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なんとそこには元気に音楽活動するピアニーが
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秘密文庫を出ると火山の噴煙のように広がる伸びのある轟音。
「お、さっそく始めたか……」
フォルテは公務を置いて音の元へと出向く。
「えぇと、こう、でしょうか……」
音の正体は円盤状に薄く伸ばされた金属。的のように中心と縁が黒く塗られている。円盤状の金属を紐で垂らし、ピアニーは紐を掴んで持っていた。紐を掴む逆の手、利き手である右手には木槌。
「えいっ」
軽い力で叩いたつもりが予想に反して轟音が鳴る。
ゴワ~~~~~~ン……。
「……ううん、木槌で叩くと最初の音が飛びぬけてしまいますね……布で巻く工夫をすれば少しマイルドになるのではないでしょうか……」
「もう試してるのか、ピアニー」
熱心に新しい楽器を研究するピアニーにフォルテは声をかける。
「ぼっちゃま! すみません、気付かなくて。何か御用でしたか」
「用なんてお前の顔を見に来る以外にないだろう。それよりもどうだ、その楽器。ええと名前は……」
「丁寧です。元は東洋で戦に用いられた楽器です。真ん中と縁で違った音色が出せる、とても面白い楽器でぜひ曲に取り入れたいとさっそく考えているのですが」
ぺらぺらと早口でまくし立てる。つい昨日まで呪いにうなされていたのが嘘のよう。
元気有り余る姿を無事に拝め、フォルテの目は自然と細くなる。
「……ぼっちゃま、本当によろしかったのでしょうか」
一転申し訳なさそうにするピアニー。
「ん? なにがだ?」
「お土産です。親交の証として純陽様はいろいろと用意してくださりました。中には貴重なお薬や他では滅多に手に入らない書物など……フォルテ様のみならずシュバルツカッツェ家に有意な逸品を手に入る機会だったのに……私のせいで何の変哲もない楽器に変えてしまって」
「ああ、あの時は面白かったな。ピアニー、最初に出された丁寧をじーっと見つめてて他の物に一切興味を示さなかったもんな」
「そ、そんな、お菓子屋の前の子供みたいな言い方しないでください!」
「事実だろ?」
「それは……そうですが……」
ピアニーのあからさまな反応に高名な仙人が腹を抱えて笑った。おかげで囚牛とあだ名までつけられてしまった。
「でも、やはり、悪い気がして……」
しょげるピアニーの頭をフォルテは優しく撫でる。
「いいんだよ。快気祝いだ。俺がピアニーに送りたかったからそれを選んだ。大人しく受け取っておけ」
それでも後ろめたさを残す彼女の鼻を、いつものように引っ張る。
「せっかくお前のためにプレゼントくれたやったのに喜ばないとはどういうことだ、いつの間にそんなに偉くなったんだー?」
「嬉しいです嬉しいです! とってもハッピーですはい! だから鼻はおやめください!」
病み上がりと言うこともあり、早々に手放してやる。
「もうぼっちゃまってば……優しいのか意地悪なのかどっちなんですか……」
「男ってのは好きな女の前ではどっちにもなるんだよ」
「す、好きな女の前では……そうですか……はあ……そう、ですか……」
鼻の痛みも主人の横暴もすっかり忘れて照れてしまう、ちょろい女。
フォルテにとって乗せやすい好都合な相手だった。
「ピアニー。後ろめたいと思うのであれば結果を出せ。成功してみせろ。これはチャンスだと思って、ものにしてみろ」
ここぞとばかりにはっぱをかける。
「ただでは転ばない。俺はお前をそういう女だと評価している。音楽の分野に関してだけだがな」
ピアニーの目の輝きが変わる。
メイド服のほこりを払い、スカートのしわを伸ばし、うやうやしく礼をする。
「ピアニー・ストーリー。謹んでお受けいたします」
「うむ……別に命令のつもりはなかったんだがな」
「ええ!? 違うのですか!?」
「まあいい。やる気になったならすぐに取り掛かれ。俺も仕事に戻るからな」
「は、はい! 頑張ります!」
フォルテはピアニーに見送られながらスマートに去った。
(我ながら当主代理も板についてきたんじゃないか……)
そう己惚れる矢先、問題が発生する。
ゴワ~~~~~~ン……。
ゴワワ~~~~~~ン……。
ゴワ~ン……。
ゴンゴンゴンゴンゴーン……。
