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40層 大量発生ソードアント 黒騎士、推しとの共同作業

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 二匹のドラゴンが通り過ぎた後だったためにしばらくは魔物と遭遇しなかったが区切りの40層になると話は違う。いわゆるボスがリポップする設定つくりになっているために戦わざるを得ない。
 黒騎士が40層に繋がる扉を開けるが、

「ここにも異状か……」

 一度開けた扉を閉める。

「おい、何があったんだ? あんたほどの強者が引き下がるなんてよ」
「さっき話した40層のボスについては覚えているな?」
「ソードアントだろ? 人くらいでかくてアゴがソードのように鋭いって。力強くておまけに俊敏。でもあんたがくれた情報では寒いのに弱くて氷魔法が有効だから攻略はそんなに大変ではないって話だったろ?」
「ああ、だが事情が変わった」
「なんだ、記憶違いで敵が違ったとかか?」
「記憶違いするほど老いてはいないさ。敵がソードアントであることに間違いはない」
「じゃあなんだ? ソードアントが倍大きくなったとかか?」
「そうだったらどれほど楽だったか……事態はより最悪に近い」
「もったいぶってねえでとっとと言ってくれよ。扉の向こうで何があったんだ?」
「……ソードアントが大量発生していた。恐らく数は10匹」
「じゅ、10!? 本当かよ!? っつうかよ、ボスって普通1体じゃないのか!?」
「信じられないというならロビンくん、君は隠密スキルが使えたね? 一応隠密スキルを使った状態で扉の向こうを覗いてみるといい」
「ずいぶんと用心だな……」
「通常ボスは扉の外まで行動の範囲を広げない……はずなのだよ。しかし今はどうもこのダンジョンは様子がおかしい。もしも向こうに敵がこちらの存在に気づいたら攻撃してくるかもしれない」
「……わかったよ」

 ロビンが隠密スキルを発動する前に、

「待って。リチャードの言うことは本当よ」

 ビクトリアが呼び止める。

「探知魔法で扉の向こうを調べてみた。彼の言う通り、10匹ぴったし。よくまあ扉の隙間から見た一瞬で正確な見極められたものね」
「おい、まじかよ……辛口評価が常のビクトリアが素直に褒めるだと……?」
「珍しいことがあったわね~」
「俺、褒めてるところ初めて見たかも」

 ロビン、マチルド、テオは驚きを隠せなかった。

「何よ、私くらい称賛するときは称賛するわよ?」

 称賛された黒騎士は謙遜を忘れない。

「伊達に長年ここに居座ってないさ」

 それよりもソードアントが大量発生している謎が解明できないことが歯痒くてしょうがなかった。

(スルーはできないな……きっちり倒し、可能であれば原因を追究しないと)

 テオが剣を抜いて振り回す。

「どうする? 俺の新必殺技テオクラッシャーで全部ぶっとばすか?」
「馬鹿テオ。敵がいないのに剣を振り回したら危ないでしょう」
「だってぇ! リチャードから貰った剣、早く使ってみてえんだよ!」

 黒騎士はマントを装備していた。それもただのマントではなく収納機能付きのマジックマント。内側の面に時空の歪みがあり、そこに出入り口がある。収納している武器はどれも拾得物。持ち主知らずであるが中にはエンチャント付きの高性能の武器がある。その中でも高ランクの剣を依怙贔屓で提供している。
 地上に持って帰れば高く売れる武器であり、活発な子供が拾った木の棒のように振り回していいものではない。

「だからってね、それが振り回していい理由にはならないでしょうが」

 切れ味も落ちていないために本当に危険。

「ははは、なかなか元気でいいな」
「誰が渡した武器だか覚えてます? おもちゃを渡す感覚でさ」

 のんびりと和む黒騎士をビクトリアはひと睨み。

「……テオくん。危険だから振り回すのはよそうな」

 マチルドが軌道修正を図る。

「それでどうやってここを突破するわけ? 竜血を手に入れたって言うなら多少無理はできなくはないわよ」

 高位魔法を連発できれば勝てない相手ではない。しかし数が数であり、全てを倒しきるのは困難。

「テオくんもマチルドくんもやる気充分で結構。しかし二人に活躍してもらうのはもっと後だよ」
「へえ、その言い方……なんか面白そうなことを考えてる?」
「面白いかどうかはともかく。吾輩は常に効率的に、そして安全を考慮して作戦を立てているよ」
「へえ? どんな作戦か、見物みものだねえ」

 冷やかすロビンに、

「まるで他人事だね、ロビンくん。この作戦の要は君なのだよ」

 黒騎士は兜の中からニヤッと笑う。

「吾輩と共に戦場を駆ろうじゃないか」




 黒騎士は扉を足で開ける。久しぶりのソードアント戦。まずは挨拶から。

「やあやあ、久しぶり! 元気してたかい、ソードアントくん! 砂糖ばっか舐めて糖尿病になったと聞いて見舞いに来てやったぞ!」

 軽快な挨拶を飛ばして挑発スキルを発動する。ソードアントの視線を一身に受ける。言葉はいらないのだが雰囲気作りで言っている。

「おーやーおや! 見ないうちに家族ができたのかい! できたなら言ってくれよ、水臭いじゃないか! どれが子供で、どれがひ孫だい!? どいつもこいつも間抜け面そっくりさんで見分けがつかないねえ!」

