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旅人去りて
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「大変お騒がせしました……次はあらかじめ手紙を送るようにと念を押しておきましたので」
「いい、構わない。おかげでピアニーが救われたんだ。何も言うことなしだ」
「まあピアニー様が倒れたのも我が師が原因なのですが……」
「ピアニーの不幸に目を瞑ればむしろ僥倖と言える。東洋の仙人と縁を結べたのだからな。ピアニーの不幸に目を瞑ればな」
「……」
「それよりもだ、ケイローン。この後は時間があるか」
「ありますが……何かご用事ですか」
「割と大事な用事だ。早速行くとしよう」
フォルテはケイローンを連れて秘密文庫へ。
「秘密文庫……ここに用事ですか」
「ああ、ちょっと確認だ……ここだな、本を取ってくれ。題名は言わなくてもわかるな?」
「もしや師匠が作られた夫婦円満の本ですか? あるにはありますが……」
本棚にはしっかりと件の本が納まっていた。
純陽はこの本を処分したがっていた。彼女ならその場で処分できないとわかれば盗みくらいは働きそうだが、どうやら今回は堪えてくれたようだ。
「まあ、あるにはあるんだろうな……とにかく取ってくれ」
「絶対に開かないでくださいね? もう直すための拝撫令思恩は純陽様にお返ししたのですから。別れたばかりだというのに追いかけさせないでくださいね、とても気まずくなりますので」
「おお、わかってるわかってる」
わかってるは口だけ。フォルテは何の相談もなく躊躇いもなく本を開いた。
「ちょおおお!? フォルテさまあああ!!???」
滅多に出さない大声を出して慌てて両腕で顔を隠すケイローン。来る閃光に備えるが、
「……おや、光りませんね」
「やはりな」
フォルテに驚きはなく、ひどく冷静。本を開いて閉じては紙の感触を確かめる。
「これは一体どういうことなのでしょう……? 呪いが消えたということでしょうか?」
「うーん、どうだろうな……」
フォルテは本に鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。
「確証はないが……すり替えられたな」
「すり替えられた!?」
「紙の感触はそっくりだが匂いがほんの少しだが微妙に違う。他の本よりも匂いが薄い」
フォルテはケイローンの顔に本を近づける。
ケイローンは試しに嗅ぐ。
「……いや、私に違いは分かりませんね。薬草の匂いなら嗅ぎ分けられるのですが」
「おっと専門外だったか」
フォルテはケイローンに本を返す。
「となると当の本書はとっくに処分されたかな」
顎に指をあてて思考する。
「フォルテ様、本当にこれは贋作なのですか?」
「さっきも言ったが確証はない。問い詰めたとしても証拠なしでははぐらかされるだろう」
「可能なのですか? だってこの書は、元の言語ならまだしも翻訳版の本を、一晩で作るなど」
「わからん」
「肌触りや表紙のシワも、インクのにじみまでもここに保管されていた本とそっくりなんですよ」
「わからん」
どうやったのか。それは東洋に伝わる仙人の秘術としか言いようがない。
「それにどうしてこんな……回りくどい手を」
「……そればっかりは、これで良かったのかもしれない。シュバルツカッツェ家が命じられているのは本の秘匿に保存。呪いの有無までは言及されていない。呪いが消えたとしてもそこまで咎められることはないだろう。勝手に消えたと説明すればそれまでだ。幸い呪いの内容も国益に直接関わるわけではない。むしろ安全に処理したと安堵するべきだろう」
「純陽様の目的も果たされ、シュバルツカッツェ家の体面も保ったと」
「好意的に見ればな。しかし俺は当主代理として手放しに喜べない」
「……まんまと出し抜かれたからですか」
「ああ、そうだ。陰謀策略がお家芸のシュバルツカッツェ家が、泊まりに来た客にまんまと騙されたなど……母上がこの失態を聞いたら……」
フォルテは猫のように爪先から身震いする。
「しかし相手は長生久視の仙人。お母さまも大目に見てくれるはずです」
「どうだろうな……この頃さらに厳しくなってきた……」
