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契約の真実
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二人は元居た部屋に戻っていた。
『さすがは聖女殿。枯れた冬のような男にも春を施すとは悪魔メフィストフェレス感服いたしました』
メフィストフェレスはベッドに腰を掛け、紅茶の入ったカップを揺らす。
アガサは息も絶え絶えに仰向けに横たわっていた。割れ目から愛液が垂れ、シーツに到達していた。
「はあ……はあ……はあ……」
『くふふふ。しかしワタクシめも驚きでした。まさか聖女殿に見られながらされると興奮して絶頂するという変態性を持ち合わせていたとは』
「ちが……ちがうの……」
『嘘はおやめください。ワタクシに隠し事は通用しませんよ』
ティーカップを空中に置き、指先でアガサのへその下をなぞる。
「はあぁ……!」
敏感になった肌。
その下から光る紫色の紋章が浮かび上がる。
『我々は魂が繋がった契約者同士。持ちつ持たれつの関係。ワタクシは聖女殿にマナを与え、聖女殿はワタクシに実体化する力を与える。流れてくるのは力だけではありません。時折奥に秘めた感情も流れ込んでくるのですよ』
このまぐわいも契約のために必要な行為だが一方の趣味に偏っている。
『いろんな時代、いろんな国、いろんな人間と契約してきましたがその中でも聖女殿、あなたが一番素晴らしい。健気にして純粋。温厚にして真面目。聖女の鑑でもあるようなお方……なのにその裏で悪魔と契約をしているとは。これほどの美しく華麗な裏切りはあるでしょうか!? 悪魔メフィストフェレス、いつまでもどこまでもあなたと一緒にいとうございます』
「ちがう……ちがうの……」
『何が違いますか。聖女殿は』
「あなたは、悪魔じゃないわ」
『……なにを異なことを。ワタクシめは聖女殿の家族を殺したのですよ』
「ええ、そうね。私がそう差し向けたもの」
λλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλλ
アガサの父は表向きには研究熱心で先進的な医者とされていたがその正体は悪魔を崇拝する禁忌に触れることを厭わない魔術師だった。
とある胡散臭い魔術書の文献に悪魔は少女の魂を好むという記載を見つけるやいなや確証も得ずに一番近くにいたという理由だけで実の娘であるアガサを何度も実験に利用した。
それを止める家族はいなかった。
母も兄も狂っていたからだ。
アガサの純潔を散らしたのは悪魔ではない。名も知らぬ男だった。
まだ実験の材料に使われる前、日常が続いていた時の話。
家の中で静かに読書をしていた時のこと。突然見知らぬ男が背後から襲い掛かってきた。着ていた服を剥がされ、両方の口を男の欲望のはけ口にさせられた。
助けを求めた。すぐそばには母親がいた。しかし彼女は見ているだけだった。
行為が終わると母親は男から金銭を貰っていた。
ファウスト家は貴族ではない。収入を得たとしても父の怪しい実験に注ぎ込まれてしまう。生活費の足しとして娘の純潔が売られた。
兄からは日常的に性暴力を受けていた。
兄は長男。根から腐った一家であったが体裁だけは素晴らしく、一応は庶民の身であるはずの彼にも貴族並みの教養と才能を求められた。しかし彼にはどちらも備わっていなかった。
その点アガサはのびのびと育てられていた。一定の教育、食事のマナーなどを教え込まれたがあまり苦労せずに習得した。
それだけで兄に逆恨みを買ってしまったのだった。
無秩序の怨嗟渦巻く閉鎖空間。
次第にアガサの心、魂は絶望に蝕まれて行き、また度重なる実験の影響で五感も衰え始めていた。
そして転機は訪れる。
偶然にも召喚術が成功する。
『王道を捨て外道を往く者よ。歩きをとめ星を見上げる者よ。魂よ、捧げよ。さすれば願いを三つ叶えてやろう』
その場には偶然にも一家が揃っていた。
それが不運の始まりだった。
兄が真っ先に願い事を叫ぶ。
「俺に誰もが羨む才を! 誰もが覆せぬ権力を! 誰もが持たぬ富を!」
それに父は激昂して兄の首を絞める。
「貴様!? 悪魔を召喚したのはこの私だ! 一家で一番偉いこの私に願う権利がある! おお、その姿まさしく悪魔メフィストフェレスそのもの……その姿を見ただけでもこれまでの努力が報われたようなもの……」
母は父を投げ飛ばす。
「それなら願いはいらないね! それに一家で一番偉いのは私だよ! こうして悪魔を呼べたのも私が金のやりくりしたからでしょう! あんた! かわいそうな私の願いを聞いてくれ。私に自由を、新しくて立派な家と若くて優しい旦那をおくれ!」
目も当てられぬほど醜いののしり合い殴り合いが始まる。
誰も血を吐き、意識が薄れる末っ子に気付いていない。
いや、この場で唯一彼女に気付いている者がいた。
悪魔として召喚された者だけが彼女をじっと見下ろしていた。
「どうして……私を見下ろしてるの……」
『願いを三つ言え』
「あぁ……その権利、私にあるんだ……」
『願いを三つ言え』
「……すぐには浮かばないなぁ……最近なんだかぼんやりとしてて……なにも考えられなくて……」
『願いを三つ言え』
「あなた、そればっかり……他に何も言えないの……」
『願いを三つ言え』
「だから……」
アガサは気付く。
視点がさだまらぬぼやけた目が一瞬だけ奇跡的にピントが合う。
命があるようでない者が、かろうじて命ある自分に憐みの目を向けていた。
『願いを三つ言え……さもなくば死んでしまうぞ』
「……なんだ、ほかのこと言えるんだ……」
久方ぶりの会話らしい会話。定かではない正確性に欠けた意思疎通。
心の、魂の繋がりを感じた。
「でも……やっぱ願い事なんて……」
頭を必死に働かせる。働かせようとするが周りの騒音が片耳しか聞こえないのに耳障りで仕方なかった。
家族の醜い戦争は続いている。
アガサはふっと湧いた願いを伝えてしまう。
「かぞくを……ころして」
『さすがは聖女殿。枯れた冬のような男にも春を施すとは悪魔メフィストフェレス感服いたしました』
メフィストフェレスはベッドに腰を掛け、紅茶の入ったカップを揺らす。
アガサは息も絶え絶えに仰向けに横たわっていた。割れ目から愛液が垂れ、シーツに到達していた。
「はあ……はあ……はあ……」
『くふふふ。しかしワタクシめも驚きでした。まさか聖女殿に見られながらされると興奮して絶頂するという変態性を持ち合わせていたとは』
「ちが……ちがうの……」
『嘘はおやめください。ワタクシに隠し事は通用しませんよ』
ティーカップを空中に置き、指先でアガサのへその下をなぞる。
「はあぁ……!」
敏感になった肌。
その下から光る紫色の紋章が浮かび上がる。
『我々は魂が繋がった契約者同士。持ちつ持たれつの関係。ワタクシは聖女殿にマナを与え、聖女殿はワタクシに実体化する力を与える。流れてくるのは力だけではありません。時折奥に秘めた感情も流れ込んでくるのですよ』
このまぐわいも契約のために必要な行為だが一方の趣味に偏っている。
『いろんな時代、いろんな国、いろんな人間と契約してきましたがその中でも聖女殿、あなたが一番素晴らしい。健気にして純粋。温厚にして真面目。聖女の鑑でもあるようなお方……なのにその裏で悪魔と契約をしているとは。これほどの美しく華麗な裏切りはあるでしょうか!? 悪魔メフィストフェレス、いつまでもどこまでもあなたと一緒にいとうございます』
「ちがう……ちがうの……」
『何が違いますか。聖女殿は』
「あなたは、悪魔じゃないわ」
『……なにを異なことを。ワタクシめは聖女殿の家族を殺したのですよ』
「ええ、そうね。私がそう差し向けたもの」
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アガサの父は表向きには研究熱心で先進的な医者とされていたがその正体は悪魔を崇拝する禁忌に触れることを厭わない魔術師だった。
とある胡散臭い魔術書の文献に悪魔は少女の魂を好むという記載を見つけるやいなや確証も得ずに一番近くにいたという理由だけで実の娘であるアガサを何度も実験に利用した。
それを止める家族はいなかった。
母も兄も狂っていたからだ。
アガサの純潔を散らしたのは悪魔ではない。名も知らぬ男だった。
まだ実験の材料に使われる前、日常が続いていた時の話。
家の中で静かに読書をしていた時のこと。突然見知らぬ男が背後から襲い掛かってきた。着ていた服を剥がされ、両方の口を男の欲望のはけ口にさせられた。
助けを求めた。すぐそばには母親がいた。しかし彼女は見ているだけだった。
行為が終わると母親は男から金銭を貰っていた。
ファウスト家は貴族ではない。収入を得たとしても父の怪しい実験に注ぎ込まれてしまう。生活費の足しとして娘の純潔が売られた。
兄からは日常的に性暴力を受けていた。
兄は長男。根から腐った一家であったが体裁だけは素晴らしく、一応は庶民の身であるはずの彼にも貴族並みの教養と才能を求められた。しかし彼にはどちらも備わっていなかった。
その点アガサはのびのびと育てられていた。一定の教育、食事のマナーなどを教え込まれたがあまり苦労せずに習得した。
それだけで兄に逆恨みを買ってしまったのだった。
無秩序の怨嗟渦巻く閉鎖空間。
次第にアガサの心、魂は絶望に蝕まれて行き、また度重なる実験の影響で五感も衰え始めていた。
そして転機は訪れる。
偶然にも召喚術が成功する。
『王道を捨て外道を往く者よ。歩きをとめ星を見上げる者よ。魂よ、捧げよ。さすれば願いを三つ叶えてやろう』
その場には偶然にも一家が揃っていた。
それが不運の始まりだった。
兄が真っ先に願い事を叫ぶ。
「俺に誰もが羨む才を! 誰もが覆せぬ権力を! 誰もが持たぬ富を!」
それに父は激昂して兄の首を絞める。
「貴様!? 悪魔を召喚したのはこの私だ! 一家で一番偉いこの私に願う権利がある! おお、その姿まさしく悪魔メフィストフェレスそのもの……その姿を見ただけでもこれまでの努力が報われたようなもの……」
母は父を投げ飛ばす。
「それなら願いはいらないね! それに一家で一番偉いのは私だよ! こうして悪魔を呼べたのも私が金のやりくりしたからでしょう! あんた! かわいそうな私の願いを聞いてくれ。私に自由を、新しくて立派な家と若くて優しい旦那をおくれ!」
目も当てられぬほど醜いののしり合い殴り合いが始まる。
誰も血を吐き、意識が薄れる末っ子に気付いていない。
いや、この場で唯一彼女に気付いている者がいた。
悪魔として召喚された者だけが彼女をじっと見下ろしていた。
「どうして……私を見下ろしてるの……」
『願いを三つ言え』
「あぁ……その権利、私にあるんだ……」
『願いを三つ言え』
「……すぐには浮かばないなぁ……最近なんだかぼんやりとしてて……なにも考えられなくて……」
『願いを三つ言え』
「あなた、そればっかり……他に何も言えないの……」
『願いを三つ言え』
「だから……」
アガサは気付く。
視点がさだまらぬぼやけた目が一瞬だけ奇跡的にピントが合う。
命があるようでない者が、かろうじて命ある自分に憐みの目を向けていた。
『願いを三つ言え……さもなくば死んでしまうぞ』
「……なんだ、ほかのこと言えるんだ……」
久方ぶりの会話らしい会話。定かではない正確性に欠けた意思疎通。
心の、魂の繋がりを感じた。
「でも……やっぱ願い事なんて……」
頭を必死に働かせる。働かせようとするが周りの騒音が片耳しか聞こえないのに耳障りで仕方なかった。
家族の醜い戦争は続いている。
アガサはふっと湧いた願いを伝えてしまう。
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