26 / 78
気に食わない魔王様とダンジョンの異変
しおりを挟む
魔王は鏡の前で渋面を浮かべていた。応援している勇者たちがジャックと言う格上の強敵を倒したにも関わらずだ。底抜けに陽気な彼ならクラッカーの一つでも鳴らして祝福するがどういう理由か腹の虫が悪そうにしている。
「もしや魔王様……お怒りなのですか」
秘書はまだ短い期間ではあるものの、彼が怒りの感情を浮かべる姿を見たことがなかったし想像もしていなかった。
「ああ、もう……カンカンだよ……」
深い、深い息を吐いた後に怒りの理由を吐露する。
「エキドナだと……ダンジョンの最奥に住むダンジョン主にて魔王の吾輩を差し置いて、勝手に名前をつけおってからに……!」
「あ、そういう理由ですか」
しょうもな、と秘書は思った。
「しかもだ、エキドナだぞ、エキドナ! 語感もいいし、ちょっと、ちょっとだけ吾輩の心に刺さるセンスのいいしゃれた名前をつけるとは! 新しい名前をつけようにもハードルがあがって難しいではないか!」
「名前がないのであればエキドナでよろしいのではないですか」
「それでは吾輩のプライドが許さぬ!」
「今まで名前もつけていなかったのにちっさいことにこだわりますね」
「ちっさ!? いやいやシロくん! まず君は普通自分の家に名前を付けるかい? 付けないだろう?」
「まあ、そうですね……秘密基地でもないのに家に名前を付けるのは馬鹿のすることですからね」
「なのに他人が自分の家に変なあだ名つけられたらちょっと許せないだろ!? お化け屋敷とかさ!」
「……悔しいですがちょっとだけ気持ちがわかるようになりました」
魔王は怒りながらも背もたれの高い椅子に座る。
「すまん、吾輩としたことがちょっとイライラしてる……」
吐き出したというのに苛立ちが収まらない。今まで見せてこなかった貧乏ゆすりまで。
「もしやまだほかにイライラの理由が?」
「ああ……つい先日眷属のジリスを放っただろう。結果を話そうと思う」
「どうでしたか」
「結果を先に言おう。全滅だ」
「……そうですか」
秘書は目を丸くしたものの、落ち着きは保っていた。
「スキル隠密もEランク相当……小さく俊敏なのが売りなのだが……」
「全滅ですか。大変不可解ですね」
「うむ。道中の魔物は強敵だが見つかりはしてもわざわざ狙うとは思えん。メリットがないからな。異種族の魔物同士が縄張り争いなどで争うことはあれどジリスのような脅威にならない小動物を狙うとは到底思えん」
「では捕食のために食べられたとか? ジリスにも魔王様の魔力が込められています」
「まあ、あるとしたらその線だね。まあ全滅はしたものの、成果は出せたさ」
「それはつまり……」
「異変は66層で起きている。どのジリスも悉く66層でロストしている。魔力の消滅はそこから感じた」
「……」
魔王の能力はシロの想像を遥かに上回っていた。眷属の消滅の感知は困難だがありふれたものだ。それでも位置を正確に感知することは前代未聞だった。
「おいおーい、シロくん! いつもの! さすがです魔王様は!? あれさぁ、いつも楽しみにしてるんだけど!」
「……すぐに出発されるおつもりですか?」
シロはそう淡白に尋ねた。行ってほしくない、と感情の起伏が乏しい彼女にどこかそう感じさせた。
「……すぐには行かんよ。プラントや書物庫のこともある。万全の準備を整えてから行くつもりさ」
「そう、ですか」
どこか安心そうにするシロ。
魔王は彼女の頭をなでようとするが慌てて止める。それでも安心させようとする気持ちに変わりはない。
「大丈夫。君を一人にはさせんよ。安心してくれ」
「別に、そういうつもりではありませんので」
「ともかく異変の位置はわかった。あとはジリスを送り込んでしばらく様子見しよう。さて我らがテオ君たちの続き、続き」
「誰が我らがですか」
しばらく目を離していた鏡を見る。
快進撃を続けていた勇者一行。順調なら今日中にも40層行けるはず。
その時まではそう思っていた。
異変は66層で起きている。それ以外には起きていないと。
しかしダンジョン『エキドナ』は主にすら予想できない形で牙を剥く。
「……なんだと!?」
魔王は急に立ち上がる。座っていた椅子がひっくり返る。
「これはどういうことだ……!?」
鏡に詰め寄る。
「……なんで、なんで彼らの前にドラゴンが出現している!? 80層以上でようやく対面する敵だぞ!? それもレベル70相当だと!? これでは、今の彼らに勝てるはずがない!!」
鏡の向こうでは成長した勇者一行が真の強敵を前にしても懸命に抗っている。しかしレベル差は大きく、一人、また一人と倒れていく。
そして最後に立っていたのはテオのみとなった。
「もしや魔王様……お怒りなのですか」
秘書はまだ短い期間ではあるものの、彼が怒りの感情を浮かべる姿を見たことがなかったし想像もしていなかった。
「ああ、もう……カンカンだよ……」
深い、深い息を吐いた後に怒りの理由を吐露する。
