黒猫貴公子とどんくさメイドの激甘ラブコメ ~拝撫令思恩編~

田村ケンタッキー

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ピロートークは二人きりで

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「再三確認するがもう身体には異常はないんだな?」

 先に身なりを整えたフォルテは未だに余韻から抜け出せず裸で横たわるピアニーにキルトを被せる。

「はい、身体から余分な熱が消えたと言いますか、すっきりしたと言いますか……って私は何を言っているんでしょう」

 顔を真っ赤にするピアニー。受け取ったキルトで顔を隠す。
 フォルテは隠しきれてない彼女の頭をそっと撫でる。

「無理はしなくていいからな。呪いは消え去っても奪われた体力は戻ってこない。念のため明日も休んでもらう」
「い、いいえ! これ以上迷惑をかけられません!」

 上半身を起こそうとするが半ばで力尽き、枕に後頭部から落ちる。

「ほら見ろ。こういうことだ。体力が回復していないのにも関わらず、身体を動かしてみろ。大けがに繋がりかけない」
「ですが、ぼっちゃま……」
「これは主人命令だ。絶対に服従してもらう」

 人差し指の腹をピアニーの額に押し付ける。彼女はそれを振り払えなかった。

「……せっかくぼっちゃまに治していただいたのに動けないのは残念でなりません。いろいろと音楽が思い浮かんだのにピアノを弾けないなんて……」
「さすがピアニー先生。転んでもただでは起きない。もう音楽に結び付けたか」

 ピアニーは音楽の天才。ありとあらゆる経験を音楽に取り入れる。それがポジティブであろうとネガティブであろうと貪欲に取り込んでしまう。

「しょうがない。ここにペンと紙くらいは持ってきてやる」
「本当ですか!?」
「ただし条件がある」
「じょ、条件ですか……」
「とても厳しい条件だぞ。これが飲めないようなら許可はしない」
「そ、それは一体……」

 ピアニーは生唾を飲み込む。

「その条件は……俺が側にいること。お前は目を離すとすぐに無理をするからな。いいか? わかったな?」

 呆けた後に吹き出しまう。

「ふふっ。なんて厳しい条件なんでしょう。ですが飲むしかありませんね」
「あ、それと世話も俺がする。身体の清潔を保つために身体を拭くし、下の世話もする」
「ちょ!? そ、それはちょっと……! 身体を拭いてもらうのは大丈夫ですが、下の世話は……!」
「んん? さっそく催したか? メイドの世話をするのも主人の仕事の一つだ。遠慮するんじゃないぞ」
「ぼ、ぼっちゃま! 本当に! 本当に結構ですので!」

 フォルテは詰め寄る。しかし本気で世話をしようとしているわけではなかった。口の前で人差し指を立てる。

「ぼっちゃ……」

 その立てた人差し指をピアニーの口にくっつけて塞ぐ。
 ピアニーを黙らせるとフォルテは足音を殺して医務室の入り口まで。
 扉の向こうから微かに声が聞こえる。

「どうなんだ? 少年は本気で尿瓶を使うのか? 大胆なことするじゃあないか」
「ん~? よく聞こえませんニャ。それと中からフォルテ様の気配が消えたような……」
「お二人とも、いい加減立ち去らないとバレてしまいますよ」

 声は三人。
 フォルテは答え合わせするべく、扉を引いた。
 すると聞き耳を立てていた二人がなだれ落ちる。

「なにやってんだ、ルーシー……それと……純陽様」

 ルーシーは尻尾をぶんぶんと左右に振る。

「ピアニー様ばかりずるいニャ。ルーシーも交尾してほしいですニャ」
「よし、全く悪びれないな。お前は明日から三日間飯抜きだ」
「んにゃー! なんでにゃー!?」
「三日間で理由を考えておくように。そして純陽様、あなたのような高尚なお方がどうして聞き耳を立てるような真似を?」

 純陽もまた悪びれる様子泣く腕を組む。

「うむ、よく聞いてくれた。私は信頼して君に最高の医術を提供した。しかしとて君はまだまだ若く、医療の経験もないに等しい。失敗してもリスクはないが、万が一のこともある。そのため責任者として側にいる義務があるのだよ」
「それだったら説明する義務もあるのでは? 俺、全く聞かされてませんが」
「何を言う。説明してたらこっそり聞き耳を立てられないではないか」
「おい」

 純陽もまた悪びれなかった。

「ケイローン、お前がいながらなんて不始末だ……」
「申し訳ありませんフォルテ様……せめて事の真っ最中に突入しようとしたら止めるように心得ておりましたが……」
「つまりお前もずっと聞いてたんだな……」
「……」

 ケイローンは気まずくなって黙り込んでしまう。

「ずっと……ずっとってもしかして……」

 ピアニーはあたふたし始める。
 医務室の壁は薄い。執務室のように物理的にも魔術的にも厳重ではなく、声はだだ洩れである。
 つまり自分の声が、喘ぎ声がフォルテ以外に聞かれたかもしれない。

「る、ルーシー様!? わ、私の声は聞こえてませんよね!? 抑えていたので聞こえるはずがありませんよね!?」

 その問いにルーシーは笑顔で答える。

「さすが音楽が得意なピアニー様の声ですニャ。廊下まで届く、良く通る声でしたニャ」
「……」

 ピアニーは無言でキルトを幾重にも被り、蓑虫になる。

「もう私、どこへも行きません……」

 呪いよりも厄介な病にかかってしまうのだった。
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