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51層 トニョの力の一端とテオの拾い物 後編
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金の鱗。それはシナノキの葉ほどの大きさで厚みは十枚重ねた程度。
「この色……ゴールデンナマズの色と似てるわよね」
「うん! だからゴールデンナマズの鱗だと思う!」
そこに得意げにやってくる狩人のロビン。
「おいおい、二人とも知らんのか? ナマズってのはな、鱗がないんだぜ? なんかの見間違いじゃねえのか?」
ロビンは手に取ると見た目に反してずっしりとした重さがあり一度手が沈む。
「重っ!? 本物の金か!?」
指を這わせると微妙に粘液が張り付いていた。
「うわっ!? クラーゲンの粘液か!? 毒あるのか!?」
ビクトリアが側で鑑定する。
「それ、本物の金ね。粘液はクラーゲンじゃなくてゴールデンナマズのものみたい」
ナマズには鱗がない。代わりに全身に粘液を纏い身を守っている。
実は50層の川には大量の砂金が眠っている。ゴールデンナマズが川底に沈むたびに砂金が付着し、いつしか金の鱗ならぬ鎧が出来上がっていた。
もっともこの事実にトニョを含めたテオ一行はこの旅で気付くことはない。
「とにかく毒はないのか……よかったぜ……」
ロビンは無害だとは知りながらも素早くテオに返却する。
「ほいじゃ、マチルド。受け取ってくれ」
そしてテオは小銭でするように気軽に渡そうとする。
「ちょいちょいちょい待って待って。なんであたしなの? ビクトリアとかロビンだっていいじゃない? それに誰かにあげずに自分の物にするって考えとかないわけ?」
「だってこのなかで一番金がいるのはマチルドなんだろ?」
「そりゃそうだけど、これ金貨一枚とかじゃなくて本当に大金よ? 考え直してみて」
「よく考えたぞ。それでマチルドが受け取るべきだって決めたんだ」
テオの目は恐ろしいほどにまっすぐだった。
その脇でビクトリアがため息をつく。
「早めに観念したほうがいいわよ。こいつ、こうなったら聞かないから」
「ビクトリアは……いいの?」
「別に? 今は別にお金に困ってないし」
マチルドは次にロビンを見る。
「テオが拾ったんだろ? そんでお前に譲渡しようとしている。俺が口を挟めるのは食い物の時だけさ」
彼だって生活のために金は必要としている。しかしそれでもまるで惜しむ様子を見せなかった。
むしろ、
「よくやったぞ、テオ。怪我の功名だな」
功績を褒める始末。
「おう! よくわかんねえけど褒められてるのはわかるぜ!」
マチルドは初めての出来事に感覚が狂う。
「ほんと、なんなのよ、あんたたち……」
レアアイテムの譲り合いなんて絶対に起こりえない。
金目になる物が見つかれば即奪い合いに発展するのが常識だった。価値が高ければ高いほど血は多く流れた。
過去にレアアイテムを拾うもパーティには打ち明けずに内緒に持ち帰ろうとしたこともあったが、その夜に衣服を全てはぎ取られ力づくで没収されたこともあった。
現在と過去のギャップに頭が割れそうになる。
「なあ、マチルド。早く受け取ってくれよ。手が疲れてきちゃった」
太陽のように明るいテオの笑顔が、急に怖くなった。
「……受け取れないわ」
「……え?」
「うん、やっぱり受け取れない」
「ヌルヌルが気になるのか? ちゃんと拭き取るぞ」
「そうじゃないのよ、テオ。そうじゃないのよ」
「もしかして俺からの贈り物、嫌だった?」
「気持ちはすっごくうれしいのよ」
マチルドは首を横に振った。
「……あたしとあなたはそういう関係では、ないじゃない」
テオは素直でいい子だ。瞳もガラス玉のようにきれいで……自分とは違って穢れを知らない。
「マチルド?」
きれいなものはきれいなままでいてほしい。マチルドはそう思ったのだった。
「それにさ! 重いんでしょう、それ! 荷物になりそうなのはごめんよ、あたし。身軽が一番だわ」
「うーん……そっか……贈り物としてはちょっと重かったか。次は軽いものを見つけるな」
「っ……」
テオはめげない。その優しさがマチルドの胸を締め付けた。
一行は進み始める。
マチルドの傍らにトニョがやってくる。
「……よろしかったのですか?」
「何がよ」
「……新参者が僭越ながら申し上げますと……素直に貰っておいたほうがよかったのでは?」
「だから何の話よ」
「……やれやれ、マチルダさんまでレディ化ですか……僕はもっと仲良くしてもらいたいだけなんですがね」
