近所の公園でバスケを教えていたら教え子のチャラショタに溺愛されるようになりました

田村ケンタッキー

文字の大きさ
上 下
19 / 34
練習試合応援編

練習開始前

しおりを挟む
 伝統では試合前に両校の生徒が交えての練習が慣例だが様々な事情、複雑な時勢が絡まり試合のみの開催となった。

「鏡先生、お久しぶりです」
「お久しぶりです、久慈先生」

 不織布マスクを鼻まできちっと上げた丸眼鏡の相手コーチ、久慈。ラフな格好の鏡と違い、スーツ姿。さすがに上着は脱いでいるがシャツの第一ボタンは外していない。
 二人はついうっかり握手しそうになるが寸前で気付き、空を切る。

「顔が前よりも白いようですが……大丈夫ですか? ちゃんと食べていますか?」
「ええ、ちゃんと食べてちゃんと飲んでいますよ。久慈先生はその……お変わりないようで」
「ええ、こんなご時世でも有難いことに健康体ですよ」

 にこりとも笑わないどころか喋る時以外は顔の筋肉が動かない久慈。

(苦手なんだよなぁ、久慈先生。暗いし何考えてるかわからないし。とっとと勝ってとっとと帰ろ)

 鏡は面倒くさがり屋。挨拶もそこそこに立ち去ろうとする。

「それでは今日はよろしくお願いします」
「鏡先生」

 それを久慈は呼び止める。

「まだ……何か?」
「私の聞き間違え出なければですが……負けたら裸で公民館を一周するようで」
「ええ!? 聞こえてましたか!?」
「ええ、そりゃまあ、大声でしたので」
「ちちち違うんすよ! あれは生徒の緊張をほぐす冗談で!」
「ほう……冗談ですか」

 久慈は丸眼鏡をくいっと上げる。

「それは残念です。それでは私はこのへんで。あまり長話はいけませんのでね。お互い良い試合にしましょう」
「あはは、そっすね~」

 鏡は愛想よく手を振るが、

(こっわぁ! 怒ってないように見えて絶対怒ってるやつじゃん! 勝っても雰囲気悪くなるやつじゃん! こわぁあ!)

 自業自得の雁字搦めに陥っていた。

(お互いのためにも……私のためにも良い感じに熱戦になって、良い感じに僅差で勝つのが棘が立たなさそうだな……頼むぞ、我が弟子たち……!)

 身勝手な計画を立てながら味方陣営に戻る。
 すると生徒たちは試合前のシュート練習を止めてざわざわと騒ぎ立てている。

「んー? どうしたー?」
「先生ー、あっち見てくださいよー。外人さんがいまーす」
「こらこらー。見た目だけで外国人と決め付けないの。肌の色が違くても日本人の子がいるんだから。というか久慈先生、いつの間にそんな生徒を引き入れて……え、あの子、でかくね?」

 遠くから見てもでかいとわかる。なにせ手を伸ばせばゴールネットに届きそうだからだ。男性でもなかなかない恵まれた身体。

「あれ、絶対175cmはありますよ。うちらの最高、山田の170じゃん?」
「え、じゃあ試合中スラムダンク見られるかな?」
「生ダンク見てみたーい!」

 浮かれる弟子たち。

「たるんでる! たるんでるぞ、お前たち!」

 鏡は監督として一喝。

「お前らも少しは河相佳子を見習え! 強い敵を見るとワクワクするバスケ民族の彼女を!」
「あー、それなんですけど先生……」
「ん? なんだ?」
「佳子さん、ベンチに座って上の空なんです。なんかコートよりも外の景色を眺めてるような」
「はっ、まさか、それは……私がスタメン外したせい!?」

 佳子は外の景色もとい観客席をちらりちらりと横目で見る。

(ずっと山田妹さんとしゃべってる……)

 敵チームの助っ人よりも元カノがずっと気になっている。
 仲睦まじそうに話す二人。年だけでなく距離感も近い。

(あぁ、だめだ……目の前の試合に集中しないといけないのに……!)

 頭を抱えていると佳子の肩を鏡が叩く。

「河相佳子」
「はい、なんでしょうか」
「決してお前を過小評価してるわけではない」
「は、はあ……」
「お前は最終兵器だ。だから出番が来るまでできることを考えろ」

 いつにもまして真剣な表情の師匠。

「鏡先生……」

 佳子は自分の未熟さを痛感する。

(先生は私が集中できてないとわかって喝を入れに来たんだ……先生、そこまで私のことを……!)

 少し頼りないと思っていたがしっかりとした大人だと評価を改める。
 一方、鏡の内心はというと、

(こ、これで少しはやる気戻ってくれたかな……やっぱりスタメンからよろしくお願いしますと頼みたいところだけどあんなこと言った手前ちょっとね……第3クォーターから出てもらえばなんとかなるでしょ)

 といった具合。
 後にこの甘々の見積もりのせいで鏡は地獄を見ることになる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

処理中です...