「エキドナだと……ダンジョンの最奥に住むダンジョン主にて魔王の吾輩を差し置いて、勝手に名前をつけおってからに……!」
「あ、そういう理由ですか」
しょうもな、と秘書は思った。
「しかもだ、エキドナだぞ、エキドナ! 語感もいいし、ちょっと、ちょっとだけ吾輩の心に刺さるセンスのいいしゃれた名前をつけるとは! 新しい名前をつけようにもハードルがあがって難しいではないか!」
「名前がないのであればエキドナでよろしいのではないですか」
「それでは吾輩のプライドが許さぬ!」
「今まで名前もつけていなかったのにちっさいことにこだわりますね」
「ちっさ!? いやいやシロくん! まず君は普通自分の家に名前を付けるかい? 付けないだろう?」
「まあ、そうですね……秘密基地でもないのに家に名前を付けるのは馬鹿のすることですからね」
「なのに他人が自分の家に変なあだ名つけられたらちょっと許せないだろ!? お化け屋敷とかさ!」
「……悔しいですがちょっとだけ気持ちがわかるようになりました」
魔王は怒りながらも背もたれの高い椅子に座る。
「すまん、吾輩としたことがちょっとイライラしてる……」
吐き出したというのに苛立ちが収まらない。今まで見せてこなかった貧乏ゆすりまで。
「もしやまだほかにイライラの理由が?」
「ああ……つい先日眷属のジリスを放っただろう。結果を話そうと思う」
「どうでしたか」
「結果を先に言おう。全滅だ」
「……そうですか」
秘書は目を丸くしたものの、落ち着きは保っていた。
「スキル隠密もEランク相当……小さく俊敏なのが売りなのだが……」
「全滅ですか。大変不可解ですね」
「うむ。道中の魔物は強敵だが見つかりはしてもわざわざ狙うとは思えん。メリットがないからな。異種族の魔物同士が縄張り争いなどで争うことはあれどジリスのような脅威にならない小動物を狙うとは到底思えん」
「では捕食のために食べられたとか? ジリスにも魔王様の魔力が込められています」
「まあ、あるとしたらその線だね。まあ全滅はしたものの、成果は出せたさ」
「それはつまり……」
「異変は66層で起きている。どのジリスも悉く66層でロストしている。魔力の消滅はそこから感じた」
「……」
魔王の能力はシロの想像を遥かに上回っていた。眷属の消滅の感知は困難だがありふれたものだ。それでも位置を正確に感知することは前代未聞だった。
「おいおーい、シロくん! いつもの! さすがです魔王様は!? あれさぁ、いつも楽しみにしてるんだけど!」
「……すぐに出発されるおつもりですか?」
シロはそう淡白に尋ねた。行ってほしくない、と感情の起伏が乏しい彼女にどこかそう感じさせた。
「……すぐには行かんよ。プラントや書物庫のこともある。万全の準備を整えてから行くつもりさ」
「そう、ですか」
どこか安心そうにするシロ。
魔王は彼女の頭をなでようとするが慌てて止める。それでも安心させようとする気持ちに変わりはない。
「大丈夫。君を一人にはさせんよ。安心してくれ」
「別に、そういうつもりではありませんので」
「ともかく異変の位置はわかった。あとはジリスを送り込んでしばらく様子見しよう。さて我らがテオ君たちの続き、続き」
「誰が我らがですか」
しばらく目を離していた鏡を見る。
快進撃を続けていた勇者一行。順調なら今日中にも40層行けるはず。
その時まではそう思っていた。
異変は66層で起きている。それ以外には起きていないと。
しかしダンジョン『エキドナ』は主にすら予想できない形で牙を剥く。
「……なんだと!?」
魔王は急に立ち上がる。座っていた椅子がひっくり返る。
「これはどういうことだ……!?」
鏡に詰め寄る。
「……なんで、なんで彼らの前にドラゴンが出現している!? 80層以上でようやく対面する敵だぞ!? それもレベル70相当だと!? これでは、今の彼らに勝てるはずがない!!」
鏡の向こうでは成長した勇者一行が真の強敵を前にしても懸命に抗っている。しかしレベル差は大きく、一人、また一人と倒れていく。
そして最後に立っていたのはテオのみとなった。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【R18 】必ずイカせる! 異世界性活
飼猫タマ
ファンタジー
ネットサーフィン中に新しいオンラインゲームを見つけた俺ゴトウ・サイトが、ゲーム設定の途中寝落すると、目が覚めたら廃墟の中の魔方陣の中心に寝ていた。
偶然、奴隷商人が襲われている所に居合わせ、助けた奴隷の元漆黒の森の姫であるダークエルフの幼女ガブリエルと、その近衛騎士だった猫耳族のブリトニーを、助ける代わりに俺の性奴隷なる契約をする。
ダークエルフの美幼女と、エロい猫耳少女とSEXしたり、魔王を倒したり、ダンジョンを攻略したりするエロエロファンタジー。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる