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【第4章】ロデオに吹く情熱の風 フラメンコも愛も踏み込みが肝心
黒仮面と拳を交えるアレクシス嬢
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アレクシス嬢の逆時計回りの蹴りを黒仮面は左腕でガードするも止められないと判断するとあえて蹴り飛ばされる。空中で回転し、両手で着地しながらバク転し、勢いを殺す。
「ちっ、なんだこの馬鹿力は……!」
それでもダメージは大きかった。左腕を振って痛みを和らげる。
「むむむ、受け止められるだけでなく躱されてしまいましたわ! 少し演技が過ぎましたでしょうか」
アレクシスにとっては一撃で腕の骨一本持っていくつもりだった。
「あなた、ただの変質者じゃありませんわね」
一度だけの攻防で実力を見極める。
黒仮面の首から下は黒の燕尾服。しかしアレクシスは見た目で騙されない。
(小柄のお方……そして身のこなしが軽く、しなやかでしたわ……おそらく女性ですわ……)
淑女の中の淑女は一瞬の立ち振る舞いで何もかも見通す。数少ない情報で黒仮面の正体を探る。
(それと非常に残念ですわ……誘拐犯はイケメンではないのですね……イケメンでしたら仮面の上からでもオーラでわかりますのに……)
淑女の中の淑女はいついかなる時も面食いだ。
「今ので実力差ははっきりしましたでしょう? 無用の怪我をしたくなければ投降してくださいまし。大人しく罪を認めればアルフォンス様も寛大な心で刑罰を軽くしてくれますわ」
「アルフォンス様……」
黒仮面は呟いた。
「正気と思えない、頭のおかしい女……これしきで拙が逃げると思うなよ」
そして拳を固く握り直す。
「む、なにかしらの因縁の気配ですわね。いいですわ、決めました。その分厚い仮面を剥いでアルフォンス様の前に突き出してやりますわ」
「……やれるものなら、やってみろ!」
黒仮面は一歩で跳躍し、アレクシスとの距離を縮めた。
(この方、速いですわね!)
もしも最初からこの速度で背後に詰め寄られていたら不意を突かれていたかもしれない。
「ですが今はお生憎様正面ですわ!」
助走の勢いそのままの右ストレートを手の甲で弾く。
次にハイキックが左後頭部の死角から襲い掛かってくるのでバックステップで回避。
「これも避けるだと!?」
「次は私の番ですわ! お師匠様より教えていただいた拳法を自己流アレンジした淑女拳法ですわー!」
左足を軸にして右足を突き出し仮面を狙う。
「ふんっ」
仮面は顔をずらし、これを回避。
追いかけて足を何度も突き出すが首を左右に動かすだけで回避される。
(身体能力だけでなく動体視力もよろしくて!? 本当に只者じゃありませんわね!?)
すると黒仮面が視界から消えた、と思った瞬間に視界がぐらり落下する。
「もらった!」
回転蹴りでアレクシスの体勢を崩した黒仮面はここぞとばかりに拳を振り下ろす。
「なんのですわ!」
アレクシスは両手で地面に着き、両足を思い切っり突き出す。
「っ!!?」
両足の踵は的確に黒仮面の脛を突いた。
「特製のフラメンコシューズで釘が打ちつけられていますわ~! 想像するだけでも痛いですわねー!?」
そしてアレクシスは両手で地面を叩き、身体を浮遊させる。
空中で身をよじり、再び回し蹴りを放った。
「何度も通用するか!」
黒仮面は今度はパンチで回し蹴りの勢いを相殺する。
「これも当たりませんの!!?」
手加減抜きの攻撃を塞がれる。今度はアレクシスから距離を置く。
目の前の実力者の正体が気になり、格闘に集中できなくなっていた。
(このまま肉弾戦を続けても負けはしませんが勝ちもしませんわ……それほどの実力者が何故ロデオに……)
ありえない。王都でも見つけるのに大変なのに、たかが誘拐犯として野心を持たずにここロデオに?