「わかりました。この一件は内密にしておきましょう」
「頼む。ピアニーにもルーシーにも秘密で頼む」
「いい、構わない。おかげでピアニーが救われたんだ。何も言うことなしだ」
「まあピアニー様が倒れたのも我が師が原因なのですが……」
「ピアニーの不幸に目を瞑ればむしろ僥倖と言える。東洋の仙人と縁を結べたのだからな。ピアニーの不幸に目を瞑ればな」
「……」
「それよりもだ、ケイローン。この後は時間があるか」
「ありますが……何かご用事ですか」
「割と大事な用事だ。早速行くとしよう」
フォルテはケイローンを連れて秘密文庫へ。
「秘密文庫……ここに用事ですか」
「ああ、ちょっと確認だ……ここだな、本を取ってくれ。題名は言わなくてもわかるな?」
「もしや師匠が作られた夫婦円満の本ですか? あるにはありますが……」
本棚にはしっかりと件の本が納まっていた。
純陽はこの本を処分したがっていた。彼女ならその場で処分できないとわかれば盗みくらいは働きそうだが、どうやら今回は堪えてくれたようだ。
「まあ、あるにはあるんだろうな……とにかく取ってくれ」
「絶対に開かないでくださいね? もう直すための拝撫令思恩は純陽様にお返ししたのですから。別れたばかりだというのに追いかけさせないでくださいね、とても気まずくなりますので」
「おお、わかってるわかってる」
わかってるは口だけ。フォルテは何の相談もなく躊躇いもなく本を開いた。
「ちょおおお!? フォルテさまあああ!!???」
滅多に出さない大声を出して慌てて両腕で顔を隠すケイローン。来る閃光に備えるが、
「……おや、光りませんね」
「やはりな」
フォルテに驚きはなく、ひどく冷静。本を開いて閉じては紙の感触を確かめる。
「これは一体どういうことなのでしょう……? 呪いが消えたということでしょうか?」
「うーん、どうだろうな……」
フォルテは本に鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。
「確証はないが……すり替えられたな」
「すり替えられた!?」
「紙の感触はそっくりだが匂いがほんの少しだが微妙に違う。他の本よりも匂いが薄い」
フォルテはケイローンの顔に本を近づける。
ケイローンは試しに嗅ぐ。
「……いや、私に違いは分かりませんね。薬草の匂いなら嗅ぎ分けられるのですが」
「おっと専門外だったか」
フォルテはケイローンに本を返す。
「となると当の本書はとっくに処分されたかな」
顎に指をあてて思考する。
「フォルテ様、本当にこれは贋作なのですか?」
「さっきも言ったが確証はない。問い詰めたとしても証拠なしでははぐらかされるだろう」
「可能なのですか? だってこの書は、元の言語ならまだしも翻訳版の本を、一晩で作るなど」
「わからん」
「肌触りや表紙のシワも、インクのにじみまでもここに保管されていた本とそっくりなんですよ」
「わからん」
どうやったのか。それは東洋に伝わる仙人の秘術としか言いようがない。
「それにどうしてこんな……回りくどい手を」
「……そればっかりは、これで良かったのかもしれない。シュバルツカッツェ家が命じられているのは本の秘匿に保存。呪いの有無までは言及されていない。呪いが消えたとしてもそこまで咎められることはないだろう。勝手に消えたと説明すればそれまでだ。幸い呪いの内容も国益に直接関わるわけではない。むしろ安全に処理したと安堵するべきだろう」
「純陽様の目的も果たされ、シュバルツカッツェ家の体面も保ったと」
「好意的に見ればな。しかし俺は当主代理として手放しに喜べない」
「……まんまと出し抜かれたからですか」
「ああ、そうだ。陰謀策略がお家芸のシュバルツカッツェ家が、泊まりに来た客にまんまと騙されたなど……母上がこの失態を聞いたら……」
フォルテは猫のように爪先から身震いする。
「しかし相手は長生久視の仙人。お母さまも大目に見てくれるはずです」
「どうだろうな……この頃さらに厳しくなってきた……」
「わかりました。この一件は内密にしておきましょう」
「頼む。ピアニーにもルーシーにも秘密で頼む」
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