近所の公園でバスケを教えていたら教え子のチャラショタに溺愛されるようになりました

田村ケンタッキー

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練習試合応援編

練習開始前

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 伝統では試合前に両校の生徒が交えての練習が慣例だが様々な事情、複雑な時勢が絡まり試合のみの開催となった。

「鏡先生、お久しぶりです」
「お久しぶりです、久慈先生」

 不織布マスクを鼻まできちっと上げた丸眼鏡の相手コーチ、久慈。ラフな格好の鏡と違い、スーツ姿。さすがに上着は脱いでいるがシャツの第一ボタンは外していない。
 二人はついうっかり握手しそうになるが寸前で気付き、空を切る。

「顔が前よりも白いようですが……大丈夫ですか? ちゃんと食べていますか?」
「ええ、ちゃんと食べてちゃんと飲んでいますよ。久慈先生はその……お変わりないようで」
「ええ、こんなご時世でも有難いことに健康体ですよ」

 にこりとも笑わないどころか喋る時以外は顔の筋肉が動かない久慈。

(苦手なんだよなぁ、久慈先生。暗いし何考えてるかわからないし。とっとと勝ってとっとと帰ろ)

 鏡は面倒くさがり屋。挨拶もそこそこに立ち去ろうとする。

「それでは今日はよろしくお願いします」
「鏡先生」

 それを久慈は呼び止める。

「まだ……何か?」
「私の聞き間違え出なければですが……負けたら裸で公民館を一周するようで」
「ええ!? 聞こえてましたか!?」
「ええ、そりゃまあ、大声でしたので」
「ちちち違うんすよ! あれは生徒の緊張をほぐす冗談で!」
「ほう……冗談ですか」

 久慈は丸眼鏡をくいっと上げる。

「それは残念です。それでは私はこのへんで。あまり長話はいけませんのでね。お互い良い試合にしましょう」
「あはは、そっすね~」

 鏡は愛想よく手を振るが、

(こっわぁ! 怒ってないように見えて絶対怒ってるやつじゃん! 勝っても雰囲気悪くなるやつじゃん! こわぁあ!)

 自業自得の雁字搦めに陥っていた。

(お互いのためにも……私のためにも良い感じに熱戦になって、良い感じに僅差で勝つのが棘が立たなさそうだな……頼むぞ、我が弟子たち……!)

 身勝手な計画を立てながら味方陣営に戻る。
 すると生徒たちは試合前のシュート練習を止めてざわざわと騒ぎ立てている。

「んー? どうしたー?」
「先生ー、あっち見てくださいよー。外人さんがいまーす」
「こらこらー。見た目だけで外国人と決め付けないの。肌の色が違くても日本人の子がいるんだから。というか久慈先生、いつの間にそんな生徒を引き入れて……え、あの子、でかくね?」

 遠くから見てもでかいとわかる。なにせ手を伸ばせばゴールネットに届きそうだからだ。男性でもなかなかない恵まれた身体。

「あれ、絶対175cmはありますよ。うちらの最高、山田の170じゃん?」
「え、じゃあ試合中スラムダンク見られるかな?」
「生ダンク見てみたーい!」

 浮かれる弟子たち。

「たるんでる! たるんでるぞ、お前たち!」

 鏡は監督として一喝。

「お前らも少しは河相佳子を見習え! 強い敵を見るとワクワクするバスケ民族の彼女を!」
「あー、それなんですけど先生……」
「ん? なんだ?」
「佳子さん、ベンチに座って上の空なんです。なんかコートよりも外の景色を眺めてるような」
「はっ、まさか、それは……私がスタメン外したせい!?」

 佳子は外の景色もとい観客席をちらりちらりと横目で見る。

(ずっと山田妹さんとしゃべってる……)

 敵チームの助っ人よりも元カノがずっと気になっている。
 仲睦まじそうに話す二人。年だけでなく距離感も近い。

(あぁ、だめだ……目の前の試合に集中しないといけないのに……!)

 頭を抱えていると佳子の肩を鏡が叩く。

「河相佳子」
「はい、なんでしょうか」
「決してお前を過小評価してるわけではない」
「は、はあ……」
「お前は最終兵器だ。だから出番が来るまでできることを考えろ」

 いつにもまして真剣な表情の師匠。

「鏡先生……」

 佳子は自分の未熟さを痛感する。

(先生は私が集中できてないとわかって喝を入れに来たんだ……先生、そこまで私のことを……!)

 少し頼りないと思っていたがしっかりとした大人だと評価を改める。
 一方、鏡の内心はというと、

(こ、これで少しはやる気戻ってくれたかな……やっぱりスタメンからよろしくお願いしますと頼みたいところだけどあんなこと言った手前ちょっとね……第3クォーターから出てもらえばなんとかなるでしょ)

 といった具合。
 後にこの甘々の見積もりのせいで鏡は地獄を見ることになる。
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