 ソードアントは左右の顎を何度もぶつけて音を立てる。威嚇、もしくは興奮状態に入った証拠だ。

「おいでよ! 遊んでやる!」

 二匹同時が襲い掛かってくる。二匹がかり顎で挟んでくるが黒騎士は自慢の大剣で耐える。

「んんん? 今のレベルだと二匹を留めるのが限界か。かなり落ちてしまっているな」

 Lv98ならば十匹相手だろうと瞬殺できるがとある事情で本領発揮をできなくなっていた。

「まあいいか。今回は吾輩が倒す必要はない……いいや、倒さない必要がある」

 ソードアントがより力を加えて大剣をへし折ろうと試みるが二回の風切り音と共に力が尽きる。
 一本の矢がそれぞれの目に突き刺さり、命を奪っていた。

「ほう、いい腕をしているじゃないか。タンクよりもこっちのほうが適職なだけある」

 黒騎士も称賛する弓を射た人物は、

(ったく……ダンジョンまで来て弓を射ることになるとはな)

 狩人のロビンだった。隠密スキルを発動させて壁の端から弓矢で攻撃していた。自慢の盾も短剣も動きの邪魔になるからとテオに預けている。大胆にも弓矢を除けばほぼ丸腰。
 なぜ本職である弓を選ばずにタンクとしての役に回ったか。その理由の一つは武器の特性だ。矢には数に限りがある。ダンジョン内で手に入る確証もないからだ。他にも前衛が未熟なテオしかいなかったのも理由の一つ。彼がもう少し戦えたなら重要なポジションなのに経験値が手に入りづらい不人気職タンクにならずに済んだだろうに。
 現にロビンはタンクで居続けたためにテオにレベルで追いつかれそうになっていた。テオはドラゴンを倒した経験値がボーナスで入り、一気に上がった。一方のロビンは攻撃に加勢できないまま、伸び悩んでいた。
 そのため今回彼がこうしてリスクを冒してまで前線に駆り出されているのは経験値を優先的に振るためである。黒騎士は敵を葬る火力を有するもあえてタンクとして徹し、ロビンは隠密スキルを駆使してとどめを刺す作戦だ。

「ほらほら蟻んこども! 子供? 父親? の敵討ちしたい奴はいないのか!? さっさとかかってこんかい!」

 ソードアントは弓矢の存在に気付く気配なしに黒騎士に襲い掛かる。挑発スキルの賜物だった。

(俺の隠密スキルが保険みたいになってやがる……にしても何者なんだ、あいつは……いきなり俺たちを助けたかと思えばさらに経験値稼ぎの手伝いまで……)

 訝しんでいる間も矢は正確無比に蟻の目を貫く。注意を引き付けている上に足止めまでしてもらっている。こんな接待をされた状態で外すはずがない。

「おんどりゃああああああ!」

 それどころか力の強いソードアントを腕力だけでねじ伏せている。そこにロビンが獲物を奪うかのようにトドメを刺す。

「よおし、グッドだ!」
「グッドだ、じゃねえよ」

 ロビンは褒められてもうれしくはなかった。これしきは朝飯前だ。あまりに簡単な狩りすぎて思考が他のことに行く。

(バフ抜きで人間離れした筋力……もしや獣人族だったりしてな……)

 矢先が黒騎士の背中に向く。

(確かめてみるか……?)

 矢筈から手を離そうとしたその時、

「なにやってるの、ロビン! 一匹がそっち向かったわよ!」

 マチルドの大声でようやく気付く。
 ソードアントの一匹がロビンの存在を補足していたことに。

「やべ、隠密スキルが切れていたか! あまりにぬるすぎて油断しちまってた!」

 ひとまずその場を離れるロビン。

「とにかく逃げて時間を稼ぎなさい! いま、魔法で援護するから!」
「いらねえよ!」

 ロビンは走りながら一本の矢、続けざまにもう一本を頭上に向けて打ち上げた。

「あんた、何して──」

 すぐにその意図がわかる。
 落下してきた矢がロビンを追尾するソードアントの両目を貫く。

「……ロビン、意外とやるのね」
「ん? 何がだ?」

 なんのことを言われたのかさっぱりわからないロビン。

「……珍しく褒めてやったんだから素直に受け取っておきなさいよね」
「お、おう」

 やはりなんのことかわからずロビンは頭を掻いた。

「そこのいい雰囲気の若人カップル! じゃまだてしてわるいがそろそろ助けてくれないか! 三匹同時はちょっとつらい!」

 黒騎士が甲冑の上からでもわかるほどにぷるぷると身体を震わせている。

「ちょっとあたしとこいつはカップルなんかじゃないんですけど!」
「いやー隠してたのにバレちまったかー」
「ロビン! 適当な嘘をつくな!」
「へいへい」

 カップルと勘違いされて気を良くしたロビンは今度は邪念を捨てすぐさま生き残りを一掃した。
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