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21層 足踏みするテオ一行

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 トニョとジャックの二人が20層を離れようとした頃、テオたちは未だに21層で足踏みをしていた。

 ロビンは錆びた剣を受け止めて敵に向けて蹴りを放つ。

「くそう! こいつら、きりがねえ!」

 彼らの前に立ちはだかるは骸骨の騎士スケルトンナイト。錆びた剣と盾を持ち、見慣れた剣技で襲い掛かってくる。動きはそこまで早くはない。しかし数が数。数えきれないほどの人数が道を埋め尽くしている。回り道もないために戦闘を強いられていた。

「ていや! ていや! でええいやあ!!」

 テオの素人丸出しの大振りな攻撃ですら当たる。肉という繋がりがなければバラバラに崩れてしまう。
 一種のボーナスステージのように見えるが違う。

「カカ、カカカッカッ!」
「うえ!? また蘇った!?」

 厄介なのは数だけでない。その不死性だった。
 バラバラになったはずの骨組みが時を戻したように組み立てられていく。

「本当なら魔法で一網打尽なんだけど……!」

 ロビンはちらりと後衛を見る。

「うっさい。浄化魔法を知らないのはあんたも一緒でしょう」

 ビクトリアが逆切れする。スケルトンナイトはアンデッドモンスターに分類される。浄化魔法は留まる残留思念を解いて流す効果がある。ダンジョン内でも非常に有用である魔法だがビクトリアはそれを習得していなかった。
 ビクトリアがダメならもう一人の魔法職を頼りにしたいが、

「……」

 未だにマチルドは望まぬ再会を引きずっていた。戦闘に参加できる精神状態ではなかった。

「どうする? 私は撤退するのも手だと思うんだけど」
「引き返して、あの気に食わねえ二人と合流するってか!? そんなに鴨ロースが食べてえのか!?」
「じゃないとロビンがミンチになっちゃうよ?」

 テオは声を上げる。

「戻るのはダメだ! マチルドが嫌がってる!」
「馬鹿テオ。じゃあどうするってのよ」
「俺に考えがある! 師匠! 俺のテオスラッシャーでなんとかする!」

 テオスラッシャーであれば骨を粉々にするほどの威力があるために効果は期待できるが、

「まてまてまてーい! お前も剣を振り回してようやく堰き止めが精一杯だぞ!?」
「でもこうするしかない!」

 テオは剣を上げて力を溜め始める。

「こいつ、俺の許可もなく!?」

 数の均衡が崩れる。
 ロビン相手にスケルトンナイトが三人同時に襲い掛かる。

「ぐおおお!!!???」

 盾を被るようにしてしゃがみ込む。スケルトンナイトは知能が下がっているために剣で盾を叩き続けるに留まる。
 レアアイテムドロップの盾は頑丈だった。錆びた剣を跳ね返し、壊れる気配はない。
 最も危機が迫っていたのはロビンではなかった。

「カカカカッ!」

 守りの穴からスケルトンナイトが流れ込んでくる。
 敵が真っ先に狙うのはテオでもマチルドでもなかった。

「……やっぱり私を狙うか。ずっと感じていた嫌な気配はこいつらだったんだ」

 何故かビクトリアを執拗に狙う。

「カカカ! カカカ!」

 骨だけの身体のために表情は読み取れない。しかし不思議と嫉妬の感情が読み取れる。

「マチルド! なんとかしろ!」

 ロビンの喝に、

「あ、あたしは……!」

 マチルドは杖を握りしめるだけ。

「ビクトリアー! くそ、邪魔するなよ!!」

 テオは溜めを解除し幼馴染を助けに向かうも間にいるスケルトンナイトが行く手を阻む。
 バフをかけて逃げ回るにしてもいずれは追いつかれる。打つ手はないと結論付きそうだった時、

