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客室にて
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「戻ったぞー。我が愛しき旦那剣よ、今すぐハグして出迎えろー」
純陽はノックせずに扉を叩いて部屋へ突入する。
すると部屋の中では剣は上半身裸で棒の素振りをしていた。細身ながら引き締まった肉体。若くしながら人の身でありながら充分に鍛えられていた。棒をひと振りする汗が眩しく飛び散る。
「きゃー! 剣ー! 誘ってるのか!? 誘っているのだな!? よおし私も女で妻だ! どーんとこーい!」
ベッドに飛び乗る純陽。無防備に仰向けに転がるが、
「……」
剣は汗を拭きながら、それを困った様子で見守る。
「おいおい、蜜月中なんだから夜に備えて準備万端にしておけ? 鍛錬のしすぎで私に構う体力をなくすなよ?」
足を組んでリラックスする。
「わぁ、久々のベッドだ……仙人の身ゆえ長旅でもそこまで疲れは溜まっていないがこうしてくつろげるというのは」
「……」
「どうした? 私を見つめて……やはり、今夜は……」
剣は首を横に振る。
「健全なのは剣の美点だが、ちょっと真面目すぎないか……?」
純陽は口を尖らせる。
剣の善良さは仙人も認めている。覗きに誘ってもそれはいけないことだからと当たり前に判断し断りを入れた。
「わかってる。お前はそんなに無警戒で大丈夫かと心配してくれているのだろう。弟子の知り合いとはいえ、異国の地。警戒に越したことはないのでは、と言いたいのだろう。その心配はない。フォルテッシモ・シュバルツカッツェ様は信頼に値する。宗教、文化は違えどな。目先の利益に囚われず合理的な判断を下せる、優秀なお人だよ。そういえば西洋にはガチョウと黄金の卵という寓話があったね。その教訓が生きているのかもしれない」
「……」
「剣は心配性だなぁ。この城に滞在していたらわかるだろう? 監視は必要最低限。歩き回る自由があり、何より盗聴魔法の類もない。恐らく来客に合わせて切っているのだろう。故郷なら少しでもご利益に預かろうと躍起になる主人ばかりだ。仙人の一言一句は紙に書き写すだけでも金になるからね。既存の知識でも裏付けになると売るがめつい連中もいる。仙人が歩いた道に毛の一本でも落ちていたら、それがたとえ猫の抜け毛であろうと高く売れてしまうこともある。おっと愚痴が出すぎたな、いけないいけない」
自戒する純陽。
「……」
剣はそんな彼女の手を黙って握る。そして真剣な眼差しを向ける。
「一寸丹心……たとえお前にとって小さな当たり前の善意だったとしても私の心は揺れ動かされてしまうんだよ」
剣の手を枕にする。硬くてゴツゴツする。ドクドクと流れる脈がうるさいが疲れた心には心地がいい。
「……さて……いい雰囲気になったことだし、今宵はこのまま」
「……」
剣は慌てて手を振りほどく。そして布を首に巻いて外に出かけようとする。
「なんだ、これから走り込みのつもりか……」
「……」
剣は首を縦に振る。
「そうかそうか、では私はお前が戻ってくるまで読書でもしようかな」
純陽は一冊の本を取り出した。
剣は悪いと思いつつも背を向ける。
すると突如部屋全体を包む閃光。
「……っ」
剣は何事かと慌てて振り返ると、
「あ~どうしよう! 私としたことが! うっかり! 呪いの書を開いてしまった!」
服を着崩し、身体をくねらせる。
「あぁ、どうしよう、身体が疼く……! はあ、どうしよう、どうしょう……! 誰かこの火照りを発散してくれないだろうか!」
ベッドの脇にこれみよがしに落ちた男性器の形をした木の棒。
「……っ~」
剣は部屋の内鍵を閉めて、汗ばむ手で拝撫令思恩を拾った。
純陽はノックせずに扉を叩いて部屋へ突入する。
すると部屋の中では剣は上半身裸で棒の素振りをしていた。細身ながら引き締まった肉体。若くしながら人の身でありながら充分に鍛えられていた。棒をひと振りする汗が眩しく飛び散る。
「きゃー! 剣ー! 誘ってるのか!? 誘っているのだな!? よおし私も女で妻だ! どーんとこーい!」
ベッドに飛び乗る純陽。無防備に仰向けに転がるが、
「……」
剣は汗を拭きながら、それを困った様子で見守る。
「おいおい、蜜月中なんだから夜に備えて準備万端にしておけ? 鍛錬のしすぎで私に構う体力をなくすなよ?」
足を組んでリラックスする。
「わぁ、久々のベッドだ……仙人の身ゆえ長旅でもそこまで疲れは溜まっていないがこうしてくつろげるというのは」
「……」
「どうした? 私を見つめて……やはり、今夜は……」
剣は首を横に振る。
「健全なのは剣の美点だが、ちょっと真面目すぎないか……?」
純陽は口を尖らせる。
剣の善良さは仙人も認めている。覗きに誘ってもそれはいけないことだからと当たり前に判断し断りを入れた。
「わかってる。お前はそんなに無警戒で大丈夫かと心配してくれているのだろう。弟子の知り合いとはいえ、異国の地。警戒に越したことはないのでは、と言いたいのだろう。その心配はない。フォルテッシモ・シュバルツカッツェ様は信頼に値する。宗教、文化は違えどな。目先の利益に囚われず合理的な判断を下せる、優秀なお人だよ。そういえば西洋にはガチョウと黄金の卵という寓話があったね。その教訓が生きているのかもしれない」
「……」
「剣は心配性だなぁ。この城に滞在していたらわかるだろう? 監視は必要最低限。歩き回る自由があり、何より盗聴魔法の類もない。恐らく来客に合わせて切っているのだろう。故郷なら少しでもご利益に預かろうと躍起になる主人ばかりだ。仙人の一言一句は紙に書き写すだけでも金になるからね。既存の知識でも裏付けになると売るがめつい連中もいる。仙人が歩いた道に毛の一本でも落ちていたら、それがたとえ猫の抜け毛であろうと高く売れてしまうこともある。おっと愚痴が出すぎたな、いけないいけない」
自戒する純陽。
「……」
剣はそんな彼女の手を黙って握る。そして真剣な眼差しを向ける。
「一寸丹心……たとえお前にとって小さな当たり前の善意だったとしても私の心は揺れ動かされてしまうんだよ」
剣の手を枕にする。硬くてゴツゴツする。ドクドクと流れる脈がうるさいが疲れた心には心地がいい。
「……さて……いい雰囲気になったことだし、今宵はこのまま」
「……」
剣は慌てて手を振りほどく。そして布を首に巻いて外に出かけようとする。
「なんだ、これから走り込みのつもりか……」
「……」
剣は首を縦に振る。
「そうかそうか、では私はお前が戻ってくるまで読書でもしようかな」
純陽は一冊の本を取り出した。
剣は悪いと思いつつも背を向ける。
すると突如部屋全体を包む閃光。
「……っ」
剣は何事かと慌てて振り返ると、
「あ~どうしよう! 私としたことが! うっかり! 呪いの書を開いてしまった!」
服を着崩し、身体をくねらせる。
「あぁ、どうしよう、身体が疼く……! はあ、どうしよう、どうしょう……! 誰かこの火照りを発散してくれないだろうか!」
ベッドの脇にこれみよがしに落ちた男性器の形をした木の棒。
「……っ~」
剣は部屋の内鍵を閉めて、汗ばむ手で拝撫令思恩を拾った。
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