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お泊り会編

仲直り、デートの約束、ペッティング X

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 溝を埋められないまま佳子の部屋は再び暗闇に包まれた。
 今日はお泊り会。いつもは別室で寝る球児も佳子と同じベッドで寝て、正行と神戸は床に来客用の布団を敷いて眠っている。
 日付が変わろうとしている。あと数分、数秒で佳子はまた一つ大人になる。
 眠れない。正行のことでもやもやが残っていたし、他にも原因があった。

「姉ちゃん! あぶなーい!」

 大きな寝言と一緒にオーバーアクションな寝相。
 球児はベッドの主を蹴りだした。

「いででで……極悪非道必殺殺法寝相は健在か……」

 蹴られた背中を摩る佳子。

「みんなー? ねてるー? 球児の寝言うるさくないー?」

 抑えた声で問いかける。
 ベッドの付近で眠っている神戸は、

「すー……すー……」

 睡眠中も背筋をぴんと伸ばしている。

「この子は……気休めるときがあるのだろうか」

 素朴な疑問に返す言葉がある。

「それでもリラックスしてるほうですよ、彼は」

 正行だった。少し離れた位置から肘をついて幼馴染の寝顔を眺める。

「彼の性格からしたら友達の家で昼寝だって珍しいんですよ? それなのに誰よりも寝つきが良く、ぐっすりと……これも佳子さんのおかげでしょうね」
「私には何らかのヒーリング効果があると……」
「ふふふ、そうかもしれませんね……」

 二人の間に流れる沈黙。
 先に切り出したのは佳子。

「あ、あのね、正行君。さっきはね」
「佳子さん。お願いがあるんです」
「え、えっと……何か?」
「……添い寝してくれませんか? どうやら寝つけないのは僕だけみたいなので」
「……うん、わかった。ちょうど私も話したいことがあったし」
「わぁい。佳子さんが隙だらけの人でよかったー」
「え? いまなにか言わなかった?」
「いえ、なにも。ささ、ささ」

 正行がタオルケットを持ち上げるとその隙間に佳子が滑り込む。
 二人は一週間前のように少し顔をずらせば唇が届く距離まで最接近した。

「佳子さんからシャンプーの香りがしますね。このメーカーの香りは」
「ごめん、今はシャンプーの話をする気にはなれないかな」
「……いつになく真剣ですね」
「そりゃね。正行君のことだもの」
「そう真正面から向かってこられるとなかなかこそばゆいですね……誘ったはいいですが逃げ場がなくなってしまいましたね」
「さっき様子がおかしかったけどもしかしてあれって」
「あぁ、白状します白状します。図星を突かれるより自ら白状したほうが心にゆとりが持てるので」

 ふう、と深呼吸した後に、

「……たいへん大人げなかったですが、はい、お察しの通り、嫉妬です」
「ふふふ、やっぱりぃ♪」

 クイズに正解した時のように佳子は笑顔で喜ぶ。

「……幻滅したりしないんですか?」
「幻滅? なにが?」
「幻滅じゃなければ見損なったとか……僕は、親友のコービーを見下してたんです」
「見下してた?」
「僕はコービーよりも女の子に詳しいと思っていました。彼は真面目が取り柄の堅物です。勉強、スポーツ、教養……このどれもが僕よりも優れています。多少のコンプレックスは感じるもまあそこは長年の付き合いなので慣れっこです。でも女の子……佳子さんのことでは負けたくなかったんです」
「あぁ……自分の得意分野が負けちゃったと思ったんだ……」
「思ったんだじゃなく、現に負けたんです。僕は佳子さんに喜んでもらおうといろいろ調べました。最近の流行、佳子さんの服の好みにスリーサイズも」
「おい、ちょっと。最後の聞き捨てならないよ」
「愛がゆえにですよ。でも、まあ、結局無駄に終わっちゃいましたが」

 ネガティブスパイラルに陥る正行にいい加減に腹が立ってきた。

「ちょっと無駄じゃないよ? 私、もらってちゃんと嬉しかったんですけど? それって私に対しても失礼なんじゃない?」

 言う時はしっかり言う。佳子はそういう女。

「うっ……それは確かに……佳子さんの言う通りですね」

 指摘されれば素直に認める。正行はそういう男。

「ワンピースもバッグも麦わら帽子全部もらって嬉しかったよ? そもそもプレゼントに優劣つけるのが間違ってると思うの。まあ、そこは空気に流されちゃった私が言うのはおかしいよね? うん、反省。ごめんね、正行君」
「佳子さんが謝ることじゃないですよ。悪いのは勝手に嫉妬した僕ですから」
「ううん、ほんとはね、やっぱり私が悪い。あのワンピース、本当はもらってすごく嬉しかったの。でもね、あんまりああいう気合いの入ったプレゼントを貰うの初めてだったし、それも年下の男の子から貰ってね……」
「ドン引きしたと」
「ドン引きじゃないよ? 気おくれだよ?」
「同じじゃないですか……」
「とにかくね、嬉しかったのは本当。でもちょっと心配もあったの。これ、私が着てもいいのかなって。似合わないんじゃないかって。ちょっと大人びていて馬子にも衣装ってからかわれないからなって」
「そんなことありません。絶対に似合います。からかうやつがいたら僕が許しません」
「えへへ、ありがとう。気持ちだけは受け取っておくね。本当に正行君は女の子の扱い上手だね」
「本気なんですけどね……それでしたら明日お暇ですか?」
「空いてるけど?」
「僕とデートしてください。誕生日プレゼントでもらったコーデで早速お出かけしましょう」
「そんな、いきなり。まだあの服を着る心の準備が」
「実は僕としては納得いかないことがあったんです。あのコーデには足りないものがある」
「私の話聞いてる?? たまに強引に無常に無視するよね?」
「お洒落は足元からという言葉があるのに……すっかり見落としてしまっていた靴、もしくはサンダルの存在を」
「あぁ……靴……スニーカーと百均サンダルしか持ってないな……」
「ちょうどよかったです。それじゃあ行きましょう。今更駄目なんて言わせませんよ」