泡のように膨らむわだかまりを抱えながらもテオたちは進む。
止まない雨がないように、割れない泡はない。
「この色……ゴールデンナマズの色と似てるわよね」
「うん! だからゴールデンナマズの鱗だと思う!」
そこに得意げにやってくる狩人のロビン。
「おいおい、二人とも知らんのか? ナマズってのはな、鱗がないんだぜ? なんかの見間違いじゃねえのか?」
ロビンは手に取ると見た目に反してずっしりとした重さがあり一度手が沈む。
「重っ!? 本物の金か!?」
指を這わせると微妙に粘液が張り付いていた。
「うわっ!? クラーゲンの粘液か!? 毒あるのか!?」
ビクトリアが側で鑑定する。
「それ、本物の金ね。粘液はクラーゲンじゃなくてゴールデンナマズのものみたい」
ナマズには鱗がない。代わりに全身に粘液を纏い身を守っている。
実は50層の川には大量の砂金が眠っている。ゴールデンナマズが川底に沈むたびに砂金が付着し、いつしか金の鱗ならぬ鎧が出来上がっていた。
もっともこの事実にトニョを含めたテオ一行はこの旅で気付くことはない。
「とにかく毒はないのか……よかったぜ……」
ロビンは無害だとは知りながらも素早くテオに返却する。
「ほいじゃ、マチルド。受け取ってくれ」
そしてテオは小銭でするように気軽に渡そうとする。
「ちょいちょいちょい待って待って。なんであたしなの? ビクトリアとかロビンだっていいじゃない? それに誰かにあげずに自分の物にするって考えとかないわけ?」
「だってこのなかで一番金がいるのはマチルドなんだろ?」
「そりゃそうだけど、これ金貨一枚とかじゃなくて本当に大金よ? 考え直してみて」
「よく考えたぞ。それでマチルドが受け取るべきだって決めたんだ」
テオの目は恐ろしいほどにまっすぐだった。
その脇でビクトリアがため息をつく。
「早めに観念したほうがいいわよ。こいつ、こうなったら聞かないから」
「ビクトリアは……いいの?」
「別に? 今は別にお金に困ってないし」
マチルドは次にロビンを見る。
「テオが拾ったんだろ? そんでお前に譲渡しようとしている。俺が口を挟めるのは食い物の時だけさ」
彼だって生活のために金は必要としている。しかしそれでもまるで惜しむ様子を見せなかった。
むしろ、
「よくやったぞ、テオ。怪我の功名だな」
功績を褒める始末。
「おう! よくわかんねえけど褒められてるのはわかるぜ!」
マチルドは初めての出来事に感覚が狂う。
「ほんと、なんなのよ、あんたたち……」
レアアイテムの譲り合いなんて絶対に起こりえない。
金目になる物が見つかれば即奪い合いに発展するのが常識だった。価値が高ければ高いほど血は多く流れた。
過去にレアアイテムを拾うもパーティには打ち明けずに内緒に持ち帰ろうとしたこともあったが、その夜に衣服を全てはぎ取られ力づくで没収されたこともあった。
現在と過去のギャップに頭が割れそうになる。
「なあ、マチルド。早く受け取ってくれよ。手が疲れてきちゃった」
太陽のように明るいテオの笑顔が、急に怖くなった。
「……受け取れないわ」
「……え?」
「うん、やっぱり受け取れない」
「ヌルヌルが気になるのか? ちゃんと拭き取るぞ」
「そうじゃないのよ、テオ。そうじゃないのよ」
「もしかして俺からの贈り物、嫌だった?」
「気持ちはすっごくうれしいのよ」
マチルドは首を横に振った。
「……あたしとあなたはそういう関係では、ないじゃない」
テオは素直でいい子だ。瞳もガラス玉のようにきれいで……自分とは違って穢れを知らない。
「マチルド?」
きれいなものはきれいなままでいてほしい。マチルドはそう思ったのだった。
「それにさ! 重いんでしょう、それ! 荷物になりそうなのはごめんよ、あたし。身軽が一番だわ」
「うーん……そっか……贈り物としてはちょっと重かったか。次は軽いものを見つけるな」
「っ……」
テオはめげない。その優しさがマチルドの胸を締め付けた。
一行は進み始める。
マチルドの傍らにトニョがやってくる。
「……よろしかったのですか?」
「何がよ」
「……新参者が僭越ながら申し上げますと……素直に貰っておいたほうがよかったのでは?」
「だから何の話よ」
「……やれやれ、マチルダさんまでレディ化ですか……僕はもっと仲良くしてもらいたいだけなんですがね」
泡のように膨らむわだかまりを抱えながらもテオたちは進む。
止まない雨がないように、割れない泡はない。
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