執務室にまで届く丁寧の音。
「……まるで集中できん」
そんなシュバルツカッツェ家の日常。
「お、さっそく始めたか……」
フォルテは公務を置いて音の元へと出向く。
「えぇと、こう、でしょうか……」
音の正体は円盤状に薄く伸ばされた金属。的のように中心と縁が黒く塗られている。円盤状の金属を紐で垂らし、ピアニーは紐を掴んで持っていた。紐を掴む逆の手、利き手である右手には木槌。
「えいっ」
軽い力で叩いたつもりが予想に反して轟音が鳴る。
ゴワ~~~~~~ン……。
「……ううん、木槌で叩くと最初の音が飛びぬけてしまいますね……布で巻く工夫をすれば少しマイルドになるのではないでしょうか……」
「もう試してるのか、ピアニー」
熱心に新しい楽器を研究するピアニーにフォルテは声をかける。
「ぼっちゃま! すみません、気付かなくて。何か御用でしたか」
「用なんてお前の顔を見に来る以外にないだろう。それよりもどうだ、その楽器。ええと名前は……」
「丁寧です。元は東洋で戦に用いられた楽器です。真ん中と縁で違った音色が出せる、とても面白い楽器でぜひ曲に取り入れたいとさっそく考えているのですが」
ぺらぺらと早口でまくし立てる。つい昨日まで呪いにうなされていたのが嘘のよう。
元気有り余る姿を無事に拝め、フォルテの目は自然と細くなる。
「……ぼっちゃま、本当によろしかったのでしょうか」
一転申し訳なさそうにするピアニー。
「ん? なにがだ?」
「お土産です。親交の証として純陽様はいろいろと用意してくださりました。中には貴重なお薬や他では滅多に手に入らない書物など……フォルテ様のみならずシュバルツカッツェ家に有意な逸品を手に入る機会だったのに……私のせいで何の変哲もない楽器に変えてしまって」
「ああ、あの時は面白かったな。ピアニー、最初に出された丁寧をじーっと見つめてて他の物に一切興味を示さなかったもんな」
「そ、そんな、お菓子屋の前の子供みたいな言い方しないでください!」
「事実だろ?」
「それは……そうですが……」
ピアニーのあからさまな反応に高名な仙人が腹を抱えて笑った。おかげで囚牛とあだ名までつけられてしまった。
「でも、やはり、悪い気がして……」
しょげるピアニーの頭をフォルテは優しく撫でる。
「いいんだよ。快気祝いだ。俺がピアニーに送りたかったからそれを選んだ。大人しく受け取っておけ」
それでも後ろめたさを残す彼女の鼻を、いつものように引っ張る。
「せっかくお前のためにプレゼントくれたやったのに喜ばないとはどういうことだ、いつの間にそんなに偉くなったんだー?」
「嬉しいです嬉しいです! とってもハッピーですはい! だから鼻はおやめください!」
病み上がりと言うこともあり、早々に手放してやる。
「もうぼっちゃまってば……優しいのか意地悪なのかどっちなんですか……」
「男ってのは好きな女の前ではどっちにもなるんだよ」
「す、好きな女の前では……そうですか……はあ……そう、ですか……」
鼻の痛みも主人の横暴もすっかり忘れて照れてしまう、ちょろい女。
フォルテにとって乗せやすい好都合な相手だった。
「ピアニー。後ろめたいと思うのであれば結果を出せ。成功してみせろ。これはチャンスだと思って、ものにしてみろ」
ここぞとばかりにはっぱをかける。
「ただでは転ばない。俺はお前をそういう女だと評価している。音楽の分野に関してだけだがな」
ピアニーの目の輝きが変わる。
メイド服のほこりを払い、スカートのしわを伸ばし、うやうやしく礼をする。
「ピアニー・ストーリー。謹んでお受けいたします」
「うむ……別に命令のつもりはなかったんだがな」
「ええ!? 違うのですか!?」
「まあいい。やる気になったならすぐに取り掛かれ。俺も仕事に戻るからな」
「は、はい! 頑張ります!」
フォルテはピアニーに見送られながらスマートに去った。
(我ながら当主代理も板についてきたんじゃないか……)
そう己惚れる矢先、問題が発生する。
ゴワ~~~~~~ン……。
ゴワワ~~~~~~ン……。
ゴワ~ン……。
ゴンゴンゴンゴンゴーン……。
執務室にまで届く丁寧の音。
「……まるで集中できん」
そんなシュバルツカッツェ家の日常。
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