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黒騎士、その正体は
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テオは折れた剣を落としていった尻尾に深く差し込んでいく。
「もっと力強くだ。深く差し込んだのちに捩じると仕留めやすいぞ」
「こ、こうか……?」
レバーでそうするように剣を引く。切れ込みが深くなると赤い血が漏れ出す。
「ドラゴンの尻尾は栄養が豊富だ。それは血も同じ。新鮮なうちに採集しておけば水分の他に魔力も補給できる」
黒騎士は瓶を取り出し、入る分だけ回収する。
「どんな味なんだ?」
「お、いける口か? 指につけて舐めてみると良い」
テオは差し出された瓶に指を突っ込んでからそれを口に含む。次の瞬間には舌を出す。
「にぎゃい……」
「ははは、君の口にはまだ早かったようだな。だが生きるためには我慢が必要だぞ」
「それもくれるのか?」
「そのつもりだが?」
「金はないぞ?」
「吾輩には必要ないさ」
半ば押し付けるように黒騎士はテオに竜血を手渡した。
「頭が……ズキズキする……くそう、馬鹿テオめ……」
軽症の者から意識を取り戻し始める。まずはビクトリアが恨み節を言いながら起きる。
「ビクトリア!」
次に目覚めたのは、
「あら……どうやら幸運にも生きてるようね……死んでたらあなたたちとは一緒にはいられないだろうし」
マチルドも目を覚ます。手元に置かれた象牙の杖を支えにして立ち上がる。
「ってことは師匠も!?」
テオは期待するも現実はそうは行かなかった。
「……ぐっぅ!」
ロビンは目を覚まさずに夢の中でうなされていた。
「ウィル……ウィル……!」
時折男の名前を繰り返し呼ぶ。
「もしかして……故郷の夢を見てるのかしら……? きっと仲の良かった人を思い出しているのね……」
マチルドは心中を察する。彼女にも故郷がある。何も言わず飛び出した後もふと思い出すことがある。
起こすか、それとも起こさないか悩んでいるとビクトリアは即決する。
「テオ。苦しそうだし起こしてあげなさい」
「マチルドちゃん、容赦ないわね……」
「うん、わかった!」
「テオも迷いないし……」
テオはロビンの上半身を起こすと前後に激しく揺らし始める。
「ししょー! おきろー!」
テオはドラゴンを倒したことでレベルが上がっていた。より怪力に磨きが増した。揺さぶられるロビンの首がボキボキと軽快に音を鳴らす。
「ちょっとテオ! 止めて止めて! そのまま永眠しちゃうから!」
「う、うん……俺、ねてたか……つうか、もっと優しく起こしてくれよ……」
しかし荒療治のおかげで頭に血が上ったのか、ロビンが目を覚ます。
「師匠! 目を覚ましたか!」
ロビンはテオの顔を見る。
「ウィル。またお前か……イタズラ好きにも程があるぞ」
手痛いイタズラを食らっても笑って許す彼らしい仕草だがどこかおかしい。
「師匠ってば寝ぼけてんの! 俺はテオだぞ!」
「え……あ……うん……そう、だったな」
笑顔から一気に真顔になった。良い夢を見ていたのに現実に戻ったかのようだった。
「つうか、ドラゴンどうした!? 俺はめちゃくちゃ火傷したんだが、どうして治ってるんだ!?」
「やばかったところを助けてくれたんだ、そこのおっちゃんが」
テオは離れた場所を指さす。ロビンもビクトリアもマチルドもその先を見る。
暗くてわからなかったが顔を含めた全身を漆黒の甲冑で身を固めた大男が立っていた。
「誰!?」
「見るからに怪しいな!?」
「鑑定」
三人は即座に警戒する。ビクトリアは鑑定まで詠唱する始末。
「待て、吾輩は敵ではない。ビクトリアちゃんも鑑定しないで」
「……身体強化」
「バフまで!? 初対面なのにちゃん付けしたからかな!?」
「……冗談よ。見た目に反してずいぶん軽いノリしてるのね」
ビクトリアはひとまずは杖を落とす。
(鑑定が失敗した……それだけレベル差が開いているってこと……今は下手に刺激しないほうがよさそうね……)
警戒を解いたのはあくまで形だけだ。
「それとテオくん。吾輩はまだおっちゃんじゃないよ。あまりね軽々しくそう呼ぶのよしたほうがいいよ」
穴に潜ってから百年は経ってるけど気概は若者のままだ。座る時はよっこいしょと口走ったりはするが。
「えー? でも一人称が吾輩だし、すごい強かったからー。じゃあなんて呼べばいいんだ? そうだ、名前は?」
「…………吾輩の名前か」
返事に時間がかかった。
「あら、もしかして触れられたくない感じ? 答えたくないなら無理に答えてくれないわよ? 命の恩人なわけだしさ」
「いや答えたくないわけではないさ。随分と久々に名前を聞かれたものでね」
名前と一緒に、穴に潜る前のことを思い出す。太陽の下での生活、そして、
