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10層ボス ダーペント戦 前編
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ロビンは盾を前にして先陣を切る。
「ビクトリアさん! いつもの頼むぜ!」
ビクトリアは言われる前から杖を立てていた。
「はいはい、わかってます。補助魔法、身体強化」
ロビンの全身を白いオーラが覆う。
「ダアアアアア!!」
ダーペントは尻尾を振り回す。ただでさえ巨躯、おまけに岩のように硬い皮膚。それだけで脅威になりえる。
ロビンはそれに対して、
「うおおおおおおおお!!」
果敢に飛び込む。
尻尾が地面に振り落とされる直前、尻を擦りながら滑り込む。
彼がこのような大胆な行動をとれたのはバフのおかげだ。身体強化はその名の通り身体能力を向上させる魔法。クイックはスピード限定だがこちらはスピードだけでなく筋力や動体視力までも倍増させる。
「惜しかったな、デカブツ!」
去り際に短剣で切りつけるが浅い傷しか入らない。
「HPでいうところのダメージ1ってところか!? ゲージも全然変動してないんじゃねえの!?」
わかっていたとはいえ、やはり目の当たりにするとショックは大きかった。
ショックな出来事はそれだけではない。
「っていうか、マチルダさんの魔法二発食らっておいてHPが九割以上も残ってるじゃねえか!?」
あれだけの火力のモロに受けながらまるでダメージが入っていない。
しかしこの事実にマチルドは動揺はしなかった。
「相性……ってところかしら」
腕を組んで敵を観察する。
ヒーラーのビクトリアも加わって後衛陣は作戦会議に入る。
「マチルドはあの敵について詳しくないの」
「あいにく知ってるのは名前だけね」
「名前は知ってるのに敵の情報は知らないの? 弱点とか。街で情報を買ったりしなかった?」
「街では生還者と名乗る者はたくさんいるわよ。どいつもこいつも決まって情報を欲しければ金をよこせってせびってきたわ。そういうのは詐欺のほうが多いの。それに下手に真偽不明の情報収集するとかえって錯綜するし先入観ができちゃうから、あたしは常に自分の目と耳で見聞きしたものを信じるようにしているの」
「なるほど、そういうのもありだね。でも他のダンジョンも潜ったことがあるんだよね? 似たような敵はいなかったの?」
「大蛇とゴーレムは倒したことがある。でも今あたしたちが戦っている敵、ダーペントは本当に初めて。あれはなんなのかしら? 魔物にしては独特な雰囲気を感じずにはいられないのよね」
そう言ってマチルドは優雅にコーヒーを飲み始める。
「こらー!! 戦闘中のコーヒーは禁止だっつったろ!」
こうして彼女たちがコーヒーを飲みながらの作戦会議が開けるのもロビンのおかげだ。
彼が率先して囮になって時間を稼いでいるからだ。効かないとわかっている短剣の攻撃もヘイトを稼ぎ、気を引くためだった。ただし敵を怒らせていることもあるため、その分攻撃力が通常よりも増えていたりする。
「ダアアアアアア!! ダアアアアア!!!」
大蜘蛛とは比べ物にならないほど一撃が重く、速く、鋭い。補助魔法の恩恵を得ながらもロビンは防戦一方。
躱しきれずに尻尾のビンタを盾で受け止める。防御してなお彼のHPの一割が減る。
「ぐおお!? 骨の髄まで響くな、こりゃ!? これがレベル30ってやつかよ!!」
それでもまだ耐えているほう。もしもバフに盾がなければ全身の骨が粉々になっていただろう。
「師匠! やっぱり俺も前線に──」
テオがそう言うと、
「うるせええ!! 何度も言わせるな!! お前はそこで黙って見てろ!!」
らしからず苛立ったように語気を荒げる。
「っふう……すまん。後衛陣。ちょっとスキル『隠密』を使わせてもらうぜ」
