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はじめての作曲依頼

アーディちゃんと遊ぼう

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 ピアニーは膝の上に頭を乗っける猫を愛でる。

「あぁ~~~~、よちよちよちよちよちよち~~~~。アーディちゃんはかあいいでちゅね~~~~」

 猫は照れながら死にたくなりながら鳴く。

「にゃ、にゃー……」
「きゃー! か~~~~~わ~~~~~~~いい~~~~~~~」

 猫の一鳴きでピアニーはハイテンションに。猛烈な勢いで猫の顔を撫でる。
 一方で撫でられる猫は愛されながらも屈辱を味わっていた。

(こいつ、主をペットにつけるような名前で呼びやがったな!?)

 今すぐにでも人の言葉で罵倒したい。調子に乗るなと言い返したい。
 しかしこれは罰。人の言葉を禁じ、尊厳を捨てて、猫に徹する。
 だから顎をコショコショと撫でられれば、喉を鳴らさなくてはいけない。

「にゃ、にゃー……ごろごろ……」
「まあまあ! アーディちゃんってば甘え上手なんですから! よーしゃしゃしゃしゃしゃ」

 ピアニーは想像力豊かで妄想上手。アーディは新たに甘え上手の設定が追加された。

(誰が甘え上手じゃ! 勝手に脳内補足してんじゃねえ!)

 猫は拳を握り締める。悲しき哉、贖罪の最中故に拳は猫の手になる。

「アーディちゃん、顔を洗って偉いねー」
「……にゃ?!」
「アーディちゃん、顔を洗って偉いねー」
「……にゃー……」

 丸めた拳で額を撫でる。そして手首をぺろぺろと撫でる。

「きゃわわわわわわわわ!!! きゃわいいでちゅねアーディちゃ~~ん!!」

 可愛さ余ってピアニーは猫を抱えて胸に押し付ける。

「にゃにゃ!?」

 猫の顔に柔らかい感触。

(この柔らかさは衣服だけじゃない……!)

 唐突にやましい男の欲望が生まれる。

(さ、触っても、バレないか……?)

 おさわり禁止の約束はない。あちらは好き放題に触っているのだからこちらも触っても許されるのではないか。
 丸めていた手を開き、平たい山に手を伸ばすが、

(とまれ、俺の手……!)

 直前で思い止まる。
 猫がそう決断したのは契約だったからではなく、猫のキャラクターをロールプレイングに徹したからではなく、

(俺はシュバルツカッツェ家の次期当主! こんなラッキースケベにほいほいと屈する男ではないわ!)

 プライドだった。

(あと10分……ようやく折り返し地点だ……あとは心を無にして適当に鳴き続けていれば地獄のような時間が終わる……)

 そう安堵した矢先、トラブルが発生する。
 ドアがコンコンと鳴る。

「フォルテ様。こちらにピアニー様はいらしてませんか? 明日の仕事の打ち合わせをしたいのですが先程から姿が見られないのですよ」

 アレグロが部屋の前までやってきた。
 猫は焦る。

(やばい! こんな姿を見せられてはシュバルツカッツェ家の威厳が! あと絶対一生からかわれる!)

 猫は返事をしなかった。人語は禁止されている。喋れば即座に五分追加される。

(アレグロよ……頼む、このまま、いろいろと察して立ち去ってくれ……後生だから……)

 しかし現実は非情。

「あ、ピアニーならここにいますよ。中へどうぞ~」
「お前な!? 主人の部屋に勝手に招く従者がいるか!?」
「おやおや。二人とも、中にいらしたのですね。それでは失礼します」
「アレグロ、まて、今は……!」

 入室したアレグロが見た光景は、

「どうです、アレグロ様。かわいい猫ちゃんでしょう」
「猫……ちゃんですか」

 ピアニーが猫と紹介したのは紛れもなくフォルテ。ただし頭の上には猫耳が装備されていた。
 恥ずかしい姿を見られたフォルテは、

「……」

 見苦しくも死んだふりをした。全力で白目を剥く。

「ほらー、アーディちゃん? アレグロ様にご挨拶はー?」
「……」
「ごーあいーさーつー」
「……」
「もう人見知りなんだからー」

 アレグロは小指で眉間を掻く。その間に真実を見抜く。彼の洞察力は優れており、全てを察する。

「……ふむ。そういうことでしたらしばらくごゆっくりしていてください。あと今見たことは忘れることにします。全て承知いたしました。なに、ご安心ください。このアレグロ、主人がどんなプレイを好んでも忠誠心に一切揺らぎはありません」
「なにもわかってないな、アレグロ!!!?」

 死んだふりをやめて怒鳴り散らす猫。

「ほっほっほ。気性の荒い猫ですな。退散退散」

 アレグロは舌をべっと出して撤退する。

「まて、アレグロ! 話は終わってないぞ!」

 立ち上がろうとするとがぐいっと馬鹿力で引き戻される。
 ぽすんと頭は膝の上の定位置に帰ってくる。

「……追加、十五分です。いいんですか、いいんですよね。だってアーディちゃんはとっても甘えん坊さんなんですから」

 いつもと変わりない優しい声。だからこそ怖い。怒りはないのに背筋を凍らすように怖い。

「ええ、ええ、何分でも何時間でもたっぷりと可愛がってあげますよ」

 猫の頬をぷにぷにと指で突く。

「お返事は?」
「……にゃー」

 この日、フォルテは大事な何かを失った。
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