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初めてのデート編

繋ぎ

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 テレテレテレーン、テレテレテレン。
 静まり返った佳子の家に大盛況が流れる。
 しばらく経っても無反応。

「……む、おかしいな」

 いつもなら一分以内にドアが開き、笑顔で出迎えてくれるのだが今日はまるで反応がない。

「留守……? 昼寝……? いやもしかしたら佳子さんの身に何かが……!」

 手をかけようとした瞬間、ドアが開く。

「うわ、驚かせないでくださいよ!」

 隙間から佳子の目がこちらを向いている。
 じーっと、恨めしい目が。

「おや、あまり招待されていないようで……僕、何かしました?」

 佳子は詳細を返答はしない。ただし恨み言、ぼそっと呟く。

「……まさゆきくんの、えっち」
「ふふふ、どうやらプレゼントを開いてくれたようですね。どうです、気に入ってもらえましたか?」
「あのね、あのね、気に入った気に入らないの話以前の問題であってね」
「続きはデートの最中に聞きます。さっそく出かけしましょう!」

 正行は佳子の手を掴むと外に引っ張り出す。

「まってまって! 心の準備が!」

 佳子は外に引きずり出される。
 麦わら帽子に麦編みのポーチ、そして純白のワンピース。

「ううう、恥ずかしい……」

 麦わら帽子をまげて顔を隠す。

「うん、やっぱり。僕の見立てに間違いはありませんでした」

 正行は本人よりも誇らしげに胸を張る。

「正行君、靴を買いに行くんだよね?」
「ええ、そうですよ」
「その困ったことがありまして」
「お金の心配ならいりませんよ?」
「そう! そうじゃなく! その、変な話、靴を買いに行く靴がないのですよ」

 靴箱を開く。彼女の靴は履きやすい動きやすいを重視したスニーカーばかり。

「この可愛いワンピースにスニーカーは……変だよね?」
「いいえ、変じゃないですよ? 普通にアリだと思います」
「またまた! 私のためにうそをついてるんでしょう!?」
「じゃあこれを見てください」

 正行は素早くスマートフォンを操作し、一枚の写真を見せる。

「これ、ワンピースとスニーカーの組み合わせですけどオシャレだと思いませんか?」
「おぉ、かわいい……!」
「まあ、佳子さんのほうがずっとかわいいと思いますけども」

 ぐいっと顔を近づける。

「はいはい、チャラいチャラい」

 顔を赤らめつつも距離を取る。

「それでは佳子さんの気が変わらないうちに急ぎましょう」
「待って、家の鍵を閉めないと」

 鍵を差し入れる時、ふと思い出す。

(あれ、今日にわか雨の予報だっけ……)

 窓の戸締りは済んでいる。
 折りたたみ傘を持つべきか一瞬判断に悩む。
 空を仰ぐと雲一つない青が広がっている。

(面倒だし……うん、大丈夫でしょう)

 中に戻らず、鍵を閉める。

「さあさあ。デートに行きましょう」

 腕を絡ませ、指を交差させて組む。

「ま、正行君、これは……」
「デートなんですから手ぐらい繋ぎますよね?」
「そ、そうだけど……!」
「バスに乗り遅れちゃいますよ? バス停に着くまでこのままですからね」
「ひ、ひぃ~」

 二人はバスに乗り、商店街へと向かう。
 バスの車内はがらんとしていた。客は佳子と正行のみ。二人は一番後ろの席に座る。

「ね、ねえ、正行君……?」
「どうしました、佳子さん。車酔いしましたか?」
「……バス停に着くまでって言ったよね?」
「嘘は言ってませんよ?」
「バス停着いたどころか通り過ぎたんですけど」
「言ってませんでしたか? 向こうの塔着地点のバス停のことを言ってたんですが」

 二人の膝の隙間で今も手は繋がれている。
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