにゃろう、ちょっと地の利があるからって余裕な顔しやがって」

 寒さでガタガタ震えながら盾を構える。背中には弓がありロビンの腕前なら届く距離であり攻撃する絶好の機会であるが今は防御に専念する。

「マンモー……」

 マンモスはおもむろに立ち上がり、

「マンモー!」

 雄叫びと共に後ろの二本足で立ち上がった後に前の二本足で雪を叩きつける。

「またつらら攻撃か!?」

 天井の上にはもうつららは残っていない。炎の壁で溶かしてしまったからだ。

「じゃあ一体……っておいおいおい!? まさか!?」

 マンモスが放ったのは魔法ではない。雪の足場を崩し敵に流れ込ませる地の利を生かした攻撃、雪崩なだれだった。
 ちょうど雪崩が発生した頃に、

「ぷはー! こんなに呼吸止められたの初めて!」
「お疲れ様です」

 トニョとテオが水中から顔を出す。

「トニョ! やべえぞ! マンモスの野郎、雪崩をぶち込んでくるぞ!」

 ロビンは呼びかけるとトニョの表情が険しくなる。

「まだ水の壁の中にビクトリアがいます。解除はできません」

 炎の壁は依然そびえたったまま。今から引き返しても水の壁ごと雪崩に飲み込まれてしまう。

「じゃあどうする!?」
「賭けの上にまた賭け……やるしかありません。テオ君を頼みます」

 トニョはテオをロビンに預けると水の壁へと戻ってしまう。

「お、おい! くっそう!」

 言いたいことは山ほどあるが、今は生き残るために最善を尽くす。

「テオ! 今すぐしゃがみ込め!」
「わかった!」
 
 テオは師匠の言うことなら疑わずにすぐに実行する。

「そんで鼻や口に雪が入らないように両手で顔を覆え! そんで口の前に空気を確保できるように空間を確保しろ!」
「よくわかんないけどやってみる!」

 テオはすぐさまその場で言われたように丸まる。

「ちょいと重くなるが我慢しろよ!」

 ロビンはその上にマチルドを被せた。
 するとテオが叫ぶ。

「師匠!」
「なんだ!?」
「セ、背中に、すごい柔らかい感触がー!」
「このラッキースケベめ! いい思いしやがって!」

 ロビンはさらにマチルドの上に覆いかぶさる。背中に亀の甲羅のように盾を置く。

「頼むぜ、ターテント! 仲間を、守ってくれ!」

 まもなくして雪崩は到達する。ロビンたちは水の壁共々、雪に飲み込まれた。
 轟音が過ぎ去った後に辺り一面は静寂な平らな雪原と化した。
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