ダンジョン最奥に住む魔王ですがこのままだと推しの勇者PTに倒されてしまいます。

田村ケンタッキー

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45層 セーフルーム 男子組の語らい

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 夜具を川の字にして敷く。出入り口からビクトリア、マチルド、テオ、ロビンの順。男女の間には張ったロープに布をかけて仕切る。

「男ども。ここを許可なく越境したら即座にファイアボールだからね。特にロビン。特にロビン」

 薄着になったマチルド。枕元には象牙の杖。いざとなれば殴打できる。

「だから二度も言う必要ないでしょうに……しかし最近疲れが溜まってきててね、もしかしたら? うっかり? そっちに寝返りしちゃったり? 腕だけとかさ」

 ロビンは変な話だが不可抗力に期待する。

「あ、一応言っておくけどテオの寝相すごく荒くて一度抱き着かれたら朝まで離れないから」

 ビクトリアのできれば聞きたくなかった耳寄り情報。

「なあなあ、師匠! さっきな、ぐにゃぐにゃに曲がった剣を拾ったんだ! 引っ張ってみたらまっすぐになったぞ!」

 聞いてもいないのに、できれば聞きたくなかった耳寄り情報。

「なあ、今夜だけ俺は女子ってことじゃだめ?」
「ダメに決まってるでしょう」
「寝る前に恋バナとかスイーツの話したいんだが!?」
「キモイ」

 議論にすらならない。

「待ってくれ! 明日朝になったら腕もげてるかもしれないだろ! だからビクトリアさん! せめて俺にバフを!」
「ちょっとうるさいわよ、ロビン。ビクトリアちゃん、もう寝たんだから」
「寝つき良すぎないっすかね!? 本当に寝てる?」
「むにゃむにゃ、寝てる寝てる」
「雑な狸寝入り! 返事してんな!」
「まあ本当に命の危険を感じたら大声を出しなさい。助けてあげるから」
「頼むぜ、マチルドよぉ……」

 観念して夜具に横たわるロビン。目をつむるがなかなか眠気が来ない。

「……火の番がいらねえってのも落ち着かねえな」

 寝る時はいつも焚火の音が聞こえていた。
 セーフルームは安全が確保されている。温度も適温であり、むしろ狭い空間での焚火は自殺行為だ。

「なあ、師匠。まだ起きてる?」

 テオが小声で呼びかける。

「なんだ? お前も眠れないのか?」
「おう、今から明日がワクワクで仕方ないんだ」
「はは、悪魔の腹の中にいるようなもんなのにワクワクするのか……大した胆力だよ」

 皮肉ではない。心からの称賛。彼の空気の読めない純粋さのおかげでここまで来れたようなもの。

「早く寝ろよ。明日も早いんだ」
「うん、がんばる」

 テオは早く寝られるようにぎゅっと瞼をつむる。

「そうだ、テオ。寝る前に一つ言い忘れてた。師匠呼びは今日までだ」

 突然の発言にまた目は見開かれる。

「え、なんでだ? 俺、弟子失格なのか?」
「馬鹿、ちげえよ。逆だ、逆。俺が失格だ。いい加減気付いてるだろう? 俺はお前に師匠と呼ばれるような実力はないって。俺よりすげえ男はいくらでもいるんだ。狭い穴に入ったつもりが世界の広さを知ることになっちまったな」

 双剣使いのジャックに魔法使いのトニョ、極めつけに黒騎士のリチャード。森の狩人ごときの自分は足元にも及ばない。タンク職だってまだまだ拙く未熟だ。

「……テオ。お前はもうとっくに俺より強い」

 レベルも能力値のほとんどもテオが上回っている。

「そのうち俺よりも優秀なタンクと出会ってよ、そいつがパーティに加わることになったらさ、俺はお払い箱に」
「そんなこと絶対ない!」

 テオはロビンの腕に抱き着いた。

「何言ってんだよ、師匠はすげーぞ! みんなの盾になって何度も守ってくれただろう! ここまで来れたのは師匠のおかげだぜ! 剣術だってまだまだだし! リチャードもロビンからどんどん学べって言ってたぞ!」
「馬鹿、このやろ。耳元で大声出すな、聞こえるわ」
「あ、ごめん、なさい……」
「……謝ることじゃねえさ。でも、あんがとな。お前の気持ちはよく分かった」
「あと師匠のすごいところは他にもあるぞ。料理がうまいところとか、動物博士なところとか、料理がうまいところとか……あと……」

 羊の数を数えるように仲間の長所を数え上げているとテオは眠りについてしまった。

「おーい、テオ。離してくれねえか? これじゃ寝返り打てないんだが」

 呼びかけても反応はしない。頬を突こうと思ったが緩み切った寝顔を見てその気も失せる。

「しゃあないな、うちの大将は……」

 焚火のない野営。それでもロビンの左腕はやけに温かった。
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