「おいおい、嘘だろ。こんな敵にピンチかよ」

 洞窟の中に風が吹く。
 吹き抜けたかと思うと、道を埋め尽くしていた数多のスケルトンナイトが氷漬けになる。

「よぅ、マリー。また会えて嬉しいぜ、チュ」

 21層の奥に立つジャックがきざったらしく投げキッスをすると同時に、

「か、か、か」

 スケルトンナイトは氷漬けのままバラバラに砕け散る。

「……やっぱりすげえ」

 テオは素直に感心する一方で、

「……なんのつもりだ?」

 ロビンは立ち上がると早速食って掛かる。

「おいおい、なんだい、その態度は。あんたらの命の恩人だぜ、俺は」
「助けなんて求めてねえよ!」
「まあまあ、ロビン。頭を冷やしなさい」

 ビクトリアがロビンを押さえつける。

「助けてくれてありがとう。でも礼は期待しないでね」
「礼なんてとんでもねえ。ここはダンジョン。助け合いは大切だろう?」

 会話はビクトリアとしているが目はマチルドから離れていない。

「そう、それじゃあ」

 マチルドを先行させて22層へと向かう。

「へへへ」

 ジャックはそれを笑いながら見送った。



 22層は吸血コウモリの群れが飛び交っていた。

「くそう、さっきから魔法が使えないと厄介な敵と遭遇するなあ!」
「あ! 師匠! そんなことを言ってる隙から頭に吸血コウモリが! 俺が取ってやるよ!」
「うおおおい待て待て待てい! コウモリ如きで剣を振り上げるな! 俺まで殺すつもりか!?」

 ロビンは頭にくっついた吸血コウモリを引っ張って地面に叩きつけたのちに短剣を突き立てた。

「お!? こいつら、割と経験値が稼げるぞ!」
「そう、じゃあロビンが率先して噛まれて倒す作戦で行きましょう。回復は任せて」
「ビクトリアさん、たまに俺を道具かなんかだと思っていませんか?!」
「冗談に決まってるでしょう。というか経験値稼ぎなんて悠長なこと言ってられない。最小限倒して次に向かいましょう」

 ダメージを覚悟して突き進むとしようとしたとき、

「おや? 困ってる? 助けてやろうか?」

 またもやジャックが現れる。そして今度は魔法を使わずに双剣のみで吸血コウモリの群れを全滅させる。

「……やっぱかっけー」

 テオは手際の良さに感服する。
 のんびりとしていたのは彼だけだった。

「なあ、ビクトリア。あいつ、もしかして」
「ええ、そうね。狙いはそういうことかも」

 ロビンとビクトリアはジャックの狙いに勘付く。

「このままストーカーして経験値を稼がせないつもりだ」

 ダンジョン内で稀によくある嫌がらせ行為だ。二つの異なるパーティ間でトラブルが起こるとこの経験値泥棒が発生する。
 経験値は戦闘に参加した者全員に配られる。それはトドメの一撃を刺しただけの者にもだ。また理不尽なことに配分は討伐の全体での貢献度ではなく、ダメージを多く与えた者、そしてトドメを刺した者に優先的に多くなる。

「経験値トラブルはダンジョン内で日常茶飯事だと聞くが……」
「まったく、面倒なのに目を付けられたわね……」

 スケルトンナイトよりも大幅な足踏みになる。
 テオ一行は比較的魔物の脅威の少ない22層にテントを張ることに決める。
 ジャックたちにもそう伝えると彼らは次の層へと向かった。

「奴ら、23層よりも先に向かうと思うか?」
「いいえ、絶対に待ち受けてるでしょうね」

 隙を窺って先を行こうとしても無駄だろう。必ず追いつかれる。
 それでは一日二日待って、しびれを切らすのを待つという作戦も微妙だった。
 彼らの食料は幸いロビンが所持する極めて入手困難な魔法の巾着のおかげで通常のパーティより圧倒的に多く持ち合わせているがそれでも有限だ。一日三食分でも無駄にするのは惜しい。そして現地調達にも限度がある。
 マチルドは不調。ストーカー問題は解決の術が見当たらない。
 テオたちは初めて予想にもしなかった大きな壁にぶつかった。
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