「……リチャードだ。この名前は母上がつけてくれたのだ」
唯一の家族との記憶を。
「もっと力強くだ。深く差し込んだのちに捩じると仕留めやすいぞ」
「こ、こうか……?」
レバーでそうするように剣を引く。切れ込みが深くなると赤い血が漏れ出す。
「ドラゴンの尻尾は栄養が豊富だ。それは血も同じ。新鮮なうちに採集しておけば水分の他に魔力も補給できる」
黒騎士は瓶を取り出し、入る分だけ回収する。
「どんな味なんだ?」
「お、いける口か? 指につけて舐めてみると良い」
テオは差し出された瓶に指を突っ込んでからそれを口に含む。次の瞬間には舌を出す。
「にぎゃい……」
「ははは、君の口にはまだ早かったようだな。だが生きるためには我慢が必要だぞ」
「それもくれるのか?」
「そのつもりだが?」
「金はないぞ?」
「吾輩には必要ないさ」
半ば押し付けるように黒騎士はテオに竜血を手渡した。
「頭が……ズキズキする……くそう、馬鹿テオめ……」
軽症の者から意識を取り戻し始める。まずはビクトリアが恨み節を言いながら起きる。
「ビクトリア!」
次に目覚めたのは、
「あら……どうやら幸運にも生きてるようね……死んでたらあなたたちとは一緒にはいられないだろうし」
マチルドも目を覚ます。手元に置かれた象牙の杖を支えにして立ち上がる。
「ってことは師匠も!?」
テオは期待するも現実はそうは行かなかった。
「……ぐっぅ!」
ロビンは目を覚まさずに夢の中でうなされていた。
「ウィル……ウィル……!」
時折男の名前を繰り返し呼ぶ。
「もしかして……故郷の夢を見てるのかしら……? きっと仲の良かった人を思い出しているのね……」
マチルドは心中を察する。彼女にも故郷がある。何も言わず飛び出した後もふと思い出すことがある。
起こすか、それとも起こさないか悩んでいるとビクトリアは即決する。
「テオ。苦しそうだし起こしてあげなさい」
「マチルドちゃん、容赦ないわね……」
「うん、わかった!」
「テオも迷いないし……」
テオはロビンの上半身を起こすと前後に激しく揺らし始める。
「ししょー! おきろー!」
テオはドラゴンを倒したことでレベルが上がっていた。より怪力に磨きが増した。揺さぶられるロビンの首がボキボキと軽快に音を鳴らす。
「ちょっとテオ! 止めて止めて! そのまま永眠しちゃうから!」
「う、うん……俺、ねてたか……つうか、もっと優しく起こしてくれよ……」
しかし荒療治のおかげで頭に血が上ったのか、ロビンが目を覚ます。
「師匠! 目を覚ましたか!」
ロビンはテオの顔を見る。
「ウィル。またお前か……イタズラ好きにも程があるぞ」
手痛いイタズラを食らっても笑って許す彼らしい仕草だがどこかおかしい。
「師匠ってば寝ぼけてんの! 俺はテオだぞ!」
「え……あ……うん……そう、だったな」
笑顔から一気に真顔になった。良い夢を見ていたのに現実に戻ったかのようだった。
「つうか、ドラゴンどうした!? 俺はめちゃくちゃ火傷したんだが、どうして治ってるんだ!?」
「やばかったところを助けてくれたんだ、そこのおっちゃんが」
テオは離れた場所を指さす。ロビンもビクトリアもマチルドもその先を見る。
暗くてわからなかったが顔を含めた全身を漆黒の甲冑で身を固めた大男が立っていた。
「誰!?」
「見るからに怪しいな!?」
「鑑定」
三人は即座に警戒する。ビクトリアは鑑定まで詠唱する始末。
「待て、吾輩は敵ではない。ビクトリアちゃんも鑑定しないで」
「……身体強化」
「バフまで!? 初対面なのにちゃん付けしたからかな!?」
「……冗談よ。見た目に反してずいぶん軽いノリしてるのね」
ビクトリアはひとまずは杖を落とす。
(鑑定が失敗した……それだけレベル差が開いているってこと……今は下手に刺激しないほうがよさそうね……)
警戒を解いたのはあくまで形だけだ。
「それとテオくん。吾輩はまだおっちゃんじゃないよ。あまりね軽々しくそう呼ぶのよしたほうがいいよ」
穴に潜ってから百年は経ってるけど気概は若者のままだ。座る時はよっこいしょと口走ったりはするが。
「えー? でも一人称が吾輩だし、すごい強かったからー。じゃあなんて呼べばいいんだ? そうだ、名前は?」
「…………吾輩の名前か」
返事に時間がかかった。
「あら、もしかして触れられたくない感じ? 答えたくないなら無理に答えてくれないわよ? 命の恩人なわけだしさ」
「いや答えたくないわけではないさ。随分と久々に名前を聞かれたものでね」
名前と一緒に、穴に潜る前のことを思い出す。太陽の下での生活、そして、
「……リチャードだ。この名前は母上がつけてくれたのだ」
唯一の家族との記憶を。
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