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【第4章】ロデオに吹く情熱の風 フラメンコも愛も踏み込みが肝心

夢の中のアレクシス嬢

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 明かりを消して久々のベッドに横たわる。宮殿の寝室のベッドのように大きくもなく柔らかくもなかったが庶民だった頃の実家のベッドを思い出す。むしろこれぐらいが彼女には落ち着いた。

「小さい頃は一時期大きなベッドに憧れましたが、今はこれぐらいがちょうどいいですわね~」

 寝ようにもなかなか寝付けない。そんな夜がもう二日も続いていた。

「……カルロス様のことを考えたら眠れませんわね……今頃どうしているのでしょう」

 彼は今、強力な催眠魔法をかけられている。三日以上続けて催眠魔法にかけられると後遺症が出る可能性がある。
それまでに彼を救出できなければ彼の今後の一生は雲掛かったものになってしまう。

「マリアンヌ・フォンテーヌ……あなたがどんな手を使おうともカルロス様の笑顔を取り戻して見せますわ……」

 それにしても彼女についてはいろいろと謎が残る。横恋慕は確定だとして、果たして単独犯でここまで上手くいくものだろうか。メイドの立場を利用してあの妖しい水を飲ませたとしても王都全体を操るのは困難だ。

「王都には宮廷魔術師のエリック・ベルシュタイン様がいらっしゃいますわ……それに親衛隊だって……彼らの目を欺くことなんて果たしてできるのでしょうか……」

 考えなくてはいけないことは山積みだが久々のベッド、ちゃんとした食事に運動に娯楽。楽しく充実していただけに心地の良い疲労を蓄積させられ良質な眠りを誘う。

「……考えるのは明日にしましょう……ああ、愛しのカルロス様……どうか夢の中へ会いに来てくださいまし……」




 その夜、アレクシスは夢を見た。

 深くて暗くて寒い海底に彼女は重い錨のように沈んでいた。

(ああ、これは……私が私を嫌いだった頃の夢ですわ……)

 誰にも悩みを打ち明かせずに、家族にも理解してもらえず子供ながら人生に絶望していた時期が彼女にもあった。

(お師匠様に会う前のことはつらいことばかりで思い出さないようにしてますのに)

 よってこれは悪夢判定。夢の中で目を瞑る。覚めるか、次の夢が始まるかをじっと待つ。

 ドボンと音が聞こえた。誰かが近くで海中に潜ったようだ。
 目を開くと彼はそこにいた。

(あぁ、そういえばこんなこともありましたわね)

 暗くて顔はよくわからないが少年らしき影が泡を吹きだしながら溺れている。なのに手を水上でなく水底に、アレクシスに必死に伸ばしていた。

(思い込みの激しい子ですわ……私を溺れていると思ったのでしょうか……)

 石のように固まっていた身体を動かして浮上する。

(どこのどなかたは存じませんがイケメンに育つのですよ)

 そう願いながらアレクシスは過去にもしたように見ず知らずの少年の手を握った。
 悪夢は少しだけ良いものに変わった。
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