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【第4章】ロデオに吹く情熱の風 フラメンコも愛も踏み込みが肝心

こっそりと夜の街に出かけるワルなアレクシス嬢

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 言いつけを守り大人しく宿に戻ってきたアレクシス。
 ベッドに横たわっていても眠気がやってこない。それどころか、

「お腹……空きましたわ……どこかに食べに行きましょうかしら……」

 ぐうううううう、と腹の虫まで鳴る。

「しかしよくよく考えたら無一文ですわ……」

 上半身を起こし、ある決断をする。

「うん、仕方ありませんわ! イケメンを見て空腹を紛らわすことにしますわ!」

 どんな時でもアレクシスは面食い。イケメンをおかずにご飯三杯は常識。彼女はイケメンで飢えを凌ぐレベルに達している。

「待っててくださいまし、カンタオールにバイラオールの方々! いま、お会いしに行きますわー!」

 そう言ってアレクシスはフラメンコドレスのまま、四階の窓から飛び降りた。
 しかしこの時すでに21時。中途半端な都市ロデオは情熱的でも寝静まる時間。

「いけませんわ! どの飲食店も閉まり始めてますわ! こうなったら通行人でもいいからイケメンを探しますわよ!」

 しかしロデオは現在ココという捕まらない誘拐犯が出没する。フラメンコに関係なくとも自衛のために早々に家に帰っている。

「衛兵!! 衛兵なら夜回りしているはずですわ!!」

 衛兵は、いた。いるにはいるが、

「うえーい、おねえちゃん、もういっぱーい」
「かるめんさまー、そのおみあしでふんでくだせえ」
「あれ、おれのけんどこいった? ……まあいっか」

 みっともなく酔いつぶれていた。

「まあ、なんということでしょう……民は不安で怯えているというのに、衛兵は飲んだくれ……アルフォンス様。お若いというだけでは許せませんわよ」

 もっとも責任を負うべきは言わば摂政の役職にいるウーゴだ。

「与えられた仕事はそつなくこなす真面目な方とお聞きしていたのに……どうしてああも威張るように……ドーニャ・マリカもドーニャ・マリカですわ……まさしく地下時代からのファンでしょうが、どうして言い返さないのでしょう……彼女らしくないですわ……」

 考えても情報が足りず答えにはたどり着かない。

「とにかく、問題は明日にはすべて解決するでしょう。まずはイケメン補給ですわ! イケメン、イケメン、るんるんるーん♪」

 アレクシスは歌いながらロデオの街を走り回る。

 そんな彼女を音も立てずに忍び寄る影が一つ。

「……」

 その者は隅々まで黒い仮面マスカラを被っていた。
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