(いや、ロデオに……一人だけいますわ……でも、まさか……)
ついに一つの仮説にたどり着く。
(カマをかけてみましょうかね……)
事実を確認するべくアレクシスはマスカラを取り出して睫毛に塗る。
「なんだ、いきなり化粧などして……」
「化粧もしますわ。たくさん汗かいてしまいましたもの」
「化粧だと……女め、ふざけやがって」
「ふざけているのはどちらかしら。あなた、さっきから誰と話していると思ってるの? 夜だから知れませんが、いい加減気づいてください。よおく……目を凝らしてね」
言われたとおりに律儀に目を凝らしたのだろう。黒仮面の身体が固まる。
「ま、まさか、お前は……アレクシス・バトレ!? 指名手配されているお前がどうしてここに!?」
「どうやら……決まりのようですわね」
今の答えをもって確信した。事実に行き着いた喜びよりも落胆が大きく肩を落とす。
ロデオに滞在し格闘だけでなく魔法にも精通している者……そんなの一人しかいない。
「……はっ!? マスカラによる認識阻害魔法!? しまった!」
「もう遅いですわ。いやはやどうしてあなたが……失望しましたわよ」
指をさし、仮面の下の正体を暴く。
「カルメン・エチュバリア。あなたなのでしょう?」
カルメン・エチュバリア。アルフォンスの護衛をカルロスから直々に命を下された元親衛隊黒鷲部隊副隊長。戦場で数々の戦果を挙げた彼女には通り名があった。
小戦争。彼女を表すにふさわしい言葉はこの他にない。
「ちっ、なんだこの馬鹿力は……!」
それでもダメージは大きかった。左腕を振って痛みを和らげる。
「むむむ、受け止められるだけでなく躱されてしまいましたわ! 少し演技が過ぎましたでしょうか」
アレクシスにとっては一撃で腕の骨一本持っていくつもりだった。
「あなた、ただの変質者じゃありませんわね」
一度だけの攻防で実力を見極める。
黒仮面の首から下は黒の燕尾服。しかしアレクシスは見た目で騙されない。
(小柄のお方……そして身のこなしが軽く、しなやかでしたわ……おそらく女性ですわ……)
淑女の中の淑女は一瞬の立ち振る舞いで何もかも見通す。数少ない情報で黒仮面の正体を探る。
(それと非常に残念ですわ……誘拐犯はイケメンではないのですね……イケメンでしたら仮面の上からでもオーラでわかりますのに……)
淑女の中の淑女はいついかなる時も面食いだ。
「今ので実力差ははっきりしましたでしょう? 無用の怪我をしたくなければ投降してくださいまし。大人しく罪を認めればアルフォンス様も寛大な心で刑罰を軽くしてくれますわ」
「アルフォンス様……」
黒仮面は呟いた。
「正気と思えない、頭のおかしい女……これしきで拙が逃げると思うなよ」
そして拳を固く握り直す。
「む、なにかしらの因縁の気配ですわね。いいですわ、決めました。その分厚い仮面を剥いでアルフォンス様の前に突き出してやりますわ」
「……やれるものなら、やってみろ!」
黒仮面は一歩で跳躍し、アレクシスとの距離を縮めた。
(この方、速いですわね!)
もしも最初からこの速度で背後に詰め寄られていたら不意を突かれていたかもしれない。
「ですが今はお生憎様正面ですわ!」
助走の勢いそのままの右ストレートを手の甲で弾く。
次にハイキックが左後頭部の死角から襲い掛かってくるのでバックステップで回避。
「これも避けるだと!?」
「次は私の番ですわ! お師匠様より教えていただいた拳法を自己流アレンジした淑女拳法ですわー!」
左足を軸にして右足を突き出し仮面を狙う。
「ふんっ」
仮面は顔をずらし、これを回避。
追いかけて足を何度も突き出すが首を左右に動かすだけで回避される。
(身体能力だけでなく動体視力もよろしくて!? 本当に只者じゃありませんわね!?)
すると黒仮面が視界から消えた、と思った瞬間に視界がぐらり落下する。
「もらった!」
回転蹴りでアレクシスの体勢を崩した黒仮面はここぞとばかりに拳を振り下ろす。
「なんのですわ!」
アレクシスは両手で地面に着き、両足を思い切っり突き出す。
「っ!!?」
両足の踵は的確に黒仮面の脛を突いた。
「特製のフラメンコシューズで釘が打ちつけられていますわ~! 想像するだけでも痛いですわねー!?」
そしてアレクシスは両手で地面を叩き、身体を浮遊させる。
空中で身をよじり、再び回し蹴りを放った。
「何度も通用するか!」
黒仮面は今度はパンチで回し蹴りの勢いを相殺する。
「これも当たりませんの!!?」
手加減抜きの攻撃を塞がれる。今度はアレクシスから距離を置く。
目の前の実力者の正体が気になり、格闘に集中できなくなっていた。
(このまま肉弾戦を続けても負けはしませんが勝ちもしませんわ……それほどの実力者が何故ロデオに……)
ありえない。王都でも見つけるのに大変なのに、たかが誘拐犯として野心を持たずにここロデオに?
(いや、ロデオに……一人だけいますわ……でも、まさか……)
ついに一つの仮説にたどり着く。
(カマをかけてみましょうかね……)
事実を確認するべくアレクシスはマスカラを取り出して睫毛に塗る。
「なんだ、いきなり化粧などして……」
「化粧もしますわ。たくさん汗かいてしまいましたもの」
「化粧だと……女め、ふざけやがって」
「ふざけているのはどちらかしら。あなた、さっきから誰と話していると思ってるの? 夜だから知れませんが、いい加減気づいてください。よおく……目を凝らしてね」
言われたとおりに律儀に目を凝らしたのだろう。黒仮面の身体が固まる。
「ま、まさか、お前は……アレクシス・バトレ!? 指名手配されているお前がどうしてここに!?」
「どうやら……決まりのようですわね」
今の答えをもって確信した。事実に行き着いた喜びよりも落胆が大きく肩を落とす。
ロデオに滞在し格闘だけでなく魔法にも精通している者……そんなの一人しかいない。
「……はっ!? マスカラによる認識阻害魔法!? しまった!」
「もう遅いですわ。いやはやどうしてあなたが……失望しましたわよ」
指をさし、仮面の下の正体を暴く。
「カルメン・エチュバリア。あなたなのでしょう?」
カルメン・エチュバリア。アルフォンスの護衛をカルロスから直々に命を下された元親衛隊黒鷲部隊副隊長。戦場で数々の戦果を挙げた彼女には通り名があった。
小戦争。彼女を表すにふさわしい言葉はこの他にない。
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