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勇者PT、初のボス戦

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 ダンジョン戦では必須の魔法を開戦の狼煙とする。
 ビクトリアが頭上高く、旗を揚げるように杖を掲げる。

「補助魔法、鑑定スーチカ!」

 全員の視界に横棒と数字が浮かび上がる。
 横棒は戦闘不能になるまでのHPを表している。
 熟練の戦士であれば己の限界を知り引き際を弁えているが仲間たちにはその限界や時期を共有するのは難しい。互いの限界を知らなければ連携も難しくなる。そのため数値に表し可視化、共有することで連携を取りやすくしている。
 またHPのほかにもステータスから鑑みてレベルも数値化、可視化させている。レベルを数値化することによって敵の強弱、危険性を明確化させている。

「敵さんのレベルは……30!? まだまだ10層目だぞ!?」

 驚きを隠せないロビン。現在の彼のレベルは20。彼の年齢、職業、スキル、装備であれば平均値ではある。

「あーら、30程度で腰が引けちゃうの? 私はちょっと燃えてきたわよ」

 手ごたえのありそうな敵と遭遇してやる気になるマチルド。彼女のレベルは28。一見低く見えるがあくまで目安に過ぎない。魔法使いの他のジョブと違い、数値化するための条件が複雑だからだ。本来の彼女の実力ならレベル30程度であれば単独で倒すことができるし、何度も経験がある。

「なーんて油断してると痛い目見るかもよ」

 くぎを刺すビクトリア。彼女のレベルは15。こちらは逆に12歳という年齢にしては少し高いぐらいだがより優秀な者もゴロゴロいる。優秀なことに間違いはないのであるが騒ぐほどのことでもない。

「肝が据わってるわね、ビクトリアちゃん」
「何よ、何か裏がありそうな言い方ね、マチルドさん」
「いいえ、頼もしいって言ってるのよ。うちのパーティ、ただでさえそそのっかしいのが多いから」
「……同感」

 そして最後に、

「レベル差なんて関係ねえ! 俺のテオ・スラッシャーと……仲間たちがいれば勝てない相手はいない!」

 剣を振り回してやる気十分の勇者テオ。彼のレベルは……9。平均よりも低い。恐らくは数字を正しく数えられない知能が足を引っ張っている。

「よーし、いつも通り、大将は後ろに引っ込んでくれよ」

 ロビンはテオを後衛よりも後ろに置く。

「なんでだよ! 俺だって師匠みたいに前衛で戦いてえよ!」

 こういう時のための数値化。限界を自覚していない、うぬぼれた戦士に非情な現実を叩きつけるための手段……なのだが数字が苦手な者にはあまり効果がないのが玉に瑕。
 テオの暴走をなだめるのはいつだってロビンの仕事。

「いいかい、大将ってのはな、後ろでドシンと構えているもんだ。チェスだってキングは後から動くもんだろ」

 本来であれば実戦経験を積ませたいところだがレベル差がありすぎる。攻撃を一発受けただけで死んでしまう可能性がある。

「チェスのルールなんかわかんねーし!」
「えとほらそのあれだ、ビクトリア!」

 テオとは一番付き合いが長いのは幼馴染のビクトリアだ。彼をよく知り操ることにも長けているお姉さんなのだが、

「嫌。面倒くさい」

 割とあっさり仕事を放棄する。

「くそう! どいつもこいつも俺に肉体労働も頭脳労働も押し付けやがって!」

 ロビンは追い込まれながらも咄嗟に思いつく。

「そうだ、テオ! これから俺がとっておきの技を見せてやるから! そこで見てろ!」
「とっておきの技!? もしかして師匠にもテオ・スラッシャーみたいな必殺技が!?」
「……それは見てからのお楽しみだ」

 ロビンはウィンクして格好よく見せるが、必殺技? そんなものはない。
 ないものはない。本当にない。これからつくるのだって無理な話。だから偽装することにした。
 パチクリパチクリと瞼を瞬いてマチルドに無言のメッセージを送る。

(いい感じに俺が攻撃したところで魔法を頼む)

 何度もウィンクを受けたマチルドはというと、

(いいところを見せるから手を出すなってことかしら?)

 意思疎通失敗バッドコミュニケーション。彼と彼女の間で無言の意思疎通を図るのハートトゥハートはまだまだ早い。
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