「あ、こら! タンクが姿をくらましてどーすんのよ!!」
マチルドの制止も振り切ってロビンはスキル『隠密』を発動する。
スキル『隠密』とはその名の通り、気配を消して姿をくらます。ダンジョンを潜る前からロビンがもっていた唯一のスキル。
戦闘中に発動すれば敵の背後を取れたりと便利ではあるのだが、タンクが使ってしまうと、
「ダアアアアア!!」
ダーペントの首の向きを変えて威嚇する。
「ほらあ! こっちにターゲットが移っちゃうじゃない! あんの役立たず!!」
ヘイトが別の対象に移ってしまう。この場合は魔法二発当てたマチルドに向くことになる。
「大丈夫! これで終わらせる!」
ロビンはまんまとダーペントの背後を取っていた。
「今から必殺の、必殺の……しまった、技名考えていなかった……えーとあれだ、『ロビンアタック』をお見舞いしてやるぜ!」
ロビンアタック。真っ赤な嘘に加えて恐ろしくダサい名前。
しかし一人には大好評のようで、
「ロビンアタック!? なにそれ!? 超かっこよさそう!!!」
テオだけは目を輝かせていた。ビクトリアは呆れを通り越して侮蔑の目。
どちらの視線もズキズキと痛みとして感じながらもロビンは嘘を突きとおす。
「マチルド、よーく見とけよ! 3,2,1でロビンアタックだ! いいな、3,2,1だぞ!」
入念なチェックをしてから、ロビンは全力でダーペントの背後からとびかかる。そして空中でカウントダウンを開始する。
「3,2,1──ロビンアターーーーーーック!!」
大仰な剣の振り下ろし。短剣は爆発を起こすこともなく、カキンと跳ね返る。
「マチルドさん!!??? 話が違いますよ!!!???」
ロビンは全力でマチルドの姿を探すがどういうわけか彼女の姿が見当たらない。
親切なビクトリアが教えてくれる。
「マチルドなら隠密魔法で避難したわよ」
「え、待てよ、それじゃあ今ヘイトが向いてるのって……」
ロビンはゆっくりと頭上を見上げる。
するとばっちりとダーペントと目が合うのだった。
「ビクトリアさん! いつもの頼むぜ!」
ビクトリアは言われる前から杖を立てていた。
「はいはい、わかってます。補助魔法、身体強化」
ロビンの全身を白いオーラが覆う。
「ダアアアアア!!」
ダーペントは尻尾を振り回す。ただでさえ巨躯、おまけに岩のように硬い皮膚。それだけで脅威になりえる。
ロビンはそれに対して、
「うおおおおおおおお!!」
果敢に飛び込む。
尻尾が地面に振り落とされる直前、尻を擦りながら滑り込む。
彼がこのような大胆な行動をとれたのはバフのおかげだ。身体強化はその名の通り身体能力を向上させる魔法。クイックはスピード限定だがこちらはスピードだけでなく筋力や動体視力までも倍増させる。
「惜しかったな、デカブツ!」
去り際に短剣で切りつけるが浅い傷しか入らない。
「HPでいうところのダメージ1ってところか!? ゲージも全然変動してないんじゃねえの!?」
わかっていたとはいえ、やはり目の当たりにするとショックは大きかった。
ショックな出来事はそれだけではない。
「っていうか、マチルダさんの魔法二発食らっておいてHPが九割以上も残ってるじゃねえか!?」
あれだけの火力のモロに受けながらまるでダメージが入っていない。
しかしこの事実にマチルドは動揺はしなかった。
「相性……ってところかしら」
腕を組んで敵を観察する。
ヒーラーのビクトリアも加わって後衛陣は作戦会議に入る。
「マチルドはあの敵について詳しくないの」
「あいにく知ってるのは名前だけね」
「名前は知ってるのに敵の情報は知らないの? 弱点とか。街で情報を買ったりしなかった?」
「街では生還者と名乗る者はたくさんいるわよ。どいつもこいつも決まって情報を欲しければ金をよこせってせびってきたわ。そういうのは詐欺のほうが多いの。それに下手に真偽不明の情報収集するとかえって錯綜するし先入観ができちゃうから、あたしは常に自分の目と耳で見聞きしたものを信じるようにしているの」
