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初体験編

刷り込まれていく〇〇 X

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「んん……! ああ……! んん……!」

 くぐもった女の声が部屋に響く。
 空は僅かにオレンジ色を帯び始めていた。

「わかりますか? 僕の感触。ゆっくりだからくっきりとわかるでしょう?」

 正行は枕に顔をうずめてうつ伏せになった佳子に語りかける。

「寝バックというんですがこの体位、気持ちいいですけど……佳子さんの顔が見えないのは減点ですね」

 一度理性を取り戻してしまった佳子は天照大神の岩戸隠れの如く頑なに顔を見せようとしなかった。
 それでも快感には勝てないようで打ち突かれるたびに喘ぎ声は上げている。

「どうしたら機嫌を治してもらえますか?」
「ん……あ……ん……!」

 天使のような愛らしい声で気遣っているがしっかりと腰を動かし体を貪っている。

「こうなったら不本意ですが……僕のスキルで振り向いてもらう他ありませんね……」

 こほんこほんと咳払いした後に、腰を止めて声に集中する。

「お姉ちゃん、機嫌なおして」

 営業スマイル営業ボイスで語りかける。
 正行は女に機敏に媚びを売る天才。この必殺の笑顔で数多の女性、特に年上のお姉さんを落としてきた。

「……」

 だが佳子は無反応。
 媚びを売る行為は得意技であるが使う本人はあまり快く思っていない。しかし通用しないとなるとそれはそれでプライドに傷がつく。

「……むむ。それじゃあ……お姉さん♡」
「……」
「ねえねえ♡」
「……」
「あぁ、やめやめ。弟キャラを演じるのはやめにしよう。佳子さんの前では特にね」

 正行が先に根を上げた。猫なで声もやめる。

「僕は弟というより男として見てほしいんです。弟としてのほうがどれだけ近く親しい間柄になれたとしてもそれでは意味がないんです。どれだけ困難な道だとしても男として接したい。そして大人になったら佳子さんには君付けをやめてもらって、僕も佳子さんじゃなく佳子と呼ぶ、そんな関係に」
「……っ!?」

 その時、腰を動かしていないのに佳子の体に電流が走ったかのような反応を示す。

「佳子さん?」
「……」

 佳子はとある単語がトリガーであり、魔法の言葉であり、弱点であると自覚した。

(これがバレたら……私、一生……正行くんに逆らえない……)

 悟られぬよう知らぬ存ぜぬでひた隠しにする佳子。
 しかしそこは経験豊富な正行。女の機敏に目敏く、勘が鋭く冴えわたる。それも意中の相手なら尚更。

「佳子さん、もしかして……」

 挿入したまま、唇を彼女の耳に近づける。
 そしてそっと正解を囁く。

「佳子」
「んんんん♡」

 甘い囁きに全身を震わせて歓喜する。

(バレちゃった……♡ 弱点、バレちゃった……どうしよう……♡)

 快感に逆らえない、素直な体を呪う。

「あ、いま、締まった……なるほど、勉強になります。言葉の性感帯なるものがあるんですね。これもフェチ? と呼ぶべきなのでしょうか。なるほど、年下に呼び捨てされると感じちゃうんですね。ええ、ええ、とても素晴らしいと思います」

 佳子は泣きたくなる。

(……デリカシーを忘れて、秘めたい乙女の内面をずけずけと~……!)

 否定しなくてはいけない。さもないと酷い目に遭う。

「あ、あのね、別に私にはそんなフェチは」

 体を起こそうとするが、

「隠さなくていいんですよ、佳子」
「っ~♡」

 良い声で、耳元で囁かれ、脳みそがどろどろに溶けていく。
 再度枕に顔をうずめた佳子を、正行はニコニコと見下ろす。

「年下の男に組み伏され、抵抗しようにも呼び捨てされるだけでお手軽に無抵抗になる……今どんなお気持ちですか」

(この……♡ つけあがって……♡ でも、否定しようがない♡)

 腰の動きが加速する。またも絶頂へのレッドカーペットが敷かれる。
 尻肉と鼠径部がぶつかり合う音が大きくなる。

「佳子」
「んんん♡」

 パンパンパン!

「佳子」
「いやあ、呼び捨てだめ♡ ほんとらめ♡」

 パンパンパン!

「佳子」
「ん~~~~♡♡♡」

 刷り込まれていく。
  オスとは何か。
  メスとは何か。
 どちらが所有物か。
 二人の一生の主導権、立ち位置、力関係、主従がこの一時の性行為で決定づけるかもしれない。

(だめ……♡ 正行くんのこと、考えないようにしないと……♡)

 このような思考に至ったのは嫌いだからではない。逃げたいわけではない。拒絶したいわけではない。
 ただ、怖かった。
 自分以外の誰かに染められるのが怖かった。
 しかし、

「佳子」
「だめ、もう、だめ♡ 正行くんのことしか考えらない♡ 頭が浮かばない♡ ずるい♡ 顔を背けても必死に腰を振ってくるし耳に囁きかけてくるし枕からは正行くんのにおいがするし♡ 逃げ場がない♡」

 もうとっくの手遅れだ。
 完全に包囲されていた。
 それだけ正行の準備は周到で計算は狡猾で、愛が巨大だった。

「佳子! 最後の、一発! 受け止めて!」
「んん♡ ん~~~~~♡」

 拒否権はない。
 答えを聞かずして最奥、子宮の手前まで注ぎ込む。長さが足りない分、量で補う。

「佳子……さん……」

 足の先をピンと伸ばし痙攣する佳子の体をそっとひっくり返す。

「はあ……♡ はあ……♡」

 呼吸は苦しそうだが顔は満足げに蕩けている。

「おつかれ……さまでした……」

 初めにしたように唇を重ねる。呼吸を荒くしたままの乱暴なキス。
 他に違ったことといえば、誤差の範囲だが、佳子が唇を受け容れる態勢を取った、かもしれない。
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