上 下
25 / 87
【第3章】盗賊退治も淑女の仕事ですわ! ちょっと寄り道ソボク村

アナベルと家族とアレクシス嬢

しおりを挟む
 二人は盗賊たちを荷車から下し、商人に馬と共に返却した後に村長の家へと向かった。

「ふう、死ぬかと思ったわい」

 村長は袖で額の汗をぬぐう。

「誰のせいですの、誰の!」

 アレクシスはハンカチで顔を拭く。

「悪かったよ。お詫びに、さっきのお返しとやらは任せてくれ。村長権限ですぐに集めてやる」
「頼みましたわよ、この国の命運がかかってますのよ」
「これまた国の命運とは大きく出たな。お前さん、一体何者なんだ? 只者じゃないことはわかるが」
「名を名乗るほどの者じゃありませんわ。ただの通りすがりのですわ」
「ふん、元気を取り戻したところで生意気には変わりないな。淑女とか気品ぶってるが、村を助けた見返りにイケメンが見たいとか頭どうかしてるのか」
「まあ、頭どうかしてるかなんてひどいですわ。至って普通のことではありませんか? いついかなる時も美しい物を見ていたい触れていたい感じていたいと思うものでしょう?」
「やはり貴族様だな。頭まで肥えてやがる。俺たちゃ平民は常に食い扶持が稼げるか不安でいっぱいなんだよ。つくづくいいご身分だぜ」
「んまー! 村長様ってば! ちょっと良い人かと見直しましたのに、つくづく嫌味な人ですわ!」

 仲良く口喧嘩を繰り広げていると村長の家の屋根が見えてきた。

「あーあ、ついに帰ってきちまった。格好つけて出てきた手前、帰りづらいな」
「村長様。盗賊についてですが」

 アレクシスは村長の憎しみを知っている。家族の仇で殺意を持つことも仕方ないと理解している。

「わかってるよ、嬢ちゃん。命の恩人であるお前さんがわざわざ殺さずに捕まえた盗賊共を殺すような真似はしねえさ」

 気を失っている今なら命を奪うことは容易い。ナイフで一突きで済む。
 しかし村長はアレクシスの意思を尊重した。

「すみません、私にも譲れないことがあるんですの。もしも村長が気を失っている盗賊の命を奪うようなら私はあなたを止めなくてはなりません」
「そんな追い詰めた顔するな、若いの。シワができるぞ」

 村長は彼女の肩に手を置く。

「これで……これでいいんだ。そんなことをしたら妻は許してくれない。何よりアナベルに顔向けできなくなる」
「ご理解いただけて何よりですわ」
「だがあいつらが家族に手を出すような不埒な真似をしたらその時は……」
「ええ、その時は……私に止める権利はありませんわ」

 家の前では村長の妻とアナベルが待っていた。

「あああよがっだあああがえってきちゃあああ」

 意外なことにアナベルは半べそをかいていた。鼻水を垂らしながら駆け寄ってくる。

「あーあー、あんな鼻水たらしちまって。嬢ちゃん、避けてやるなよ? それとドレスを汚しちまっても弁償は──」

 意外や意外。
 アナベルが真っ先に抱きついたのは、

「おぢじゃああああん!! どっかいっちゃやああああ!!」

 義父である村長のほうだった。

「あ、アナベル……?」
「しぬのやああやあああ!! さびしいいいのやああああ!!! ばかあああ」

 アナベルが華奢な腕で体中を叩く。叩かれたところはずきずきと芯まで痛む。
 痛みは子供の頃の古傷を起こし、親の使命を思い出させる。

「……ああ、馬鹿だったよ、俺ぁ大馬鹿だ……忘れてたよ……家族がいなくなるのって寂しいんだよな……」

 涙と鼻水は村長にも移った。
 父と娘は顔がぐちゃぐちゃになるまで泣き続けた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界治癒術師(ヒーラー)は、こっちの世界で医者になる

卯月 三日
ファンタジー
ある診療所の院長である秦野悠馬は、ある日エルフの女と出会うこととなる。だが、その女の病気が現代医療じゃ治せない!? かつて治癒術師(ヒーラー)で今は医者である悠馬が、二つの世界の知識を活かしてエルフの病に挑み、そして……。 元治癒術師と元天使、エルフや勇者と異世界要素目白押しでおくる、ほのぼのたまにシリアス医療ストーリー。 某新人賞にて二次審査通過、三次審査落選した作品です。

お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。

永礼 経
ファンタジー
特性「本の虫」を選んで転生し、3度目の人生を歩むことになったキール・ヴァイス。 17歳を迎えた彼は王立大学へ進学。 その書庫「王立大学書庫」で、一冊の不思議な本と出会う。 その本こそ、『真魔術式総覧』。 かつて、大魔導士ロバート・エルダー・ボウンが記した書であった。 伝説の大魔導士の手による書物を手にしたキールは、現在では失われたボウン独自の魔術式を身に付けていくとともに、 自身の生前の記憶や前々世の自分との邂逅を果たしながら、仲間たちと共に、様々な試練を乗り越えてゆく。 彼の周囲に続々と集まってくる様々な人々との関わり合いを経て、ただの素人魔術師は伝説の大魔導士への道を歩む。 魔法戦あり、恋愛要素?ありの冒険譚です。 【本作品はカクヨムさまで掲載しているものの転載です】

ソーセージで世界を救う!?

製作する黒猫
ファンタジー
 借金まみれのソーセージ屋の息子は、勇者の支度金目当てに勇者に立候補し、見事勇者となった。借金を支度金で返済し、あとは魔王を倒すだけとなった彼に、新たな借金があることが判明。その借金のかたに伝説の剣を持っていかれた主人公は、ソーセージを片手に魔王に挑む。  ソーセージ屋の息子で勇者なハムと町一番のお金持ちお嬢様ポメラのコメディー討伐譚。 monogatary.com小説家になろうにも載せています。

神よ、勝手すぎないか?

チョッキリ
ファンタジー
『転移してきた人探して保護して』 寝ていたら、いきなり謎空間にいて、光の玉に話しかけられた。そのとたん、膨大な情報が頭の中に流れてきた。そして自分が小説あるあるの転生者で、しかも前世は女性で今世は男性に生まれ変わっていた。膨大な情報で、光の玉は神様の仮の姿であることが分かった。  ~作者のオリジナル設定があるため、常識・知識と異なる場合があります。 広い心で読んで頂けたら幸いです。~

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...