 デートを取り付けてはしゃぐ顔を前にして、

「……」

 佳子は無言で微笑む。

「な、なんですか、いきなり……思い出し笑いですか?」
「ううん、元気出してくれてよかったなーって。ただそれだけ」
「……佳子さんの、おかげです」

 その時、室内にピッと電子音が響く。

「今の音は?」
「あぁ、部屋の電波時計は日付が変わると電子音が鳴るようになってるの」
「……ということは……改めまして誕生日おめでとうございます、佳子さん」
「うん、ありがとう。それじゃあ私はそろそろ行くね。私のベッドは悪童が不法占拠してるし、あっちの部屋のベッドで寝るから。おやすみ」

 そう言って起き上がろうとする佳子の手を引き、布団へ引きずり込む。

「まさゆき、くん?」

 背中にぴたりと密着する正行。タコのように一度掴んだ獲物は逃がさない。

「……聞いてください。好きな人の祝うべき日です。祝福しなくちゃいけないんですけど、実はちょっと素直に喜べない点もあるんです」
「それって……?」
「……また年が遠くなったなって。僕と佳子さんの間は離れることはあっても近づくことはないんです」
「それは……年齢だから仕方がないことじゃないの?」
「そうです、年齢だから仕方ありません……ですが他の間は諦めたくないんです」

 正行の手が佳子の胸を掴む。薄い生地で熱と感触がよく伝わる。

「ま、さゆきくん、ばか、いまここは」
「わかってます。衣服や寝具を汚すことはしません」

 上半身だけでなく、下半身もぴたりと密着する。

(お尻にあたってる……かたいのって……)

 正行が熱っぽい声を漏らす。

「本当は我慢するつもりだったんです……でも佳子さんの寝間着姿が色っぽいし、いい香りがするから我慢できなくなっちゃったんです……」

 ゆるゆるのタンクトップにぴちぴちのショートパンツ。何度ブラチラを目撃してしまったことか。

「ま、まって、下、ぬがさない、の」

 するりするりとショーツが下される。
 そして下半身の肌と肌が触れ合う。
 剥き出しの欲望が柔らかい肌に突き立てられる。


「落ち着いて……ここには球児とコービー君がいるんだよ?」
「すぐに終わらせます……だから声は我慢してくださいね……」
「声はって……!?」

 すると太ももの隙間に異物が挟まる。
 異物は太ももの感触を味わうように前後する。

「ふっ……ふっ……ふっ……」

 浅い呼吸音。
 佳子は何が起きているか、ようやく理解した。

(私の体を……オカズにしてる……)

 男の一方的なペッティング。
 気を付けをした状態の佳子の体を好き勝手に弄ぶ。
 服の上からとは言え胸を触られ、ゴムを着けた状態とは言え秘部を擦られる。

(これはなんというか…………もどかしい……)

 一線を画す安心安全な愛情表現。
 しかしすでに一線を越した先の悦びを知ってしまった体は物足りなさを感じてしまっていた。
 リスクを冒してでも強引に来てほしい、などと心で望んでしまう。
 膨らみかけの蕾と肉棒が事故を起こす。

「あっ♡」

 覆わなければいけない包み隠さなくてはいけない声が漏れる。
 暗闇に目が慣れると同室の人間がよく見える。
 球児も神戸もぐっすりと眠っている。しかし本当に眠っているかどうかはわからない。
 寝たふりをし、今の声を聞かれたかもしれない。
 もしくは今の声で目覚めてしまい、これから漏らす痴態を耳だけでなく目でも押さえられてしまうかもしれない。
 不安でいっぱいなのにペッティングは止まらない。

「我慢できない……生で、触りますね……」
「こ、こら、話と違……んっ……♡」

 タンクトップの袖から手が滑り込む。そしてブラジャーと胸の隙間をぐいぐいと潜り込んでいき、乳首を掘り当てる。

(今日の正行君、積極的なの消極的なのドッチナノ……!?)

 本能的に女性を求め、弱点も突く。

「佳子さんっ……佳子さんっ……」
 こりこりと豆を摘まみ上げる。

「んん、ああ♡」

 どれだけ我慢しようとも声を押し殺せない。
 責めから守る盾である両手を口に。
 これで喘ぎ声を塞ぐことは出来たが正行からの責めに無防備になってしまう。
 何度も打ち付けられる腰を無抵抗のまま受け容れる。

(今度はちゃんと流されないようにしないとって思ったのに、また男の子に好き勝手されてる……)

 腰の動きが加速する。
 正行は理性は残しているものの余裕は少ない。
 原因はやはり佳子の寝間着姿とシャンプーの香り。彼もまた女の色香に翻弄された被害者でもあった。

「佳子さん、もう、イク……!」

 鼻いっぱいに手いっぱいに愛する女を満たす多幸感に包まれながら独りよがりに絶頂した。
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