「なるほど、そういうのもありだね。でも他のダンジョンも潜ったことがあるんだよね? 似たような敵はいなかったの?」
「大蛇とゴーレムは倒したことがある。でも今あたしたちが戦っている敵、ダーペントは本当に初めて。あれはなんなのかしら? 魔物にしては独特な雰囲気を感じずにはいられないのよね」
そう言ってマチルドは優雅にコーヒーを飲み始める。
「こらー!! 戦闘中のコーヒーは禁止だっつったろ!」
こうして彼女たちがコーヒーを飲みながらの作戦会議が開けるのもロビンのおかげだ。
彼が率先して囮になって時間を稼いでいるからだ。効かないとわかっている短剣の攻撃もヘイトを稼ぎ、気を引くためだった。ただし敵を怒らせていることもあるため、その分攻撃力が通常よりも増えていたりする。
「ダアアアアアア!! ダアアアアア!!!」
大蜘蛛とは比べ物にならないほど一撃が重く、速く、鋭い。補助魔法の恩恵を得ながらもロビンは防戦一方。
躱しきれずに尻尾のビンタを盾で受け止める。防御してなお彼のHPの一割が減る。
「ぐおお!? 骨の髄まで響くな、こりゃ!? これがレベル30ってやつかよ!!」
それでもまだ耐えているほう。もしもバフに盾がなければ全身の骨が粉々になっていただろう。
「師匠! やっぱり俺も前線に──」
テオがそう言うと、
「うるせええ!! 何度も言わせるな!! お前はそこで黙って見てろ!!」
らしからず苛立ったように語気を荒げる。
「っふう……すまん。後衛陣。ちょっとスキル『隠密』を使わせてもらうぜ」
「あ、こら! タンクが姿をくらましてどーすんのよ!!」
マチルドの制止も振り切ってロビンはスキル『隠密』を発動する。
スキル『隠密』とはその名の通り、気配を消して姿をくらます。ダンジョンを潜る前からロビンがもっていた唯一のスキル。
戦闘中に発動すれば敵の背後を取れたりと便利ではあるのだが、タンクが使ってしまうと、
「ダアアアアア!!」
ダーペントの首の向きを変えて威嚇する。
「ほらあ! こっちにターゲットが移っちゃうじゃない! あんの役立たず!!」
ヘイトが別の対象に移ってしまう。この場合は魔法二発当てたマチルドに向くことになる。
「大丈夫! これで終わらせる!」
ロビンはまんまとダーペントの背後を取っていた。
「今から必殺の、必殺の……しまった、技名考えていなかった……えーとあれだ、『ロビンアタック』をお見舞いしてやるぜ!」
ロビンアタック。真っ赤な嘘に加えて恐ろしくダサい名前。
しかし一人には大好評のようで、
「ロビンアタック!? なにそれ!? 超かっこよさそう!!!」
テオだけは目を輝かせていた。ビクトリアは呆れを通り越して侮蔑の目。
どちらの視線もズキズキと痛みとして感じながらもロビンは嘘を突きとおす。
「マチルド、よーく見とけよ! 3,2,1でロビンアタックだ! いいな、3,2,1だぞ!」
入念なチェックをしてから、ロビンは全力でダーペントの背後からとびかかる。そして空中でカウントダウンを開始する。
「3,2,1──ロビンアターーーーーーック!!」
大仰な剣の振り下ろし。短剣は爆発を起こすこともなく、カキンと跳ね返る。
「マチルドさん!!??? 話が違いますよ!!!???」
ロビンは全力でマチルドの姿を探すがどういうわけか彼女の姿が見当たらない。
親切なビクトリアが教えてくれる。
「マチルドなら隠密魔法で避難したわよ」
「え、待てよ、それじゃあ今ヘイトが向いてるのって……」
ロビンはゆっくりと頭上を見上げる。
するとばっちりとダーペントと目が合うのだった。
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